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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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1話 王の誕生


「フッ!……フッ!」


 広大な草原(そうげん)の中で少年が1人。少年は木剣(ぼっけん)を振っていた。それは日々の鍛錬(たんれん)の1つでありこの少年は体を鍛えているのだ。

 その鍛錬(たんれん)のおかげか体にはしっかりと筋肉がついている。ただ少年はかなり細身なので服を着ればかなり()せて見える。ゴツゴツとした印象はまったくない。

 この少年が童顔(どうがん)なのもそれの一助(いちじょ)になっているのかもしれない。少年自身はそれに悩んでいるのだが。



「よし! 今日の分は終了!」



 少年が毎日鍛錬(たんれん)をすることには理由があった。

 一番大きな理由は生きるため。今の世界はかなり物騒(ぶっそう)で「人間」と「魔人」という種族間での争いが()えないと聞く。自分の身は自分で守れるようにならないとダメなのだ。


「さて、そろそろ帰らなきゃな」


 少年は木剣(ぼっけん)を持って帰路(きろ)につこうとした。

 自分の師匠にあたるあの人が心配しているかもしれない。前に鍛錬(たんれん)に集中しすぎてずっと家に帰らずやってたらわざわざ探しに来たこともあったし。




「アスト。もう終わった?」



「あ……ベルベット」




 と思ったらその本人の声が背後からかけられる。後ろを振り向くと自分の師匠である「ベルベット・ローゼンファリス」がいた。


 大人の落ち着いた雰囲気がありつつもどこか少女のような無垢(むく)な可愛さを持つ女性。見た目は自分と同じ16歳か少し下くらいに見えるのだが本人はもう数百年は生きていると言っている。今でもそれは信じられない。

 毛先にウェーブがかかっていてフワフワとした金髪は綺麗で手入れが行き届いているのか芸術品のようだ。朝日に照らされてより綺麗に見える。


 発育は……うん。いや、それでも胸は服の上からでもしっかりと……ゴホン。師匠に性的な目線を向けるのはこれくらいにしておこう。失礼だ。



 僕とベルベットの出会いは2年前。僕が記憶を失って倒れていたところを助けてくれたんだ。

 そして教えてくれた。この世界のことや生き延びる(すべ)を。


 「魔法」と呼ばれる力のこと。自分達、「魔人」の敵である「人間」のこと。

 それを聞いた僕は魔人の中でも「魔法使い」という一族にいるベルベットの教えの下で魔法を習得(しゅうとく)しようとしているのだ。




 しかし、僕に素質がないのか……2年経った今でも魔法はほとんど使えない。




「アスト、この後は家で魔法の練習よ。大丈夫?」


「まだまだいけるよ! 早く色んな魔法が使えるようになりたいしね」


 僕とベルベットは家に帰る。家に帰ると言ってもスタスタと歩いていくわけじゃない。ベルベットは魔法使い……魔女なんだ。





「『ラーゲ』」





 ベルベットは一言そう(つぶや)く。すると僕とベルベットの周りに幾何学(きかがく)模様のサークルがいくつも浮かび上がった。

 これは「魔法陣」と呼ばれるもので魔法を使う際に発現するもの。(おも)に魔法の座標などを決める役割を持つ。


 魔法陣から光が発せられ、その(まばゆ)い光に思わず目を閉じた。



 そして目を開けると……場所は()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここはベルベットの館。つまり()()()したのだ。



 移動魔法『ラーゲ』。効果は対象物の転移(てんい)。対象物の数や規模を魔法陣で認識し、それをあらかじめ設定してある場所に瞬時(しゅんじ)に移動させる魔法だ。

 これは誰でも使えるような魔法ではなくかなり難しい魔法。僕には使えない。



「ん~! ただいま、と♪」



 家に戻るとベルベットは伸びをする。

 女性が伸びをすると目のやり場に困る。僕は目を()らして見ないようにする。胸とかそういうのをガン見なんてしてたらさすがにヤバイ。


 家に戻るとすぐベルベットの前にメイドの姿をしている女性が出てきた。



「お帰りなさいませベルベット様」


「ただいまキリ。今は……9時か。昼食は2時間後に取るわ。その時に用意して」


「かしこまりました」



 この人は「キリール・ストランカ」。ここ、ベルベットの館のメイドをやっている人だ。

 キリールさんもかなり実力のある魔法使いだとベルベットから聞いている。実際、僕はたまにこの人からも魔法、それ以外に剣術なんかを教わったりもしているのだ。


 メイド、でわかると思うがベルベットの館は豪邸(ごうてい)みたいにデカイ家。執事やメイドなどの従者(じゅうしゃ)もキリールさん以外にたくさんいる。



「キリールさん。僕も何か仕事を手伝った方が良いですか?」



 僕はベルベットの弟子……ということになっているが拾ってくれた身分のためここの従者(じゅうしゃ)と同じような扱いでもある。さすがに拾ってくれたのに僕がキリールさん達をこき使うのはおかしい。ちゃんと働かなければ。


「貴方はこれから魔法の練習なのでしょう? なら仕事を手伝ってくれなくても結構です」


「でも……」


 僕がまだごねているとキリールさんはチラリと僕の横─ベルベットを見る。僕もベルベットの方を見ると……


「………」


「あ……ごめん」


 ベルベットは頬をプクーッと(ふく)らませてツーンとしていた。今から魔法の修行だというのに僕がそっちのけで仕事の方へと行こうとしたのがよほどショックだったのか……。


「仕事を気にする余裕があるなら魔法を少しでも使えるようになってください。貴方はまだ()()()()()()()()使()()()()のですから」


「うっ……そ、それは……」



 『ファルス』。それは魔法使いが最初に覚える初歩魔法の1つ。効果は「一時的な身体能力の上昇」。

 これを使えばまったく鍛えていない女性でも屈強(くっきょう)な男性を軽々と吹っ飛ばせるほどに力が強くなる。(ゆえ)に魔法使いにとっての力比べとはこの魔法の練度(れんど)比べのところが大きい。



 アストは2年間も魔法の修行をしているがまだこの魔法しか習得できていない。……というのも自分の中にある魔力をなぜか上手く使えないのだ。



(「魔人」ならば魔力の使用なんて息をするのと同じくらい簡単なはずなのになぁ……。記憶と一緒に魔力の使い方まで忘れちゃったのかな?)


「せめて魔力を(まと)うくらいはやってください。それができなければ戦闘すらままなりません」


「は、はい……」



 魔人は基本的に戦闘時には魔力をその身に纏って戦う。魔力を纏うことで軽い防御になるのだ。


 「軽い」、と言ってもそれは魔人にとっての話。人間にとってこれは(よろい)に等しい防御力になる。

 その魔人の魔力の多さや強さによるのだが平均的な魔人の魔力でも通常の剣や銃弾はまず通さない。これは人間にとって非常に厄介なものなのだ。


 逆に言えばこれができないということは人間とほとんど変わらないということでもある。僕は記憶を失っているのだが魔人であるはずなのにそれができないことが少し恥ずかしくもあった。



「そう言わなくてもいいじゃないキリ。いずれ私がアストを最強の魔法使いにしてあげるわよ」



 ベルベットは自分の胸をドンと叩きながら胸を張る。ベルベットはアストの方を見るとパチンとウインクを飛ばした。


「2年経って赤ん坊レベルのこの程度ですか。偉大な魔法使いになっている頃にはアストさんはくたばっていますよ」


「うぐぐ……言うわね」


 キリールの冷静な言葉にベルベットは言葉を失う。


 ベルベットは魔法使いの中でも最強の部類に入る。そこで弟子になっているのに2年で赤ちゃんレベルにしか育っていないとなると自信が揺らぐことでもあった。ベルベットは若干ショボーンとしている。



「くたばるだなんてそんな……。魔人は人間の何倍も長く生きるんですから。さすがに僕も何百年か学んでいれば立派な魔法使いになれますよ!」



 プライドを従者(じゅうしゃ)にへし折られるという一番痛烈(つうれつ)な展開に(さら)される師匠を助けようと弟子の自分が前に出る。

 人間は平均して80年ほどしか生きられない。だが魔人は何百何千と生きるのだ。2年くらいどうってことない。



「………そうですね」


「あ、ああ……うん」



 ベルベットを(はげ)ますつもりでいたのだがどうにも微妙な反応だ。まぁいいや。僕だってずっと初歩で止まっているつもりはないんだから。


「いつもの部屋で魔法を練習するんだよね? 先に行ってるね!」


「わかった……すぐ行くわ」


 魔法を練習するための専用の広い部屋がベルベットの館にはある。そこをいつも使っているのでアストは迷わずにその部屋へ向かうことができる。

 アストが走ってベルベット達から離れていく。もう見えなくなったところでキリールはベルベットに話しかける。



「ベルベット様。まだ話していないのですか? アストさんが『人間』であるということを。もう2年ですよ?」


「話してないわ。ここにいる間は魔人として育てるって決めてるもの」


「よく2年の間に記憶を取り戻さなかったですね。取り戻せば即アウトです。アストさんは元々魔人を討つ一族『ハンター』。ここの場所を人間にバラされれば一網打尽(いちもうだじん)ですよ?」



 キリールの意見は正しい。アストは人間。記憶を失っているのをいいことに「あなたは魔人なんだよ」と言って魔法使いに育てようとしているのだ。

 もし記憶を取り戻せば魔人を討つ一族としての力や仲間を思い出しベルベット達にも(きば)を立てるかもしれない。


「そのことだけど。アストの記憶喪失は衝撃なんかじゃなくどうやら何者かによって(ふう)をされてるような状態なのよね」


「魔法……ですか?」


「いや、魔力は感じなかったけど……おそらく人間側の力か、未知の何かか……」


 魔人が「魔法」を使うように人間にも「異能」と呼ばれる力がある。

 そのことについてはまだ魔人側が解明(かいめい)できていないことが多いので語ることはできないけれども魔法と同じく超常的なことを起こせるのは確かだ。


「つまりアストさんが記憶を失っている原因は人間の方にあったということですか?」


「そういうことかも。人間側に帰ることも難しいかもね。だから私が面倒見てあげてるのよ!」


「そんなこと言ってベルベット様がアストさんを気に入っているだけじゃないですか?」


「そーとも言うー」


 ベルベットは子供みたいにそっぽを向いた。

 最初は人間の子に魔法を、と面白がっていたこともあったが……時間とは恐ろしい。アストにどんどん愛着が()いてきてしまったのだ。


 アストの昔の性格は知らないがとにかく今のアストは無垢(むく)で可愛かった。

 笑顔で用事についてくる時は子犬に見えるし、他の従者(じゅうしゃ)のように自分のことを「様付け」で呼ばない。そのおかげでとても話しやすいしよく話し相手にもなってくれる。



 魔法が中々成長しないのは「人間」であるというのが一番大きい理由だが、もしかしたら大事に大事にと優しく扱っているせいもあるのかもしれない。




「ですがそろそろアストさんも『()()』に行かせるのでしょう? 甘くやっていては……冗談抜きで死にますよ?」


「わ~かってるわよ」




 ベルベットは手をヒラヒラと振ってキリールと別れた。




  ♦




「アスト、集中して。『ファルス』が使えるってことはちゃんと魔法は使えてるってことなの。なら魔力を纏うことは簡単よ」


「うん……」


 僕は目を閉じて体内にある魔力を感じ取ろうとする。魔力を纏うには自分の持つ魔力の存在をしっかりと感じ取らなければできない。僕はこれが大の苦手で1年くらいここでストップしている。


 心を落ち着けて…感じ取る。けれど、何もわからない。


「『ファルス』を使う時は力を振り絞るイメージのはず。魔法にとってイメージはとても大切なものなの。……(よろい)をイメージして。(たて)ではなくて、(よろい)。身に纏うイメージ」


「………」


 う~ん。(よろい)をイメージしているけど……ダメだ。そもそも(よろい)なんて着たことないし。


「ダメ?」


「……うん。ごめん」


「謝らなくたっていいのよ。自分のペースで強くなればいいんだから」


 ベルベットはニコニコとしている。でも急がなくてはいけない理由があった。


「もう少しで『学院』に行くんだよね? それなのに魔力を纏うことすらできないなんて……」


「アスト……」


 実は魔人の中でも「魔法使い」だけには育成機関がある。普通、そんな余裕はあり得ないことだ。そもそも魔人は人間から隠れて生きているのだから。


 しかし、「隠れる」という意味が少し違う。魔人は何もコソコソと人気のないところで暮らしているわけではない。……「結界(けっかい)」を張っているのだ。


 「結界」はその中にあるものに魔法的効果を及ぼす。魔法使い達は自分の国を(おお)うほどに大きい規模の「隠蔽(いんぺい)効果」のある結界を張っている。

 「隠蔽(いんぺい)効果」の結界はその範囲内のものを人間から認識(にんしき)されないようにする効果がある。それを使って1つの国ほどの生活圏(せいかつけん)を確保できているのだ。




 そしてそれが魔法使いだけが住んでいる国で、そこは「マナダルシア」と他の魔人から呼ばれている。




 話を戻すがその育成機関には将来優秀な魔法使いになるために魔法使いの卵である少年少女が通うのだ。

 アストは近日中にそこに通うことになる。近々ある入学試験に突破できればの話だが。


「魔力を纏えなくたって入学試験なんかアストなら楽勝よ楽勝!」


「えぇ……」


 ベルベットは楽観視(らっかんし)すぎる言葉をかけてくる。けれど、それはすぐに自分を元気づけようとしている言葉なのだとわかった。

 いくら学校に通う魔法使いの卵だって魔力を纏うことくらい朝飯前だし、なんならそれぞれ得意な特別な魔法だって持っている。そう考えるだけで……僕は(あせ)ってしまう。


「ともかく試験の日まで練習あるのみ!」


「そうだね。やれることをやるだけだ」


 それからいつもの通りに魔法の練習……というか魔力の扱い方の練習を続けた。






 ~数日後~




「準備は済ませた?」


「うん。役に立つかわからないけど……剣。お金も持った。後の荷物は試験に受かったら運ぶよ」


 これから行く魔法使い養成学校である「アーロイン学院」では生徒は(りょう)に住むことになる。それでも試験に受かる前から自分の荷物をあれこれと持ち運ぶわけにはいかないため必要最小限だ。

 しかし、お金は持っておかなければならない。この魔法使いの国「マナダルシア」には店もたくさんある。


 魔人と言えど生活は人間に似ているところが多い。魔法使いは魔人の中では人間に最も近いせいか生活の様子がとても似ている。魔法があるおかげで人間よりかは遥かに良い生活をしているが。



「じゃあ行くわよ。……『ラーゲ』」



 ベルベットはパチンと指を鳴らす。それと同時に魔法陣が展開。ベルベットとアストは虚空(こくう)へ姿を消した。








  ~アーロイン学院~



「さ、着いたわ」


「うわ……すご」


 瞬間移動してやってきたアーロイン学院の前。目の前にはバカでかい建物。お城みたいな様相(ようそう)で、試験に受かったらこんなところで学ぶことになるのかと少しビビってしまう。

 その入口では数多くの魔法使いが出入りしている。今日が試験日ということもあるのだろうが多すぎてまたもや気圧(けお)されてしまう。



「あ、そうそう。魔法使いにはコースが3つあってね。1つは『魔女(まじょ)』。魔法使用や魔法創生に特化した魔法使い。2つ目は『魔工(まこう)』。杖や魔法道具の製作専門の魔法使い。3つ目は『魔法騎士(まほうきし)』。武術と魔法の2つを使った戦闘特化の魔法使い」



「それは知ってる。ベルベットはその中でも『魔女』なんだよね?」


「そうよ。実は『魔女』って男でもなれるのよ? 男がなった場合は『魔女』じゃなくてそのまま『魔法使い』って名乗ることになるんだけど」



 ちなみにこれはキリールさんに教えてもらったことでもあるけど『魔女』コースに男と女は実は3:7くらいはいて、『魔法騎士』コースにはほとんど男しかいないらしい。魔工は半々。

 魔法騎士はやはり戦闘……対人間を想定しているコースでもあるから男が多いのも無理はない。



「僕は『魔法騎士』かな。魔法得意じゃないから他2択は無いも同然だし。まぁ魔法騎士に関しても危ないけど」


「いいわね~! カッコイイわよ魔法騎士!!」



 ベルベットはウットリした目になっている。未来の僕でも想像してくれているのかな? まだ試験にすら受かってないんだけど…。


「じゃあ行ってくるね」


「うん。試験は見学できるから上で観てるわね」


 うわ……これじゃ不甲斐(ふがい)ないところを見せられないな。

 いや、違う違う。自分はそんなことを考えるレベルにもないんだ。とにかく自分にできることを精一杯やらないと。




   ♦




 僕はアーロインの中に入る。すぐに受付があってそこを通ると受験番号をくれた。番号は「444」。縁起悪っ!

 衝撃の受験番号にゲンナリとしながら待合室に行く。8つの部屋が合って扉にはそれぞれ番号が振られていた。「400~」は番号4の扉という風に。


「お邪魔しま~す」


 ソロソロ~と扉を開けて中に入る。中にはすでにたくさんの魔法使いの方々が。やはり聞いた話の通り魔法騎士のコースを受ける人は男ばかり。怖いよぉ……。


 近くにあった席に座る。話すやつなんていないから黙りこくったまま(うつむ)く。



(きっと皆すごい魔法使えるんだろうな……。それに比べて僕は結局魔力も纏えず仕舞いだ)



 こういう時にネガティブになってはいけないのはわかる。けど、どれだけ気を付けてもどうしてもネガティブになってしまうのだ。

 自分が本気で頑張って身に着けている唯一の魔法の『ファルス』でさえ魔法使いの基礎中の基礎と言うのだから絶望してもおかしくはない。



 僕がハァ……と溜息をつくと、




「ちょっと。溜息なんかつかないでくれる?」


「あ、ごめん。……え?」




 僕は驚いた。声をかけられたことにじゃない。その声自体に驚いたのだ。


 その声は……()()()のものだった。

 ここは「魔法騎士コース」。ほとんどが男という中に女というのはとても珍しい。この4番部屋の中でその子は紅一点(こういってん)ではなかろうか。



 声に反応して振り向くと……まったく気づかなかったがその子はなんと僕の隣に座っていた。



 髪型はハーフアップで後ろの髪をまとめている黒いリボンがブラウンの髪によく映えている。服装は軍服のような服にスカート。女の子なのにその格好なのが魔法騎士になりたいという想いをひしひしと伝えてくる。



「何ジロジロ見てんのよ」


「なんでもないです……」



 ただ……性格がキッツイ。刺々(とげとげ)しいというかなんというか。可憐(かれん)な見た目から(にら)まれると想像以上にダメージがくる。



「どうせあんたも……変だって思ってるんでしょ?」


「え?」


「魔法騎士になるのは大抵男だもの。あたしみたいな女がこんなところに何しに来てるんだって思ってるんじゃないの? 普通はそうよ」



 なるほど……。言われた通り、そう思ってしまっていた。なんでこんなところに女の子がって。でも、そう思うのは間違いだよな。誰が何になろうなんて自由だもん。


「君、名前は……?」


「は? なんであんたに名乗らなきゃいけないの? 名前を聞くときはまず自分から名乗りなさいよ」


 ぐっ……。それもそうだ。この子は何も間違ったことは言っちゃいない。



「アスト。アスト・ローゼン」


「アスト……ね。あたしは『カナリア・ロベリール』」


「そっか。じゃあ……カナリアさん。本当にごめん。僕は女の子の君がいることを不思議に思ってたよ」


「ふん……。別にいいわ。そんなの慣れっこだし」



 カナリアさんはちょっと恥ずかしくなったのか頬を赤くする。さすがに人前でこんな堂々と謝られるとは思わなかったんだろうな。



「それにしても……疑問なんだけど。あんた魔力少なすぎない? そこらへんの赤ちゃんの方がまだ魔力あるんじゃないかってくらいよ。何? 力隠してるの? だとしたらとんでもない実力者になるわけだけど」



 そ、そこらへんの赤ちゃんの方が魔力ある……? 嘘でしょ……。赤ちゃんレベルとは言われたことあるけど比喩(ひゆ)じゃなくて!? 今試験前ですよ? これ以上ネガティブになる情報を与えないで……


「何この世の終わりみたいな顔してんのよ」


「べ、べべ別に!? それより、そ、そういうのって見ただけでわかるの?」


「は? 普通分かるでしょ。魔力をどんくらい纏ってるとかで」


「あ、あ~はいはい。そういうことね。うんうん。わかるわかる」



 嘘です。全然わかりません。見えません。そもそも魔力纏えません。見栄(みえ)張って嘘ついちゃったよ。



「すごいわね。魔力をまったく纏わずに生活してるだなんて。平常時でも少しは纏うっていうのに。多分あんたくらいよ?」



 うっわ……。とんでもなくヤバイやつじゃないか僕……。わかってたことだけども。あとカナリアさんは何かを勘違いしているのか僕に恐れなんか(いだ)いちゃってる。



「試験ってどんなことやらされるのかな……。筆記とかならまだ良いんだけど」


「……あんた何も知らなすぎでしょ。ここの試験はいつも決まって討伐(とうばつ)試験よ。広大な空間の中で『魔物』が多く放たれてそれを倒していく試験」



 魔物……。修行以外であまり外に出ることは少ないためそんなものは見たことない。けどベルベットから話では聞いたことがある。


 この世界の空気中にある魔力という成分によって人間や魔人以外の動物等の生き物が変貌(へんぼう)、そして進化し続けた結果の産物(さんぶつ)

 その結果、最早何がベースになっているのかわからないものもいるほどに多種多様な魔物と呼ばれる生き物がこの世界にはいるのだ。


 思わずゴクリと喉を鳴らす。緊張から一気に恐怖に変わってしまった……。


 その時、



『4番の部屋にいる試験生はAルームに集合してください』



 放送の音声……? 部屋にそれらしい機械は存在しないが部屋中にその声が響き渡った。これも魔法なのか?


「来たわね。ま、頑張りなさい。あたしは絶対受かるけど」


「う、うん。頑張るよ……」


 そうだ。ここまで来たんだ。もう迷うのはなしだ。やってやる!




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