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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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192話 恐怖を越えて、もう一度戦え



 アスト達のいる地点からかなり離れた場所。

 そこではフリードとミーシャによる、神速の斬劇が繰り広げられていた。



「あは♪ おにーさん弱すぎ」


「ちょっ、君はマジで強すぎ……!」



 ガガガガッ!!!!!!


 刀が空間に線を引き、槍斧(ハルバード)がバトンのように振り回され空間を掻きまわす。

 もはやマシンガンの音かと間違えるくらいに彼らの打ち合う速度は異常であった。



(この()……魔力がない人間なのに俺と同じスピードで動いてるんですけど……!)



 フリードは驚きを通り越して勘弁してくれという心地だった。


 おそらくは身体強化系の異能。そうでないと説明がつかない力と速度。

 エリア6のハンターとは、たった十数歳の少女でさえ自分と互角に打ち合えるというのか。



「……っと! うぇ!?」



 一旦休憩するために彼女の槍斧(ハルバード)を強く弾いて距離を取る。その直後、ガクンと足が力を失った。



 見ると、いつの間にか自分の右脚から出血しているではないか。



(うっそでしょ……! いつ斬られた!?)




「あれ? おにーさんもしかして見えてなかったの?」



 戦慄しているフリードを尻目にミーシャは無邪気に笑う。


 彼女の持っていた槍斧(ハルバード)、それが……()()()()()()()()()()()




「ああ、なるほど。それが君の……『人造神装(アーティファクト)』ね」


「うん。《セレネイド》っていうんだー。ミーシャの人造神装」



 「人造神装(アーティファクト)」。


 それは魔人が使う「魔法武器」のように。人間が使う「異能」の力が加わった特別な武装のこと。それらは通常の武器には見せることのない超常の力を持っている。



 ただし、この武器は誰でも使えるというわけではなく選ばれた異能者にしか使用できない。武器と使用者が適合するかしないかによって所持できるかが決まる。適合しなければなんの効果も発揮しないらしい。



 適合に関しては、まるで神から与えられる「異能」のように……実力というより完全に素質や運みたいなところがある。けれども……一つの「人造神装(アーティファクト)」と適合することすら珍しいと言われるくらいに所持するのは難しいと言われるが。




(伸縮自在の槍斧(ハルバード)……か)



 それにより繰り出される変幻自在の斬撃。

 剣戟の最中、彼の認識を掻い潜る速度で打ちこまれた予想外の一閃。切断とまでは至らぬもののしっかりと脚を傷つけていた。



 褒めるべきはそんな複雑な武器を扱える彼女の技量だろう。


 普通、持っている武器の長さや固さが変わるなんて信じられない。手に馴染んでいればいるほど違和感に襲われるだろうに。




 天才、と言うほかない……




 ここで勝負は、決してしまった。



「はい、終わり~」



 ミーシャは槍斧(ハルバード)型『人造神装(アーティファクト)』──《セレネイド》を振り上げる。


 次にフリードは、死ぬ。





 このまま、何事もなければ……だが。



「ッ!!」



 ミーシャは肩から出血する。その痛みでか《セレネイド》はフリードの首を両断するコースから外れる。


 その隙を見てフリードは今度こそ距離を取った。



「あれ……? 何この傷……」



 ミーシャは覚えのないダメージに困惑する。それを見ていた相手は……



「あれ? もしかして見えてなかったの?……ラッキー」



 彼女の言葉を返して。フリードは息をついた。



 剣戟の中でミーシャがフリードに一撃与えていたように。彼もまた彼女に一撃与えていたのだ。



 「エリア6のハンター」とは、たしかに化け物だ。人間でありながら魔人を虫のように殺していく人間を辞めた人間。


 だが、「魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の副隊長」もその名前に負けないくらいに力を持っている者なのだ。



「今んとこ互角……みたいだけど、どうする? 続ける? つっても……まだ俺は『属性魔法』使ってないけどね」



 そうなのだ。奥の手……というわけではないが自分はメインウェポンを隠し持っている。

 こういう相手には「魔法」を使わず真っ向から武器で戦った方が良い場合もあるが……武器を使っての攻防で互角というなら、まだ力を隠しているこっちが強い。



 そう思っていたフリードだが、




「別にいいよー。ミーシャもまだ『いのー』使ってないし」


「……へ?」



 その異常な身体能力から、相手は身体強化系の異能を使っていると推理していたのに。



(素の身体能力で魔力使ってる魔人と同じくらい速いのかよ。ありえねー……)



 しかも。



「おにーさん、ちょっとだけ強い人だったんだね。だったら……少し本気出しちゃおっかなー」


「あーはいはい。まだ力隠してますよ系ね。……聞きたくなかったー、それ」



 手加減されてたのかよ、と吐き捨てる。



(ほんとアレンくんといい、この()といい。エリア6のハンターって強いくせに皆こうなの……?)



 ただでさえめちゃくちゃ速いと感じていた斬撃がさらに速くなると思えば泣きたくもなってくるが……



「じゃあ、とことんやろうか。逃げられないっぽいし。こっちもちょっとくらい本気出しちゃおうかな」


「いくよー♪」



 再び、異次元の剣劇が始まった……




   ♦




 アストは王鬼を追うために力の限り疾走していた。


 『ファルス』の身体強化や、魔力を纏いながら走っているので楽……と思えるが、これがかなりキツイ。


 というのもさっきからずっと【カルナのロザリオ】の「状態異常回復」が発動しっぱなしなのである。



 つまりはどういうことか。



 王鬼の『毒魔法』によるウイルスではなく体が傷つきすぎたせいで自然に「発熱」を引き起こしているのだ。



 【カルナのロザリオ】は一瞬にして身体状態の異常を治癒することはできるが、体力の完全な回復はできない。


 その異常が魔法によるものであれば原因となっている魔法を消し去ることで回復できるが、自然に発症しているものを消しても体力が戻らない限りその上からさらに発症するのだ。今のアストがまさにそのような状態なのである。



 発熱、治癒、発熱、治癒、発熱、治癒。



 異常を検知したそばから削除し、また異常が発する。体がおかしくなりそうだ。

 そんな状態で疾走していればキツイというのも当たり前。もはや普通の精神状態ではない。出血だってさっきから止まらない。



(それでも、止まるわけにはいかないんだ)



 どれだけ悲鳴を上げたって。どれだけ体が苦しくたって。

 




 ──もう、諦めるの?



 諦めない。諦めたくない。もう二度と諦めたくなんか。








 ──諦めそうになった時、まずは立って。どれだけ痛くたって、体が千切れそうになったって、自分の脚で立って。



 はは……立つどころか走ってる。今にも足が千切れそうだけどね……。それでも、また立つよ。








 ──立つことができたなら、今度は前を向いて。下を見ていても何もできない。前を向いて……敵を見て。自分が倒すべき敵を。


 前……か。もう前を向くことすら辛いけど。そうだ。前、を……。敵は……まだ見えない。見えないけど……大丈夫。絶対に……追いつく……。追いついてみせるから。








 ──前を向けたなら、今度は決めて。自分がやるべきことを。その敵をどうしたいの? 貴方は何のために戦うの?



 やるべきこと? どうしたい?




 王鬼を倒して、アリスを救いたい。ゼオンを、救いたい。


 そのために……戦う。





 でも、




 僕は……何のためにこうしているんだろう。


 何のためにアリスを救っているんだろう。ただ、そうしたいだけなのか。



 どうして人のために自分の命を危険にさせているんだろう。




 僕は……





 変わらず全力で走っていると、とうとうその先に目的の相手の背中が見えた。



 アストは足に魔力を集中させ、強く地を蹴りつけ飛ぶ。


 相手の頭上を飛び越え、そのまま進路を塞ぐ形で立ちはだかった。




「む……? ! (ぬし)は……!」





 僕は……きっと、「生きる理由」を探しているんだと思う。




 「人」はなぜ生きるのか。「人」は何のために生きるのか。




 記憶がない「僕」は、何のために生きているのか。




 そうだ。僕は。


 大切な人を救うことで、





 それを、ずっと、探しているんだ……






「魔王後継者の(わっぱ)……!」


「王鬼」







 ──そうすれば、ほら……貴方は







「僕と、戦え」




 ──もう一度、戦える。



 「人間」と「魔人」の世界をどっちも描こうとしたり、色んな人の必死に生きてきた証を描きたいせいで自分の力不足か、設定過多キャラ過多になりがちなんですが……こう、上手く呑み込んでくれてたりすると本当に助かります。特にキャラの多さよ……

 人間の武器である『人造神装』なんかも次のエピソード6でもしかしたら詳しく説明することになるかもしれませんが、ぶっちゃけ魔法を使ってる奴の武器が「魔法武器」、異能を使ってる奴の武器が「異能武器」くらいの認識で良いと思います。

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