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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
202/230

190話 光輝け兄妹の絆 怒りの「ステージⅡ」解放!!



「くだらぬ。何も、変わらぬ」



 手刀と豪腕が小さな暴力の嵐を巻き起こす。



 それでも僕らは怯まない。まったくの停止もなく突っ込んだ。



 光の拳と豪腕が、手刀と闇の刃が、ぶつかり乱れ舞う。



 こっちが弾かれる。それどころか衝撃波まで僕等の体に叩きこまれ意識を刈り取ろうとする。


 だが、怯まない。




「うおおおぉぉぉ!!!」


「あああああぁぁ……!!」




 光と闇を絶え間なく炸裂させる。王鬼を激しく攻めたてる。

 いつしか僕とゼオンの動きは合わさっていき、見事な連携と言えるほどに二方向からの攻撃を実現させていた。




 だが、現実はそれでも甘くはない。




「決意だけで差は埋まらぬ! 『炎雷刃地獄(えんらいじんじごく)』!!」




 なんと。ここにきてまだ隠し玉を解き放つ。無詠唱魔法3連発動。




(「魔力を右足腿、左腕、頭部にそれぞれ30%増加させて後方へ退避!」)



 クイナの警告の通りに行動。

 いつもと違うのは回避行動だけではなく、「魔力の装備」に注文が来たこと。



 それは……この攻撃が回避不可能であることを意味していた。




 炎熱熱波、轟雷閃、刃海。



 全て同時に顕現した。


 さながら地獄絵図をここに描き出した。




「ぐああああああああああぁぁ!!」


「だっ………な、……がぁ…………!!!」



 体を焼かれ、裂かれ、斬られ。


 僕達は全身から出血して、地面を舐めた。




「これで終わりだ童共」



 王鬼最高の一撃。『炎雷刃地獄』。体がまだ残っているだけ奇跡と言えるだろう。



 僕は再度体を叩き起こそうとするが。

 毒が、もうそれを許さない、と地へ縛り付ける。さっき立てたのは少しでも残されていた最後の力だったのか。



 ゼオンは、




「あ、……り、すを……………返、せ……!」



 立った。死にそうになりながらも。立ち上がった。毒の周りを魔力で必死に押さえつけて。




「な……、まだ、立つのか……!」


「か、えせ……!!!!」




 ゼオンの怒りはさらに上昇する。もっと、もっと、この怒りは燃え上がる。

 もう、この怒りは止められない。何度だって立ち上がる。立ち上がって見せる。




 相手を、滅するまで。





「俺の家族を……返せ!!!!」




 瞳に、闇混じりの烈火の怒りが灯る。



 その時だった。




 ゼオンの魔王深度が、






 「50」に達した。





   ♦




 ~世界のどこか~




 アルカディアとカチュアが隠れ潜んでいる場所。


 そこで、ゆったりと椅子に座り高みの見物をしていたモニターの画面にはゼオンの姿があり、そこには50と表示されていた。



「アルカディア様! ゼオン・イグナティスの魔王深度が50を突破しました!」



「へぇ……アストくんじゃなくて、そっちが『ステージⅡ』に入ったか……」


「ステージ……Ⅱ?」



 カチュアは聴き慣れない単語に首を傾げていると、アルカディアは予想が外れたというように肩を落とす。



「魔王深度50……『ステージⅡ』は『相手を滅ぼしてやりたいほどの激しい怒り』が鍵となって到達可能となる魔王の力の更なる姿」



 それでも、アルカディアは面白そうな物を見る目でモニターを見た。



「これを飼いならすのは難しいけれど……この力は凄まじいよ」




   ♦




 魔王深度が「50」を突破。

 そしてゼオンの体がドクンッ!と跳ねる。それを知覚すると、




「貴様は、すでに万死の一線を……越えている」




 なぜか、ゼオンは再びサタントリガーを取り出す。そこへ……突如どこからか出でた闇がそれを覆いつくした。





 すると……黒色のサタントリガーが()()に変わった!!





 あれは、まさか……新しいサタントリガー!?



 ゼオンは新たなサタントリガーのスイッチを入れて起動する。




『next stage progress!』




「俺の光で貴様を裁く!…………解放宣言!!」




『サタントリガー・ステージプログレス!

 ネクスト・ディメンション アクティブモード』




 炎の怒りを体現させたかのような赤のサタントリガーを発動し、インジェクタータイプのそれを「魔王の左腕」へ突き刺した!



 ゼオンの体は高密な闇に取り込まれ、超絶なる力の波動の余波を吐き出していく。



「なんだ、これは……!」



 王鬼ですら、突然の変貌に驚く。




 悪魔のような左腕はさらに禍々しい姿を取るようになり、そこに存在するだけで時空を歪めているんじゃないかと錯覚してしまうほどにユラ……ユラ……と付近の空間が揺らめいている。

 そして、内包する闇は以前とは比べものにならない。「魔王の力」がランクアップしているのが感覚的にわかってしまうほどに……その力は異様だった。



 これが……「魔王の左腕 ステージⅡ」の姿。




 彼の瞳に刻まれていた不気味な紋様──「魔王の烙印」には二重になるようにもう一つ紋様が刻まれていた。



 これは、一つの壁を突き破り魔王に近づいた証。




 その壁とは魔王深度「50」。それに達する条件とは「限界を超えた怒り」。



 当たり前だがゼオンはこれを知らない。50に達すると新たな力に目覚めることも、その条件すらも。


 偶然にも王鬼がそれを目覚めさせてしまったのだ。家族を奪われ、その命の価値を踏みにじられたことによって。





「そこで見ていろアスト・ローゼン。俺は……お前の先を行く」


「え?」




「出でよ 我が怒りで夜空に(あかね)差す光のマジックサークル!!」



 「ステージⅡ」に達したことは、何も「魔王の力」が強くなるだけではない。



 眷属もまた、成長する。




「怒涛の銀河よ 紅蓮の光を身に纏い 星々散る夜を明るく染め上げ その(あか)き咆哮で次元世界を掌握せよ!!」









「降臨せよ我が眷属

 『夜光赤天竜(マーズ・ディライト) プラネット・ヴォルテリオス』」





「キュオオオオォォォォアアアアアアアアアァァァ!!!!」




 紅の光に包まれた光竜。あれほど美しかった翼は醜く感じるくらいに炎光を発して怒りを表す。尾は先まで刃物のように鋭くなり、体に纏うその光は直視するだけで目が焼けそうだ。



 これが「プラネタル」の進化態(エボル)……!




 しかし、「炎光」といっても実際に「炎」を身に纏っているわけではない。あくまでこれは「光属性」の魔物であることに変わりはない。「炎魔法」が使えるわけではない。



 では、何が変わったのか。




 まずは魔力量。これはプラネタルの数十倍はある。あれとゼオンが合体してしまえばどうなるか想像しただけで恐ろしい。


 体の大きさも、さらに大きくなっている。



 そして……一番の特徴は。




「ヴォルテリオス。『ディメンション・キャンセラー』」




 ゼオンが赤天竜(ヴォルテリオス)に命令する。



 ヴォルテリオスが翼をはためかせ、紅の光の粒をゼオンの体へと降り注がせた。




 その効果とは、



「なぬ……我の毒が……!」



「ヴォルテリオスは一定距離の付与系統の魔法を全て分解する能力を持っている。それにより、魔法を媒介として俺の体に付与されていた毒を破壊し、同時にもう貴様の毒魔法は一切の役立たずとなる」




 王鬼は自分の魔法に毒魔法を仕込ませるといった攻撃ができた。それによって攻撃を受けるだけでこちらが弱っていく……といった戦法を披露したわけだが、毒を無害化するだけでなく、もうこれで魔法に『毒』を仕込むことすらできなくなったというわけだ。



 僕にもその効果があるのか、と思ったけれど……僕の体から毒が消える気配はない。これはわざとだな……。まだあいつの中では僕は「敵」なのだろう。それとも黙ってそこで見ていろとでもいうのか。




「毒がなくなっただけで図に乗るな童!」



 そう。それだけで戦況は覆らない。


 毒がダメなら、元の身体能力ならばどうだ。



 王鬼は手刀をゼオンの喉元へ。このままいけばその手刀は彼の喉を突き破るだろう。





 しかし、そうはならなかった。




 王鬼の目の前から、()()()()姿()()()()()()()




「なに? どこへいった!?」


「ここだ」



 王鬼の10m背後に、いつの間にか彼の姿があった。




「……高速移動か。少し速くなった程度で調子に乗るでないわ」



「高速移動だと? 笑わせるな。そんなことはしていない」



「?」



 僕の目から見ても、目でも追いきれない速度で移動したのかと思っていた。だからこそその反応には僕も驚いた。




「わけのわからぬことを……!」



 王鬼は今度こそ、と強く地を蹴って今までよりも速く動く。



 その速度は途轍もない。これまでの攻防の中、その速さで動かれていたら今頃どちらかが息絶えていた可能性が大きいほどに。つまり、ようやく本気を見せてきたわけだ。



 王鬼の手刀がゼオンの顔面を捉える。次には顔の骨が破壊される……





 と、思いきや。




 その手刀は虚空を裂いた。




「?」


「何をしてる。こっちだ」



 またも、ゼオンは王鬼の背後にいた。




(む……我の目でも追いきれん……!)




 ここにきて王鬼は相手が自分の認識を超える速度で動いていることを認める。二回に渡り動きを捉えられなければ仕方もない。



「童……主は一体何を……」




「貴様は何か勘違いしているようだが、俺のステージⅡの『次元』に『速度』という概念は存在しない。なぜなら、」




 そこでまた姿が消える。次に声がしたのは、






「自己座標変更能力。それが俺の『ステージⅡ』の力だ」




 王鬼の真横。目の前から一瞬でこの位置に移動した。



 進化した『次元』。それは自分の位置座標を望んだ場所へ移す能力。




 すなわち、即時ワープ能力。



 ワープと言うと『移動魔法』がすでに存在しているが……あれは事前に移動するポイントに自分の魔力のマーカーを設置しておかなければ使えない。また、その行為にもかなりの手間が必要で、難度も高く戦闘中には使い物にならない。



 だが、ゼオンのこの能力はそれら一切の準備が必要ない。好きな座標へ文字通り即時的に瞬間移動しているのだ。




「な……!」


「ようやく貴様に届いたぞ」



 ゼオンの拳は王鬼の顔面を捉え、勢いよくぶっ飛ばした。



「ぐぅぉ……!」





人魔一体(ユニオン・リンク)。来いヴォルテリオス」



「キュウウウウオオオオオオォォォアアアァァ!!」



 ゼオンとヴォルテリオスの魔力が融合する。紅光を纏い、背中には赤白(せきびゃく)の六枚の翼が。進化した眷属が有する爆発的な魔力を手にした。



 その魔力から繰り出される、ゼオン必殺の魔法。






「光の精よ我に力を 天空煌星(てんくうこうせい) 暗黒の夜に白き星を 煌々(こうこう)たる光よ一点に収束し 天を裂きし一撃へ成れ 全ての罪を消し去りし 竜光一閃、退魔の矢!」





 ゼオン渾身の、7節詠唱の光魔法!!






「『シリウス・コード・ブレイザー』!!!!」





 光で構築された弓矢を手にし、それを解き放つ。



 高密度の光のレーザーが撃ち放たれる。

 ヴォルテリオスとゼオン。二つの強大な魔力が合わさった一撃。それは通常の光魔法で放たれるレーザーよりも何倍も大きく威力が桁違いであった。




「が、があ、ああああああぁぁ………!!!!!」




 撃ち抜かれる、というよりも「消滅」という方が正しい。


 光のレーザーは王鬼の体を丸ごと飲み込み、塵すら残さず消滅させた。



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