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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
33/230

32話 ロストチルドレン


「お前ら、30分遅れるってなんかあったのか……?」


 ようやくオルテア街に着いた僕とライハ。待っていたガイトの言った通り30分遅れての到着だ。


「色々あってね……」


 遅れたのはベルベットのこともあったから。でもガイトに言ったって仕方ないし、元はと言えば全部僕のせいでもあるのでベルベットが悪いようには言えない。


「………一応聞いとくけどよ。俺は本当に邪魔じゃねえんだよな?」


 ガイトはライハの服装を確認すると、僕にそう聞いてくる。

 これは食堂の時にも聞いてきたことだ。意味は僕とライハがそういう関係なんじゃないかっていう……さっきのベルベットと同じだ。


「だから違うってば。僕とライハはそんなんじゃないって」


「そう言われてもよ。あのライハが制服以外を着てくるとは思わなかったからビビってんだ」


 ガイトの様子からライハはどれだけ日常のあらゆる常識から外れた存在と認識されているのかと(うかが)える。それだけ日々魔法戦闘しかしてないってことだ。

 実際、ライハの生活は趣味とか娯楽が全て削ぎ落されている無機質なものだった。授業が終われば帰って……ご飯、シャワー、寝る。信じられないかもしれないがライハに聞いたところ、過去はその3回行動だけで終わった日がほとんどらしい。

 僕は自由な時間ができたら本を読んだりするけど、ライハはその時間に何をしていいのかわからないらしくてただやることをやって寝るのだとか。


(1組の教室でもかなり浮いてるのかな……)


 ガイトに自分のことを言われているのに当のライハは「制服の方がよかったの?」とよくわかっていない。それでこそライハって感じだ。


「そんなことより、まず最初はどこに行く?」


 僕はガイトとライハにそう質問した。

 自分達の目の前に広がるオルテア街の街通りは非常に多くの店がこちらに手招きをしている。

 飲食店や服飾店、魔法道具店にマジックフォンショップ。例を挙げればキリがないほどだ。そして休日ということもあってか人の数も多くかなりの賑わいを見せている。


「そうだな……ライハ、お前行きたいとこあんのか?」


「アストは行きたいとこある?」


「結局僕に戻ってくるんだね……」


 質問したのは僕のはずなのに一周回ってきた。ならばと僕は提案する。


「服を見に行かない? ほら、ライハも女の子ならオシャレな服がもっと欲しいでしょ? そういうのあんまり持ってないって言ってたし」


「服?」


 僕が提案したのは服を買いに行こうとのこと。正直に言うとこれは自分の欲丸出しな部分がある。

 ライハの私服を見た時、色んな服のライハを見たいなぁと思ってしまった。せっかく本人はすごく可愛いのにずっと制服ばっかりっていうのは勿体ないと思うのだ。


「行きたい」


「うしっ。じゃあ決定だな。アストの希望通りに行くか」


 ってなわけで僕達は男性用と女性用どっちの服も揃えてある服飾店─「ウィザーズ」に入った。店内にはかなりオシャレな店員さんがいて僕は少々気後れしてしまう。

 というのもガイトやライハは外見がとても良く周りの目を引くほどだ。ガイトは喋り方こそ不良っぽいが見た目はクールで落ち着いた少年なので、いかにも女性受けしそうな感じなのだ。そうなればこのオシャレな店にも合っているように見える。

 それと比べると地味な服を着ている自分が同じ空間にいるのがどことなく恥ずかしいとも……。

 店に入ると別行動をとることにしたのだが僕は自分で提案していながら雰囲気にのまれてしまってろくに服を物色できない。


「お客様。何かお探しですか?」


「へ!? な、なんでもないです……」


 いきなり女性の店員さんに声をかけられて変な声を出してしまう。

 「服を物色」というより「服を視界に入れている」という状況に近かったので何かを探しているのかと聞かれても困る。

 だが、「なんでもない」と言ってもそこはここの店員だ。それだけでは済ませてくれない。


「そうですね~。お客様ならこういう服はどうでしょうか~」


 そう言いながら店員さんは無造作に手をパッ、パッと幾度(いくど)か手を振った。

 何事かと思うと……僕の前にフワフワ~と数着の服が現れる。魔法で特定の服を浮かせてここに運んできたのだ。まさか服の方からこっちにやって来るとは……!

 店員さんがそうして魔法で運んできた服はどれもオシャレな物ばかり。僕よりもガイトが着た方が絶対似合うような気がする。


「に、似合いますかね……僕なんかに」


「似合いますよ!」


 僕はウ~ンと悩んでいると近くにガイトが通りかかったので……


「ねぇガイト。これ似合うかな?」


「なんで俺に聞くんだよ……」


 服を自分の体の上に重ねて見せてみたがガイトは困った顔をする。

 女性の店員さんは何やら僕達の様子を見て頬染めて顔を輝かせていたが何を想像していたのかは考えないようにしておいた。




   ♦




「これ、どう?」


 その後、僕とガイトはライハに呼ばれて試着室の前にいた。

 ライハは店員さんの着せ替え人形のようになっているせいで今では1人ファッションショーみたいになっている。


「いいと思うよ」


「いいんじゃねえか」


 ただ僕とガイトは最初こそどこが良いとか言えたけど10着近くも続くともう「良い」としか言えなくなってしまった。

 決してどうでもいいとか思っているわけではなくどれも本当に良いのだがもう言葉が見つからないのだ。

 僕がライハの色んな服を着た姿を見たいからとかいう理由で入っておきながら申し訳ないがまさかこんなに何着も着るとは……。


「これ全部買う」


「えぇ!?」


 1人ファッションショーが終わるとライハは僕達が「良い」と言った服全部を購入した。

 どうやらお金が有り余りまくってたらしくこれだけ服を買ってもまったく痛手ではないんだとか。




   ♦




 そんなこともあり僕達は次の店へ。次は魔法道具店だ。


「へー。なんだか……すごいね」


 店の中にはそこら中に魔法使いのためのアイテムがいっぱい。僕にはわからないけど色んな効力のある石やらアクセサリーやら。

 これらは意外と魔法使いに重宝される物でほとんどの魔法使いが見えないところに身に付けていることが多い。ただ……値段が少々お高いので学生には手が出づらい物ばかりだ。

 そんな魔法道具だけではなく僕達─魔法騎士のための「魔法武器」もあるので必然的にそっちに目がいってしまう。

 並べられている魔法武器を3人で見ていると気づいたことがあった。


「あれ? 特殊魔法武器とかは売ってないんだね」


 多種多様の魔法武器があったのだがどれも通常の魔法武器なのだ。1つくらいはあるものだと思っていたので意外という感想が出る。


「特殊魔法武器なんか普通のとこには売ってねえよ。そもそもそれを売ってる店はかなりレベルの高い店だぞ」


 そんなことを言っていると横からガイトの説明が入った。


 魔法武器を造るのは魔法工学技師、通称「魔工」と呼ばれる人の仕事なのだが……なんでもその中でも2つに分類されるらしい。

 通常の魔法武器しか造れない人─こんな言い方は悪い気がするが─は「第一種魔法工学技師」、特殊魔法武器も造れる人は「第二種魔法工学技師」に分けられる。

 特殊魔法武器を造るには相当な腕が必要でこの二つの魔工にはかなり大きな壁がある。そのためか現在で第二種魔法工学技師はこの世界に5人ほどしかいないんだとか。

 ベルベットが使っている杖の中にはおそらく特殊魔法武器と思われる物もあった。そしてベルベットは自分で杖を造る時もあると言っていたので……まさかね。


「そういえばライハは拳銃タイプの魔法武器を使ってるけどガイトの魔法武器はどんなの?」


「俺か? そうだな……機会が来たら見せてやるよ。そんな時があったらな」


 随分と勿体ぶるな。ライハに聞いてもガイトが実習に参加することは滅多にないから見たことないって言うし。

 同じ魔法騎士を目指すならいつかは見ることになるんだろうけど……隠されると気になってしまうじゃないか。


「アストは剣なんだろ?」


「魔法武器じゃないけどね。使うとしたら慣れてる剣になるかなぁ。ライハの拳銃も良いよね。距離が離れた相手にも攻撃できるし」


「便利だけど使い慣れるのに苦労すると思う」


 そうなのか。でも銃って相手に当てるだけでも結構大変って聞く。使えて損はないんだろうけど今から使いこなすっていうのは難しいか。

 それに僕は魔力量が少ないから【バルムンク】みたいに僕の代わりに魔法を発動してくれるような特殊魔法武器じゃないとすぐに魔力が枯渇して弾切れを起こすかもしれない。それこそ1回属性魔法なんて使おうものなら魔法の弾を生み出す魔力すら無くなってただのガラクタと化してしまいそうだ。

 それに比べて剣は距離が離れると戦いづらくはなるが魔力が尽きたとしても武器として使えるという利点があるから結局僕はずっと剣を使い続けると思うな。


「あ、そうだ……」


 僕はあることを思いつき、魔法武器のコーナーではなく魔法道具のコーナーへと移動する。

 別に魔法道具を自分が使おうだなんて考えてはいない。これはプレゼント用だ。


(カナリアとの仲直り用に……それと、ベルベットにも買ってあげようか)


 そんなことを思いついた僕は手近にあったピンク色のハートの装飾(そうしょく)がなされた指輪を見る。そこで……やはり、値段を見て硬直した。



(2万(ゴールド)か……)



 僕の現在の手持ちは4万G。僕の所持金は主にお小遣いだ。

 ベルベットから……ではなく館にいる大勢のメイドさんの1人のキリールさんがベルベットのお金を管理しているのでそこから出してくれている。


 ベルベットは自分のお金を自由に使ってくれていいよと言って自分の研究費すら渡してこようとするのだがそこはキリールさんが許さなかった。お金で苦労しなくなると後々困ることになるとのことでお小遣い制になったのだ。

 僕もそれで賛成だし、ベルベットの研究費って言えば数千万単位だったりするのでそんなお金渡されてもそれこそ困ってしまう。


 話は戻って─


(うーん、ど、どうしよう……。やっぱりやめ─いや、ここで踏みとどまってどうする!)


 僕は指輪を買う決心をした。そしてもう1個、人魚の装飾がなされた1万5千Gの水色の指輪も手に取り会計へ。僕の財布から3万5千Gが消えたのだった……。




   ♦




 時間は昼過ぎになり、3人で食事をとることにした。

 どこで食べようという話になっても僕達3人は誰もがどちらかと言えば自分の希望を強く出さないタイプなので迷うことになったが……ハンバーガー店に寄ることで落ち着いた。


 自分達の注文を済ませて商品を受け取った後、テラス席─店外にある飲食スペースに座る。

 僕やガイトは男というのもあってガッツリとしたハンバーガーを食べているのだが元々小食のライハは女性に人気である野菜中心のヘルシーなハンバーガーを食べている。


 このライハの食べている商品はここのハンバーガー店のメインな客層である男性には不人気すぎて絶滅寸前だったのだがライハのように男性と一緒に来るような子に人気を獲得して延命に成功したという裏話がある。完全にどうでもいい話だ。

 そんなことから女性用に作り替えてこのハンバーガーは他の物よりもサイズを小さくされているのだがライハは一口がとても小さくて食べるのに時間がかかっている。モクモクと頬を膨らませて食べている姿は小動物を連想させて可愛い。



「この後どうするよ」



 ガイトはバニラシェイクを飲みながらそう聞いてきた。ライハは食べる方に夢中なのでもう食べ終わっている僕がそれに応じる。


「そうだね……ゲームセンターとか行ってみる? ライハもそれでいい?」


 ライハを見ると無言でコクコクと頷いていた。OKの意味だろう。


「………トイレ」


 急に持っていたハンバーガーの包みをテーブルに置いたライハはそれだけ言って席を外していった。


「あはは……なんだかライハの動きって予兆がないから驚くよね」


「たしかにな」


 僕とガイトは苦笑いする。僕はライハと一緒に住んでいることもあってもう慣れたんだけどね。


 ライハが席を外してから、バニラシェイクを飲み終わったガイトはフーっと息を吐いて落ち着く。

 話す話題も無くなってお互いに外の景色を見ながら休んでいた時に僕の頭にとあるワードがチラついた。前からガイトに聞きたかったことだ。


「ねぇガイト。もし嫌じゃなければ教えてほしいんだけどさ」


「なんだ?」


「『ロストチルドレン』って……なんのことなの? 前にも聞いたことなんだけどさ。どうしても知りたくて」


 それは僕が初めてガイトと出会った頃に他の生徒に言われていた言葉。

 言われた本人に聞くのは間違いなのかもしれないがガイトの知らないところで誰かからそれを聞くことこそ間違っているような気がしたからだ。


 恐る恐るガイトを見ると……自分で聞いておいてなんだが意外にも傷ついた様子はなく、むしろ「なんでまだ知らねえんだよ……」みたいな顔をしている。


「あんまそのワードを外で出さない方がいいぞ。人によっては変な目で見てくるからな」


「あ……そう、なんだ。ごめん……」


 そう言われると少々気まずい空気が流れる。やっぱり聞くのは失敗だったのかなと思うと、ガイトはそんな僕の顔を見て溜息をつき……


「『ロストチルドレン』は数年前にあった大事件─『ロスト12』の被害者の子供達のことだ」


「ロスト12……?」


「まずそこからか。とある12人の魔法使いが何者かに拉致されて行方不明になった。それが『ロスト12』という事件だ」



 ガイトの話によると……ロスト12─それは魔法使いが被害者である最大最悪の拉致事件。


 その事件は人間が起こしたものとされていて今でもその説が有力とされているのだが、結界がはられて人間には認識できないはずの魔法使いの国の中で発生したことからして……もしかすると同じ魔法使いが起こした事件なのではという意見もある。


 だがよほどのサイコパスなんかでなければそんなことをする理由なんてない。

 今の時点でも誰1人として帰ってきていないところから生きていたとしても人間側の国に監禁されているのではと考えられている。


 それに加えて実は魔法使いの国はマナダルシア以外にもいくつかあるのだが、その全ての国に魔法感知のセンサーが設置されている。

 規定の範囲を超えた威力の魔法を感知すると即座に魔法騎士が取り締まりに来るシステムだ。しかし、反応など1つもなかった。


 規定の範囲内の弱い魔法を使って拉致したのだろうという反論もあった。

 しかし、拉致された12人の魔法使いはその誰もが高い実力を持った者や特異な魔法を持った者もいたりと規定範囲の魔法で捕獲するのは不可能が過ぎるという意見で潰された。



「そんで、親を失ったその子供達はいつしか奇怪な目で見られることになった」


「な、なんで!? だって何も悪くないのに……」


「人はそう思わねえのさ。こんだけの事件になればその子供にも何かあるんじゃないか、関わっていたら自分もいつか拉致されるんじゃないかと恐れた。そしてそれらの被害の全てを受けている子供が『ロストチルドレン』だ。ロストっつーのは事件によって親も、普通の生き方も失ったって意味でもある」



 人は周りと違う物に異質な目を向ける。

 その目の種類はいくつもあり、ベルベットのように英雄視されるものもあればロストチルドレンのように……恐れのものも。


「それで、ガイトはその……言いづらいんだけど……」


「言っとくが俺は『ロストチルドレン』じゃねえからな」


「え!?」


「『え!?』ってなんだよ……」


「ご、ごめん。ガイトが言われてたから……てっきりそうなのかと」


 さすがに失礼すぎた。ガイトは怒っているわけではなく僕の反応に呆れている。


「たしかに俺には親がいねえ。俺がガキの頃に人間に殺されてな。今はある家に引き取られてそこで暮らしてるってわけだ」


「そうなんだ……」


「ちょうど事件が起きた年と近かったからロストチルドレンと思われてるんだよ。否定すんのも面倒くさいしそのままにしてるんだ」


 知らなかった。カナリアもお母さんが人間に殺されたって言ってたし、魔人にはそういう子が多いのかもしれない。それは人間側にも言えたことでもあるが。

 自分の過去を話したガイトは歯をギリッ…!と鳴らし、空を見ていた。その目からは怒りが感じ取れる。

 僕はそれが気になってしまい、ガイトの心にさらに踏み入ろうとしてしまう。



「ガイトは親を殺した人間に、復讐とか……」


「………。ああ、考えてる。それが俺の魔法騎士を目指す理由だからな」



 予想が当たってしまった。当たってほしくないことだったのだが……ガイトのただならぬ雰囲気に思い当ってしまったのだ。


「俺の親を殺したのはエリア6のリーダーのやつだ。ハンターの中じゃ最強とか言われてる奴でな。俺も強くならなきゃいけねえ。だから学院でどう見られようがどうでもいいんだよ。授業サボってる時も魔法の練習してるしな」


「エリア6………か」


 前にカナリアが「そこにいるだけで生きた心地がしなかった」と言っていた場所だ。「エリアリーダーの家の長男が失踪(しっそう)していてエリア6のハンター総出で血眼になって探している」とも。

 そして僕もその名を聞くと胸がざわつく。締め付けられるような。何か荒ぶる炎に身を焼かれるかのような。


 失踪(しっそう)した長男……まさかな。僕は「魔人」だ。人間とは関係がない、はずだ……。




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