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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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22話 プロローグ 【エピソード2 電導する旋律と聖なる星】


 「人間」と「魔人」の2つの種族が争いあうこの世界。「種族戦争」と呼ばれる戦いは4度にも及び(みにく)い歴史をこれでもかと刻んでいった。

 その中でも醜さの最たる歴史……魔人の間ではほとんど口に出すのも(はばか)られるほどの最悪の事件があった。



 その事件の名は「ロスト12」。現在から8年前にあった第三次種族戦争終了後、魔人に起きた失踪(しっそう)事件である。



 魔人の内の一種族「魔法使い」。その魔法使い12人が突如として何者かに拉致(らち)された。しかも拉致されたどの魔法使いも高位の者で簡単に捕まるような魔法使いではなかった。

 魔人相手にこんなことをするとなると……犯人は「人間」で間違いなかった。むしろ人間以外に誰がこんなことをするという話だ。

 魔人の中ではどの種族も仲が良いわけではなく、あまり仲が良くない同士もあるが……拉致までやるほどではない。そこまでやってしまえばそれはもう人間と同様に戦争相手になるレベルである。


 どのような理由や目的で人間は12人の魔法使いを拉致したのかは今でもわかっていない。犯人も不明。ただ8年経った現在でも誰一人として帰ってきていないことだけがわかっている。


 なぜこの事件が最悪の事件と言われたのかはその魔法使いには皆、「子供」がいたことが関係している。


 親を失った魔法使いの子供達。片親だけを失った者もいれば元から片親だけしかいなかった者や両親を失った者もいた。

 親がいなくなった子供達は最初こそ同情されていたが、次第に触れるのさえ恐ろしいと考えられていった。

 次に拉致されるのは自分の番かもしれない、人間に拉致されたのは何か拉致された側に問題があったのかもしれない、その子供と一緒にいては今度は自分が狙われる、と。




 そしてその子供達は「ロストチルドレン」と呼ばれ()むべき対象となってしまった……。




   ♦




 魔法使いの国「マナダルシア」にある魔法使い育成学校のアーロイン学院。そこでは今日も魔法使い達が一人前になるために研鑽(けんさん)を続けている。



「戦闘不能! 勝者『ライハ・フォルナッド』!!」



 審判が下したその判定にこれを見ていた者は盛り上がる。叫びをあげる学生達。ある席では教師もこれを見ていた。

 大勢が注目する中央のフィールドにはガタイのいい男の魔法騎士と、髪型はショートボブで人形のように無表情な女の魔法騎士。

 その()()()()である男の方の魔法騎士は地に伏して気を失っていた。

 もう一方の女の魔法騎士はまったく疲れている様子もなく自分の使っている魔法武器である二挺(にちょう)の拳銃を収めていた。



 今行われていたのは「学内戦」と呼ばれる、アーロイン学院の伝統にもなっている魔法使い同士の戦いだ。



 人間、もしくは対立する他の魔人に負けないために戦闘経験をどんどん積んでいく必要がある。そこで魔法使い同士でその戦闘経験を積んでいこうと考えた末に生まれたもの。


 ルールで縛られている形式のものから魔法を使ってOK、魔法武器で攻撃OKのなんでもアリのものまである。

 もちろん回復魔法が使える魔法使いがスタンバイしていてすぐに治療を行えるようになっているので心配はない。それでも致死量のダメージを与えることは当たり前に禁止されている。

 これは申請すれば誰でも行うことが可能で対決する学年にも縛りはない。1年と2年や3年がやろうが問題ない。先輩相手に勝負になるかどうかまではわからないが。




「すげぇ! ライハやばすぎだろ!」


「あれで1年!?」


「しかも女の魔法騎士だろ? 試験でもBルーム1位通過だったらしいし将来の主席候補だな……」


 目の前で繰り広げられたとある女の魔法騎士の戦闘に誰もが舌を巻いた。1年という情報がより学生達の会話をヒートアップさせる。





「………」



 ライハは試合会場から離れるとすぐに自分の寮の部屋に戻ろうした。勝利したというのに無表情なのは変わらずでその表情が少しも緩む気配がない。


「あっ! ライハ、試合どうだった?」


「見に行けなくてごめんね!」


 帰り道に同学年の魔女コースの女子とばったり出くわした。

 別にこの2人と昔からの友達というわけではない。ライハは成績が優秀でしかも1年には2人しかいない女の魔法騎士の1人ということなので有名なのでよく声をかけられるのだ。

 魔女コースの女子達はライハに笑顔を向けるが相変わらずライハ自身の顔は無表情のままである。


「勝った。今から睡眠」


「そ、そうなんだー。疲れてるもんね。おやすみー」


 ライハの無表情は魔女コースの学生を威圧させてしまい早々に会話を切り上げさせてしまった。普通にしていれば身長も低いので愛らしい女の子に見えるのだが。

 ライハはさっさとそこから去っていく。


「ライハってあんまり表情変わらないよね。怒ってるのかな?」


「いやーいっつもあんな感じらしいよ。どうしたんだろうね? もしかしてお父さんとかお母さんもあんな感じだったりして」


「それはあるかも」


「そういえばライハの両親って全然見ないよね。試験の時にもいなかったみたいだし。あんだけ強かったら親の方も有名だと思うんだけどねー」


「聞いたけど寮も一人で住んでるらしいよ。なんでだろ?」


「男と住むのが嫌なんじゃない? 魔法騎士ってほとんど男じゃん。もしかしたら男と同部屋にされるかもしんないし。イケメンじゃなかったら嫌でしょー」


「たしかに!」


 ライハはその実力から色んな情報─特に親を詮索(せんさく)されることは少なくなかった。

 魔法使いの世界では子供が強い場合は親もそれなりに有名な魔法使いであることが多い。魔法戦闘のセンスや魔法の系統には「血筋」が関係することがたまにあるからだ。

 だがライハの両親の情報は誰も知らなかった。入学試験の日にも見学に来ていない。両親の影が見えることもない。ライハ・フォルナッドはその面ではとにかく不思議な存在だった。



「………」


 ライハは自分の部屋に戻ると服も着替えずにそのままベッドに倒れこむ。


「今日も勝った。パパ、ママ……」


 自分の枕に顔を押し付ける。




「あとどれだけ勝てば帰ってくる?」




 そこには(しずく)が落ちて湿った(あと)ができた………。




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