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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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38話 仲直りの指輪を貴方に



 僕はライハの部屋を出た後、すぐに次の行動に移る。

 職員室に行き、ライハの部屋に帰り、今度はカナリアの部屋だ。今日は忙しい。


 カナリアとは僕も早く話したかった。

 最近は全然話せてないのもあるし、離れて初めてカナリアとの生活もライハとの生活と同じくらいに自分の一部となっていたんだと気づけた。……カナリアの方は暴力が多いけどね。


 最初はなんでもないいつものカナリアの癇癪(かんしゃく)みたいなものだったんだ。ちょっと時間が経てばまたカナリアと普通の時間を過ごしていたはずだった。


 しかし運悪くライハのことが重なって、苛立ちが膨れ上がって、引くに引けないところまで来てしまった。


 他の人から見れば本当に大したことないと思うだろう。こんなことで、と笑う人もいるかもしれない。カナリアの怒りっぽさもどうかと思うが今回は僕も悪かった。

 今まで自分はこのことにあと一歩を踏み出さなかった。明日でいい、明日でいい、と引き伸ばした結果が今のカナリアとの(みぞ)を生んだんだ。


 僕はカナリアの部屋のインターホンを鳴らす。頼む、いてくれ……! と願う。



(反応がない。なんてタイミングが悪いんだ僕は……!!)



 それでも今日はずっとここで粘るぞと決意すると、




「あんた人の部屋の前で何してんの?」


「カナリア……」




 その声は……どこかに用があってそれを消化した後なのか、若干疲れた顔であるカナリアだった。ちょうど今帰ってきたところみたいだ。

 服装が体操服じゃないからトレーニングルームではないと思える。もし体操服だったなら「これからシャワー浴びるから帰れ」とか言われるとこだったよ。



「久しぶり~……げ、元気してた~?」


「そんなつまんないこと言いに来たの?」



 僕はなんて声をかければいいのかわからなかったので無理やり笑顔を作ってみたが、それを見るのはムスッとして腕組みをするカナリア。機嫌が悪そうだぁ……。



「違う………その……ごめん! 何も言わずにライハの部屋に住んじゃってて……カナリアからすれば機嫌を逆なでされるってのはわかるよ……けど—」


「謝んなくていいわよ」



 僕の言葉を最後まで聞かずして、切った。謝罪の言葉すら聞きたくないってことなのか……?




「………あたしの方が悪かったわよ。ちょっと言い過ぎたというか……ごめんなさい」


「え?」




 返ってきた言葉は……意外な、意外過ぎるものだった。

 カナリアが謝った……!? あのカナリアが!?


「なんでそんな驚愕した顔してんのよ!」


「カナリアって謝ることできるんだ……!」


「あんたバカにしてんの!?」


 また怒らせてしまった。学習してないのか僕は。この言葉は余計すぎたな。


「自分から勝手なことで怒っておいて、それでズルズルと引き延ばしすぎたって、あたしだって悩んでたのよ。でも、あんたは変なタイミングで帰って来るし。今更謝るのも……なんか恥ずかしかったし」


「そうだったんだ……」


 前に僕がシャワー浴びようとしてる時に突撃しちゃったことだな。

 それ以外にもどうやらカナリアの方からも謝りたかった気はあったと聞いて安心した。ようやくお互いの気持ちを確認できたんだ。……にしても「勝手なことで怒ってた」って自覚あったのか。なんだそりゃ。


 って大事なことを忘れてたよ。カナリアに会いに来たのはライハの学内戦の件があったんだった。



 でもその前に……



「カナリアに渡したい物があるんだ。……これ」



 僕はライハの部屋を出る時に忘れず持ってきていた……「人魚の指輪」を見せる。渡そうと思って買った日から随分と経ってしまった気がするけど。


 ベルベットの反応はすこぶる良かったが……さて。


「これ、魔法道具? 知らないやつね……」


「すっごい安いやつだから。それでも僕の手持ちのお金ほとんど持っていかれたけど」


「ふーん。ま、受け取ってあげるわ。……つけて」


「はいはい」


 ツンツンしたセリフなのでお気に召さなかった……と思えるが、顔を見れば僕もある程度カナリアの機嫌はわかるんだ。

 今カナリアはプイっと顔を背けているが少しだけ頬を朱に染めている。あれは満更ではなく内心嬉しいと思っている顔だ。僕にはわかるんだぞ。


「じゃあ手を拝借っと」


「…………へ? ちょっ! ちょっと!!」


「はい! あ、サイズぴったりだった。良かった~!」


 僕はベルベットの時に指輪をつけたこともあって慣れたのかすぐに指輪をつけてあげる。


 ……しかし、カナリアの様子が少し変だ。顔を真っ赤にしてつけた指輪を見ながらプルプルと震えている。


「あんた……なに、そういうことなの!? ば、ばばば、バカじゃないの!?」


「はい?………あっ!!」


 なんでそんなに狼狽(うろた)えているんだと思っていたら……とんでもないことをやってしまっていた。



 僕が指輪をつけたカナリアの指は……「()()()()()」だった。



 ベルベットに「この場所につけて」とお願いされたこともあって体が何も気にせず動いてしまっていた。無意識に、淡々と。左手の薬指に吸い込まれたのだっ!!


「バカバカバカバカ!! あんた本当バカよ!!」


「ご、ごめん! ごめんなさい!!」


 絶対殴られる……! と、来る攻撃に備えて防御体勢をとっていたら……あれ? 来ないぞ。殴打が。


 ガードのために盾として構えた腕の隙間からチラリとカナリアの様子を覗くと……真っ赤な顔は少しだけ収まっているがまだ頬が赤い、そんな顔のままでつけられた指輪をポーっと惚けたように見ている。





「もう………バカ」




 そのままボソッと呟いた。なにこれ。すごい……破壊力がある可愛さだ。


 待て。これは昔ベルベットに聞いたことがあるぞ。いっつもツンツンしていて、急にデレたりする……「ツンデレ」なる女の子がいるんだとか。


 そんな二重人格みたいな子いないだろって話半分で聞いてたのだが……いたよ。これだよね? うん。絶対これだ。ヤバイ。すっごい可愛い。

 いつも怒っているという状態からのギャップ。なるほど。だからこそより可愛く見えるということなのか。恐ろしい。これが……これこそが……



「ツンデレか!」


「誰がツンデレよ!!!!」



 声に出てしまった。「ツンデレ」のレッテルは人から貼られると嫌なものなんだな。今後は気を付けよう。

 ツンデレがどうとかは置いといて左手の薬指につけてしまった指輪をどうにかしないといけない。



「指輪、その……つける指変えるよ。ごめんね」


「い、いいわよ! このままで……いいから。だから、もう……ダメ」



 カナリアは指輪を守るように手で覆う。いけない。また出てるよツンデレカナリアが!

 ならばもう次の用件だ。こっちの方が重要案件だから早く伝えないと。


「カナリア。本当はこれを伝えに来たんだけどさ。ライハが……学内戦を受けるって」


「! 本当? いったいどういう心境の変化で……」


「色々とあったんだ。色々と。それで……どうする?」


「やるに決まってるでしょ。あたしの口から言うわ。この後ライハに会いに行く」


 カナリアは相変わらずやる気満々。それでこそだ。何週間過ぎても闘志を維持し続けているのは最早才能ではなかろうか。

 思えばトレーニングルームに行っていたのも、頻繁に留守にしていたのも、いつか来るかもしれないライハとの学内戦のためだったのかも。


 そうだとすれば決まるかどうかもわからないことに全力で準備できるって……すごいよカナリアは。


「それと。あんた……もう帰ってくるんでしょ? こっちに」


「—ッ! そのこと、なんだけど……」


 追加でさらに言っておかなければいけないことがあるんだった。僕はガレオスさんにもした提案をカナリアにも話した。




「はぁ!? あたしがライハと住む!? なんでそうなんのよ!! 出て行ったり、帰ってきたり、また出て行ったり。あんたどういうつもりよ!」



 はい。また怒らせた。あと最初出て行ったのはカナリアのせいなんだけど……。

 それを言ってはまた話がややこしくなるから今は無し。こうなった経緯を話さねば。


「ガレオスさんに聞いたんだけど元々はカナリアとライハが同部屋のパートナーになるはずだったんだ。だって男と女で一緒に住んでるってどう考えてもおかしいでしょ?」


 自分の父の名前が出てきてそっちにカナリアは驚いた。

 いつも父のことを気にしているのもあって「あんたいつの間にお父様と話したのよ」って顔をしている。


「僕とカナリアが同部屋になったのも理由があってね。ライハにちょっと問題が……。けど大丈夫。カナリアならきっとそれも……」


「『ロストチルドレン』なんでしょ? あの子」


「え、なんでそれを知って—」


 今度は僕が驚く番だった。

 ライハがロストチルドレンってことは僕とここの教師しか知らないことのはずだ。まさかもうすでに学内で広まっているわけではあるまい。もしそうだとしたら……。


 そんな僕のグルグルと目を回しながらライハの身を案じる様子を見てカナリアは嘆息する。


「あたしだってバカじゃないんだから疑問には感じてたのよ。どうしてあたしとアストが同部屋なのかってね。何か理由があるとしたらそれくらいしか思いつかなかったわけ」


「じゃあ他の人もそう考えてたり……?」


「さぁ? ただ、あたしの場合は自分のことだったからすぐに疑問が出てきた。他の奴らなんて他人事なんだから気にしたりしないでしょ」


 なら安心、でいいんだよな?

 少なくともライハに何かあったとかそんなことは彼女自身の口からも聞いてないから今のところ心配しなくていいと思うけど。


 それでもカナリアのように察する人も出てくるかも……か。怖いな。その時に支えてあげる存在は必要だ。そしてその役目は、



「我儘で勝手なことだっていうのを承知でお願いしたいんだ。ライハを支えてあげてほしい。これから……一緒に実力を高めあったり、休日には遊んだりとかさ。無理してそんなことしなくてもいいけど……とにかく彼女の支えになってあげてほしい」



「……あんたはどうするのよ」


「1人で生活することにするよ。どっちみち一緒に住む人もいないしさ。寂しくなっちゃうけど最近教室でいた時とあんまり変わんないし」



 最後は苦笑しながら僕の心配はいらないと精一杯伝える。ライハと住むと決断できるように。せっかく仲直りできた……けど。


 カナリアは一瞬顔を歪ませる。なんでそうなるんだと。アストをいつものように怒鳴りたかった。

 だが、その怒声は出ない。怒鳴っても……変わらないから。何を言ってもアストは折れないだろうから。



 自分を助けてくれた時と、同じ目をしていたから。



「わかった。ライハの件、こっちに任せてもらうわ。言っとくけどやり方はこっちで決めるし、あたしの今の一番の目的はライハに勝つことだから」


「うん。それはわかってる。……ごめん」


「ほんとよ。まったくもう。それじゃまた。指輪……すごく、嬉しかったわ」


 アストの肩をポンと叩いて、そのままカナリアはライハの部屋を目指して歩いて行った。


 アストは願った。今回の件が丸く収まるようにと。



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