表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
30/230

29話 生徒会長


「えーっと……失礼します」


 全授業終了後、僕は例の生徒会から「生徒会室に来てくれ」と言われた。何か渡す物があるって話を聞いてきたけども何を渡されるのかサッパリ見当がつかない。


 学院には生徒会室という生徒会専用の部屋が用意されている。今僕が入ろうとしているのがその部屋だ。

 中はかなり豪華な仕様になっていた。ソファーやデスクがいくつも置かれており一番奥には生徒会長専用の大きなデスクも。

 そこには1人の男が座っていて横には生徒会副会長だと思われる女子の先輩が秘書のように立っていた。


「やぁ。アスト・ローゼンくん……だよね?」


「はい」


「僕は『アルカディア・ガイウス』。ここの生徒会長をやってるんだけど……ふふっ、そんなに固くならなくていいよ?」


 そう名乗った男はやはりアーロイン学院の生徒会長だった。

 アルカディア・ガイウス─アーロイン学院の3年生。噂ではこの歳にして学生レベルを遥かに超えた実力を持つ魔法使いだとか。


 彼は魔法騎士コースに所属しており、1年の頃から「入学試験680ポイント獲得」「学内戦全勝」「全クエストをソロでクリア」「全筆記試験全教科満点」と、すでに天才の片鱗(へんりん)を見せていた。

 アーロイン学院の歴史を見ても彼ほどの力を持った学生は過去に「ベルベット・ローゼンファリス」か「ガレオス・ロベリール」しかいないのではとも噂されている。


 そしてなにより、このアルカディアはアーロイン学院の現学院長の孫でもあるらしい。

 優秀な力に優秀な血。しかも容姿もかなり整っていて王子様を連想させるその風貌(ふうぼう)は女子生徒から大人気だ。それでいて性格も優しく物腰柔らかなので人気にどんどん拍車がかかっている。


「それで……渡す物っていうのは?」


「うん。君に渡す物は『報酬』だよ」


「報酬?」


「君、1年なのにBクエストを突破したんだってね。しかもそこで『変異体のグランダラス』を討伐したことが報告に上がっているよ」


 アルカディア会長には悪いけどその話題は学生の間で流行りを失ったやつですよ。もうほとんど僕の噂してませんし。

 そんなことよりも……報酬とはいったい?


「君はまだ知らない……というか普通の1年生には縁のない話だけどね。高ランクの魔物を討伐した場合には金銭などの報酬が与えられるんだ。あのグランダラスは相当危険な個体だったらしくてね、君には500万Gが与えられることになった」


「500万……ですか? なんか位が大きすぎてどんなものなのか実感が……」


「そうだね……特殊魔法武器はさすがにもっとかかるけど高級で上質な魔法武器ならいくつも買えるし、普通の家でも1つ建つんじゃないかな?」


 僕はそう聞いて思わずぶー!と吹いてしまう。家を建てられるくらいのお金を一気に手に入れちゃったの僕!? まだ学生ですよ!?


 余談だがここでアルカディアが言った「普通の家」とは、その字のごとく「なんの機能もない家」のこと。

 現代の魔法使いが住む家には大抵魔法効果が付与されたり魔法的なギミックが施されている。そういった家は金額が高い。建てるのに5000万Gくらいする。


 逆に普通の家は数百万Gで建ったりするのだ。これはこっちの家の人気が無くなったせいで最初こそ数千万の値段だったがどんどん値下げされていった結果という背景があったりもする。


「口座があるなら振り込もうか? それとも(じか)がいい?」


「あ……じ、直で」


「わかった。……カチュア」


「はい」


 アルカディア会長の声に反応するように横にいた女子の先輩─カチュアさんはすぐにアタッシュケースをドン!と持ってきた。


「ここに500万Gが入っています。どうぞお受け取りを」


「あわわわわわ……」


 なんだかいけないことをしている気がして受け取る手が震える。その様子を見ていたアルカディアさんは面白そうに笑っていた。


「アストくん。グランダラスは強かったかい?」


「そりゃもう! メチャクチャ強かったです!」


「ふふっ。それでも君は勝った。つまり君の方が強かったということさ」


 アルカディアさんの言葉は自分の体に浸透(しんとう)していくようで……少しだけ自信がついた。生徒会長からそんなことを言われるなんですごく光栄なことだ。

 でも、訂正しなくちゃいけないことがある。


「僕だけじゃないんです。グランダラスに勝てたのはカナリア・ロベリールって子とベルベットのおかげなんです。僕1人の力だけじゃなくて……」


「ふむ……カナリアさんならまた今度報酬の話をしようと思ってたんだ。君は謙虚(けんきょ)だね。わざわざそれも報告するなんて」


「いえ、ただ仲間を差し置いて自分だけ評価されるっていうのは……」


「へぇ……君、面白いね」


 僕の顔を見つめてニコニコと笑う。何か面白いこと言ったかな?


「用は済んだから帰って大丈夫だよ。これからの活躍、期待してるね……アストくん」


「はい! ありがとうございました!」


 僕はアタッシュケースを受け取り、すごい勢いで礼をして生徒会室を出ていく。

 正直、大金のことだったり生徒会長に褒められたりと色々ありがたいことがあって自分の頭が追い付いていない。

 まずは大金をどうするかを考えなければいけない。ひとまず自分の部屋に帰ろう。




   ♦




「カチュア。彼、どうだったかな?」


 アストが出ていった後の生徒会室では、生徒会長のアルカディアと生徒会副会長のカチュアがアストのことについて話していた。


「彼は噂通り魔力を一切纏っていませんでした。あれでは魔法がほとんど使えないというのも本当でしょう。いくらサポートがあったとはいえそんな者がとてもグランダラスを討伐できたとは思えません」


「何か裏があると?」


「はい。そう思われます」


 カチュアはアストを疑っていた。アストには何かの不正を行っているという噂もあるがカチュアはそれを第一に疑っている人物でもあった。

 その意見を聞いたアルカディアはカチュアが用意していた紅茶が入っているティーカップを一口啜って笑みを浮かべる。


「僕は彼に興味がある」


「アルカディア様が気に掛けるほどの者ではないのでは……?」


「そうかな? 僕はそう思わないけど」


 アルカディアは席を立ち、窓から空を見上げる。その目は空に向いているが映っているのは思い出したアストの姿だった。




「アスト・ローゼン……()()()()()()()()()()、か」




 そう(こぼ)れた言葉はただの独り言だったのか。カチュアには聞こえていなかった。




   ♦




「ベルベット、今いい?」


 僕は生徒会室でお金を受け取った後、自分の部屋で十分に落ち着き……それからベルベットの部屋に行くことにした。このお金のことでベルベットに少し用があったのだ。

 けど、呼んでも返事がないので勝手に入ることにした。


 実を言うとベルベットは僕にだけ合鍵を渡してくれているので自由に出入りが可能になっている。教師が生徒に合鍵渡すって大問題な気がするけど。


「入るよ~」


 扉を開けて中に入る。だが、中にベルベットはいなかった。

 ベルベットは魔法の研究に集中してたら呼びかけても返事をしてくれないこともある。そのせいか今みたいに中にいるのかいないのかがわからない時があるのだ。


「うわ!!」


 教師と生徒とは言いつつも自分とベルベットの仲なので中で待っていようと思い、足を進めるといきなりとんでもない物が目に入った。

 なんと下着が干されてあったのだ。間違いなくこれはパンツとブラジャーである。


「なっ……なん……!」


 突然の女性下着の出現に混乱しつつもしっかりとガン見してしまっている自分はどうなのか。いや、これは不可抗力だ。決して自分は変態ではない……はず……!


 目の前に広がる黒、ピンク、白の下着達が煩悩(ぼんのう)を膨らませていくが無心にならねば!

 にしてもベルベットって黒の下着もつけてたんだな。見た目は少女そのものだからちょっとギャップを感じ……はっ! いけないいけない。煩悩滅却(ぼんのうめっきゃく)

 明らかに一瞬煩悩に敗北しかけていたがなんとか心を落ち着かせる。


 ベルベットの部屋は杖やら魔女関連の物がたくさん置いてあるが時折ここが女性の部屋なんだなと思わせる物が置いてあるのでビックリしてしまった。


「ん……なんだこれ」


 僕が1人であたふたしていると机の上に見たことのない物が置かれていて、それに目を奪われた。


「マジック……トリガー?」


 それは手のひらに収まる程度の小さな注射器のような機械。

 どうやらベルベットはそれについて研究しているみたいだ。自分で研究して知り得た情報がいくつものノートの切れ端にまとめられていて机の上に散乱している。


「体内に魔力を注入……? 誰でも魔法が使える……? なんだこれ???」


 僕は不思議に思ってそれを手に取ろうとしてしまう。まるで自分がそれに引き寄せられるかのように。



「あー! しんどっ! やっと仕事終わったー!!」



 マジックトリガーに僕の手が触れようとする寸前にベルベットが帰ってきた。僕は反射的に伸ばしていた手を引っ込める。


「や、やぁベルベット。お邪魔してるよ」


「…………」


 僕はお疲れのベルベットに挨拶をしておく。合鍵を持っているといってもこの状況はちょっと気まずい。

 だがベルベットは僕の姿を目に入れるとパチパチと瞬きし、ゴシゴシと目を擦って「そんなバカな」と間抜けな顔をしていた。


「とうとう働きすぎて心がオアシスを求めようと幻覚でも見せ始めた……?」


「幻覚じゃなくて本当に目の前にいるってば」


 ベルベットの頬をつねってあげて僕の存在を証明する。するとみるみるうちにベルベットの顔がパアアァァと輝いていった。と、同時に


「って、うきゃあああああああああああああああああああ! 私の下着イイィィィィィ!!」


 悲鳴を上げて部屋干ししていた下着類を凄い速度で回収していく。そこに関しては不可抗力とはいえベルベットに謝らなきゃいけないことだけど、あのベルベットにも羞恥心があったんだなとわかってちょっと安堵してしまった。

 ゼーゼーと息を吐きながらなんとか全ての下着を回収し終えたベルベットは床にペタンと力尽きたように倒れこむ。

 残念だけどそうした時に水色のパンツが見えてしまっていた。干してある下着よりも見えちゃいけない(たぐい)だよそれ……。


「大丈夫? 水でもいれようか?」


「だ……だ、大丈夫……。それよりどうし、たの……?」


 どう見ても大丈夫そうじゃないがベルベットがそう言うので話を切り出そう。

 僕は持ってきていたアタッシュケースを床にドン!と置く。それに気づいたベルベットは「よっこいしょ」と起き上がった。

 パカッとアタッシュケースを開けると札束が5束ほど収まっている。僕も中身までは初めて見たがおそらく1束100万で合計500万Gというわけだろう。


「わー! これあれでしょ? グランダラスの討伐報酬でしょ? へー、あれ500も出たんだ~すっご」


 なんだ。ベルベットはそろそろ僕が報酬を受け取るって知ってたのか。それなら話は早い。


「この500万、僕じゃ大金すぎてどう扱っていいかわからないからベルベットに預かってほしいんだ」


「なんで? 自由に使っていいのに。それに私なんかに預けたら知らないうちに研究費に消えちゃってるかもよ?」


「それならそれでいいよ。ベルベットには拾ってもらった恩もあるし、恩返しがしたいんだ。それに前のクエストの時に大金払う羽目になったんでしょ?」


「うっ……それは……」


 ベルベットはクエストの時に勝手に「究極魔法」を使用した罰として8000万もの罰金を食らった。それならまだいいがベルベットじゃなければ禁固刑は確実だったらしい。

 究極魔法は土地の地形を変えるほどの威力の物もあるのでいくら人間相手でも勝手に使用しちゃダメ。

下手すればこの世界から住めない土地が発生したりする。そうなれば人間から土地を奪った後で困るのは魔人側の方だから。


 こんな刑罰は普通なら発生しないのだがベルベットが1人で究極魔法を使えると知られた後に作られたものらしい。つまり事実上ベルベット専用刑罰だ。

 規格外の力を持つというのはそれだけ周りから暴走しないように縛られることになるから良いとは言えないのかもしれないな……。


「それに比べたら500万なんてちっぽけだけどね」


「ありがとう~。あの件でキリからすっごい怒られたから……ぐすん……」


 話によると罰金の請求がベルベットのお金の管理担当のキリールさんに来たらしく「あなたアホなんですか?」とお冠だったとのこと。それでしばらく館には出禁になってたらしい。メイドに締め出される主ってどういうこと……?


「それよりさ、気になってたんだけど……あの机に置いてある『マジックトリガー』って何?」


「え? あ、……きっと研究で使った何かね。ごめんねー散らかってて」


 そう言って僕から隠すようにその「マジックトリガー」を机の引き出しの中に入れた。その反応からして僕には言えないことだったのか。まぁいいや。


「ベルベットには報酬とかってないの? ほら、エリア7のリーダーを倒したわけだし」


「あー。600万貰ったなー。あれはエリアリーダーでも雑魚の部類だから話にならないけど」


「えぇ……」


 どれだけ大きいお金を日々動かしていれば600万なんかを受け取って平気でいられるんだろうか。

 ベルベットは貰ったお金をいつも研究費や新しい杖や武器の作成に()てるらしいんだけど彼女レベルになるといったいどれほどの魔法武器を求めるのかもちょっと気になるな。


「ベルベットの杖ってどれくらいのお金がかかってるの?」


「私の杖? うーんと、」


 ベルベットは少し思案するとポンッ!と虚空から杖を出現させる。


「これは2800万」


「ぶっ!! に、にせ……!?」


 そこからどんどん杖を出現させて値段を発表していく。


「5600万、8430万、1億4500万、5億9800万」


「もういい! もういいから!!」


 なんか嘘みたいにバカでかい金額を聞きすぎて~千万の値段でも小さく思えてきた。しかも最後にとんでもない化け物みたいなの出てこなかった……?


「欲しかったらあげよっか? これ」


「ひいいぃぃぃぃ5億のやつだこれぇ!!!!」


 僕にポイっと放り投げて渡されたのはさっき出てきた中にあった5億9800万Gの杖。絶対に落としてはならないと緊張しながらその杖を手に取る。

 燃え盛る紅蓮の炎を連想させる赤色の杖。杖を持っている手に熱が感じられる。まるで生きているのかと疑うほどに。杖のはずなのにドクンドクン……と脈動(みゃくどう)している気がするぞ。

 普通の杖じゃないことは魔女について素人の僕でもわかる。まず間違いなく「特殊魔法武器」だろう。

 ジ……っと杖を食いつくように見ているとベルベットがその杖を取り上げた。


「うっそ~。アストでもあーげない♪」


 ペロッと舌を出して「杖をあげる」宣言は嘘だったことを告白する。ちょっとだけイラっとしたが……くっ、可愛い。


「僕が杖貰っても売るしか使い道ないからね……」


「そんなことより! もちろん今日はここに泊ま─」


「じゃあそういうことで、またねベルベット」


「なんでよー!! あ、待って帰らないでー!」


 さ、用は済んだしライハのところに帰るか。ご飯買ってきてあげないと。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ