187話 二撃粉砕
ぬらりひょん様に魂を。我の力でいくらでも魂を。
それでも足りぬ。それでも足りぬ。
まだ足りぬ。まだ足りぬ。
ぬらりひょん様の役に立たねば。主が欲する物を献上せねば。
主よ。次は何を欲するのですか?
──王鬼よ。あれが欲しい。これが欲しい。
主よ。どんな物でも、ここに。まだ欲する物はありますか?
──王鬼よ。珍しい属性魔法を使う「アリス」という娘がいる。その魂を持ってこい。
主よ。すぐに、その女子をここに。まだ欲する物はありますか?
──王鬼よ。あれが欲しい。儂は、あれが欲しい。
主よ。それは、それは何でありましょうか?
──「魔王後継者」の魂が……欲しい。
「主よ。すぐに」
王鬼は魔王後継者である少年二人に対して、探し求めた宝物でも見る目で刺し貫いた。
最初はアリスを攫うだけだったが、まさかそれを守護していた者がどちらも魔王後継者であったことは僥倖だった。
これほどの幸運はない、と。すぐに標的を変更……いや、追加したのだ。
アリスを狙いにしながらも……それを餌として二体の魔王後継者を釣る。
しかし、分裂した姿ではさすがに魔王後継者の相手は辛い。
しかも奴らにも仲間がいる。もしも欲張りすぎて邪魔をされればアリスすら失う可能性がある。
アリスを捕まえれば、あとは全力で逃げるだけだったが。アスト・ローゼンとゼオン・イグナティスの魂を鹵獲するためにこのエラの森での迎撃を選択した。
強力な魔力を持つ仲間を出来るだけ魔王後継者から離す。
あとはアリスを持ったこちらの一体が魔王後継者の誰かと接触すれば作戦開始。
即座に他三人は命を絶ち、魂を結合。
そうすれば再び「王鬼」の姿となり、追ってきた魔王後継者を撃退でき、鹵獲が可能だ。
まさに追ってきた相手を捕まえる作戦であったわけだ。
毒鬼以外の鬼が命を絶つどころか、相手にやられてしまったのは計算違いではあったが……手間も省けたというもの。
現に。
自分の目の前には目当ての少年二人。助けの入らない空間。それが完成したのだから。
「来い童共。恐怖という感情を教えてやろうぞ」
王鬼はニタリと醜悪に笑って妖怪特有の怪物らしさを満面に出す。
アストは後ずさりしそうになるが、ゼオンはそれに動じない。
「……図体が変わろうと、関係ない」
王鬼の魔力を目の当たりにしながらも、アリスが囚われている以上ゼオンに「逃げる」という選択肢は元より存在しないのだ。
アリスを傷つける者が現れたなら、滅ぼすのみ。
「待てゼオン。僕でもわかる。こいつはやばい……!」
「黙れと何度言えばわかる。貴様の指図は受けん」
ゼオンは息を整えると体から魔力を発する。
「生命の光溢れ 我に全てを置き去る光を」
光魔法の2詠唱。王鬼はそれをただ、黙って見ている。
「『コグヌス・ブライト』」
ゼオンは全身に光を纏った。これは身体強化の光魔法。
もちろん、すでに『ファルス』は自分の体にかけている。この魔法は身体強化の面でも……特に「速度」を強化する魔法。
光魔法の力の一つは『速度強化』。光を思わせる圧倒的な速度で敵を討つ!
「アリス……すぐに助けるぞ……!」
ドンッッ!! と地を蹴り、ゼオンは加速する。
アストはその速度に驚嘆した。これなら王鬼も──
「むん!!!!!!」
ズンッッッ!!!!!!!!!!!!!
それは飛ぶ虫でも叩き落とすように。
魔法で強化された測度で向かってきたゼオンを振り下ろした手刀一発で地に沈めた。
「がっ…………!」
「遅すぎるわ童。欠伸が出るぞ」
ゼオンは血を吐き、何が起こったのかわからないという顔をする。
光魔法を得意としていることからか自分の速度には自信がある。だが、それをいとも容易く凌駕された。
それを見るとすぐにアストも動き出す。
(「ローゼンくん、逃げてください! 私達の手に負える相手ではありません!」)
「それでも……やるしかない!」
アストもまた、アリスが囚われていることで逃げるという選択肢がないのだ。ここで奴を逃がしてしまえば絶対にもう捕まえられない。そんな確信があった。
自分の体と【バルムンク】に『ファルス』を発動する。
身体強化をかけ、バハムートの闇魔法で攻撃だ!
「『ブラックエンドタナト─」
「お主も話にならぬわ」
が、王鬼は一瞬でアストと距離を詰めて手刀一閃。
その薙ぎ払いにギリギリ反応して【バルムンク】を自分の体と王鬼の手刀の間に割り込ませるが、
ゴギャッぁッ!!!!!
「ぐぁっ……………!」
あまりの力の強さに勢いを止められず、そのまま横に吹っ飛ばされて木に叩きつけられた。木に激突した肩がギシ……! と軋む。
たった二撃。
それだけで僕とゼオンは倒れ伏した。




