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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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25話 パートナー崩壊!?


 ライハの部屋は殺風景という感想が漏れるほどに変わった物は何もなかった。最低限に生活するための用具だけ。それ以外とすれば替えの魔法武器くらい。


「へ、へ~……とても住みやすい部屋だね」


 僕は感想に困って当たり(さわ)りのないことを言っておく。とても住みやすい部屋って……初期の状態からあんまり変わってないんだからそりゃそうだろ。


「変?」


 それでも僕が苦笑いだったのを見てかライハはそんなことを聞いてくる。


「変というか……何か欲しい物とかないの? 女の子だからって言うのはおかしいかもしれないけど、可愛い物とか」


「今のところ興味はない」


「趣味とかないの? 本を読んだりとか」


「趣味………学内戦?」


「学内戦は趣味に入りません……」


 それが趣味に入ったらただの戦闘狂だ。


「本も教科書くらいしか読まない」


「うーん。それはちょっとな……そうだ、良かったらこれ読む?」


 僕はそう言ってカバンから1冊の本を取り出した。部屋から持ってきておいて正解だった。


「『師匠訪ねて3千里』……?」


 タイトルはライハが言った通り。ベルベットがこれを読めと押し付けてきた本だ。タイトルから下心が見え見えだが貰っておいて損はないので貰った。ちなみにベルベットは読んだことないらしい。おい。


「うん。主人公は両親が魔法使いとしての師匠になっている子供でね。ある日眠りから覚めると突然自分の家から両親がいなくなっていたんだ。そこで主人公は消えた両親を探しに旅に出るって物語」


「………」


 ライハはジーっとその本を見つめている。もしかして気に入らなかったのかな?


「あまり興味出なかった?」


「……読んでみたい。でも、多分わたしは読むのが遅い」


「それでもいいよ。返すのはいつでもいいし、なんならあげるよ」


 ベルベットごめんね。僕は1回読んだし別にいいよね? ライハにあげちゃっても。


「そう。なら読む」


「どうぞ」


 ライハは自分の机の上にその本を置いていつでも読めるようにしておいた。

 早速読み始めるのかなと思ったらライハはこっちに向き直る。


「アスト。話、いい?」


「話? ああ、話をしたいって言ってたね。何?」


 そういえばライハは僕と話をしたいからここに招き入れたんだった。答えられないこと以外ならなんでも答えよう。


「アストは弱い。なのになんで入学試験1位通過やBクエストを突破できたの?」


 はい。いきなり答えられないのが来た。カナリアも聞いてきたことだしもうそれ関係の話は僕にとって聞き飽きたくらいなんだけどなぁ。

 これは言えないことだ。……けど、話がしたいからと泊まる場所を与えてくれてその話には答えられませんっていうのは………。

 カナリアにはもうすでに2回も見られてるしな。それにライハは誰かに言いふらすような子じゃないと思う。


「ライハ。今から言うことは誰にも言わないって約束してほしい。僕達だけの秘密だ」


「わかった。話さない」


「よし……」


 それから僕は話した。自分の中にある力。そしてどうやって試験やクエストを突破してきたかを。

 自分でも知らないことは多いけど話せるだけ話した。カナリアにも言ってないことなのにまだ会ったばかりのライハに打ち明けているのは変なことかもしれないが。


「魔王?」


「僕もよくわからないんだけどね。試験のバハムートもクエストのグランダラスもその力でなんとか倒せた。その力を使うと僕も魔法を使えるようになるんだ。と言ってもその魔法武器が僕の代わりに魔法を使ってくれてるんだけどさ」


「今、出せる? それ」


「出せないわけじゃないけど…………それにはかなりキツイことをやらなきゃいけないからよほどの状況じゃないと出したくないっていうのが本音」


 魔王の力の発動条件まではライハに話していない。命に関わるほどのダメージを負うと僕の意思から離れて発動しちゃうわけで。クエストの時には剣を心臓にぶっ刺して使ったなんて言えばドン引きされかねない。


「そう……。じゃあアストと戦うのはいい。戦いたいけど」


「ライハはなんでそんなに戦いたいの? いや……自分の実力を試したいっていうのはわかるよ? でも……」


 ライハが今力を出せるかって聞いてきたのは本気の僕と戦えるかどうかを知りたかったからだ。こんな意味不明な力の話を聞いて最初に気にするところがそれだからよほど戦うことが頭の中を占めているように感じる。


「実力を試すとかはどうでもいい。わたしはずっと戦わなきゃいけないから」


「それってどういう─」


 ライハのその発言が気になる。なぜ彼女は学院生活が始まったばかりだというのに狂ったように戦い続けるのか。ライハが僕の実力を聞きたがっていたようにその理由を僕はライハに聞きたかった。しかし、




 グ~………




 なんとも間抜けな音が室内に響く。これはお腹の音だ。体が主人へ空腹を知らせる非常ベル。その発信源は僕ではないから……


「……」


「お腹空いてるの?」


「お腹空いた」


 可愛いな……。

 ライハの身長は僕よりほんの少しだけ低いカナリアよりも低く、僕の胸あたりに頭がくる。なので小動物のような可愛さがにじみ出ていた。

 「カナリアよりも低い」っていうのはちょっと言い方が良くないかな。魔女コースの子や魔工コースの子をよく見かけるわけじゃないから確かとは言えないけどカナリアは女子の中では身長が高い方だと思う。スタイルもいいし。あ、スタイルの話は関係ない関係ない。


「僕、料理できないから……何か買ってこようか?」


「わたし、これでいいから」


 ライハが取り出したのは野菜スティック。魔法使いも人間みたいに……ってもうこの前置きはいいか。人間と同じ生き方をしてるんだし。


 話を戻すと魔法使いだって野菜を育てる。魔法による効率化が進んで今ではそれなりの魔法使いなら野菜を育てることは片手間で行え、しかもすぐ収穫できるので人気だ。

 そんなこともあってか野菜を好む魔法使いは案外いたりする。ベルベットは大の野菜嫌いだけど。特にニンジンが苦手。


 野菜スティックを出したのもライハ自身が好きだからってことだろうけど……


「それだけでいいの?」


「お腹は空く。けど我慢できる」


「お腹が悲鳴を上げてるのにそれじゃ体が可哀想だよ。何か買ってくるね」


 いくら女の子とはいえ食べなさすぎだ。いっぱい戦うなら体を大事にしないと。

 僕は部屋を出る。お金を持って学院にある購買へと向かおうとした。


「あ」


「……ん? あっ!」


 部屋を出たところでバッタリ出くわした。……カナリアに!


 マズイマズイマズイ。ライハの部屋でお世話になろうとしてたことがバレたら「敵の根城でなにくつろいでんのよ!」とか言ってきそうだぞ。


「どこ行ってたのよ……探したんだから!」


「え? 探した?」


 カナリアの口からは意外すぎる言葉が。これには僕も困惑する。追い出した本人が探すとはこれ如何に。



「その……ちゃ、チャンスをあげるわ! あたしがライハと学内戦を組めるように協力してくれたら許すから、だから……帰ってきていいわよ」



 あれ? 野宿って言ったのカナリアなんだけど? あれ? あれー? なんでいつの間にか僕が悪いことしたみたいなことになってるの?

 でもカナリアの顔を見るとすごくモジモジとしている。とても恥ずかしそうだ。これはもしや……


「寂しかったの?」


「な……!?」


 え、図星!? さっきまでギャーギャー言ってたのが急に寂しがるってもう女の子の思考回路はわからなさすぎる……。


「話し相手がいないとつまらないだけよ!」


「それ寂しいって言ってるのと同じだしそもそも喋らせてくれないじゃん! 今までまともに話し相手になれた記憶ないんだけど……」


 言ってることが180度変わってるどころじゃないよ。もう何が真実なのか嘘なのか見分けがつかない。ベルベット含め女の子という生き物はどんな凶悪な魔物よりも攻略が難しい……。


「なんでもいいから早く帰ってきなさい!」


「はいはい。わかりました」


 もう頭を冷やせたのかカナリアの機嫌の悪さが収まっている。

 これでようやく帰れるか。よかったよ。ライハのところでお世話になるようなことがなくて。幸いカナリアにもまだバレてないみたいだし。




「アスト。何かあったの?」




 ガチャッと僕の後ろのドアが開いた。それと同時に……声も。僕の後ろと言うより、僕がさっき出てきた部屋のドア。つまり…………ライハが出てきた。なんで今ぁ……!



「ライハ・フォルナッド……! アスト……あんた、これどういうことよ」



 ああ……僕に向けて殺気のこもった声が刺さる。なぜ、なぜこんなことになってしまったんだ。丸く収まりかけてたのに……。いや、まだ!


「え~っと……これは、その、誤解なんだ」


「何が?」


「そ、それは……」


「アスト。ご飯買ってきてくれるって言った」


 ちょっとライハさん!? 今その情報は言う必要ないですよね?


「へぇ……あんたライハの部屋に行ってたのね?」


「違っ……! これは……」


「アストはわたしの部屋で泊まることになった。それに2人だけで秘密を共有した仲」


 ライハは僕の服の袖をギュッと握ってきてカナリアにそんなことを言ってしまう。あと最後のいる!?



「あんた…………敵の根城でなにくつろいでんのよ!」



 一言一句予想通りのセリフが出てきてしまった。もうダメだ。ずっと言い訳を考えていたけどここまで怒りゲージが上がったカナリアには何を言っても通じなさそう。


「そんなにライハの方がいいならずっとそっちに住めばいいわ! もう帰ってこなくてよし!」


「そんなぁ……! 僕達、友達だよね?」


「知らないわよ! ライハと友達にでもなれば?」


 カナリアはプンプン怒ったまま帰っていった。僕は追いかけようとするが……


 グ~。


「アスト。お腹空いた。ご飯買ってこないの?」


 ライハのお腹が鳴り僕の足を引き留める。


 あ~、もう! これからどうなるんだ僕は!!




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