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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
215/230

203話 Yahweh

──どうか 醜い我らに主の裁きを

──善行も 悪行も 等しき生に

──善には禁忌の烙印を 悪には罰を

──永遠の命など与えてはならなかった 死こそが生だと悪だけが知る




 その存在は人々の空想で語られるようなものと違い、人間と魔人の争いに悲しんでいる。そして怒りを燃やしている。



 「楽しんでいる」というものとは……大きくかけ離れていた。



 そんな疑問を解消してくれる者はいない。それよりも。



 これからこの存在が襲い掛かってくる……という危機感だけが頭を支配していた。




「まず、は……カラだを、治すか」



 ズタズタで血だらけの体を確認すると、「魔王」は手を掲げる。




「我が身ヲ代償トし、こノ世界に顕現せヨ……」










「『禁断果実(ヘクセンナハト)』──」






 一つ唱えると。何も無い空間から突然……「赤の林檎」が出現し、魔王の手に収まった。



 それを、(かじ)る。






「──『天治峻厳(ゲブラー)』」





 その名を呟くと、魔王の体はバキ……メキ……と音を立てて蠢く。


 すると、いつの間にか。




 体は、血が一滴も垂れていない元通りの姿になっていた。




「な!? あれ、は……『異能』か!?」



 ハゼルは見たものが信じられなかった。


 魔法陣が展開されず、ただ事象のみを書き換えた。それは魔人が持つはずのない力。



 魔王とは、魔法を操る「魔人」ではないのか?



 どうして……人間に与えられる、神の力である、




 『異能』を……魔王が使える!?





「──ッ!」



 ズガアアアァァンンッ!!!!



 呆気に取られているハゼルとは違い、体が修復したと見るやゲイルは拳銃を取り出し発砲!


 電磁加速器(レールガン)の要領で、磁力により更なる超加速を得て撃ち出された弾丸は修復された魔王の体の……左胸──心臓部位を正確に捉えて吹っ飛ばした!!



「やったか!?」


「これで終わればいいが……」



 心臓を撃ち抜いたとみたホークは少し目に希望を映す。


 ハゼルは……先の奇妙な異能を見ていることからこれで死ぬとは思えない。



 そして、その予想は当たってしまう。



 心臓部位を撃ち抜かれたというのに、魔王の表情は変わらない。



 その答えは、ハンナが知っていた。



「ね、ぇ…………嘘、でしょ……」



 死んだはずのアストが立ち上がった時と同じ恐怖の表情を浮かべて、




「なに、あれ……! 心臓の位置が、動いてる!?」




 アストの持っていた魔王の力は『魔王の心臓』。


 故に。そこに魔力といった様々なエネルギーが集中していた。当然感知系の異能を持っているハンナはアストの心臓だけはくっきりとその力を認識できていた。



 だからこそ、心臓の位置なんかも把握できるわけだが……




 その位置が、魔王の体の中で生き物みたいに動いている!



 そして、心臓のそんな無茶な挙動にも耐えられるように体の構造がぐちゃぐちゃとリアルタイムで変化している!



 さっき発動した異能──『天治峻厳(ゲブラー)』は、回復の異能ではないことをすぐに悟った。



 あれは、それよりも、もっと禍々しい。




()()()()()()()()()()()()……!)




 心臓や破壊されていた内臓諸々を「作成」。


 さらに飛来してくる銃弾を避けるように内臓位置を「移動」。


 それに応じて血液循環や内臓機能を失わないように体の構造をさらに「造り変える」。



 これは、そんな異能だ……!




「ふざけるな……そんな異能聞いたこともないぞ……!」



 ハゼルは異質すぎるそれを、すぐに排除しなければならないと走り出す。



 自分の異能『絶炎燐火(ぜつえんりんか)』なら……こいつも殺せる。そんな自信を持って。




「醜いニンゲン……近づクな」



 魔王の手に、また新たな林檎が出現する。



 今度は「白色の林檎」だった。



 それを、齧る。






「『禁断果実(ヘクセンナハト)』──『思想脳冠(ケテル)』」






 魔王の眼が、怪しく発光する!




「が……! ぐ、ああぁあぁ、な、んだ、これ、ぁ……!!」



 その光をまともに直視したハゼルは頭を抱えて苦しみだす。


 彼だけでなく、ホークにも同じような症状が発生していた。



 ゲイルは異能が発動される直前に磁力で周囲にあった木々を引き寄せる。

 引き寄せられた木が視界を塞ぐ盾のように前方に突き刺さった。それが偶然にもハンナの前にも同様に。



 結果、ハゼルとホークが魔王の異能を味わうこととなった





「な、んや……こ、れ……頭が、あ、あた、ま、があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁぁ!!!!!!!」




 ホークは絶叫した。


 目が血走り、口から(よだれ)が垂れ、発狂寸前の状態に陥る。



「チッ! 雑魚共がァ……」



 ゲイルはこのままではマズイと感じ取り『電磁壊の王(カマエル)』で再度別の木々を引き寄せる。


 その木をホークとハゼルの体にぶち当てて遠方へ飛ばした。



 少々手荒いが、魔王の異能で我を失っている彼らをこの場から一時的に離脱させるにはこの方法しかない。



「おいハンナ。逃走用の道具はいくつある」


「あたし達用に三つ。予備にもう一つ」



 人間の中には魔人が使う魔法道具のような不思議な効果を道具に付与する「異能者」がいる。


 その異能者が作成した物の中に一枚につき一人をあらかじめ設定した場所にワープさせる札のような道具があるのだ。人間はそれを逃走用に使っている。



 しかし、この道具は貴重だ。

 エリア1のような裕福なエリアならまだしも、自分達のエリア2はこういった支給品もあまりに少ない。その四つを使えばもう無いのが現状だ。



「なら、それ使ってさっさと逃げろ。足手まといすぎんぞテメェら……」


「ゲイルも逃げるぞ! あんなのとまともやりあえるわけないだろ! まだいくつさっきみたいな異能があるかわからないのに……」



 ゲイルにだって『電磁壊の王(カマエル)』という桁外れの異能がある。



 けれども、あれはレベルが違う。使っている異能もわけがわからない。次元が違いすぎるのだ。





「『禁断果実(ヘクセンナハト)』──」




 魔王の手に「灰色の林檎」が収まる。


 そして、『思想脳冠(ケテル)』をくらったホークが地面に落としていた副武器(サブウェポン)である小振りなナイフを、魔王は拾い手に取った。




 また、異次元の異能が発動される──




「使うぞ! 四つ……ここにいる全員分!」


「チッ……!」



 ゲイルが異能を使って戦おうとするよりも早く、ハンナは四つの札をそれぞれ一人ずつ投げる。



 直後、









「──『暴略人知(コクマー)』」







 魔王は拾った小振りのナイフを異能発動と同時に、横へ無造作に振り抜いた。





 ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





 ナイフを振り抜いた前方へ、放射状にこの世の物とは思えない衝撃波が発生する。



 その衝撃波が舐めていくと立ちふさがる全ての木々が吹き飛び消滅していく。



 とどまることを知らず衝撃波は前へ、前へ。




 この日。




 小さなナイフのたった一振りのみで、小国ほどはある大規模な森林地帯「エラの森」の、








  ()()()()()()()()()()()





「ニンゲンとマジンは残ラず殲滅ダ……お前タチは、ヤクソクを、やブった………!」




・詳細レポート『禁断果実ヘクセンナハト


 ここでは魔王が有する異能『禁断果実ヘクセンナハト』の現時点での詳細を記載する。なぜ神から人間に与えられるはずの「異能」を魔王が使用できるのかは現段階では不明。

 『禁断果実ヘクセンナハト』は「複数の効果を持つ一つの異能」……というより「複数の異能を発動する異能」という捉え方が正しいと思われる。発動後に必ず色のついた林檎が出現し、齧ることでそれに対応した異能が発動可能となる。また、使用するには何らかの代償を支払わなければならないと思われるがそれも不明。


・『天治峻厳ゲブラー』──第5の『禁断果実』。赤色の林檎を齧ることで発動。生物の構造を変化創生する異能。臓器の作成、位置移動、さらには自身の体を新生物へと進化させることも可能で翼を生やしたり、呼吸器を変化させたりすることもできる。



・『思想脳冠ケテル』──第1の『禁断果実』。白色の林檎を齧ることで発動。相手の記憶情報を改竄破壊する洗脳光を発する異能。数秒見つめた者の記憶を一部破壊。数分見つめた者は全記憶を完全破壊され発狂して廃人となる。



・『暴略人知コクマー』──第2の『禁断果実』。灰色の林檎を齧ることで発動。究極破壊の異能。自身の攻撃に付与する形で発動され、その攻撃の威力を数万倍~数億倍にまで上昇させることができる。

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