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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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24話 あの子(の部屋)に泊まろう!


 その後は他の戦闘が繰り広げられていく。当たり前と言ってしまえば悪いが3組はボコボコだ。1組の子と組んでいる3組の子はほとんど勝利できていない。


 ただ唯一カナリアだけは1組を相手にしても勝利を収めていた。それどころか相手を秒殺した。これを見てしまうとなんでカナリアが3組にいるのか不思議でたまらないな。


「さすがカナリアだね。1組とか関係なしに倒しちゃうなんて」


「1組って言ってもそれなりのやつじゃないと話にならないわ。たとえばライハとかフォルナッドとかライハ・フォルナッドとかね」


「それ全部ライハだよね」


 カナリアのこの態度を見ていた1組の生徒はさっきの僕みたいな悔しそうな顔をする。そこまで言うなら相手してやりたいがカナリアには敵わないとわかっているといった感じで。


 それ以降は何事もなく魔法戦闘の授業は終了する。今回は僕もカナリアも学ぶことがなかったな。

 1日の全授業が終了したので寮に帰ると僕は浮かんだ疑問をカナリアに聞いた。


「そんなにライハとやりたかったら学内戦ってのを申し込めばいいのに」


 学内戦。通常の授業でやりあう以上にそこでは本気の戦いとなる。


 戦闘ルールは様々で魔女コース、魔法騎士コース関係なく試合を行える唯一の場でもある。

 使用魔法も授業では「3節まで」と決められていたがこれも緩くなってより高度な戦闘が求められるのだ。詳しく言うとこれが「7節まで」というルールになる。

 なぜ7節までなのかというと8節以上になると危険度が一気に跳ね上がり相手が死亡する可能性が高いとのこと。……8節もの魔法を使える学生はいないと思うのだが。5、6節でさえ使える学生は優秀な方なのだから。


「簡単に言うけど学内戦はお互いの同意があって成り立つのよ? ライハにはもう何回も断られてるの」


「そうだったんだ……。前から申し込みはしてたんだね」


「仕方ないから今日の授業で実力を見せてあげようかと思ったけどそこでも(かわ)されるし。どうしようもないわ」


 ライハは自分より弱いと思う相手とは戦わないと言っていた。

 流れてきた噂だがライハの相手は最初こそ1年だったが途中から2年の先輩ともやっていたとの情報もある。それで勝てるんだもんなぁ……。


 でも、見てみたい。ライハも相当強いがカナリアだって強いんだ。もし戦えばどっちが勝つのか。それを知りたい。

 これは僕の勝手な見方だがカナリアは「豊富な知識と魔力」に「優秀な魔法技能」を備えた魔法使い。対するライハは実戦で鍛えられた高い「戦闘力」を持っている魔法使い。

 「知」と「武」。どっちが勝るのかはわからない。カナリアはイレギュラーに弱いところはあるがライハの動きを完全に把握できるようになれば倒し方をいくらでも見つけ出しそうだ。

 しかし、ライハのように実戦で鍛えられた者はとにかく機転が利く。魔法の知識や魔力で劣っていても己の経験からくる相手のまだ知らない「未知の戦い方」がその差を凌駕(りょうが)することも少なくない。


「さて、と。そろそろあんたも準備しなさいよ」


「準備? なんの?」


「は? 今日野宿でしょあんた」







 はい。ってことで……追い出されました。抗議したがライハに瞬殺されたのがどうも良くなかったらしい。

 とりあえずこういう時のカナリアは頭が冷えると許してくれるので時間が経つのを待つしかない。明日には機嫌も多少は直してくれるはずだ。問題は今日をどうするか。


 さすがに本当に野宿をするわけにもいかないのでベルベットの部屋に行こうと思う。ベルベットならいきなりでも部屋に入れてくれるはずだ。



「ベルベットいるー?」



 僕はノックをしてベルベットを呼ぶ。前に僕じゃなかったら居留守使ってたとか言ってたので声も出しておく。


「なにー? どしたの?」


 すぐにベルベットは出てきた。メガネをかけているからさっきまで魔法の研究でもしてたのかな。中を覗くと床にノートの切れ端が散乱してるし。


「ちょっと訳あってどこかに泊まらないといけなくなって……ベルベットの部屋に泊まらせてくれない?」


「!!!!!!!!!」


 僕が頼み込むとベルベットは目をこれでもかと見開いて驚きを表現する。



「お泊りきたーーーーーーー!!!!!」



 ベルベットはフンスッ!フンスッ!と鼻息を荒くして叫び喜ぶ。僕はなんだか身の危険を感じたので……


「………ごめん。やっぱりこの話はなかったことにして」


「なんでよ!!!! あ、待って帰らないでー!!」


 Uターンして帰ろうとするとベルベットは僕の体にしがみついて引き留めてきた。どんだけ必死なんだ。


「えぇ……でも教員の部屋ってベッド1つなんでしょ? 前もそうだったけど離れて寝てもどうせまた同じベッドに突っ込む気でしょ」


 クエストの時に宿屋であったことを僕は忘れていない。学院内で教師兼師匠と同じベッドで寝るなんてことできるわけがない。学院内じゃなくてもやらないけど。


「べ、ベッドなんていくらでも出すから! ほらほら! 見てほら!」


 そう言ってベルベットは自作魔法でもある物体を複製する魔法でベッドをポンポンと部屋に溢れかえるほどいっぱい出していた。そんなにベッドいらないよ。分身して寝るわけじゃあるまいし。


「じゃあ……そういうことで。さよなら」


「やだー! 待ってよー!!」


 ウワーンと子供みたいに泣き崩れていた。ごめんねベルベット。また会おう。





 で、頼れる相手がいなくなりました。これは本格的にカナリアに土下座して中に入れてもらうしかないかな……。



「ん?」


「あ……」



 僕が肩を落として歩いているとバッタリと出会ってしまった。……ライハ・フォルナッドと。


「そんなに大きな荷物、どうしたの?」


「え? あ~……その、ちょっと泊まる場所を探しに……」


 口が裂けても君に負けたせいでこんなことになっているとは言えない。ダサすぎる。それにライハは悪くないんだし。



「泊まる場所? わたしのところ1人空いてるけど……くる?」


「ライハのところ? い、いいの?」


「別に。困ることもない。わたしでよければ」



 嬉しい申し出ではあるけど何が悲しいってこういう時に男の魔法使いのところに泊まれないところだよな。僕の周り女の子ばっかりだし。今ほど男の友達が欲しいと思ったことはない。

 ここで断ったらライハのことが嫌みたいに聞こえちゃうし僕もカナリアに土下座しなきゃいけないしで困ることしかない。


 それに……僕としてはライハを近くで見たい。あ、変な意味じゃないよ。ライハの強さを間近で見たいということだ。

 どんな生活をしているのか。日々魔法騎士として考えていることはあるのかとか。 


「うん。じゃあ……お言葉に甘えて」


「よかった。わたしもアストと話をしてみたかった」


「?」


 どうやら向こうも僕に興味を持ってくれていたみたいだ。それならと僕はライハについていく。

 これをカナリアが知ったら……考えたくもないな。一生野宿とか言い出すんじゃなかろうか。


 はぁ……早くカナリアの機嫌が直ってくれればいいんだけどなぁ。




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