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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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183話 全てを変化させる『次元』の力



「ゼオン。今は敵でも、目的は同じ『アリスを助け出す』こと。それなら……」



 一時休戦だけでなく、協力して奴を倒そう……そう告げる前に。




「黙れ。俺は誰も信用しない。死にたくなければ視界から消えろ」



 申し出を考慮なく捨てられる。そう言うだろうなと思ってたけど……!



(「ローゼンくん、知り合いですか?」)


(知り合い……と言えばいいのか、どうか。とりあえず味方じゃないのは確か)



 だけど、一人で戦うより二人で戦った方が絶対良いに決まってる。僕は諦めず交渉しようとするが……




「『魂魄牢獄(こんぱくろうごく)』!」



 毒鬼が魔力を使用し、何かの魔法を使った。


 僕とゼオンは一気に戦闘態勢に入る。



 しかし、その魔法の対象は僕達ではなかった。




 抱えていたアリスの体……それが、小さな球体となって毒鬼自身の体に吸収されていく。




「アリス!!!!」


 ゼオンはその光景を目に映すと、すぐさま懐からサタントリガーを取り出す。



「貴様……万死の一線を越えたぞ……!」



 スイッチを入れてトリガーを起動。いきなり「魔王の力」を解放する気だ!




「解放宣言!」



『認証 サタントリガー・アクティブモード

 解放──「魔王の左腕」』



 噴射式注射器の形をしたそれを、左腕に突き刺す。ブシュッ……と音を鳴らし、ゼオンの体から闇が迸った。


 ゼオンの右眼に不気味な紋様が刻まれる。


 あれは「魔王の力」を解放した証。最初から本気モードだ。




(「ローゼンくん。先程の魔法は妖怪が対象の魂を自身の体に封じ込める魔法です」)


「それって、大丈夫なの?」


(「はい。そのまま倒してしまっても彼女の身に危険が及ぶことはありません。むしろ、倒さないと助け出すことは絶対に不可能です」)



 それなら、こっちも本気で良いってわけだな……!



 アストはアリスの無事を確認し終わるとゼオン同様サタントリガーを取り出した。

 彼の注射器(インジェクター)タイプとは違う、指輪(リング)タイプのトリガー。そこには黒色と白色が半分ずつで分けられた宝石が装飾されている。



「解放宣言ッ!」


『認証 サタントリガー・アクティブモード

 解放──「魔王の心臓」』



 指輪に付いている宝石を上下回転させるとトリガーが起動する。アストの心臓がドクンッ! と一つ跳ねると、そこから途方もない闇が迸る。

 これでクイナにも「魔王の力」を見られたことになるが、彼女を信じて周りには黙っていてくれることを願うしかない。




「現れろ! 希望を照らし出す魔法陣!!」



 天空に黒い魔法陣を展開し、その名を呼ぶ。




「『漆黒魔竜(ドミネイト・ドラゴン) バハムート』─『無限の造り手(ヴォイド・メーカー)』」




 名を呼ぶと同時、さらに自身の「魔王の力」である『支配』を行使する。



 『無限の造り手(ヴォイド・メーカー)』──自分の配下となっている魔物を媒体として未知の武器を生成する能力。

 今、エラの森でバハムートを呼び出すとハンターをここに集めてしまう可能性がある。だから、召喚してしまう前に魔法陣を対象に使用してみたが……はたして。



 アストの願いが上手く通じたのか、黒の魔法陣から黒竜が出でることはなく代わりに……ドシュッ!!!!と一つの物体が射出される。



 「それ」は自分の前にどんっ! と突き刺さった……黒の柄に、蒼く発光する刃の剣が!


 【竜魔剣 バルムンク】──魔法が使えないアストに代わって『闇魔法』を使用してくれる特殊魔法武器。魔王にしか握ることが許されない竜王の一振りだ。




「ゼオン、連携だ! 息を合わせるぞ!」


「足手まといだ。さっさと消えろ!」



 やっぱり協力する気のないゼオン。


 しかし……今、目の前にいるのは紫色の鬼。あの時に見たどの鬼とも違う奴だ。どんな魔法を使ってくるかわからない未知の相手。一人で戦うのは危険すぎる。


 それでも、何度言ってもゼオンは聞く耳すら持たない。



(ぬし)が、ハンターの飼い犬になった魔人か……」


「これから死ぬ貴様には関係のないことだ」



 ゼオンは毒鬼の魔法や戦闘スタイル等知らぬとばかりに突っ込む。


 それに対し、毒鬼は遠慮なく刃物のような鋭い爪を振るう。


 素手がそのまま武器になる……それは言い換えれば、何よりも素早く攻撃を繰り出せるということだ。


 相手は素手だと油断しているところを狙いすました一撃。しかも、毒鬼の爪には自身の属性魔法─『毒魔法』がかけられていた。


 『毒魔法』は様々な効果のある毒を発生させられる。爪に付与されていたのは麻痺効果のある毒。



 だが、ゼオンもそんな小手先の技をくらうほど弱い魔人ではない。いや、言い方を変えるならば、




 こんな小手先の技でダメージを負うレベルの者ではない、と言ったところか。




「……毒の魔法か。くだらんな」


「なに!?」



 ゼオンは、左手で相手の爪を迎え入れた。魔法の毒が塗り込まれた爪を。



 通常の者ならば爪が手の平を切り裂いて、これでもかと毒を血中に入れられるだろう。



 しかし、相手が『魔法』の毒ならば。




「『次元の理解者コード・ディメンション』」


「なぬっ!?」



 毒鬼の爪を受け止めたゼオン。だが、その魔法の毒はゼオンを蝕まない。むしろ、その毒は彼の魔力を回復していった。


 ゼオン・イグナティスが持つ「魔王の力」。彼の『次元操作』は左手で触れた物の性質を変化させることができる。



 自分に「有害」となる毒を、「無害」なものに変化させることも。


 自分を傷つける魔法である「相手の魔力」を、「自分の魔力」に変換して吸収することも。



 そして、もちろん。それが出来るならば。





 相手にとって「無害」な毒の魔法を、相手にとって「有害」にすることもできる。




「ぐぬおぉ!? こ、これ、は……!」


 毒鬼は突然、体が痺れたように痙攣してぶっ倒れる。

 魔王の力──『次元』によって変化させられた自らの『毒魔法』にやられたのだ。



「どうだ。自分の魔法をくらう気分は。今までそれで傷つけてきた者の痛みを知って死ね」



 ゼオンは5節の光魔法である『ホワイト・レイ・ディバイダー』を発動し、腕に光の刃が出現させる。そこから容赦なく、その刃を毒鬼の心臓に突き入れた。


 アリスを助けるために、なんの躊躇いもなく、遺言や無駄口を叩かせず、一秒でも早く毒鬼を仕留めたのだ。



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