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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 奪われる明日へと引き寄せられながら
227/230

特別編『自壊の救世主』(9)「全てを遠ざけ、全てを引き寄せる力」



 ~エリア2・ハンター組織~



 ここはエリア2のハンターが集まる場所。昼夜問わずハンターが行き来するところでもある。他エリアみたいに立派な建物というわけではなく、木造の、人が見ればオンボロ宿屋とでも思いそうな場所。




 しかし、ミリアドの全エリアの中でもここだけだろう。





 ここがハンター達の「酒飲み場」と化してしまっているのは。




「はっはっは! 今日は最高の日だなぁ!」


「やっとこんなクソエリアからおさらばできるぜ!」




 エリア吸収が決まって自分達は他エリアのハンター組織の所属になる。今までのように給金で甘い蜜を吸えなくなるのは惜しいが、それでもこんなオンボロエリアよりも他のちゃんとしたエリアのハンター組織に入った方が絶対に給料はいい。




 まさに今は最高の気分だ。今までのらりくらりと自由気ままに過ごしてきただけで勝手に出世しているようなものである。





 とはいえ、配属されるエリアにもよるが。





 一番良いのは隣のエリア3。あそこはリーダーが優しい女性だし、後継者もまさに深窓の令嬢のような少女で野蛮な人間とは程遠い。無茶な作戦なんかで命を散らされることはないのだ。しかも医療に関して手厚いエリアなので病気や怪我といったものも心配しなくてよくなる。






 一番最悪なのはさらにそこの隣のエリア4。あそこは筋肉狂いしかいない。所属した瞬間に吐くまで食わされて吐くまでトレーニングさせられていつの間にか筋肉ダルマの出来上がりだとか。新手の拷問なのだろうか。






 エリア1は王宮に使える位の高いハンターしか入れないし、エリア6なんかはそもそも実力主義なので自分達みたいな雑魚ハンターは決して配属されないだろう。……もしも配属されたらおそらく数日で身内に殺される。あそこは平気でそういうことをしてくるところだ。




 しかし、ようやく計画が完了したのだ。ホッと一息。そして飲めや騒げやの飲み会だ。





「ぶっほっほ。上手くいきすぎですなぁ」



 エリア合併の話を持ち込んできた他エリアからの使者である肥え太った男もこれに参加していた。




 当たり前だ。今回の計画は使者達、ハンター、警察。全てが手を合わせなければ上手くいかなかった。




 このエリアを統治しているエリアリーダー……それが束ねるハンター達。まずここのエリアで好き勝手をするならこいつらが仲間になっていないと話にならない。



 次にハンターの行き過ぎた行動等を取り締まったりする警察も必須。無茶な立ち退き要求がこれに見つかるとすぐさまエリア1にチクられる。そうなれば一発アウトだ。




 逆に言えば、これらが手を組めばそのエリアで何をしても許されるしバレもしない。本来ならば警察が機能しているのでありえないことではあるが。




 豚男はつくづく、このエリアがゴミクズの集まりで良かった……と酒を仰いだ。




「おうおう飲め飲め。お前のおかげで俺も良い酒飲ませてもらったからな」




 集まっているハンターの中でも一際屈強な肉体を持ち、いかつい人相をした男。




 現エリア2リーダー──「ニール・グルファー」である。




 彼は今回の計画のおかげで、合併することになるこのエリアの一部の統治を任されることになった。



 今までのエリア2なら統治した程度、貧しい奴らからなけなしの金を(むし)り取り、給金で楽をする程度だったが……合併さえすればそこは新制エリア1の一部。以前まで得ていた額とは比べものにならない金が毎月流れ込んでくる。





 本来ならエリアリーダーとは家柄が良い貴族がやることになっているがこのエリア2だけは別。ハンターの中から腕っぷしの強い奴──ここでは兄貴分とでも言おうか──がやる決まりだ。




 ボロクソエリアのリーダーをやるとなった時は人生大したものにはならないと諦めていたが……なかなかどうして転機とは訪れるものだ。





「今日は最高の日だァ!! お前ら、とことん飲めェ!!」



「おおおおおぉぉぉぉ!!!」




 ハンターだけでなく警察さえも。ハンター組織の建物を使っての大宴会。今日を以って俺達は成り上がる!!






 ドパアアアァァン!!!!





 そんな時だった。



 この会場の扉が蹴破られたのは。









「よぉ。この世のクソゴミ共……最後の晩餐は済んだか!!!!」






 ゲイルがこの宴会場に突入する。母を処刑された、殺人鬼のガキが。




 だが、そんなゲリラ突入にもハンター達は、







「ぷっ、おいおいガキが乗り込んできやがったぞ」



「警察ちゃーん、お前達の出番じゃね~? 悪い奴捕まえてくださいって相談かもよ」



「おぅおぅ。それなら相談乗るか~。悪い奴どこだ~?」



「それお前らじゃねぇか。ひゃっはっは! おっと、俺らもだっけ? くっく」




 誰一人として恐れる者はいない。そんなこと当然。ここにいるのはどいつもこいつも力を持っている者達。




 ハンターは言わずもがな、『異能』を持っている。魔物や魔人にも劣らないその力は常人を遥かに超えている。



 警察に異能者はいない。けれども拳銃を使えばそこらの人間なんて即銃殺。武器の扱いや戦闘に関してはそれこそ常人よりかは上だ。





 どちらも、復讐する気満々のガキが一人転がり込んできたところで恐れるわけがない。





「おぃ。誰か掃除しとけ」



「ういっす」




 エリアリーダーのニールの命令で一人のハンターがゲイルに近づく。





「ガキ。お前あれだろ? 母ちゃん処刑されたやつ。この場所に目をつけてくる嗅覚は褒めたもんだが……ちょっと勇敢すぎやしねぇか?」




 チャキッ、と持っていた拳銃の銃口をゲイルに向ける。




「どっちみち明日にゃ始末する予定だったけどよ。来るなら今から行きますって言っとけよな。酒飲む前で助かったわ。おら、最後になんか言うことあるか?」




 くっくっく、と他のハンターや警察は笑う。ここでゲイルが死ぬのも酒の(さかな)程度にしか考えていないのだろう。




 銃口を向けられてもなお、ゲイルは顔色一つ変えない。そこでハンターの男は舌打ちをして面白くなさそうな顔をする。





「お前の母ちゃんな。けっこう別嬪(べっぴん)だったな。俺、処刑されるとこ見てたんだけどよ。へへ……思わず一発抜いちまったわ」




 男はベロォと舌なめずりしながら、拳銃でペチペチとゲイルの頬を叩く。




 それを聞いていた他のハンター達は「気色悪ぃ~」「お前どういう性癖してんだよ(笑)」「たしかにあの女は良さそうだったけどよ」と返してくる。




 男が本当にそれをしていたかどうかは知らないが。明らかな挑発。それがわかっているのかわかっていないのか。ゲイルはこれでも顔色を変えない。





「ちっ。つまんねーガキだなぁおい!! 『抜いた』って意味わかるぅ!? わかんねーかバーカ!! 死んどけ!」




 これ以上何を言っても反応がなければ面白くもなんともない。早く殺して酒にありついた方がよっぽど楽しい。





 遠慮なくトリガーを引く。






 ガゥンッ!!! と重々しい音が跳ね上げられ、銃口から弾丸が飛び出た。






 その弾丸はゲイルのこめかみへ──










「あ~すっきり……………あぇ!?!!?!??」






 小さな花火が打ちあがる……と思いきや、







 弾丸がシュュルルルルルルルルッル…………! と空中で音を出しながら、こめかみ一歩手前で静止している。





 そして……勢いを失った弾丸はポトリと床に落ちた。






「は、は、はあぁぁああ????? な、なにこれ」




「『抜く』……か。意味、言ってみろよ。ほら」




 ゲイルは下から睨み上げる。その瞳は、どんな獰猛な獣よりも恐ろしく。



 それを見ただけで、ハンターであるはずの自分が心の底から震え上がっていた。








「お、おおおぉオナ、おなニーのことだばあああああああああああああか!!!!」







 ガン! ガン! ガゥン! ガァン!!






 発狂して連続発砲。子供相手にいくらなんでもオーバーキル。





 だが、これには周りのハンターもヒュー♪と口笛を吹いて手を叩く。こりゃあとんでもねぇ死体ができあがるなぁ、と。






 しかし。






「が………ぇぉ……!」





 急に、拳銃をぶっ放した男の方が倒れた。




 口元には一体どこから出てきたのか、木片(もくへん)が突き刺さっている。それは貫通してうなじのところから切っ先が見えていた。





「でけー声出してんじゃねーよボケ」




 目の前で発砲されては耳がキツイ。まぁ大体言ってることは察しがついているし、大声で叫ばれても気持ちが悪い。とりあえずそこらへんの木片を()()()()黙らせておいた。






「おい……このガキ、『異能持ち』だぞ!!」





 ニールの一声で、全員が持っている酒を捨てて臨戦態勢に入った。




 こうなれば話が違ってくる。ただのガキなら拳銃一発で泣かすこともできるが……異能者なら魔物や魔人と同じレベルで警戒しなければならないからだ。




 ハンター達は一斉に剣を抜き、警官は拳銃を引き抜く。




 全員でゲイルを包囲する形となった。




 子供一人に……と、思うが。『異能者』にはこれで正解である。



 どんな異能を持っているかわからない。それならどんな異能を持っていても対処できない状況にしてやればいい。




「撃て!!」






 ガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!






 一斉掃射。相手を蜂の巣にするくらいに容赦なく銃弾の雨を浴びせる。



 こんなことをしてしまえば子供の体なんて残っているわけがない。オーバーキルを果てしなく超えてむしろ銃弾の無駄。





 もちろん。弾幕を終えると……そこにはもう何もいな──







「うるっせぇな……」




 ギュギュギュギュギギギギッッッッ!!!!!!!




 ゲイルへ全方位に襲い掛かった数十発の銃弾は、その全てが彼の体に到達できずに空中で静止していた。まるで何か見えない力に押し込まれているように……!




「な……んじゃこりゃぁ!?」



「なんだあの異能!」



「み、見たことねぇよこんなの……!」






「……」



自分の前で静止する弾丸共を眺めながらゲイルの思考は過去へと流れる。





   ♦





 ~十数分前~





 婆さんのドーナツ屋で試験管に入っていた「神水」を飲み干して走り出すと、意識だけが深層に潜り込んでいき、別の誰かの意識が自分の中に入ってくる感覚が襲ってきた。







(「『力』を求める人の子よ。貴方は何のために『力』を欲するのですか」)







 感覚の次には、声が。




 半信半疑のヤケクソ気味で飲んでみたが、こうして声まで聞こえてくると変な薬物でも体に入れちまったかと笑えてくる。




 これが神様だというのなら……自分が人を殺す前に助けようとは一度も思わなかったのか、とでもつまらない質問をぶつけてみたかったが、今のゲイルにそんなことはどうでもいい。







(「『全部をぶっ壊す力』だ。理不尽も、クソうぜぇ奴らも、ふざけた世界も、全部俺の勝手でぶち壊せる力を寄越せ!!!!」)






 ゲイルは隠さない。



 ここで「世界を救う」だとか、「誰かを守りたい」だとか。そんなくだらない寝言なら良い異能をくれると言われていたとしても。






 自分の想いはただ一つ。自分の幸せを奪ったクソ共を。そしてこれまで自分達の自由を邪魔してきた全てを破壊する力だ。








(「貴方は……可哀想ですね」)



(「……何が言いてぇ」)





(「牙を突き付けることしか知らない未熟な獣。いえ、獣でも自らの生き方を選びます。貴方は……生き方をまるで選べていない」)





 これが神の言うことか? 散々な理不尽に振り回されてきたんだ。生き方なんて知るか。俺が乱暴に踏み荒らしてきたこの跡こそが俺の生き方だ。





 結局、奪うことでしか生きていけなかった。その代わりに母の命を奪われてしまった。




 奪われる前に全部奪う。奪おうとしてくる奴も破壊してこっちから奪ってやる。




 それの何が悪い。もう守るものなんてねぇんだ。あとは俺だけ。この世界で好きに生きろというのなら、腹立つものは全部ぶっ壊して、腹立つ野郎は皆殺しだ。





 母に言われたから真面目に生きる?…………ちげぇよ。






 それをぶち殺しやがったこの世界を、「俺」でぶっ壊してやる。





 もう二度と俺みたいな人間を生まないため? 知ったことか。俺がこの世界をムカつくと思ったから、それだけで壊すんだ。





 大切な物が無くなった今の俺にとってこんな世界、更地の方がいくらか笑えるんだよ。






(「……貴方の願い、そして深層心理にある想い。それを『力』にします」)




 そして、神はゲイルの心のうちで吐き出される黒い汚泥の如き怒りを受け止める。




 無力な少年に、力を与えた。




 その力は、ゲイルにとって生まれた頃から知っている呼吸のように、自然に体へ馴染んでいった。すぐに能力の詳細が頭に流れ込んでくる。






(「……これが、俺の異能ってやつか?」)






(「『電磁壊の王(カマエル)』。全てを自分から遠ざけ、されど全てを自分に引き寄せる力」)






 『電磁壊の王(カマエル)』。異能というのがどんな強さなのかわからない以上、これと同じような力を持っている奴がゴロゴロといるなら話にならないが…………感じる。絶対的な、強力無比な、圧倒的な力が……!




 しかし、どうしてかわかる。他の異能なんて見たこともないはずなのに。「これ」は他とは比べものにならない力だと!






(「異能は、その人そのもの。どうして貴方がその異能を獲得したか。意味を考え続けてください。そして……どうか貴方の運命に幸せが訪れますように」)





 それを最後に、神との交信は途絶えてしまった。





神様が異能を授ける人間へ言っているように、メインキャラが使う異能を考える時、その異能の効果は「所有者の本心や、強い願望」になるようにしています。



「革命前夜」の効果はアレンの、「絶炎燐火」の効果はハゼルの、そして「電磁壊の王」の効果はゲイルの本心や願望を表しています。ミーシャの異能はまだ出てないけどもちろん彼女も。


たとえハゼルが「ベルベットを殺す異能」を欲しようとも、ゲイルが「全てをぶっ壊す力」を欲しようとも、神は彼らの「言葉」ではなく彼らの「本心や願望」を具現化しているのです。




「全てを自分から遠ざけ、されど全てを自分に引き寄せようとする力」……そこから読み取れるゲイルの本心。もちろん作者である自分が込めた解釈が存在しますが、これに関しては読者の自由だとも思っています。



むしろ、作者の自分でさえまだ気づいていない隠れた彼らの本心が具現化して異能となっているかもしれません。それを異能の効果から読み取ってみるのも良いかも……


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