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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 奪われる明日へと引き寄せられながら
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特別編『自壊の救世主』(12)「電磁壊の王」



 ~ミリアドエリア1~




「これは異常すぎる!!」



 ダンッ!! と円卓を叩いて憤慨する老人。それが眺める先には各エリアのリーダー達。


 今はとある凶悪な犯罪者の断罪をどうするか。その議論をエリア1にあるハンター協会の会議室で行っている最中であった。




「先日自首してきたゲイル・ガーレスタとかいう子供。一夜でハンター、警察含む七十名を殺害。さらにはエリアリーダーまでも……。こんな大事件、過去を見ても例がないぞ!」



 本来であれば事件の取り扱いなんてものは警察に一任している。エリアリーダー達が話し合うことなんて魔人絡みの事件でなければ何もない。




 だが、今回はハンターが殺されたのが問題となってる。それだけでなくリーダーさえも。




 異能は誰でも手にできるものではないとはいえ、未熟な子供が異能を手にして暴れるなんて事件もないわけではない。

 だからこそ今は異能を手にする儀式を行ってよいとする年齢を検討する案も入っているところなのだが……ハンターやリーダーが殺害される事件はさすがに今回が初だ。




 それだけ、破格の異能を手にしてしまったということである。




「即刻死刑だ。こんなのが生きてていいわけがない。とんでもない殺人鬼だ!」



 だからこそエリアリーダー達を集めてこの会議を始めたミリアドの大臣の一人は死刑と即決する。



 まさかミリアドの中枢とも言えるエリア1の隣にこんな殺人鬼がいたとなれば大問題である。こんなのは即刻消えるべきだ。存在するだけで国民が怯え、異能者の勝手が通る国を許してしまう。




 ……裏を言えばこの断罪をきっかけとして国民からの信頼を得て、かつ異能者──ハンターやエリアリーダーの行き過ぎた権力の抑止を狙っているのだが。





 そんな大臣の下心を見抜いているからだろうか、一人のリーダーが異議ありと手を上げる。





「ふむ。死刑……それはいくらなんでも勿体ないとは思わないかね?」




「なんだと?」




 このまま議論をどう進めてもどうせこんなクズは死刑確実……と思っていたのに。その男のせいで旗色が変わる始まりを感じる。




 こいつだ。こいつのせいで今や王宮の権力が危ぶまれているのだ。






 エリア6リーダー。 『エドガー・アルヴァタール』。





「聞くところによるとその少年が有する異能は『天使級(てんしきゅう)』──おっと失礼。ハンターの間では最も強力と格付けされている異能。殺すのは惜しいと思うが」



「このガキは七十人も殺しているんだぞ!?」



「こう考えてみては? 七十人の命を消費して一人の強力な異能者が生まれたと」



「バカにしておるのか貴様は!! そんな無茶な理屈を国民が納得すると思っているのか!」



「その無茶な理屈とやらを国民に納得させるのが貴方の仕事ではないのかね?」





 こいつはいつもそうだ。



 命の考え方が他の人間と明らかに違う。まるで数字のようにしか捉えていない。こいつの言葉の中に出てくる「命」に人という重みがまるで存在しないのだ。




 今回だってそうだ。死んだ七十人はこの少年の踏み台程度にしか思っていない。




「私にはまるで理解できんがね。使い物にならない無能な人材を消費して有能な人材が現れた。なのに、採用せず消してしまおうとは」



「それは貴様ら『ハンター』として有能という意味だろう!」



「おや。そういう議論に入っていいのかね。それでは、君は私達『ハンター』にとって有能に見えるか無能に見えるか……どちらに見えるだろうね。ぜひここで決を採ってみて自分の価値というものを確認してみるといい。案外、今から処刑されようとする子よりも下かもしれない」



「ぐ……」




 どうしてエリアリーダーの権力が王宮を(おびや)かす可能性があるのか。






 それはこの男が()()()()からだ。






 人間の敵である魔人を山ほど殺し、どれだけ強力な魔物だろうと(ほふ)りさる。さらにはその力を恐れる他エリアからの暗殺者をも返り討ちにする。それに加えて自分のエリアは精鋭で固めている。




 こいつは言葉にはあえてしていないが、必ずこういった心を持っている。





 『お前ら(王宮)が敵になっても別に構いやしない』





 ミリアド王国に住んでいるくせに、王宮を敵に回すことを何も恐れていない。敵になるのなら、すぐにお前らを滅ぼして代わりに自分達がこの国の王になってやってもいいぞとでもいうかのよう。




 そして何が恐ろしいか。





 エリア6には、それ以外のエリア全てのハンターを集結させても()()()()




 これがミリアド全員の認知だからだ。




 ゆえに、それほど強力な力を持つ彼らは魔人を滅ぼしたいと願う人間にとってはまさに英雄だ。ミリアド国民にも、表には出さないにしても「王宮派」と「エリア6派」がいる。



 どちらの下につくべきか……と。




 今はエリア6も大人しくしている。表面上は王宮の言いなりに「なってくれている」。




 だが、もしこいつらが「ミリアド王国は不要」と判断すれば……





「ぐぅぅ……、で、では! その少年をどうするつもりなのだ!?」




 死刑は無理。なら、せめて国民に説明しやすいよう願う。あんな大罪者を処刑できない時点で相当反感を買うだろうが……まだ、罰の程度によっては「強力な異能者」を盾にして押し通せる可能性も……ある。



 大臣の頭では「強力な異能は免罪符なのか!!」「この選民野郎!」と非難される光景がすでに見えていた。それを想像するだけで嫌な汗が出てくる。






「エリア2のリーダーにしてあそこを統治させるというのはどうだね」



「はぁ!?!?!? 正気か貴様ぁ!!」







 罰どころか、めちゃくちゃ出世してるじゃねえか!!





 あくまで、大臣は心の中で吐き捨てた。




 これでは、強力な異能を持つということは免罪符だけでなく、簡単に大きな身分や領地を得ることができる切符にもなってしまう。



 もしこれを通せば……「異能」の能力が人間としての素質そのものと直結するようになる。このままいけばいつしか……異能の優秀さが国内の役職を決める大きな一因になりかねない。そんなこと国民も納得しないし、絶対に許してはダメだ!!





 が、こいつはそれをわかって発言している。




 その上で、







 『民を納得させて押し通せ』と自分に命令してきている……!!





「こ、の、……!」




 国の(がん)、蛮族、あらゆる罵詈雑言が出てくるが必死に喉元でとどめる。





「落着きたまえ。リーダーにすることの利点もいくつかある。国の言いなりになるよう首輪をつけておく、という解釈をすれば悪いことではない。(さいわ)いにもエリア2はあまり良い土地とは言えないから国民の非難も少なくすむだろう」




 「非難も少なくすむ」。ああ、なるほど。こいつの頭ではもう自分は非難を浴びせられているのだな。この議論を開始する前からそのスタンスで話していたのだな。そうなのだな。




「次に。今回の事件を『凶悪化して暴走したハンターや警察を、異能に目覚めた少年が断罪した』と美談にすればいい」



「なに?」



「魔人や魔物からの被害だけではなく、人間による異能犯罪もわが国では年々増えている。エリア2は特に治安の悪化も叫ばれていた。異能者が少ない警察では取り締まりが難しいのではと言われているこの現状を(かんが)み、試験段階として彼にエリア2を統治させて異能犯罪件数を測る……という筋書きはどうかね」




「エリア2を統治させて犯罪件数を? バカバカしい」



「そのバカバカしさを通すのが君の仕事だ」




 黙るしかない。まだ「彼を死刑にしません。野放しにします」と言わないで済んだだけマシになったと思うしかない。





「最後に」


「まだあるのか」




 これ以上この男の口から出た言葉で振り回されるのは勘弁してほしいのに。ここでまとまったことを最後に発表するのは自分なのに。最早やりたい放題である。




 エドガーは円卓に肘をついて不敵に笑む。







「ここで私の要望が通れば今日の夜はよく眠れるだろう」




「は?……………な……!」




 こ、こいつ……悪魔かッ!!






 かくしてゲイル・ガーレスタは無罪放免と同時にエリア2のリーダー就任。


 国民の多大な批判を一身に受けた大臣はその日は涙で枕を濡らした。




   ♦





「ちっ。死にぞこなったか……。どこまでいっても神は俺の敵みてぇだな」




 変わりない日常を願えば最悪の変革を寄越し、終わりを望めば新天地を与える。




 死のうと思っていたのに、なぜかエリアリーダーに就任することになったゲイルは、新たに住むことになった家を下見に来た。



 通常、エリアリーダーになる者は強い異能者であること以外に家柄も良いことが前提条件なのでリーダーになったからといって居住を変えることはない。自分の家があるのだから。




 だが、エリア2は貧しい者の集まりなのでそういうわけにはいかない。



 ゲイルもリーダーになったので、新たな家──といっても、先日ゲイル自身がぶっ壊したハンター組織の建物を改築された随分と縮小化したものに移り住むことになった。




 もう、あいつがいない以上あそこに住む必要も無ぇしな。一々感傷に浸るのもガラじゃねぇ。




「って、一応新築のくせにもうボロボロじゃねーか。ふざけんじゃねぇぞクソ」



 二階建てで快適に住めるとは聞いたのに、狭いったらありゃしない。



 ちっとも上手くいかねぇ。クソばっかの人生だ。



 死にたいと望むクソ人生でも、その人生を無理やり歩まされる。




 だったら。




「生きちまったんならしょーがねぇ。好きに生きてやるとするか」




 部屋に鎮座している椅子にどっかりと座り、窓から見える太陽に手を伸ばす。




 ミリアド王国は俺のことを飼いならすつもりなんだろうが……そんなの知ったことか。




 俺は変わらずウゼェもんをぶっ壊す。理不尽を強いてくる上のクソ共を全員ぶっ壊す。そうしねぇために死んでやろうと思ってたのによ……。




 そんな俺を生かしたのはテメェらだからな。




 他のエリアのクソ共が言うにはここはゴミクズ廃棄場。どうせ上の奴らはこのエリアが潰れようがどうなろうが知ったことではない。



 エリアリーダーは、そのエリアを管理し、守護し、先導していく者。




 それなら俺のやることはただ一つ。




「まずは、エリアリーダーのどいつかは知らねーが……あのクソみてーなシナリオを描きやがったバカがいやがる。そいつを見つけ出してぶち殺す……!!」




 あの豚男はどこかのエリアリーダーに指示されたと言っていた。そいつは必ず見つけて自分の手で()()をしなくてはならない。




 ……いや、ちまちまと探りを入れるのも自分らしくないな。




 なら、いっそのこと。




「この国の全エリアをぶっ壊す! この機会だ。金貯めこんで平気な顔してふんぞり返ってやがる奴らも次の日からドブ水すすってみりゃ俺達の気持ちくらい理解できんだろーが」




 好き勝手に自分の住処を()らしやがって。



 『平等』にいこーぜ。飯も、薬も、富も、何もかも。


 

 俺というクズが、腐りきったこの国の全部をぶっ壊してやる。





   ♦





「……チッ。寝てたのか、俺は」



 ふと、目を覚ますとそこはリーダーとなった自分が住む家の二階だった。どうやら一階のうるせぇ奴らから逃げ込んだ後に寝ちまったらしい。



 おかげでウゼェ夢を見ちまったもんだぜ。



 今も変わらない。生きてる以上、邪魔するもんは全部壊す。



 もう俺に大切な物なんて一つも残ってねーんだからな。奪われるもんも無ぇ。





 ゲイルは階段を下りて、一階へと戻る。





「おっ、ようやっと降りてきたか。飯作ったけど食うか? 俺とハンナの分だけやなくてお前の分も一応作ってるで」



「やっぱりドーナツだけじゃ腹減ってるんだろ? たまには一緒に食べよーよ」




 ホークとハンナはフォークとスプーンを持ってこちらに笑いかける。






「ふん。まったく、騒がしいバカ共だ」




 一つだけそれを鼻で笑い、テーブルに向かった。



 ちょうど腹が減った。それを満たすのも悪くはねぇ。











 まだ、これからも。生きることはやめられねーみてぇだからな。





  自壊の救世主:(完)





 これにてゲイルの過去編は終了となります。アストとは違い、何かを救おうとしても苦しみとなって返ってくる、「誰も救えない救世主」というのがテーマでした。


 この物語には各メインキャラに目標を設定しています。


 カナリアは「最強の魔法騎士になること」、ベルベットは「マナを殺した『ミネルヴァ』という魔人を斃すこと」、アレンは「この世界のどこかにいるセーナという少女を捜し出すこと」、そしてアストは「アルカディアを、『インカー』の王『A─Z』を退けて世界を救うこと」。


 ゲイルは「エリア2を追い詰めた計画を考えたリーダーを殺すこと」です。はたしてこれから出てくる者も含めてどのリーダーが犯人なのか……。


 そして、目的もバラバラな全てのキャラを結びつけるのが「ヘクセンナハトの魔王」という存在。どういう風にゲイルが物語に絡んでくるのか、アストと次に出会ったとき、彼は救われるのか。それも楽しみにしておいてください。


 次に投稿するときはエピソード6になります。アストとアレン、キリールがメインの話となりますのでそちらも楽しみにしていただければ。もう一つの作品の執筆もありますが……こっちも頑張りますっ! ではでは~!


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