2話 漆黒の竜王
僕達はAルームという部屋に入った。集まった試験生は80人くらい。試験生全体の一部とはいえ結構多くいるため部屋はいっぱいだ。
こんな少し動けば誰かの攻撃が当たってしまいそうな場所で魔物とやらと戦える気がしないぞ。本当に討伐試験なのかな……?
「今から試験内容を説明する!!」
受験生がざわついている中、突如として大きな声がする。その方向に全員が向いた。
「おい……あれってガレオス様だよな!?」
「『マナダルシアの大英雄』……!」
「あの人が教師やってるのか!? マジかよ……」
そこには存在感を感じさせる大きな体に将校のような服を羽織っている男が立っていた。片眼には眼帯をしておりそれがより凄みを醸し出している。
男の名は「ガレオス」。「マナダルシアの大英雄」と呼ばれている魔法使い。「第三次種族戦争」の時から魔人の最前線で戦っている戦士にして未だ現役の魔法騎士だ。
彼の武勇伝は誰もが知っている。
「人間100人を相手に単騎で戦い続けた」や、「戦争中、何度攻撃を受けようとも一度も倒れなかった男」、「敗北したことのない男」等々。
まさに大英雄に相応しい実力を持っている魔法騎士なのだ。
英雄と言えば僕の師匠であるベルベットもそう呼ばれている。あまり詳しくは知らないけど。本人もそれについて喋らないし。
「今からお前達を別空間へと移動させる。そこは学院側が試験用に用意した魔物がそこら中を闊歩している空間だ。制限時間は1時間。お前達にはそこにいる魔物共を討伐してもらう!」
その言葉でザワザワ……と慌ただしくなる。動揺ではない。やはり……という空気だ。
僕もさっきカナリアさんから聞いてたから同じ。どうやらいつもと試験内容は変わっていないらしい。
「そこにいる魔物は強さによってポイントが決められている。強い魔物なら高ポイントだ。力に自信が無い者は弱い魔物を数多く倒してポイントを稼げ。逆に自信のある者は強い魔物を倒し、その力を示せ。……もちろんポイント上位の者から合格を考える。以上だ」
少ない説明。でも十分だった。
強い魔物なら数体倒せば一気に合格を望めるほどのポイントを手に入れられるのだろうけど、弱い魔物でも大量に倒せば合格の希望を掴むことができるということだな。
ここで見られているのは力の強さではない。弱いやつでも入学してから強くなればいいからそんなものは関係ないのだ。
あくまで戦えるのかどうか。魔法騎士になるのに最低限の力を持っているかどうかを見られている。
「では、準備はいいか? 始めるぞ! 『ラーゲ』!!」
ガレオスは魔法を発動する。ベルベットも使っていた移動魔法『ラーゲ』。
しかし、この部屋にいる80人ほどの受験生全てを対象にしたとんでもない規模だ。
「………ここは…!」
眩い光に思わず目を閉じる。
……目を開けるとそこは広大な大地だった。多分、魔法で造られた空間だから外に出たというわけではない。
だが上を見ると綺麗な大空、どこまで広がっているのかと聞きたくなるほどのフィールド。ゴツゴツとした岩や風景に至るまで本当にどこか別の世界に連れてこられたかのようだ。
我に返った者から一斉に走り出していく。魔物を探し始めたのだ。自分もハッとして剣を抜いて走り出す。
「とにかく弱い魔物を探していかなきゃ……」
自分は受験者の中で最底辺に位置するほどの魔法使いだろう。それはわかりきっている。だからこそ戦い方はもう決まっている。弱い魔物を狩りまくってポイントを稼ぎまくるんだ。
「い、いた……! あれが……魔物!?」
岩陰からヌルッ……と闇が零れるように現れた黒い狼。グルルル……と鋭い牙からヨダレを垂らしている。目はこちらを捉えており「標的」にされていることが一目瞭然だ。
その魔物をよく見てみると体からブウゥゥン……と文字が浮かび上がる。
それを読むと「ブラックウルフ 1ポイント」と書かれている。学院が試験生のために魔法で魔物の情報を表示してくれているのだ。
戦闘となった瞬間に肌がひりつく。まるで空気が矢となって肌に刺さっているような。
きっと普通の魔法使いからすれば雑魚なんだろうな。1ポイントがその証拠だ。瞬きする頃には倒しているほどの相手。
しかし僕にとってはそうじゃない。命のやり取りをする相手だ。
アーロインの入学試験では命の保証はされていない。そこで命を落とすのはその者の実力不足とされる。
とは言っても命を落とす者なんていない。誰もが魔力を纏って致命傷となるダメージなんか受けないし相手との実力差を分析して自分が倒せないと判断すれば退くからだ。
でも、僕は……!!
「行くぞ……!」
僕は走り出す。攻防どちらにも動けるように剣を構える。
「グルオオオォォ!!!!」
ブラックウルフはタタッタタッ!!と素早いスピードでこちらとの距離を詰めてくる。獰猛な獣が近づいてくるのは本当に恐怖を湧き立たせるものだ。
だが、恐れてはいけない。「恐れ」はそのまま死に直結するとベルベットが教えてくれた。
(カウンターだ!!)
ブラックウルフが口を開け、鋭い牙で噛みつこうと飛びつく瞬間、その口めがけて剣を突き出した!
「『ファルス』!!」
身体能力を上げる魔法─『ファルス』を唱え、ただの刺突を必殺の突きへと昇華させる。
剣はブラックウルフの牙に少し当たりながらギャリリッ!!と耳障りな音を響かせ、
グシュッッッッッッッッ!!!!!!!
確かな手ごたえ。ブラックウルフの体は一度跳ねて……そこから動かなくなる。するとシュウウゥゥ……と体が蒸発するように霧散していった。
(倒せた。こんな僕でも……倒せたぞ!)
自分に自信が無かったせいか魔物を倒せたということで力が抜けて地面に座り込んでしまう。
息も荒くなる。たった一匹。しかも1ポイントの雑魚というのにこれだ。この様子を見ていた周りの受験生もププッと笑っていた。
(確かにダサいよな。でも……敵を倒すってこういうことなのか)
命を摘み取るということ。とても恐ろしいことだ。
でも、それをちゃんとわかっていないといけない。それでも仲間を守るために敵へ剣を向けるということを。
それが魔法騎士。人間と戦う……魔法使いの刃。
「よし! まだまだ!!」
僕は立ち上がり、地を駆けた。
♦
試験説明を終えたガレオスは別室で試験の様子を見ようとしていた。
この試験は保護者や受験生の師匠、他の魔法使いも見学できるモニタールームがある。ガレオスはそこに向かっていたのだ。
部屋を開けると多くの魔法使いがいた。受験者の中の誰かの保護者だったり師匠だったりだけではなく、来年受けにくる子の保護者というのもいるだろう。
ただその中にいる1人の女性にガレオスは驚くように目を見開いた。
「ベルベット。なぜお前がここに来ている」
ガレオスはその女性─ヨレヨレのトンガリ帽子を深く被っていて顔を見られまいと隠していた者に声をかけた。
「ん? あ、ガレオス? 久しぶり~! 元気してた?」
その者─ベルベット・ローゼンファリスはガレオスを見るとパッと笑顔になる。声がデカすぎて周りの魔法使いの注目を浴びてしまったがそれでも話を続けた。
「そんなことはどうでもいい。なぜお前が……」
「うわっ。固いのも変わってないわね。相変わらずノリ悪~」
ベルベットは面白くないなという顔をする。
ベルベットとガレオスは学生時代からの仲間だったこともあり、お互いのことをよく知る仲だ。当然ガレオスが他人にノリを合わせる器用ではしゃぐような者ではないことも知っている。
「ふざけるな。お前がここに来る理由などないだろう。何をしに来た」
「それが、あるのよね~」
ベルベットは鼻歌交じりにガレオスに1枚の書類を渡した。それはアーロイン学院に提出する用のアストのプロフィールだった。
「お前……弟子を取ったのか?」
「そう♪ そこに書いてるけどアストって言うの。私が名付けたのよ。綺麗な名前でしょ?」
「名付けた……? 拾った子か?」
「正解。記憶失くしてたところを私が助けてあげたのよね~。で、今はアストの試験を見学してるところ」
ガレオスはアストのプロフィールをマジマジと見つめる。
(む……? 確かさっきの説明の時にいたような……。極端に魔力が感じられないと思っていたが。まさかベルベットの弟子だったとはな)
魔人は魔力を感じられるからこそ相手の魔力の量を計ることもできる。相当な実力者なら隠すこともできるので単純にそのまま実力とは言えないが。
ガレオスほどになるとあの部屋にいた全ての魔人の魔力の量を一目で判断することもできた。
さっきの部屋の中であまりにも平均から下回っている者が1人いるなと思って顔を覚えてしまっていたのだ。
「ねぇねぇ。どうせならあなたの口利きでアストを学院にねじ込んでくれない? 無理?」
「無理も何もそんなことをするつもりはない。……お前の弟子と言うなら試験くらい軽くパスできるはずじゃないのか?」
「う~ん。そう言いたいんだけどねぇ……。ちょっと理由があって魔法を上手く使えないのよ」
「理由?」
理由と言ったところでガレオスは少し反応したがベルベットはシカトして喋らない。その様子にガレオスは溜息をこぼす。
ガレオスはこの部屋にあるモニターを見た。その中の1つにアストの姿が表示されているモニターがあった。
アストはブラックウルフに剣を一突き。身体強化魔法の『ファルス』を使ってのお手本のような戦いではあったが……
(ブラックウルフごときにあれではな……。弱き者のためにポイント制にしているがこの調子では試験は通らなさそうだ……)
ガレオスはベルベットの方を見ると、彼女はワクワクとした少女のような顔でそのモニターを見ている。何か楽しいことでも待っているのかというほどに。
「アスト・ローゼン……か。残念だが無理そうだな。これといって見どころがない。魔法が満足に使えないのであれば剣術で……と言いたいがそれも普通だ」
「まぁ見てなさい。絶対面白いことになるから」
ベルベットは黙って見ていろと言う。結果は不合格でわかり切っているはずなのに。
何かに希望を持っていたその目に押し負けてガレオスはモニターに目を戻すことにした。
♦
「早く魔物を見つけないと……」
アストは走っていた。自分が倒せる手ごろな魔物を見つけるために。
だが中々見つからない。というのも1ポイント程度の魔物など試験を受けに来る者ならば息をするように倒せる。だからか一瞬のうちに倒されるせいでいなくなってきているのだ。
視界にデカいゴリラのような魔物が入る。表示された文字は「ガイアビートコング 50ポイント」。
ダメだダメだ。あんなのと戦ったら死ぬまでボコられる。
さっきからこれの連続だ。強い魔物を見つけては避けるの繰り返し。強い魔物しか残っていないんだ。これじゃポイントを稼ぐことができない。
「……へ? うわっ!!」
考え事をしながら走っているせいで道の先が坂になっていることに気づかなかった。ズザザザ!と滑り落ちる。
「痛っ……」
そこはデカいクレーターみたいになっていて、僕はそこに落ちてしまったみたいだ。そこまで深くはないので上がることは困難ではないのだが……
「あ……!」
なんとここにブラックウルフの群れがいた。数は30ほど。
なるほど。ここに隠れることで誰からも見つからなかったのか。僕にとっては嬉しいことだけど……
「やれるのか? 僕に……」
いくら1ポイントでも全て倒せば30ポイント。しかし1体相手でも駆け引きをしてやっと倒せた自分が30も……。
(やるしか……ないだろ!!)
僕はウルフの群れに向かって駆ける。剣の柄を握りしめ、歯を食いしばる。込み上げる恐怖を抑え込むように。
「ぐうぅ……あああああ!!」
剣を振る、振る、振る。
がむらしゃに振っているわけではない。戦闘の中で考えることをやめればそれは「死」。正確に相手を狙って斬撃を繰り出すのだ。
かといって、手数を少なくしては物量で押される。格好悪く見えてもとにかく動くんだ。
……。
…………。
血が舞う。これはどちらの血なのか。もうわからない。何体倒すことができたのかもわからない。
「はぁ……はぁ……はぁ…」
一旦距離を取って端にもたれ掛かる。そこで敵の数を確認する。
(まだ……20はいる。体感で半分は倒せたと思ったのに……)
体力と手に入ったポイントが見合わない。このままではこっちが潰れてしまう。もうすでに肩で息をしている状況だ。
(どうする……。もう逃げるしかないか……?)
こちらが弱っているのがわかったブラックウルフは静かに、少しづつ距離を詰めてくる。一斉に襲い掛かってくるつもりなのか。
「グルルルアアアア!!」
一匹のウルフの叫びを合図に、群れは動いた。その獰猛な牙をこちらに向けて襲い掛かってくる!
ま、マズイ……!!
「『ウォーターガイザー』!!」
自分の頭上から鈴のような声が聞こえた。
その次の瞬間、バキバキバキィ!と自分がもたれ掛かっていたところから地面に向かって亀裂が走っていく。
その亀裂はウルフの群れの先頭のところまで走っていき……
ピシッ!!
地面が裂け、そこから水流が溢れ出る!!
パアアアアアアアアアアァァァァァンン!!!!
勢いよく水柱が発生し先頭のブラックウルフの体がバラバラに散った。後続のウルフ達は足を止める。
こ、これは……?
「あんた、こんなところで何してんの? えっと……アストだっけ?」
再び頭上から声。見上げると……そこにはカナリアさんがいた!
「カナリア……さん」
カナリアさんはピョンと飛んで僕の横に着地。その時にフワリとスカートが浮いてこんな状況なのにドキッとしてしまう。
手には水色の細剣─レイピアを持っていた。それは綺麗な人魚の装飾が施されていて、武器としてではなく美術品として飾っていてもおかしくないほどに美しいレイピアだった。
「こんなところにまだ狩られてないウルフがいたことにも驚きだけど、ウルフにこんだけ手こずってるやつがいたことにもっと驚きよ……」
「正直助かったよ……。死ぬとこだった」
「は?」
カナリアさんは僕の言葉にギョッとする。そしてジーッと見つめてきた。
「あんた……まだ魔力纏ってないの? 嘘でしょ……死にたいの?」
「死にたくはないよ……」
やっぱりこんなところで魔力を纏わずに戦っているやつはヤバイやつなのか、カナリアさんは驚きを通り越して呆れている。
「ねぇ。このウルフの群れ貰っていい? あんた1人でやれないでしょ?」
「それは………」
僕は言葉に詰まる。ブラックウルフは僕の絶好の相手だ。それが絶滅レベルにまで狩られている中、これを見過ごしてもいいのかと思った。
けど、今さっきやられそうになっていたのに「それはダメだ」なんて言えない。
「悪いわね。向こうがもう待ってくれないみたいだわ」
ウルフの群れは再び動く。こちらの動きがなかったことで警戒心を緩めたのだ。カナリアさんはそれを見るとレイピアを構えた。そして「詠唱」を紡ぐ。
魔女が魔法に杖を使うのは基本的に魔法の補助や威力向上のため。杖にはそういった能力が付与されている。
魔法騎士にも杖術に覚えがある者は杖を使うこともあるが……そういった例を除けば魔法騎士ではカナリアのように魔力を込められた特別な武器─『魔法武器』を杖代わりにしている者がほとんどである。
「水の精霊よ力を与えたまえ 敵を討つ矢となりて 放たれよ水の連弾 『ウォーターハウル』!!」
「3節」の詠唱を紡いでいくと人間の頭と同じくらいの大きさの「水の弾」が空中に生み出されていく。
その数が2……6……9……15……と増えていき、20まで達した時、一斉に放たれた!!
ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!!
水の砲弾が全てのウルフに1発ずつ当たっていく。ウルフ達は体に穴を開け、空中に霧散していった。
「20ポイントゲット……っと。ウルフ程度でもこんだけやれば点数もマシになるわね」
す、すごい。これが「魔法」……!
剣でやっと倒していた僕なんかと違いすぎる。これが真の魔法騎士の姿と言うべきなのか。
「ところであんた今、何ポイント?」
カナリアさんは僕を方に向き直り、そんなことを聞いてくる。ええと……
「11……ポイントかな?」
「はぁ!? 11って……この中できっと最低点よ? あんたやる気あるの? 雑魚でもまだ30は取ると思うけど……」
き、傷つく! 雑魚でも30は取るって……。
「…………あんた、向いてないわよ。やめときなさい。見たところ魔力もろくに纏えないみたいだし……」
「そ、それはっ!…………できない。やめられない。僕だって、これでも頑張ってきたんだ」
「そこまでして魔法騎士になりたい理由でもあるの?」
「……」
僕には、記憶が無い。ベルベットに拾ってもらってから色んなことを教えてもらったけど……それでも知りたかったことは自分の過去のことなんだ。
ある時ベルベットは言った。過去のことを知りたければ戦うしかないと。答えはその先にある、と。
僕はそれから魔法騎士になるために頑張ってきた。結果はついてこなかったけど……それでもサボらずにここまでやってきたんだ。面倒を見てくれたベルベットのためにも、ここで退くわけにはいかない。
「……ま、いいわ。人それぞれ事情はあるものね。けど、死んでも知らないわよ。裸で戦場に来てるってことを忘れないことね」
「ああ……わかってる!」
僕とカナリアさんは進む。また魔物を探すために。
♦
モニタールーム。そこでベルベットはプクーッと頬を膨らませていた。
「なんだあの小娘……! アストの相手を横取りしたなー!」
ベルベットはカナリアがウルフを全滅させたことに怒っていた。このままではアストがポイントを手に入れることが難しい。
せっかくのチャンスを失わせたカナリアに向けて陰湿な目線を向ける。
「勘弁してやれ。助けがなければあの少年は死んでいた」
「何を~! アストがあの程度で死ぬわけないもん!」
ベルベットは抗議してくるがガレオスの目では間違いなく死んでいたと判断できる。
反応は悪くないがいかんせん攻撃力が無さ過ぎるせいで対応できていないのだ。魔力が少ないせいで唯一使える『ファルス』すらも満足に使えていないようにも見える。
「にしても……この試験ちょっと簡単すぎない? さすがに見てるこっちがつまらなくなってくるわ。出てくる魔物も弱いやつばっかだし」
ベルベットはガレオスに問う。この試験、まだ何かあるんじゃないかと。
ガレオスはその視線から逃げるように目を閉じた。
「時期にわかる。この試験は残り15分になってからが本番だ」
「ん? 残り15分?」
ベルベットは部屋の中にある時計を見る。
「もうその残り15分じゃない。一体何が……」
その時だった。モニターからその咆哮が聞こえてきたのは。
『グギャガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!!』
「! これは……!」
ベルベットはその鳴き声に目を見開く。それは……
♦
「なんださっきの鳴き声……」
地面が震えていると錯覚するほどの力ある声。それを聴くだけで生物として敵わないと思ってしまうほどに……恐ろしい。これは……?
「……!」
よく見るとカナリアさんですら恐れている。僕が、ならわかるが実力があるカナリアさんでさえ?
「……行くわよ。何が現れたのか確認しなきゃ」
「……うん」
一緒に行動するつもりはなかったけど何か異変が起きたのなら別行動しない方が良い。何が起こったのか。僕も気になってしまった。
♦
「あれは……!」
少し歩いて、目に映ったものは……竜だった。バカでかい、黒い竜。
翼を広げ、鎧のような鱗は見るからに堅そうだ。
爪は全てを斬り裂きそうでどんな剣ですらちっぽけに思える。
そしてブラックウルフなんて可愛く思えてくるほどの牙、口からボッ!ボボッ!と火を吹きだしている。
「そんな……!? 『バハムート』が出るなんて聞いてないわよ!?」
「『バハムート』……?」
アストはその竜に魔法で表示された文字を見る。
「バハムート 500ポイント」
ご、500……!?