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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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40話 『シンボルブレイク』、スタート!



「はいはいはいー!! 始まりました始まりましたー! 今回も始まりましたよー! 学・内・戦・が!! 実況はこの私、ミランダでお送りいたしまーす!」


 5月も末になった頃、アーロイン学院内のとある会場は熱気に包まれていた。


 今から始まるのは学内戦。日々研鑽(けんさん)を積んでいる生徒が腕試しをする場であるこれは生徒達にとって話題の中心となるものだ。


 しかも今回の対戦カードはいつもの学内戦と比べて興味を抱いた生徒は多い。



 なぜなら……1年生にいる2人だけの「女の魔法騎士」。その2人が対戦するというのだから。




「今回の学内戦は皆さん大注目のゴールデンカード!! まずは……知らない者はもういまい。雷のごとく突如として現れ連戦連勝。ビリリと痺れるキュートガール! ライハ・フォルナッドだあああああああぁぁぁぁ!!!!」




 実況のハイテンションな紹介と共に観客の生徒達は「うおおおおおぉぉぉ」「きゃあああああああぁぁ」と悲鳴かと勘違いされるような大声をあげる。


 そんな声に包まれようとも円形闘技場のようになっているこの会場の中心に立つライハは表情1つ変えなかった。


「ライハちゃんはこの学院内ですでにファンクラブもできているようです! 可愛くて最強……素晴らしいですねぇ!」


 ファンクラブの存在まで実況は紹介した。

 すると観客席の一帯からサイリウムを持って奇妙な踊りを踊っている連中がいたのであれが多分そうだろうと周りは察する。



「対するは……優秀、真面目、曲がったことは許さない! 委員長タイプのウォーターガール! カナリア・ロベリールだあああああぁぁぁぁ!!!!」



 またも観客席から叫びが上がる。


 知名度で言えばライハが断然上だが今回の対戦においては「1年の女魔法騎士」という肩書きが重要で、それだけで待ってましたと言わんばかりの歓声がカナリアを包む。


 それにカナリアは「うるさいわね……」と嫌そうな顔をしている。

 そもそも実況の紹介もおかしいのだ。委員長タイプってなんだ、とカナリアは聞きたかった。


「カナリアちゃんはなんとなんと我ら魔法使いの誇りであるガレオス先生の娘さんだそうです! これは驚きましたぁ……! あ、ちなみに今回の学内戦の解説はガレオス先生です!」


 カナリアがガレオスの娘と聞いて観客はザワザワとさっきとは違った意味で騒がしくなる。


 カナリア自身、この事実を隠しているわけでもないが知られて良い気もしなかった。自分の実力を色メガネで見られるのは我慢ならないし、もし自分が負ければ父にも多少なりとも傷がつく。


「ガレオス先生! 娘さんが初めての学内戦というわけですが……どうでしょうか? もしや父親として心配になったり!?」


 ミランダは自分の横の解説席に座っているガレオスにマイクを向けてコメントを求めた。


「………」


 だがガレオスは無言。それどころかこちらをジロリと見てきて視線で圧倒されてしまう。さすがにこれはミランダが怖いもの知らずすぎるだろと生徒達は恐れていた。


 実際にミランダは教員というわけではなく普通の学院の生徒なのでそれでガレオスに向かってこんなことをするのは勇気があるどころの話ではなかった。

 だが静まり返った観客の空気を察してか、ガレオスは仕方なく口を開く。



「そこにいるのは2人の魔法騎士。ただそれだけだ。私の娘がどうとか、学内戦を連勝しているだとか、そんなことは関係ない。敗北は平等。ここにいる者はつまらぬ情報に曇らぬ目で見届けてもらいたい。彼女らの戦いを」



 言い終わると、静まり返っていた会場はまたも熱を再発させる。さすがは最強と噂される魔法騎士だ。言うことも一味違う。


「ガレオス先生のありがたーいお言葉いただきましたー! そゆことでっ! まもなく始まりますんでもう少しだけお待ちを!」


 早く始まれー! という声が飛んでくるほどに今や熱は最高潮。これから対戦形式が決めたりするのでまだ始めるわけにはいかないのである。


 少しばかりの待機時間の間に、カナリアは観客席をグルリと見渡す。ある人物を探すために。



(アスト……あんたどこで何してんのよ)



 目当ての人物—アストは会場にいなかった。

 前日に「絶対見に来なさいよっ!」と念押ししたので時間通りといかなくてもどこかで会場に入ってくると思うのだが。


 よく見てみると相対している女子—ライハも自分と同じく観客席を見渡していた。まさか……いや、きっとそうだろう。ライハもアストを探しているのだ。

 ライハが学内戦を承諾してからもアストはライハと一緒に住んでいた。なのでアストが自分だけでなくライハからも見ていてくれとお願いされていてもおかしくはない。



「はーい! 決まりましたよー!! 今回の対戦形式はー?」



 どこからともなくドラムロールが鳴り響く。いったいどこで誰が演奏してるんだとツッコミたいが今はそんなことどうでもいい。





「じゃじゃんっ!! 『シンボルブレイク』でーす!!!!」





 その名が発表された時、ワアアアアアァァァ!!と、もう何度目かの歓声が響いた。


「シンボルかー。もっと荒っぽいのを期待してたけどなー」


「えー、いいじゃん! 勝敗がわかりやすいし」


「それに女子同士の戦いだからねー」


 「シンボルブレイク」のルールを知っている者からはこの対戦形式がチョイスされたことの感想が漏れていく。

 知らない者はいったいどんなルールなんだとこれから行われるであろう説明を今か今かと待ちわびていた。


「『シンボルブレイク』は通常の対戦と大きくは変わりません! 使用魔法は7節までというのも変更なし。ですがっ! 対戦者にはこれをつけていただきまーす!」


 そう言ってミランダが掲げたのは金色に輝くバッジのようなものだった。

 カナリアとライハには学内戦を取り仕切るのが仕事の「学内戦運営委員会」の生徒がそのバッジを渡していた。




「このバッジは『シンボル』と呼ばれる魔法道具です。これをつけている者には魔力的守護の効果を付与する力が備わっています。要はつけてりゃダメージを軽減してくれますよーって道具なわけですよ!……で・す・が! この『シンボル』は使用者が一定以上のダメージを受けてしまうと自然にぶっ壊れちまう仕組みになってます!」




 魔法道具「シンボル」—ミランダの解説通り、使用者のダメージを全て肩代わりとまではいかなくともある程度軽減してくれる魔法道具だ。

 その性能から実戦にも使われることがある魔法道具なのだが如何せん高価な物なので誰もが持っているというわけではない。


 そんな魔法道具を学内戦なんかで使っても大丈夫なのかという話になるがそれにも裏がある。



 この「シンボル」は確かに性能は優れた物なのだがある欠陥が存在している。



 それは……「味方の支援魔法すらもダメージと認識して弾いてしまうこと」だ。



 魔法には自分の体や味方を対象にして発動する「身体能力向上系の魔法」や「属性付与系の魔法」が存在している。前者の例で言うと『ファルス』がそれにあたる。


 自分が自分に対して発動する場合は問題ないのだが、味方が自分に対して魔法を使った場合に限ってシンボルは敵からの攻撃と認識してしまいそれから守ろうとする……言葉を選ばなければ「アホ」な部分があった。



 余談だが、この「シンボル」の開発者の魔工は魔法のエキスパートでもある魔女達から未だにバカにされている。

 「魔法道具においては、攻撃でなくとも他人からの魔法は全て敵の攻撃と認識される」という理論は魔女界隈では超ポピュラー、超初歩と言えるほどの理論だからだ。


 まぁそんなこともあって本当の意味で実戦で「使われることもある」程度の物である。それで高価なのだから誰も進んで使おうとしない理由もわかるものだ。

 結果、今では魔法学院の実戦練習用に落ち着いてしまっている。それでも確かな需要ができたので(くだん)の魔工は世紀の大失敗作とならずホッとしているだろうが。



「もう皆さん予想つきましたよねー? 先に相手にシンボルの許容以上のダメージを与えて破壊した方が勝者となります!!」


 ルールはいたってシンプルだ。それでいて致命傷などを避けたりすることのできる安心設計の魔法戦闘となっている。

 人によってはこれでも十分過激だと思うかもしれないがサポート用の魔法道具無しのルールになるとかなりの確率で負けた方がひどい目に遭う。

 過去には回復魔法込みでも全治3カ月になった生徒もいたのでそれを知っている者からすればこれはまだ優しい部類だった。



 カナリアとライハはシンボルを胸につける。準備は完了だ。



「カナリア。わたしは、絶対に負けない」


「それはこっちのセリフよ。あたしはもっと強くならなきゃいけない。力だけじゃなく……心も。それを前のクエストで痛感したから。それに、いい加減1人の生活も飽き飽きしたところなの」


「それは残念。これからもずっと1人暮らしは続くから」


「部屋に空きができるのはどっちかしらね」



 試合開始前からもう攻撃ならぬ口撃が始まる。このただならぬ雰囲気を実況のミランダは察知する。



「おおっとー!? お互い闘志がメラメラだぁ~!……そういえばカナリアちゃんの同部屋のパートナーは男子のアスト・ローゼンだという情報があります。そのアストくんなのですが……聞いた話によりますと今はライハちゃんの部屋に住んでいるとか」



 ミランダはそんな余計なことを口走ってしまう。

 アストがライハの部屋に住んでいることはライハファンクラブの面々は知っていたが他の生徒達はそんなこと知らなかったぞと別の意味で騒がしくなった。


 1年の女魔法騎士で、しかもどっちも美少女の2人と同じ屋根の下に住んでいたと聞くと生徒達は黙っていなかった。……特に男は。



「アスト・ローゼン出てこいコラアアアアアァァァ!」


「リンチじゃリンチ! 袋叩きにしたるわ!」


「お前の×××をもいでやるよ!」


「×××! ×××! ×××!」


「ちょっと! ライハと住んでるってどういうことよ! 私聞いてないんだけどー!!」



 下品な言葉を飛び交い一気に会場内は地獄と化した。男の恨みは恐ろしい。若干1名ほど男ではない声があったが。というか生徒でもなかったが。

 だが幸運にも今アストは会場に来ていなかったので彼の無残な死体が会場に転がるなんてことはなかった。……時間の問題かもしれないが。


「なんとなんと……! まさかの雌雄を決するならぬ、正妻と愛人を決する戦いになっていたとは!! これは白熱するぞおおお!」


 実況が熱狂&憤怒している会場に燃料をぶっかけまくる。火に油どころの行為ではなかった。



「アストオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」


「××××××!!!!!」


「正妻は私に決まってるでしょおおおおがああああああぁぁ!!」



 男達の憤怒の叫びはさらなる高みへ。またもやその中に1人だけ女性の叫びがあったが皆スルーを決め込んだ。


「誰が正妻と愛人よ!」


「セイサイ? アイジン?……よくわからない。わたしはアストの友達」


 カナリアとライハも反応してしまう。カナリアは真っ赤な顔で、ライハは言葉の意味がわかっていないようで首を傾げながら。

 こんな騒ぎもあってそれが収まるのに15分くらいかかった。それでようやく学内戦が始まろうとする。



「それでは~皆さん大変お待たせしました! 学内戦運営委員会の人達~、魔法防性結界発動お願いしまーす!」



 ミランダが指をパチンと鳴らすと、後ろに控えていた複数の魔法使いの生徒が観客席を対象に「結界」を張る。



 「結界」は領域範囲を設定して発動するタイプの魔法。その領域にいる者全てに魔法効果を付与するもの。

 今回使用したのは領域内の者を外の攻撃から守る効果がある結界だ。学内戦を行う場合はこれが必ず用意されており流れ弾ならぬ流れ魔法を防ぐ役目となっている。



「はいはいありがとうございまーす。そんでは! ようやっと始まりますよ~! カナリアちゃんとライハちゃんは準備を! カウントいきま~す。皆さんご一緒に!」



 ミランダの先導と共にカナリアはレイピア【ローレライ】を、ライハは二挺拳銃【イグニス】を引き抜いた。観客もカウントの準備をする。





「3・2・1……

 学内戦『シンボルブレイク』スタート!!!!」





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