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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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35話 迫りくる試練、動き出す陰謀



 僕が魔力を纏えるようになってから数日が経った。

 授業終了後はずっとジョーさんと反復練習をしているおかげか魔力を纏うのに段々と苦も無くなってきた。


「アストぉ。少しずつ慣れてきてるみてえだなぁ」


「はい。手ごたえが出てきました」


「そりゃ良いことだ。そうだなぁ……今度は1回裸になって生活するのも悪くねぇかもなぁ」


「裸に?」


 ジョーさんの話によると『服』のイメージを強くするためにあえて上半身だけ裸になって過ごすのも1つの手だと。

 なんでもずっとそうした上で「服を着ている」イメージをしていくことでよりイメージ力を鍛えられるらしいのだ。


 そりゃそうだよな。常時イメージし続けるみたいなもんだし。傍から見たらただの変態だけどね。

 あとあんまり数日間もやりすぎたら今度は裸族になってしまって「服を着ている」というイメージが難しくなるんだとか。だから休み休みやっていけと。

 なんだか真面目な話をしているはずなのにどうにも力の抜ける話だ。


「うーん。やってみたいんですけど僕の同部屋の子が女の子なんですよね……」


「羞恥心を捨てろぉ。男ならそんな女々しいこと言ってんじゃねぇぞ」


「わ、わかりました……!」


 ライハ、ごめん。しばらく同じ部屋に上半身裸の男が出現することになったよ。


「よーし、あと魔力を纏う練習を20回やったら飯にするかぁ」


「はい!」


 と、こんな風に実のある(?)特訓をつけてもらっていた。


 こう見えてジョーさんはすごく親切に教えてくれるし同じ男というのもあって僕もやりやすい。今では仲良くなって練習後には一緒に夕食を食べるようにもなった。

 そんな僕とジョーさんの姿を見たベルベットはすっかり師匠の座を取られたとシクシク泣いていたけど……。




 そんなわけで今では纏うスピードを速くする練習をしているところなのだ。


「ライハ。どうかな?」


「……7秒。昨日よりちょっとだけ早くなった」


 毎日ジョーさんとの特訓の後はライハに僕が魔力を纏うのにどれだけ時間がかかったかを見てもらっている。

 自分でもそれは判断できるけど見てもらった方が正確な時間を計れるのだ。魔力の感知に関しては僕もまだまだだから。


「7秒……これってどう?」


「遅い。1秒以下が理想的だけど、今のアストなら3秒を目指すと良い」


「そっか……1秒以下……3秒も……うーん。そっかぁ……」


 皆にとっては息をするのと同じだから簡単だろうけど僕は一々イメージを膨らませなければ上手くできないんだ。7秒は自己新記録だったのになぁ……!


「すぐにできるようになれなんて言ってない。がんばれアスト」


 ライハはプラプラと両手を振ってフレーフレーとエールを送ってくれる。

 ありがたいけど今のライハの服装はパジャマで、前にボタンがついている物なんだが……下の方のボタンを外してるせいで腕を振り上げるとチラリとおへそが見えてしまう。ちゃんと隠してほしい。


 でもなんだか……最近はライハとの生活もどんどん慣れすぎて僕はカナリアのところに戻れるのかどうかも心配になってきた。

 このままカナリアとは話もしなくなり……なんてのは嫌だから早く戻りたいんだけど。



「無理だよなぁ……」



 実はあれから何度かカナリアの部屋に行っている。買った魔法道具の指輪を渡すために。


 でもいくら訪問しても留守なのだ。きっとトレーニングルームだと思うけどトレーニング中に行くのも悪いし。

 部屋の前で待っても何時間も帰ってこないことがあるので結局会えず仕舞いが多い。それに今は自分のトレーニングもあるから多くの時間をそっちに割けない状況でもある。

 授業で会ったときに渡そうとしてもあっちが僕を避けるから渡せないし。


(これは本格的に嫌われたのか? そんなはずは……。そんなにライハと一緒に過ごしていたことがダメだったのかな?)


 わからないことを考えていても仕方ない。今は自分のことに集中しなきゃいけない。




   ♦




 次の日、いつものように授業に出る。今日の1限は「属性学」だ。


「えー、このようにして魔法の属性は星の数ほどあるわけですが。それでもまだまだ未確認の属性はあるはずです。さらには属性にも『上位の属性』というのもありまして……炎魔法には—」


 ダメだ……ちんぷんかんぷん。属性魔法なんて僕自身が使えてないからなーんにもわからない。


 こういう時はカナリアに聞いたりしてたんだけどな……。カナリアとは喧嘩中だし聞けない。ライハとベルベットはかなりの感覚派なので教えてくれてもよくわからない。

 ああ……そう考えるとカナリアとの生活って僕の頭の問題を大きくサポートしてくれていたんだなと。


 それにカナリアにも魔力を纏えるようになったことを報告したい。

 どんな顔をしてくれるだろうか。喜んでくれるのか、それとも「そんなの当たり前のことよ」って言ってくるのかな。


「……―ゼン。アスト・ローゼン?」


「……へ? は、はい! なんですか!?」


「ボーっとしていたんですか?……問2を答えなさい」


 考え事をしてたせいで先生に当てられていたことに気づかなかった。クスクスという笑い声が聞こえる。うぅ……。

 とにかく問2だ。えーと……



(問2 魔法属性を『水』として、3節の魔法を使用した時、瞬間魔法出力を答えよ。 ・魔法出力定数は3.5とする。 ・使用魔力は要求魔力の2.7倍の量を使用したとする。 ・大気中の魔力の影響を受けることとする。)



 えっと、えっと、出力定数と使用魔力を掛け算で……いやそのまえに属性によってさらに定数があったはずだからそっちを調べないと……しかも属性によって計算式も違ってたような……



「………2、ですか?」


「371.5です。復習が足らないようですね。もっとよく復習しておくように」


「はい……」



 まったくカスリもしない解答を出してしまって教室は笑い声に包まれた。

 とんでもなく恥ずかしい思いをしたまま僕は着席する。カナリアの方をチラリと見ると……溜息をついていた。まだ僕に無関心になってないのを喜ぶべきなのかは複雑なところだ……。


 僕が着席した後、すぐに授業の終了を告げる鐘が鳴った。

 授業が終了して皆が席を立っている中、さっきの失敗が響いたのか僕は席に座ったまま呆然としていた。


 休み時間となり生徒の話し声で教室は慌ただしくなる。その中でこんな声も聞こえてきた。



「今の計算もできねえとかマジかよ……」


「アストくんって属性魔法使えないらしいよ」


「ベルベット様も変なやつを弟子にしたよなー」


「ねぇねぇベルベット様の弟子だからまさかそんなことはないと思うけどさ……」






「アストって魔人じゃないんじゃない?」





 誰かがそんなことを言った。


 それはすぐに「んなわけないだろ」「この中に人間がいるわけないって」「試験を突破したやつは全員魔人かどうかの審査を受けてるからそれはねーだろ」「いくら魔力少ないからってウケるわ」と笑われていた。


 それでも僕は激しい眩暈(めまい)に襲われる。口の中が急激に渇きを覚え、脳はこの場から逃げ出せと叫んでいる。


 僕は居心地が悪くなって教室を出た。外の空気を吸うために。

 顔色を悪くして教室を出ていくアストの背中をカナリアは心配するような目で見ていた……。




   ♦




「ふぅ……」


 僕は屋上に出て、外の空気を吸い込んで……吐き出す。自分の中にある暗い考えを追い出すように。

 別にあんなことを言われるのは今回だけじゃない。それこそ入学してから数えきれないほど。ベルベットという優秀すぎる魔法使いと比較されているんだ。魔法もろくに使えない僕は。



(最強の師匠と最弱の弟子か……)



 底辺と言われる3組の生徒からもバカにされる毎日。一生懸命頑張っても誰にも追い付けない。ずっと一番下でもがき続けている状況だ。


「人間……」


 もしかして人間なんじゃないか、と。疑問に思う生徒は少なくない。

 そう思われるということはすでに僕は半分差別されているようなものだ。同じ場所で学び、高めあう仲間だとは少しも思われていない。


「なんでベルベットは僕を……」


 教室でも言われていた疑問を僕も口にしようとした時だった。

 後ろでガチャリと扉が開く音がする。誰かが屋上に来た。



「………む?」


「が、ガレオスさん!?」



 その人物はガレオス・ロベリール。カナリアのお父さんで最強の魔法騎士と噂されるほどの人。まさに僕とは真逆の人である。

 本当はガレオス先生と呼ぶべきなんだろうが3組の授業は1つも担当ではないため授業では会わないから先生という実感がない。だからどうしても「ガレオスさん」になってしまう。


「アスト・ローゼンか」


 ガレオスさんは僕の隣に来た。

 大きなたくましい体は近くに来るとさらに何倍にも大きく見えて何もされていないのに威圧されているかのようだ。


 こんなすごい人と僕なんかが……って思うがガレオスさんは僕のことを期待していると言ってくれた。

 クエストの件からは目立ったことをしてないしむしろ無能っぷりを露呈し続けている今はこの人と会うのも若干気まずさもあるが……、


「悩んでいるのか?」


「! わかるんですか?」


「目を見ればわかる。迷いを抱えた目だ。『自分』というものがブレている。自信を失い、手近な目標すらわからなくなってきているな」


 全てを見通していそうな目は僕を貫く。ズバリと言い当てられすぎて何も言えない。


「迷うことは悪いことではない。誰しもが迷いを抱える。重要なのはそれを乗り越えることだ」


「そんな簡単には……」




「『世界が変わるのは難しい。けれど自分が変わるのは自分次第だ』」



「? なんですかそれ……」



「レイラ……私の妻の言葉だ。周りの意見や考えていることをすぐに変えることなど不可能。長い時間がなければ人の心の底から出た意見など変わらん。だが……『自分』は違う。自分が何者なのかを決めるのは自分だ。決して他人ではない」


「自分を決めるのは………自分……」



 僕がベルベットの弟子であることは変わらない。たとえどれだけ周りから不釣り合いだと言われても、変だと言われても。

 周りから押される烙印を受け入れて、自分も周りと一緒に烙印を押していた。自分自身に。悲鳴を上げているのは……自分なのに。


「敵はお前を待ってはくれない。迷いはすぐに振り切れ。無駄な時間を過ごすな」


「は、はい……」


 魔法使いとしても、生きてきた年数でも先輩なら言うことが違うな。さすがだ。

 ちょうどその時、休み時間の終わりを伝える予鈴が鳴った。教室に戻らねば。


「ありがとうございました」


「……早く教室に戻れ」


 ガレオスに促されてアストは教室へと戻っていく。そのアストの背中をガレオスは見つめていた。




「アスト・ローゼン。ベルベットの見込み通りにお前がこの世界の希望となるのかどうか、私も見届けさせてもらおう。…………『試練(しれん)』の時は近いぞ」




 ガレオスの言葉は風に溶けていく。その考えは誰にも知られることはない。




   ♦




「どうかなライハ?」


「……7秒。昨日と変わらず」


「そっか~。壁が見えたかも……」


 今日も魔力を纏う練習をライハに見てもらっていた。


 纏うまでに7秒は自己新記録だったこともあってすぐに突破することができない。

 こればっかりは地道に何度もやって慣れるしかないんだけどいつまでも踏み止まってはいられないっていうのが本音だ。


「今もジョーさんって人に教えてもらってるんだけどさ。『鎧』じゃなくて『服』をイメージすると良いんだって。そっちの方がイメージしやすいから」


「その発想はなかった。面白い」


「誰かが思いつきそうだけどね。皆が鎧をイメージするって不思議だよね」


「普通はそう教えられて、皆1回で成功する。だからそれ以上は考えない。きっとそのせい」


 練習が終わるとライハは僕があげた本を読みながら会話に応じる。

 ライハの方はそろそろ終盤に差し掛かりそう。僕のこの練習と同じくコツコツと読み進めているからだ。こっちの方は終わりが見えそうにないけど。


 ライハはこんな僕のことも一切バカにしたりしないし笑ったりもしない。笑うに関しては本人の表情の乏しさもあるかもしれないが。


(そうじゃないとこんなに住み着いていないよな……)


 いい加減こっちの問題も解決しなきゃ……だな。



「ねぇライハ。前も言ったんだけどカナリアと学内戦をする気はない?」


「わたしは強い人と戦いたい。彼女とは戦う理由がない」



 聞くことが同じなら答えも同じか。でもここで引き下がったらいつまでも解決しないままだ。



「どうしてライハは強い人と戦いたいの? 戦うことが好きなの? そろそろ知りたいな」



 これも前に聞いたことだけどあの時は深くは追及しなかった。

 しかしここまでカナリアとの学内戦を断られると「戦う理由」というものを知りたくなってくるのだ。それを知ることはライハを知ることにもなると思ったから。


 ライハは本をパタンと閉じ、こっちに向き直る。ほんの少し逡巡して……話し始めた。



「……わたしはもう8年近く両親と会っていない。2人とも仕事で遠くに行っていて会えない」


「8年も!?」



 遠く……というとおそらく別の魔法使いの国だろう。魔法使いの国はマナダルシア以外にもいくつかあるから逆に言うとそこしか考えられない。

 それにしたって8年という年数はおかしい気がする。両親がどっちも娘を置いて? しかも8年も? それが本当ならひどい話のように聞こえる。



「わたしは離れる時にいつになったら帰ってくると聞いた。パパは『ライハがいっぱい強くなった頃にパパ達は帰ってくるよ』と言った。だからわたしは強くならないといけない」



 そこでこの話と結びつくわけか。要はおまじないみたいなもの。幼少期に父に言われたことを守っているんだ。ライハにとってそれは大事なものだからバカにはしない。


「ライハはお父さんやお母さんのことが好き?」


「うん。大好き。だから早く会いたい。そのためにもっと強くならないといけない。成長した姿も見せたいから」


 それこそが彼女の心を支えるもの。努力するのも、試合で勝つ力も、源は全てそこにあったんだ。



 ただ……何故だろうか。何か引っかかる。

 これまでライハと過ごしてきて彼女には異変がいくつかあった。心に何か暗い闇のようなもの抱えている……そんな気がするんだ。


「アスト。もう少しでこの物語は読み終わる」


「そうなんだ。どうかな? 物語を読むのは面白い?」


「面白い。最後どうなるかが楽しみ」


 突然失踪した自分の親を探す子供が主人公の物語。主人公の少年は両親を探しながら色んな国を巡っていく。


 でも……僕はその物語の結末を知っている。途中で急展開があるんだ。

 彼女がそれに辿り着いた時、何を思うのか。貸した時は何も考えていなかったけど……今では少しだけ後悔もしている。


 もしかすると、この物語は彼女にとって大きな意味をもたらす物になるかもしれないからだ。


 それが明日なのか、明後日なのか。いつになるかは……まだわからないけど。


「……もう寝よっか」


「うん。おやすみ」


 だが、その時だった。

 ライハを寝かせて、僕も寝ようとした時……僕の脳裏に突如、ある1つの仮説が生まれた。



(ん? 8年前……?)



 それは微かな違和感。その違和感がまた別の違和感に繋がり……点と点が線になっていく。僕はこの違和感の正体をすぐに確かめたくなった。 

 でも、それを確かめるのは今じゃない。けど、もし自分が考えている通りだとするならば。



 ライハは、もしかしたら……




   ♦




 ~音楽室~


 誰もが寝ようとしている時間。そんな時間でもガイトは音楽室で1人ピアノを弾いていた。


 この学院では獲得している属性魔法によって特権があったりする。レアな属性魔法ほどその鍛え方は獲得者しか知らないので使える設備はいつでも使っていいという優遇があるのだ。


 ガイトは「音魔法」というレアな属性魔法を持っているので音楽室はいつの時間でも、どれだけ使用してもいいとなっている。それでも10時を過ぎて使用しているのはガイトくらいだ。


「最近の俺は変だな」


 ピアノを弾き終わったガイトはそう呟いた。


 友人なんて必要ないと思っていた。自分の両親を殺した人間—エリア6リーダーの「アルヴァタール」を殺すこと以外はどうでもいいと思っていた。

 実はガイトはこの学院の寮には入っていない。本来なら規則で全員が寮に入っていないといけないのだが、ガイトはアーロイン学院に対して力のある家の養子になっているので特例として家から通っているのだ。


 だからこそ授業にもほとんど参加していない自分はここの学生とは基本的にどの時間も触れ合う機会はないだろうと思っていた。


 けど、アストやライハとは友人になった。

 友人というのがどのラインからなのかは置いておくとして、自分にとっては一緒にいて楽しいと思える関係になったのだ。


「いや……変だったのは今までの方か」


 小さくフッと笑い、帰る準備をした。その時、音楽室の扉の方から誰かの気配を感じる。



「? おい、そこに誰かいんのか?」



 ガイトは音魔法を持っていることもあって音にはかなり敏感だ。

 先ほども普通なら聞き逃すほどの小さな足音もガイトの耳にはしっかりと聴こえた。音楽室の扉の前に立っている者の足音を。


「隠れてないで出てこいよ。足音を隠してんのか知らねえけどよ。俺からしたらうるせぇほど聴こえてるぜ」


 ガイトにそう言われて隠れるのは意味がないと判断したのか、ガラガラと音を立てて音楽室の扉は開かれた。



 音楽室に入ってきたのは……白いフード付きのローブを羽織って顔も姿も隠した謎の存在。



 男か女かもわからなかったが体格は細めだったのでおそらく女だと断定する。人間か魔人かは………魔人で間違いないだろう。人間がこっちの世界に侵入できるはずはない。


「こんな時間に音楽室に来るってことは俺になんか用か?」


「……ガイト・オルフェウス?」


 謎の魔人は声を出す。魔法道具でも使って声を変えているのか機械音声みたいな声をしていた。

 それが地声という可能性もあるがガイトは相手の声からそれが作られたものだとすぐにわかる。これも音魔法の恩恵である。



「ここまで来て本人確認か? どうせ違うって言おうが意味ねえんだろ。さっさと用件を言えよ」


「頼みたいことは1つだけ。……あなたにアスト・ローゼンを殺してほしい」



 用件を促すとそいつはそんなことを言ってきた。それにガイトは思わず笑いそうになる。


「突然出てきて何言ってんだお前。そんなことするわけねえだろ。つーか頼む相手を間違えたんじゃねえのか?」


 ガイトは戦闘態勢に入る。誰かを殺せなんて頼みを聞くはずもないし、相手がアストとなれば自分に関係ないことではない。

 自分自身が復讐を望んでいるからか誰が誰に恨みを抱いて何をしようが勝手だという考えを持ってはいるが、その相手が友人なら話は別だ。阻止に動くのは当たり前である。



「ふふふ。元からあなたの意思は関係ない」



 謎の魔人はガイトに向けて手をかざす。これは……魔法発動の予備動作。



「世界はあなたを縛る 自由は奪われた 重力の檻」



 しまった、そう思った時には「詠唱」が完了してしまった。




「『グラビティ・レスト』」




 3節の魔法。急激に上から圧し掛かるような見えない力が働いてガイトの体は簡単に床に沈んだ。



(なっ……!? これは……『()()()()』か!?)



 重力魔法—その名の通り重力を操る属性魔法。これもガイトの音魔法と同じくレア魔法に分類される属性魔法だ。


 ガイトはどうにか立ち上がろうとするが……無理だ。

 3節の魔法でさえガイトに自由を許さぬほどの威力。魔法本来の力以上に術者の力も相当なものだと感じ取れた。


「これを、あげる」


 謎の魔人は床に張り付いたように動けなくなっているガイトの顔の近くに何かを落とした。それは手のひらに収まるほどの小さなサイズの機械で……「注射器」のような形をしていた。



「それは『マジックトリガー』。アスト・ローゼンを殺すのに使うといい」


「誰が……そんなこと、するか……!!」



 自由を奪われているとはいえガイトは抗う。何を渡されようが受け取るつもりはない。



「だから、あなたの意思は関係ない」



 謎の魔人はさらに別の注射器のような物を取り出す。

 それは「マジックトリガー」とは違い、別の魔法道具らしき物。言葉からしてガイトの意思さえも操る物。



「やめろ……!」


「アスト・ローゼンを、殺してもらう」



 ガイトの体にその魔法道具が打ち込まれた。ガイトの意識は、闇へと溶けた。




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