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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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197話 天使の異能



「ちょっと待ってゲイル。なんか変なんだけど……」


「あぁ? 何がだ?」



 虫の息であるアストの前で、今にも襲い掛かりそうなゲイルをハンナは止める。




「こいつ……微妙に分かりづらいけど『人間』だ……」




「はぁ!? 事前情報じゃ『魔人』いうてたけど……」


 判明した情報に、まず一番にホークが声を上げる。



 今回の魔王後継者討伐作戦を立てたハゼルが言うには「アスト・ローゼン」なる人物は「魔人の魔王後継者」であるということ。もちろん「討伐」である時点でそれは当たり前だろう。人間の脅威となるのだから。



 しかし、「人間の魔王後継者」となれば話は違う。これ以上ない戦力だ。ここで殺すのはあまりにも惜しい。



 ハンナが「感知系」の異能を持っていることから、「アスト・ローゼン」が「人間」であるという情報は嘘ではない。ハゼルが嘘を吐いている可能性の方がデカい。



 ここは──



「ちょい待ちゲイル。あの子は一旦保護──」





「んなもん知るか」




 ドンッ!!!!!!!!!!!!



「ぐっ!!!!! うあああああぁぁ!!」




 ホークが、ゲイルへ視線を移した瞬間だった。


 彼の異能──『電磁壊の王(カマエル)』が、アストの体を吹き飛ばした。


 後方にある木に激突してズルズル……と落ちる。




「おいゲイル、何してんねん! 話聞いとったか!?」



「あーあー、さっきからベラベラと一々うるっせぇんだよお前ら」



 制止を促すホークとハンナを知らんふりでアストに向けて歩き出す。




「俺らは『魔王後継者』をぶっ殺しに来たんだろうが。んで、目の前に現れた。じゃあよ……」








「ぶっ殺してもいいんだろうがぁ!!!!!!!」




 またも『電磁壊の王(カマエル)』を発動。


 木にもたれていたアストに絶対磁力をぶつけると、その木を突き破るほどの威力で彼を吹っ飛ばした。



「っ…………!」



 血を流しながら宙を舞うアスト。その脳裏にはもう思考と呼べるようなものは存在しない。暴力に無抵抗に晒される小動物のようだった。




 ホークは頭を抱える。


 ここまで戦闘らしいようなことがまったくなかったせいでゲイルはイライラしていたのだ。それがここに来て悪い形で発散されている。



「しゃーない、か。元々討伐で来とるしな」


「…………」



 彼らはエリア2のハンター。そして、ゲイルはそのエリアのリーダーだ。彼のやることに従うしかない。

 ハンナはまだ少しだけ不満があるような曇った表情をしていたが……彼を止めることは難しいと知っている。もうどうしようもない。




「俺がやるから手ぇ出すなよお前ら」


「はいはい。まーた見学かいな。好きにせぇ」



 一瞬だけ「助かるかも」と思っていたものが簡単にひっくり返る。


 強烈な殺意がアストに突き刺さる。




(もう……魔力が限界に近い。クイナのオペレートもない。体は……カルナの力がなければ数秒後には死んでてもおかしくない……)



 最悪な状況だ。


 その上で、今からこいつらと戦えと?




 ただ……相手のことに関しては少しばかり知っている。



 「ゲイル・ガーレスタ」──ミリアドエリア2のリーダー。カナリアとライハが戦ったというハンターだ。



 以前に暇な時間が出来た時に話を聞いた。




 その異能は……「全ての物体に対して引力と反発力を発生させる特殊磁力」。




 僕の体を吹っ飛ばしたのも、その異能の能力だ。


 なるほど。たしかに凄まじい異能だ。反則級に汎用性があるくせに、威力も桁違い。



 聞いた話では、カナリア必殺の6節の魔法──「ツインウォーター・ドラゴニアス」でさえ、その磁力を突破できなかったとか。



 なら……





(一発だけでも撃てるか? 『ディグニトス』を……!)



 僕の持ちうる最強魔法『ブラックドラグレイド・ディグニトス』。



 「魔力を喰らう」という力は、魔人に対して最も有効な一撃とも言えるが、それを抜きにしても人間相手にだって必殺級の一撃だ。


 カナリアの6節でさえ突破できなかったのなら生半可な魔法は届くはずもない。むしろ魔力の無駄になるかもしれない。



 しかし、『ディグニトス』は『ファルス』三回の装填(チャージ)と、放つ際に少しの溜めがいる。発動の時間を上手く稼がないといけない。




 さらに、これは誰にも言えないことだが『ディグニトス』には副作用のようなものが存在している。



 撃った後に大きい「虚脱感」が襲ってくるのだ。


 どうやらかなり強力な魔法な分、ムウの魔力だけではなく僕の精神力のようなものも使っていると思われる。



 今までの経験からして、僕の体力が満タンだとしても一日に撃てる『ディグニトス』の回数は……二回が限界。三発目を撃ったら不発するか、撃てたとしても直後に気絶する可能性がある。




 今の僕の体力……こんな状態で、はたして一発すら撃てるのか、どうか……!




 それでも、やるしかない。生き残るには、これしか……



 妖怪の幹部を倒した後の、エリアリーダー戦。それも相手にとっては関係ない。



 勝つしかない……!






「『ブラックエンドタナトス』!!」



 開戦。アストは戦闘モードに入り、漆黒の大剣を発現させる。




「意味ねぇよ。『電磁壊の王(カマエル)』─『拒絶磁限壁(マグネグラン)』」




 ゲイルは自分の周囲に「絶対磁力」を展開。



 磁力の壁と、絶対切断の大剣がぶつかる。




 ドウゥンッ!!!!!!!!!!!!!




 まるで何かの膜に対して強烈な衝撃が加えられたかのような、沈み込む音。



 だが、その剣はゲイルには到達しない。




(こ……これが、磁力の壁……! なんて強さだ……!)




 もう体力がほとんど残っていないせいもあるだろうが、この強さは自分の予想の数倍上だった。




「あ、あ……ああぁぁぁ……!!」



 ギ、ギギ……! と持てる力を振り絞って剣を押し込む……が、進まない。




 ドンッ!!




「がっ!!」



 直後、首元に衝撃。さらにもう一発別に磁力を打ち込まれて弾き返されたのだ。




「げほっ……………くそ……」


「おい……魔王後継者っつーのはこんなもんなのか?」



 ぐい、とアストの服を掴んで起こす。



「そこらへんの雑魚と何も変わんねぇじゃねーかぁ!!」



 そのまま拳を固く握りこんで顔面をぶん殴る。



 アストは魔力を纏っているのでダメージは0……とはならなかった。



(なんだ……? なんで、こんなに痛いんだ?)



 アストはハンターと戦ったことないせいか知らないことだが異能者には「異能」という不思議な能力だけでなく、常人を超えた身体能力も授けられる。

 それでも魔力を纏った者よりかは動きだけで言えば数段落ちる。だからこそフリードも自分と互角、それ以上に速かったミーシャに驚嘆していた。



 だが、動きで劣るとしても、魔力を纏った者に対してダメージを与えられるくらいには身体能力が強化されているのだ。





 これでは延々と殴られ続ける……とアストはゲイルの腕を振り払って離れようとする。



 ……が、



「う──ぅえッ!?」



 グンッ──と自分の胸につけていたロザリオが強い力で引き寄せられる。それに応じてアストの体もゲイルの方へと。



 これは、『電磁壊の王(カマエル)』の……引力だ。




「おらァ!!」



 引き寄せられるアストに向けてもう一度拳が。


 カウンター気味に決まったこの一撃はかなりの威力で、それだけで後方へ数m飛んだ。アストの視界はグラグラと揺れる。



 なんとか距離は取れたが……ダメージの方が深刻だ。


 全然隙が無い。『ディグニトス』は対人戦では使うタイミングを見つける方が難しいというのもあるが、ゲイルの異能があまりにも強力すぎる。



 何か、突破口を見つけないといけない。



 無策で突っ込んでは勝てるものも勝てない。考えるんだ。



(奴の異能を攻略するんだ……!)




 『電磁壊の王(カマエル)』を(あば)こうとするアスト。それに対してゲイルは心の中で一つ疑問に思っていたことがあった。




(さっきあいつが剣で斬りかかってきた時……)



 アストの『ブラックエンドタナトス』と自分の『拒絶磁限壁(マグネグラン)』の衝突。



 若干。若干では、あるが。





(磁力を破りかけていた……? いや、『電磁壊の王(カマエル)』自体を……)




 今までの攻撃と変わらず磁力で押し返せてはいたが、不意に磁力が効きづらくなった時があった。


 その時はさらに磁力を強くすることで対応出来ていたが……過去こんなことはなかった。



 アルカディアの『メルディオーティス』には磁力を破壊されたこともある。『闇魔法』自体にそういう効果があるのか。




 それとも、あの魔法だけが何か特別なのか──





(まぁ、どうでもいいか。魔王後継者、今んとこは随分と期待外れだが……)



 わざわざこんな夜に、森にまで来たのだ。よっぽどの相手だと思っていたのにこれでは興味も失せてくる。



 『魔王の力』とやらも発動する様子がない。

 発動に何か条件がある能力なのか、単純にそんな力も残されていないか。



「はぁ…………くっっっだらねぇ」



 バキバキバキバキッ……ッ……! とゲイルの周囲に生えていた木々が数本抜け出て宙に浮く。



「結局、雑魚と一緒だ」



 ドドドドドドッ!!



 大木の弾丸がアストに向けて放たれた。それを見るや走って逃げる。



「くおっ……! なんて出鱈目な……」



 磁力で木を飛ばしてくるとは。カナリアからそういう攻撃もしてきたとは聞いていたが本当にそんなことが出来るんだな。


 ビックリはしたが、グールスの『レイジング・ガイアランス』と比べれば何も怖くない。いや、そういう話ではないが。



 しかし、グールスと違ってくるのは、ゲイルには特異な力があることである。



 逃げながら避けていると突然、首を絞められるような痛みが。また自分のロザリオが磁力でゲイルの方へと引っ張られている。


 けれど、さっきのように耐えられないわけではなかった。なんとか引き寄せられはせず、その場で踏みとどまる。



 そこに、木の弾丸が撃ち込まれてきた。




「『ファルス』!!」



 それが目的か、とすぐに『ファルス』を二回装填。




「『ブラックアロー・ヴァイディング』!」




 黒の矢を射出。その矢は木に当たると対象を爆散させた。

 それだけではなくゲイルに向かって八発ほど突き進んでいく。



「意味ねーっつってんだろ」



 ゲイルは手のひらをかざすと、自分に向かってきた黒の矢を磁力によって寸前で受け止めた。


 ぐぐぐぐぐ……と破壊の力と不可視の防壁による攻防を見せるが……ゲイルに触れることなく虚空へ消えていく。



 だが、今の攻防でアストの中に何かが残った。




(どうして……奴は磁力をすぐには展開しなかったんだ?)



 『ヴァイディング』を防ぐ際にかなりギリギリに磁力を発動していた。自分の魔法発動と同時に磁力を展開すればいいものを。



(いや、磁力の強さが問題なのか……!)




 それで思い出す。ゲイルの近くにいた時は自分のロザリオへの引力はかなり強力で抗えるものではなかった。


 けれど、離れていた時に奴から受けた引力はその場で踏みとどまれるくらいには弱かった。




 『電磁壊の王(カマエル)』……一見して万能な力に思えるが、あくまでそれは『磁力』であることに変わりはない。


 離れていれば弱い……というよりも、正確には力の影響を及ぼせる範囲もあまり大きくはないんだ。




 そして、もう一つ。



 奴がロザリオを引っ張った時に確信が持てた。


 以前にカナリアが奴との戦いを終えて、異能を改めて分析した結果『もしかすると磁力の影響を受けない物体も存在するかもしれない』と、ある仮説を聞かせてくれた。



 戦ってみてさっきまではそんなもの本当にあるのか、と疑問だったが……




(もしかして。たしかにカナリアの言う通りもしかして……だけど)




 見えてきたかもしれないぞ。奴の……ゲイルの異能の正体が……!




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