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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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198話 『普通』じゃない子



 アストは光明を見つけた。



 完全無欠の絶対磁力。それを攻略する道が……!




「散々森の中を歩いたんだ。俺を楽しませろよ」



 ゲイルはバヂバヂバヂ、と『電磁壊の王(カマエル)』の能力で発電。凄まじい電気を纏う。



 それを、




「『電光雷槍(スコーピオン)』」



 槍状に伸ばし、撃ち放つ。



 ライハの雷魔法を想起させるほどの強力な電撃。あれに撃ち抜かれれば上半身と下半身がお別れすること間違いなしだろう。



それに対し、アストは……




 ゲイルに向かって、走り出した!!





「! はは、バカがこっちに走って来やがる……!」



 どうせ逃げるだろうと思っていたゲイルはそれを見て笑みを浮かべる。「狩り」に移行しかけていたものがようやく「戦い」に成った。




「『ブラックエンドタナトス』!!」



 バヂヂヂヂヂイイイイイイイィィィィ!!!!!!



 電光が爆ぜる。


 雷が暴れ狂って周囲の木を貫き焼きながら進む雷槍を、漆黒の大剣は斬り裂いた。




「う、おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


「じゃあ……これ(磁力)はどうすんだ? ほらよォ!!!!」



 向かってくるアストに、磁力展開。



(ここだ……!)



 二つの影の距離が……縮まる。



 そして…………




「ぐぁ!!!!!!」



 その声は、磁力をまともにくらったアストの声。










ではなく、



 ゲイルのものだった。





 ゲイルが、吹っ飛ばされる。



「ゲイル!?」


「え……なにが、起こったの」


 大人しく見物していたホークとハンナは、まさかゲイルが攻撃を受けるという光景に目を飛ばさん限りに見開いていた。




「お、…………? ! て、てめえ……ま、まさか……」



 自分の、攻撃を受けた箇所を確認する。



 受けたところは……右頬。触るが、そこに斬り傷なんてものは存在しない。当たり前だ。




 そこにくらったのは……打撃──拳による一発だった。



 見ると、自分を見下ろしていたアストは……素手。剣を持っていない。



 この時、ゲイルの脳内で駆け抜けた言葉は。



 『気づきやがったのか』、だった。





「一か八かで試した、けど……やっぱりな」



 ふらふら、とよろける足を叱咤してなんとか立ち続け……アストは笑った。




 その身には……【バルムンク】はおろか、【カルナのロザリオ】も、『サタントリガー』も外されていた。



 地面に捨てられたそれらを見て、ゲイルは今度こそ理解する。


 自分の異能の詳細がこいつにバレた、と。





「ゲイル。お前の異能──『電磁壊の王(カマエル)』。その磁力、人体には……いや、もっと言うとお前が『一括りに人と認識しているもの』には効かないんだろ?」



「て、めぇ……!」



 当たり、だな。



 万能な力なんてない。どんな力にだって条件が存在していたりする。「魔王の力」だってそうだ。



 そしてカナリアの仮説……「もしかすると、絶対磁力の影響を受けない物体も存在するかもしれない」という話。



 その時、カナリアはこう続けた。




 『疑問に思ったのは……どうしてゲイル・ガーレスタは「人」や「衣服」に対して磁力をかけようとしないのかってこと』




 ゲイルが防御をする時は大抵、自分の周囲に磁力を展開する。もしくは攻撃に使っている物に対して直接磁力をぶつけて反発させる。



 その時に疑問となるのは、どうして「相手自体」に磁力をぶつけないのか。



 一々武器に磁力をぶつけるよりも相手の体を吹っ飛ばした方が絶対に手っ取り早い。


 ただでさえ武器には渾身の力が込められているのだ。それなら相手の足に磁力を使って転ばせるなり、相手の頭を磁力で揺らすなり、力が加わっていない部分に向けて磁力を使った方が良いに決まっている。



 さらに言うと、引力で僕を引き寄せる時も【ロザリオ】が引力を受けていた。自分や着ている衣服じゃなく、【ロザリオ】を。




 そして極めつけは……今までの攻防で自分の体や衣服だけは磁力にまったく反応していなかった。吹っ飛ばされた時に受けた首元への衝撃──あれも【ロザリオ】が磁力に反応したからだった。




 なら、なぜそれをしないのか。なぜ、人体や衣服に対して磁力を使わないのか。



 そう。ゲイルの磁力には……『自分が「人」と認識しているものには一切の効果がない』という条件があるからだ。




 では、ここで言う「人と認識する」とはどういうものなのか。



 人はよほどの裸族でない限りは服を着ている。そしてその姿を見かけるのが当たり前だ。


 通常、僕らは「人」というものは「服を着ているもの」だと認識している。



 その結果。ゲイルの異能の条件にある『人に対しては無効』というのは、()()()()()()()()()()()『衣服』に対しても適用されることになっているようだ。



 では。どのようにして反発力で相手の攻撃を防いだり、引力で相手を引き寄せるか。




「『人が誰しも当たり前に身に付けている』……つまり『総じて人と思えるもの』という認識から外れるもの──『武器』……『装飾品』、それらに磁力を使うことでお前は人に向けて引力と反発力をぶつけられていたんだ!!」




 だったら!




「それらを全て外した状態──直接的な素手や蹴りによる攻撃だけは、お前は磁力で反発できないんだろ!!」


「が!!!!」



 ドガッ!! と全体重を乗せた拳をゲイルにぶちかます。


 よろけたところに、蹴り。それがノーガード状態のボディーに決まった。



 一転攻勢……となるが、これでも僕の方がまだキツイ。



 なぜなら、【カルナのロザリオ】を外してしまっていることだ。


 とうとう命を繋ぎとめる最後の一糸を手放してしまった。



 その瞬間に、急激に眩暈が生じる。頭がくらくらと揺れて動悸が激しくなる。


 発熱症状。さらに……



(か、体が……寒い)



 血を流しすぎた。これまではカルナが血を増やし続けてくれていたけれど、それもなくなったせいで失血死の危険性が迫っている。




「くくっ……殴り合いかぁ…………やってみろよ!!」


「ぐっ!!」



 突如発生した身体異常で油断していると、そこに目覚まし代わりに一発を叩きこまれる。


 お返しに、アストも一発。ゲイルも、さらに。




「な、なんやこれ、は……」


「……!」



 ホークとハンナは困惑していた。



 片や。「魔王の力」という特別な力に選ばれ、魔物を支配し、竜の闇魔法を扱う者。


 片や。一つのエリアのリーダーであり、あらゆる物を弾き返し、引きつける究極の磁力を扱う者。




 それらが、喧嘩のような殴り合いの戦いをしている。




 ドゴッ! バスッ!! ゴッッッ!!!!



 魔法や異能を使う者とは思えない戦闘。それに言葉が出てこない。



 なにより。



(ゲイル……?)



 あの、男がどうしてか。



 少しだけ、楽しそうに、見えていた。


 それは気のせいか。どうか。



 ホークはそんな思考を、頭を振って霧散させた。





「おらァ!!」


「……!」



 ゲイルの、体重を乗せた一発にアストはダウンする。


 強化された身体能力ではアストの方が上なのだが、如何せんやはり体力の問題であちらの方に分がある。命の危険がある状態では尚更だった。ゲイルがかなり喧嘩慣れしているというのもありそうだが。




「はぁ……はぁ。雑魚が。死んでろ……クソ」


「…………」



 血が混じった唾を吐いて、睨む。


 異能を手に入れてから、こんな殴り合いをするとは思わなかった。ゲイルはイラつく気分を唾と共に吐き出した。



「どう、して……だ」


「あァ?」




「お、お前達……ハンターは……どうして、ま、魔人を、簡単に殺すんだ……!」



 どちらも、人であることには変わりないのに。


 ハンターはまるでゴミを蹴散らすかのように魔人を殺していく。


 理由はきっと人それぞれ。それでも聞かずにはいられなかった。




 「ハンター」と出会った時に、アストはこの問いをぶつけずにいられなかったのだ。





「ぶっ壊すことの……何がわりぃんだ?」


「な……!」



「俺は強い。この異能を使って、壊す。ウゼェ(もん)をぶっ壊していく。それの何がわりぃんだよ」



 根本的な疑問。


 異能を手にし、それを振るう。たとえ、その相手が人の形をしていても。



 それの、何がいけないのか。




「ふ、ふざけるな……! 力を手にしたから、振るうのが当たり前だって言いたいのか!?」


「ああ、そうだ。だったら、なんだっつーんだよ」



 その答えにアストは怒りを覚えた。






「そんなの……()()()()()()()()だろ……!」





 単純な拒絶。嫌悪感から出た言葉。そこに何かの強い意味は含まれていない。そのままの、拒絶だった。



 だが、





「『普通』じゃ、ない……?」




 言葉が、零れる。無意識に。水が垂れるように。



「ああ……そう、だ! 命を踏みにじることが、普通なわけ──」




 アストの言葉を途中で遮断するように。ゲイルは、頭を押さえた。



 ズキ、ズキ、と頭が痛む。


 なぜか。




「ぐ……!」





 ──『ごめんね……』




 自分の中に、声が。誰かの声が、響く。





 黙れ。






 ──『ごめんね……ゲイル。全部、私が悪いの』




 黙れっつってんだろ……! うるせぇ!!




 声は、女性の声。涙に濡れた、悲しみの声。








 ──『ごめんね……ゲイル。あなたを、「普通」に育ててあげられなくて……』








「だまれええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!」




 吠える。空間を壊す。五月蠅い声を跳ねのける。





「俺は……俺、は『普通』だ……! 何もおかしくなんかねぇ……! うるせぇんだよ、どいつも、こいつも……!」



 髪を掻きむしる。イラつく。この世の全部に、イラつく。



「……」



 アストは、その只ならぬ様子を見て。それが彼の逆鱗(げきりん)に触れていたことを感じとった。



「じゃぁ、なんだ? あ? 『普通』って何なんだ?」


「え……?」




「偉そうに……指摘してる、テメェが……その『普通』ってやつなのか? そんなテメェ様の勝手な物差しから可哀想にも外れちまった俺が『普通』じゃねぇっつーのか? あァ!!」




 『普通』とは、そもそも何か? そんなことを問うてくる。




「俺はテメェみてぇな弱ぇくせにウザい講釈たれてくる雑魚が大嫌いなんだよ! 自分の力じゃ何も変えられねぇくせに! 何も守れねぇくせに! 口だけはベラベラとよく回りやがるクソ雑魚野郎が!!」




 バチッ!! ジジッ! ギッギギギュグッギギ!!!!!



 磁力の奔流が獣の咆哮のように暴れ散る。




「俺は……ぶっ壊す! 俺を邪魔する物も! ウゼェ物も! 気に入らねぇ物も! 俺から……奪っていく奴らを! 全部! 全部だ!!!! この力で全部ぶっ壊す!! 弱ぇ奴らは俺にぶっ壊されてろ! それの何がわりぃんだ!!!! 言ってみろォ!!」






 ──『ゲイル。あなたは何も悪くない』



「うるせぇ……!」





 ──『あなたは、誰よりも優しい子』



「黙れ! 黙れ黙れ!! 黙れエェ!!!!」






 ──『私なんかのために、本当にありがとう……ゲイル』



「うるせぇえええええええええええええええええええ!!!!!!」




 ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!



 ゲイルの怒りに呼応して最大出力の磁力が吐き出された。



 気になるゲイルの過去に関してはミルフィアの時みたいにエピソード5の後の『特別編』で出そうと思っています。ちょっとこいつは悲しいお話になります……


 この作品のいくつかある大きなテーマの一つに「己の過去との対峙」というものがあります。記憶喪失で過去を持たないアストという「真っ白な鏡」を通して色んなキャラが自分の忌まわしい過去と向き合わなくてはなりません。性格がねじ曲がってる子ほど過去が重い傾向にあります……あんな人とかあんな子とか。

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