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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 奪われる明日へと引き寄せられながら
224/230

特別編『自壊の救世主』(6)「決壊」

ゲイルの罪を被り、処刑されようとするミレーユ。しかし全ての真実を知り、自らが母を窮地に追いやってしまったことを悟ったゲイルは……



 ゲイルは血相を変えて家から飛び出した。事情が変わった。

 何かの手違いで捕まったのではない。処刑するために、捕まえられたと知れば。



 ふざけんな……! ふざけんな…………!!



 どうしてお前らは俺から奪う。どうして俺はお前らから奪っちゃいけねぇんだ。


 お前らはこんな法外なことしてなんで許されるんだ。なんで俺は薬買うために法外なことをしたら(むく)いを受けなきゃいけねーんだ?




 なんで俺だけ。なんで俺だけ。なんで俺だけ。




「はっ……ハァ……は……」



 息を切らして走り続ける。母が捕まったところへ。



 会いに行かねば。今すぐ。無駄だとわかっても。せめて歪んだ事実を正さねば。



 俺なんだ。悪いことをしたのは。全部俺なんだよ。



 謝れば許してくれんのか? 盗った分の金を返せば解放してくれんのか?



 無理だ。命までは帰ってこねぇ。返せねぇもんは返せねぇ。






 でも、じゃあどうしろっつーんだ……




 薬を買う金なんて無ぇ。金が無けりゃ親が死んでいくのをただ何もせず眺めていろっつーのか?



 毎日の十分な飯を買う金も無ぇ。金が無けりゃ笑う力すら無くなるくらい衰弱していけってか?



 働きたくても親は病気で、こんなガキに満足な仕事なんて無ぇ。自分が大人になる前に親が病気になったのを後悔しろってか? 運がなかったと運命を呪えってか?





 俺ら貧しい人間は……生きることすら許されねーのか?





 ゲイルは体力が尽きて、膝をつく。地面に……ポツ、ポツ、とシミができていく。これは涙じゃない。雨が降り出したんだ。


 次第にザーッと大雨になっていく。風邪になったら治す金がいる。それはダメだ。早くここから動かないと。


 なのに……全身が濡れても、立ち上がる気力が湧いてこない。





 ああ、盗むことは最低だよ。人殺すなんてもっと最低だ。お前らの言う通りクズだよクズ。生きる価値のねぇゴミだ。





 じゃあよ……









「どうしろっつーんだよ!!!!!! 教えろよ!! お前ら金持ってるクソ共は死ぬほど金稼ぐくれぇ頭良いんだろーが!! 教えろ! 俺はどうすりゃ良かった! どう生きればよかったんだ!!!!」





 地面を殴る。殴り続ける。手から血が流れても、何に怒っているのかわからず殴る。


 きっと、雨だけでない。この地面を濡らしているのは自分の涙も。





「そんなに金持ってんなら俺達にも分けろよ!! お前ら病気の親でもいんのか!? 食うものに困ってんのかよ!? 住む場所無ぇのか!? どうして意味もねぇのにクソほど金が欲しいんだよ!! くれよ! その死ぬほど持ってる金を寄越せ!!」




 雨と涙と血が地面を打つ。少年の怒りと悲しみを世界が吸い込む。何も答えない。この世界は。答えてはくれない。




「ふざけんな……ふざけんなぁ……! よこせ! よこせよこせよこせ!! 全部よこせ!! お前らみたいなクズが一番生きてる価値無ぇーじゃねーか!! 死ね! 死ねよクソ!!!! ぶっころしてやる!! 俺から奪ってんじゃねぇ!!」




 ダンッ!!と両手で地面を強く打つ。そこから、急激に力が失われていく。























「いやだ……かあ、さん…………」






 ゲイルは、もう何も考えたくはなかった。




他に何もいらない。ただ母さえ生きていればよかった


母が生きるためには何でもやった。色んなものを手放しても。



手放した中に、その命が隠れていたことに、もう僕の濁ってしまった目には見えなかったんだ。

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