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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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28話 魔法使いのお昼休み


「アスト、遅い」


「本当にごめんね。ちょっと拉致されてて……」


 食堂の一角にポッカリ穴が開いてるかのように人がいない場所があり……そこを見るとライハが座っていた。

 ライハは不思議な空気を纏っているので人を寄せ付けない。彼女には悪いかもしれないがそれが役に立ってすぐに見つけられた。


「待たせてるって……ライハ・フォルナッドかよ。アスト、お前とんでもねえやつと知り合ってんだな」


「あなたは……たしかガイト・オルフェウス。クラス成績が最下位の人」


「そこまで言わなくていいっつの」


 ライハ自身に悪気はなく、ただ知ってる情報を言っただけだからガイトも怒りは沸いてこなかった。

 こうして見ると極端なんだよな。3組の最下位に1組の最上位と最下位。これでカナリアがいたら3組の最上位も揃っていたところだ。

 カナリアは3組でぶっちぎりで成績良いし、なんなら1組の生徒と比べたとしても勝るとも劣らない。


「ガイトも一緒でいい?」


「うん。アストがいいなら」


「急に俺が来て悪いな。邪魔してなけりゃいいんだが」


「僕とライハはただの友達だから大丈夫だよ。そういう関係じゃないって」


 どうせ食べるなら2人よりも3人の方が良いしね。

 それにライハにとってもクラスメイトがいた方が楽なんじゃないかな。……ライハは他人と接することが少なそうで、ガイトはクラスに顔を出していること自体少なそうだけど。


 僕は大盛のカレー。ガイトはパスタ。ライハはサラダを頼んで食べていた。食堂のメニューは色んな国の食文化が取り入れられているので目移りしすぎて選ぶのも大変。いくつも頼んでみたいくらいだ。

 しかし、ライハはやっぱり小食で心配になる。見てみればガイトの頼んだパスタも少なめだし普段からあまり食べないのかも。


「お前よく食うな」


「お腹空いてるんだよ。ライハはもう知ってるからいいけど、そう言うガイトはもっと食べないの?」


「授業に出てねえから腹減らねえんだよ」


「もう……授業は出なよ」


「気が向いたらな」


 それ絶対出ないやつだ。僕知ってるよ。ベルベットがメイドのキリールさんにいつも「部屋が汚すぎです。少しは片づけてください」って言われてるけど「気が向いたら」って言ってずっと(かわ)し続けてるもん。ベルベットは未だに散らかしっぱなしだ。


「そうだ。ガイトはどんな属性魔法を使うの?」


「それはわたしも聞きたかった」


 知り合ったついでに使う属性魔法も聞いておきたかった。とは言ってもいきなり属性魔法のことを聞いても答えてくれない人もいる。

 なにせ自分の手の内を(さら)す行為。いくら同じ学院の仲間とはいえ競うことも多いのだからクエストや何かの作戦で組まない限りは言わないって考えなわけだ。


「俺の属性魔法は『音魔法』だ」


「音魔法?」


「けっこうレアな魔法。使える人は少ないって聞く」


 僕が首を傾げているとライハが情報を補足してくれた。

 ライハの話によると『音魔法』は音楽のセンスによるところも大きく元々使える使えないが決まっている属性魔法の世界ではそれがより顕著とのこと。


 例えるならカナリアの『水魔法』は僕やライハやガイトには使えないけどもっと視点を大きくして見れば使える人は少なくない。むしろポピュラーな属性魔法だ。

 もっと言うと炎、水、雷、土、風の5つの属性魔法は「基礎属性(きそぞくせい)」と言われて特に使える人が多いらしい。

 奇襲(きしゅう)性は極めて小さいが、その分研究も進んでいて魔法の術式が豊富という点が良いところ。大きな功績を残している魔法使いは基礎属性の使い手であることも多い。


「へー。すごいねガイト」


「魔法はすごいのかもしれねえけど俺はすごくねえだろ」


 意外とそういうところはしっかりしてるんだな。僕ならそんな魔法使えるようになったら周りに自慢しまくるけどなー。「魔王の力」みたいにわけのわからないものじゃないし。


 ちなみに僕が【バルムンク】を介して使える『闇魔法』はレア魔法ではないがある意味有名でもある。

 これと同じく『光魔法』という属性魔法があるのだが、光魔法と闇魔法の2つは属性魔法の中でも強力とされる魔法なんだとか。属性魔法で重要となる「相性」もこの2つは他の魔法に左右されないという便利な点がある。


 魔法はとにかく研究が進めば進むほど強力な魔法が発見されたり創られたりするので有名な属性魔法ほどその術式が公開されて手に入る。逆に、レアな属性魔法はそういった周りからの助力が得にくく、自分で見つけるしかない場合が多い。

 けれどもその分、誰も知らないような攻撃や効果があったりするのでどちらが良いか悪いかは言えない。どっちも良いというのが正直なところだろう。


「ガイトの実力をわたしは知らない。もし良ければ今度学内戦を申し込みたい」


「やめとけやめとけ。大したことねえよ」


 ライハがガイトの実力を把握しきれていないことからカナリアですら適わなかったお眼鏡にガイトは適ったが即座にそれを断った。勿体ない。

 ガイトは授業をサボってるから1組で最下位なだけで普通に強かったりするのかな? なんたって1組に選ばれてるんだし。


「そういえばライハってなんでそんなに学内戦を申し込むの? 勝ち続けたら何か特典でもあるの?」


「そりゃあれだろ。内申点稼ぎじゃねえのか? 学内戦も成績に加点される。そんで成績が良けりゃ『生徒会』に入れるからな」


「生徒会?」


「何も知らねえのかよ……」


 生徒会とはこの学院の中でトップの実力を持つ魔法使いの生徒が集う会。この学院で教師と同等の権限を持ってるらしい。

 それ以外にも生徒会に入れば様々な特権が認められていて生徒会役員は全生徒の憧れの存在だとか。さらにその頂点の「生徒会長」ともなれば人気もすごい。卒業後の進路も充実どころの話ではない。


「ライハは生徒会に入りたいの?」


 僕はライハに聞いてみるがライハは首を横に振った。それを否定したということだ。


「生徒会は別にいい。ただ勝ちたい。勝たなきゃいけない。それだけ」


「なるほど。意識がすごい高いね。僕なんて授業についていくだけで精一杯なのに」


 女の子なのに魔法騎士になるってことはそれだけ覚悟を持ってるってことでもある。カナリアもそうだったし。


「そういえば……ライハ。カナリアと学内戦をやってあげてくれない? ずっとライハとやりたがってるんだよ」


 カナリアとは喧嘩別れみたいになってしまっているが一応ライハと学内戦の話になったのでカナリアの名前を出しておく。

 これでライハが受けてくれれば仲直りの種にすることもできるんだけど……。



「時間の無駄」



 バッサリ切り捨てられたよ……。


「そう言わずにさ。カナリアの強さは僕が一番知ってるけどとにかく魔法がすごいんだ。えーっと……こう……すごくて、うーんと、すごいんだよ」


「すごいしか言ってねえじゃねえか……」


 ガイトに横からツッコまれた通り「すごい」しか言ってなかった。

 僕が一番知ってるはずなのに、僕は他人に伝えられるほど魔法に詳しくなかった。自分の無知を今ほど呪ったことはない。

 当然のことだけどこれではライハからの評価は動かずだ。


「つっても……学内戦をやれって言うにしてもよ。負けた方は逆に成績に減点があるから無理にやらせるのもあんま良くねえだろ。ひどい負け方したらそれなりにキツイ減点食らうしな」


 ガイトは肘をつきながらそんなことを呟いた。

 おっと。それは知らなかった。学内戦ってリスクもあるんだな。そこらへんにも詳しくなかったからライハに受けろ受けろと強制するのは良くないか。


「成績はいい。負けないから。ただカナリア・ロベリールは実戦向きじゃない。戦っても期待はできない。魔法騎士よりも魔女に向いている」


 あー。カナリアが聞いてたらこれ絶対にブチギレてただろうな……。特に魔法騎士云々(うんぬん)の話はとんでもない地雷だから彼女の前では言わない方が良い。


「ライハ、実はカナリアは魔法騎士だったお母さんみたいになりたくて魔法騎士コースに入ってるんだ。だからその話はカナリアの前ではしないでね。たとえそうだとしてもたくさん頑張ってるんだから」


 誰にも言っちゃいけないことだと思うけど僕は我慢できずカナリアのお母さんの話を出した。魔法騎士への想いはカナリアにとって大事なことでもあるのでどうしても言っておきたかったのだ。

 するとそれを聞いていたガイトはおもむろに立ち上がって……


「飯、食い終わったから俺はもう戻るわ」


「え? あ、うん。……あ! 午後の授業ちゃんと―」


「おー、考えとく」


「もう……」


 きっと戻るっていうのは教室じゃなくて音楽室だろうな。授業に出るかどうかは言ってしまえば本人の自由なのであまり強く言えないのが悲しいところだ。


「それでね、ライハ………ライハ?」


 僕は話を戻そうとするが……ライハの反応がない。(うつむ)いたまま固まっていた。

 具合が悪いのかと思って僕はライハの肩を揺らしながら呼びかける。


「……アスト? なに?」


「いや、どうしたのかなと思って。どこか体の調子が悪い? 保健室行く?」


 この学院にある保健室には治療の魔法が使える専門の魔法使いがいる。

 「治療の魔法が使える」というのは属性魔法ではないがこれも使える者と使えない者がいたりするので貴重だ。

 どの属性魔法にも大抵は治療用の魔法術式があるのだがこれにもセンスがいるらしく使える者は多くない。そんなこともあって治療の魔法が使える魔法使いは貴重とされているのだ。


 思い出せば入学試験の時にカナリアが僕に治療の魔法を使ってくれていたと思うからカナリアは水魔法の治療に関する魔法も使えるんだと思う。そう考えると本当にカナリアってなんでもできるんだな。


「少しだけ調子が悪い。保健室に行く」


「ついていこうか?」


「大丈夫。1人で行ける」


 ライハは席を立った。自分の分の食器を片づけて食堂からガイト同様1人で出ていく。

 僕はライハの体の心配よりも、風のように去っていった彼らのことが気になった。どちらも突然居心地が悪くなったかのように出ていった。これに何かの共通点があるような気がしてならなかった。


 その時なぜか僕が思い出したのは音楽室でガイトが言われていた「ロストチルドレン」という言葉だった。


 僕はこの言葉の意味がわからないから知らぬ間に地雷を踏んでしまっていたのかもしれない。

 この時も僕は自分の無知を呪った。しかし、それと同時に知らない方が良いような気もしていた……。




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