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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 奪われる明日へと引き寄せられながら
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特別編『自壊の救世主』(10)「自業自得」

神から異能を授かったゲイル。罪を犯した自分ではなく、なんの罪もない母を処刑台に送った奴らを。エリア2を腐らせ不幸の鳥籠を生み出した奴らを。全員殺すためにゲイルはとうとう舞台へと躍り出た……。その果てに待つものとは……



 意味を考える? そんなことして何になる。



 力は力だ。ただの道具だ。




 運命? うるせぇ消え失せろ。




 そんなもので俺の家が不幸だったなら、あいつが狙われて死んだのなら、



 それを、ぶっ壊す!!





 ゲイルが念じると、静止していた銃弾が爆散するように跳ね返された!!




「うおおおおあああああ!!」


「いてぇ! 足がァ!!」


「ぐおっぽぁ!!!」




 銃弾の雨を丸ごと返してやる。宴会場は穴だらけになり、ついでに自分の一番近くにいた奴らも体中穴だらけになった。




 全ての物体に対して『引力』と『反発力』を発生させる特殊磁力。




 それが……『電磁壊の王(カマエル)』の力!





「くたばれゴミ共ァ!!」




 屋根に向けて『電磁壊の王(カマエル)』の引力を発動。



 強力な磁力に引っ張られ、木で組まれていた屋根は倒壊し、巨大な木片が降り落ちる。




 このままでは下敷き……では、終わらせなかった。






「傘持ってる奴は差しとけ! 晴れのち、大雨、串刺しだァ!!!」






 『絶対磁力』の反発力で、武器を所持している全員をこの建物から逃がさない。周囲の壁と彼らの武器を反発させて、中央に留まらせているのだ。





 その集中した場所へ、







 ドドドドドドドドドドドドドゴゴゴッゴッゴゴオガガガ!!!!







 雷撃のように降り落ちた木片は、次々とハンター、警官の体に真上から突き刺さっていき、大量の血飛沫(ちしぶき)を舞わせた。




 あちこちで上がる阿鼻叫喚。血液のシャワー。飛ぶ肉片。





 今は、全てが心地いい。



 自分をこれまで縛ってきた得体のしれない、「不幸」。「理不尽」。「世界」。それら全てが形を成して自分に潰させてくれているようで最高の気分だった。






「ハッハッハッハッハッ!!! テメェら全部ぶっ壊れろ!! 全部!! ハッハッハッ!!」






 乱暴に振り回した玩具のように取れていく手足。中には縦に真っ二つになっているものや、ぐちゃぐちゃに潰れてよくわからない何かに変身しているものまであった。




「この、ガキ……!」



 そんなゲイルに、エリアリーダーのニールは接近する。



 木片が降り落ちた時にゲイルの磁力は解除された。その隙を狙って。





(『狡猾な鍛冶屋(サティ・ファッブロ)』!!)





 こいつはヤバい、とニールは即座に異能発動。




(俺の異能は周囲10mにある武器を自在に動かす。中距離が無理なら、接近はどうだ)




 床にいくつも落ちている剣を全て操作。自分の体の周囲で剣が踊る。




 無数の剣が織りなす舞踊がゲイルの体を斬り裂く!!







 体に、届いていたならば。







「くっ……う、お、ぉ……!」



 七本の剣を操作して四方八方から剣で攻撃する。が、全てゲイルが自分の周囲に発生させた『電磁壊の王(カマエル)』の絶対磁力の「反発」で阻まれていた。





(こいつの異能……ガチでヤバすぎる! バリア!? いや、これは……!)




 何の攻撃も通じない。そう、焦っていると……



 目の前の少年が、クイっと指を一本動かした。





「げぺぱっ!!!!!!」





 どういうわけか、横から突然飛んできた木片が自分の頭を刺し貫いた! 鋭く刃物のように尖ったそれは、脳を一発で貫く。


 フランケンシュタインみたいになってしまったニール。しかし、そんな姿を気にすることもない。死亡したのだから。





 先ほどの攻撃はいたって簡単だ。遠くに落ちていた木片と、ニールの周囲にフワフワと浮いていた剣を、「引力」で引き合わせた。その進行上にニールの頭があったのだ。




 『電磁壊の王(カマエル)』の便利な点はここにあった。ただ引力と反発を操る特殊磁力を発生させるだけでなく、物体同士を磁石のように扱えるのである。



 この異能の正体が磁力ということにすら辿り着けなかったニールは、自身の異能で剣を自分の周囲に浮かせていたことによって、こっちからすればいつでもどこからでも狙撃可能な(まと)に成り下がってしまっていた。




 こういった攻撃を繰り出すために最初に屋根を破壊して「弾」となる木片を用意しておいたのだ。









「さーてと。あ・と・はァ!!!!」





「ひ、ひぎいぃぃぃぃ!!」






 ゲイルは目当ての男のもとへ歩く。




 この場で唯一の生き残りにして、最も戦力のない男。





 他エリアからの使者にして、自分の母のところへ強引な立ち退き要求に来ていた者──「豚男」である。





 実はこいつだけ特別に一人だけ助けてやった。磁力で上手く振ってくる木片を反発させて、あの殺人雨(さつじんう)から救ってやったのだ。





 どうしてか。







「テメェはなんかこの前ブヒブヒ鳴いてて一番ムカついたからなァ。特別に俺の手で盛大にぶち殺してやるから元気で鳴けコラ」




「な、なんでですかーあああぁぁ!! あれはあなたの『自業自得』でしょーが! お母ちゃんが身代わりになってくれたって話でしょーが!! それで自分は助かって嬉しいはずでしょーがああああ!!」







 自業自得。ああ、そうさ。俺は報いを受けたんだ。そしてあいつはこのクズの全部を背負って。






「ここでお前を殺す自業とやらもどっかで痛い目見て払ってやるよ。だからもうテメェは安心して死んどけ……!」





「な、なんでぇぇ。わ、私だって、り、リーダーに、『あの方』に指示されただけで、ううぉえええええ!!」





 逃げようとする豚の手足に四本の木片を打ち込んで床に縫い付ける。ちょうど這いつくばって逃げていたので「床」と「木片」を引力で引っ張り合わせれば簡単だった。






「ははっ! 豚が、鳴けコラ! 鳴いてみろコラぁ!!」



「ぶっ! ぶへっ!! ぶ、ぶ!! ぶおおぉ!!」





 馬乗りになって顔面を殴りまくる。無抵抗に暴力を受けるしかない。手足は動かせないし、無理に動かせば引きちぎれる。痛すぎて感覚もなくなっているので動かすも何もないが。





「……テメェみてぇなゴミが一番生きてて価値ねーんだよ豚! 死ね。死ねコラ……!」



「ぶ! す、すみませ、ぶぇ! すみば! ぼぅぇ!!!」






「テメェなんのために金がいるんだ!? 言ってみろ! これ以上いらねーだろボケ!! 守るもん何かあんのか!? テメェみてーなゴミにあるわけねぇーよなぁ!!!!」




「ご、ごめ……なさ……ぶ!!」






 ゴッ! ゴガッ!! ベキッ!!




 ただただ力任せに殴り続けた。泣き続ける豚男をひたすらに。





 いつしか声を上げなくなり。動かなくなった。






「はぁー、はぁー、はぁー」




 返り血を浴びまくって。もう自分もそこらへんに転がっている死体と全身に塗られている血の量は大差ない。






「ゴミが……お前ら全員ゴミだ……守るもんも何もねーくせに、自分のことだけしか考えてねぇゴミクズの集まりだ……!!」





 肩で息をしながら、豚男の顔を見る。




 酷い面だ。これを使ってあれだけ自分を煽ってきていたのに、今じゃピクリとも動かない。もう一言も呟かない。





「はぁー……はぁー……」




 ふと。豚男の首元に、ペンダントがあるのを見つけた。






「はぁー……、こんな、高価そうなもん、ぶらさげやがって……はぁ……よこせ。お前ら俺から奪ったんだ。俺じゃなくて、何の罪もねぇあいつを……、はぁ……せめてよこせよ」






 ゲイルはペンダントに手を伸ばす。





 すると、それはペンダントではなく、ロケットで。













「は────」















 そこには、その男と……「()」と思われる少女が一緒に笑って写っている写真が入っていた。








 いつの間にかちぎれている男の左手の薬指には、()()がはめられていた。












「は……! あ、ああ、……あ…………あああああ、あ……!!!! ああ……!!」







 思わずゲイルは乗っていた男の腹から跳ね返るように逃げる。






 なんだ。なんだこれ。これ、これは。これこれ、こ、れ、……










『守るもんも何もねーくせに』





「はー……! はぁ……! あ、ああ、あ……!!」













『お前ら俺から奪ったんだ』




「あ、ああああぁあああ……! あああ、ああ……!!」
















『自分のことだけしか考えてねぇゴミクズの集まりだ……!』




「あああああああああああああああああぁああああぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああああぁああああああああああああああああ!!!!!」








 一番の、ゴミクズは──






 どうして。どうして。俺だけ。






 お前ら好き勝手するくせに。誰からも(とが)められないくせに。人を殺しても平気でいやがるくせに。人から何もかもを奪っても笑っていられるくせに。奪う相手のことなんか何も考えてない血も涙もない野郎のくせに。







 お前らは。お前らは。お前らは。










 どうして俺だけ……!!!!





 どう、して……………!!!!!!





 血にまみれた手で頭を抱えて、大量の死体の中でゲイルは赤子のように泣き怯えていた……





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