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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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193話 黒白心意一閃

 アストの中に眠る想い。大切な誰かを救いたい、そして『生きる理由』を探すため、アストは再び王鬼へと挑む。たとえどれだけ絶望的な状況だろうと、もう負けるわけにはいかない……!



「なにぃ……?」


 王鬼は、正直この事態に困惑していた。



 逃げきれなかったことに、ではない。この男が向かってきたことに関してだ。



 どう考えても力量は自分の方が上。戦えば勝つのはこちら。



 それなのに、なぜ来た……? この童は阿呆(あほう)なのか……?



 わざわざ見逃してやったのだ。主からすれば酷く安堵したことだろう。



 なぜ……!?




 王鬼はもうそれ以上、困惑するのをやめた。


 本来。こうして撤退を優先しているのはゼオンの成長した力を見て危険と判断したため。ここでアストと戦うことはその判断に反する。



 だが、冷静になれば成長したのはあのゼオンの方。つまり、ここに今来ているのは「弱い方」なのだ。しかも今にも死にそうなほどにボロボロ。



 見たところ毒は消えている。どうやって自分の毒魔法を解除したのかはわからないが、始末するのにそう苦労はしない。




 一度捨てると決めた大魚がまたやってきた。





(どうする? 欲張るか? それとも万が一を考えて撤退か?)



 アリスさえ連れ帰れば目的は100%達成したことになる。なんの不満もない。完遂だ。




 今、問題なのはそれを120%にするかどうかの話……





(ふ……愚問……!)



 王鬼は、さらに考えを修正することにした。




(ぬらりひょん様が喜ぶことをみすみす捨てる等、どうかしていた……! そもそも我が負けること自体があり得ぬ話。『アリス』の魂はすでに手に入ったも同然。ならば……)




 「魔王後継者」を手に入れんでどうする……!!




 過去の自分を殴ってやりたい。何が「危険」だ。何が「アリスさえ連れ帰れば問題ない」だ。




「我の目の前に現れた時点で、全てぬらりひょん様の物なりぃッ!!」



 最強の怪物は動き出した。その力を、全力を、今度はたった一人の瀕死の少年へ向ける。





「……アリス、待ってて。すぐに助けるから」




 ゴオオオオォォォォォ!!!!!



 アストの【バルムンク】と、王鬼の手刀がぶつかりあった!


 激震が走る。空気が破裂したような音を響かせ、戦いの始まりを告げる号砲と化す。



「─ッ!」


 こっちは魔法武器で打ち合っているのに、腕がミシリと痛む。押し負けそうだ。



(「真っ向から打ち合うのは推奨できません。出来るだけ隙を見つけてください。こちらでも行動予測を試みます」)



 クイナの言う通りだ。真っ向からは危険すぎる。



 でも……!




「人の命をモノとしか思っていないお前には、絶対に負けたくない!!!!」




 ガグシュッ!!



 僕は【バルムンク】を握っていない手──左手に魔力を集中させ、剣を遠慮なくぶん殴った!!



 【バルムンク】は両刃の剣。いくら体に纏っていた魔力のほとんどを拳に移動させたとしても本気で、しかも「魔法武器」をぶん殴ったとなればただでは済まない。おかげで視界に真っ赤な血の華が咲いた。


 だが、まさかそんなことをしてくると思っていなかったのか、王鬼は自らの手刀ごと押し返されてぶっ飛ぶ。手刀に使っていたその手も、指の付け根から先が全て切断される形でなくなる。



 これは今までのお返しだ。僕は退かない。


 退く時、それはお前からアリスを救い出した時だ。




「『刃地獄』!!」


 王鬼も手加減はしない。散々苦しめてきた無詠唱発動を使って『鋼魔法』を繰り出してくる。


 これは……いたるところから刃を生やし、敵を切り刻む魔法!




(「魔法の出現予測地点を演算しました。表示します!」)



 クイナの声の後に、僕の視界に変化が訪れる。


 自分が立っている場所、地面のいくつかに、赤のマーカーが出現した。



 まさかこれは……



 僕はすぐに今いる場所から飛び退き、赤のマーカーを避けながら移動する。


 次の瞬間、マーカーの地点全てから刃が飛び出た!!




「なぬっ……読まれておるだと……!?」




(やっぱりそうだ。すごい。敵の魔法攻撃を完全に予測してる……!)




 オペレーターの大きなサポートの一つに「予測演算」がある。


 これは敵の行動パターンを十分に収集すれば次の行動を予測したり、攻撃を回避する適切なルートを割り出したりすることが可能なのだ。


 とはいえ、それも完璧とは言えない。肉体を使っての攻撃なら予測が難しいこともある。



 だが、こと魔法攻撃においてはオペレート対象の視界から魔力の流れや変化を瞬時に読み取ることが可能なので回避サポートがしやすいのだ。

 また、魔法は書き込まれた術式の内容から逸脱した効果を発揮できない。大して珍しくもなく周知されている魔法術式や知っている魔法ならある程度発動された時点で予測も成り立つ。




 かなり便利だが、問題はやはり先も言った通り「敵の行動パターンを十分に収集する必要がある」、これに尽きる。



 魔法でも人によって魔力の入れ具合や練り具合、魔力の質、発動の際の癖等々で微妙に変化する。そういった情報をしっかり集めていないと予測をしてもズレが生じる。

 生きるか死ぬかの戦闘でズレが生じることが致命的なのは語る必要はないだろう。だからこそオペレートする者は情報が集まっていない時点で予測演算なんて絶対にしないし、技術がある者でないと手も出さない。



 王鬼の情報を集めるのにも苦労した。


 しかし、アストとゼオンの決死の攻防により、学院三年生レベルでしか出来ない「オペレーター」を一年生の時点でマスターしているクイナがなんとか短時間で情報を集めきったのだ。




(「といっても、まだまだ完璧ではありません。どこかで予測がミスすることもありますし、あまりにも規模がでかい攻撃だと避けるポイントを探すことも難しいと思います」)


(「わかった……」)



 あくまで「予測」。相手の情報がもっと欲しいこの段階では信じすぎるな……ってことか。



 それに、規模がでかい攻撃──「炎雷刃地獄」がくれば……はたして避けることができるかどうか……!



 王鬼は即座に斬られた指を魔法で回復させて再び四本の手刀で襲い来る。


 これら全てが剣に等しき殺傷力を持っている。



 なんとかアストは【バルムンク】だけで防ぐが、やはり単純に手数が足らない。次々に体が傷ついていく。

 胸につけている【カルナのロザリオ】の光がさっきよりも強まった。常時発動するほど体が異常をきたしていたが、ここに来てさらに体へ異常が発生したようだ。



 しかし、アストはそんなことを気にせず、ひたすらに剣を振るう。今ここで一瞬でも動きを止めてしまえば奴の手刀は間違いなく自分の首を飛ばすだろうから。





(この童……気でも違っておるのか……!?)



 それに対し、王鬼はアストに戦慄していた。


 アストの出血はすでに尋常ではない量に達している。死んでもおかしくない。

 だが、【カルナのロザリオ】が出血多量の失血死を防ぐために彼の体内の血を急速に増やしているのだ。


 それが先程からさらに発動し続けている理由。発熱を治し、彼の死をギリギリのところで踏みとどまらせている。



 そんな常軌を逸した戦いを見せるアストに少しばかり気持ち悪さを抱いていた。そこまでして戦うのは普通ではない。




(楽にさせてやろう……!)



 王鬼はバックステップで距離を取り、



「『炎雷地獄』」


「!!」



 炎と雷の魔法を発動した!



(くる……!)


 その瞬間、視界に回避ポイントであるマーカーが配置される。

 クイナによるサポート。これなら……!



 アストは決死の想いでそこに飛び込む。動きで言えば王鬼の魔法から距離を取る……ではなく、むしろ魔法に飛び込む形となっている。



「諦めおったか童!」



 その行動に、自殺の意を感じ取ったが……



 ガガガガガガガッ!!!!!!



 無数の雷撃と炎海が地上を蹂躙する。そこへアストが突っ込んだのだ。ただでは済むまい。



 だが、



「なに!?」


 雷撃が止み、炎海が過ぎ去った中に……少年の姿があった。



(偶然、魔法が当たらない位置に……? 見切りおったのか?……いいや、違う。特殊な支援を受けておるのか!)



 ここにきて王鬼は感じ取った。アストがオペレートを受けて居ることに。



 炎雷地獄を避け、そこに一瞬の隙が生まれる。




 ここを逃すわけにはいかない!!!!




 アストはゼオンから受け取った魔力を解放! 一気にそれらを身に纏う。



「魔力の属性が……変わった!?」



 王鬼が言ったように、今のアストが纏っている魔力には『光魔法』の属性が感知できた。


 アストは『闇魔法』を使用していたが、ずっと属性がない魔力を纏っていた。自分と同じく複数の魔法を扱っていることに驚いたのだ。


 正確にはアストの所持属性魔法はまだなく、『闇魔法』はムウの魔法で、『光魔法』の魔力はゼオンの物なのだが……




 ムウに、ゼオンに、カルナに。





「今、僕は、皆の力でここに立っているんだ!!」




 『ファルス』を装填(チャージ)



 その時、不思議なことが起こった。




 纏っている『光魔法』の魔力と、【バルムンク】の中で増幅している『闇魔法』の魔力が……合わさっていく!



(こ、これは!!)


 王鬼はまたも驚愕した。そう、ここに、奇跡が降臨した。




 魔法を発動しているのはムウとはいえ、




 【バルムンク】を使っているアストの『アリスを救いたい』気持ちと、



 俄かには信じがたいが……魔力に宿っていたのか。ゼオンの『アリスを守りたい』気持ちが、





 二つの魔力を融合させる奇跡を起こした!!





 アストは、紡ぐ。その奇跡の魔法の名を。





「『デュアルエレメント──』」




 いくぞ王鬼。僕と、ゼオンの、『魔法』を──いいや、




 『想いの力』を受けてみろ!!!!








「『タナトス・カオス・ディバイダー』!!!!」





 黒と白の二色が融合した大剣が顕現。それを袈裟(けさ)に振り下ろす!




「ぬ、ぐうぅぅぅおおおおおおぉぉぉ!!!!!!」



 王鬼は魔力を局所集中させて防御に専念。



 が、それすらもバターのように簡単に斬り裂く!!



 闇と光、破壊と断罪の、黒白(こくびゃく)一閃。



 見事に王鬼の体を斜めに真っ二つにしてみせた……!



・詳細レポート『タナトス・カオス・ディバイダー』


 アストとゼオンの『アリスを助けたい』という想いが合わさり生まれた光属性と闇属性の『融合魔法』。『ブラックエンドタナトス』と『ホワイト・レイ・ディバイダー』の威力を重ね合わせ、その刃に切断できないものはない。

 そして、事実上この魔法は「人間」と「魔人」が共に生み出した世界初の魔法ということにもなる。はたして、二つの種族が紡ぐ奇跡はこれにとどまるか……それとも……

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