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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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182話 宿命の黒白─《サダメノコクビャク》



 レオンとリーゼが各々の戦いを繰り広げている中、フリードは比較的静かな場所を進んでいた。


 運が良いのか悪いのか、魔物にまったく出会わない。その分、目的の妖怪にも出会っていないが……



「あ~……これ、俺だけなんの役にも立ってない感じじゃないかな……。今頃三人が戦ってるとしたら呑気に歩いている場合でもないけど……」



 溜息をついて辺りを見回しながら進むが妖怪の姿なんてちっとも見当たらない。こんなただっ広い森で辺りを見回す程度のことなんて意味も無いけれども。



 もちろん魔法騎士としての使命もあるが、ベルベットとの繋がりで自分はアストに協力しなければならない。その関係上、彼の知り合いを助けるという話で赴いたわけだが……



「まさかこんな時間外勤務になるとは思わなかったなー。これ終わったら怒られるの覚悟で明日の昼まで寝よ」



 レオンとフリードは魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の任務ではなく私事でここに来ている。

 無論。こんな戦いがあったとも知らずに魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の本部は彼らにいつも通りの出勤を命ずるだろう。フリードにとってはただそれだけが自分の足を重くする要因であった。

 こんな時にも明日の仕事をサボるかどうするか考えているというのもフリードらしいといえばらしいが。



「ま、アストくんには悪いけどこのまま接敵しなければ散歩しただけで終わ──」




 気楽に、そう呟いた時だった。



 偶然にも、いや、ここまで何とも接敵しなかった分のツケが来たというのか。





「おい。なんかいたぞ。あれが『アスト・ローゼン』か?」


「いや……なんか顔違くね?」


「まぁいいだろ。同業者でもないっぽいしな」



 ハンター三人。魔物でもなく、妖怪でもなく、一番出会ってもなんの得にもならない奴らに出会ってしまった。それだけでフリードはゲンナリとする。




 しかし、自分はこれでも魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)第一隊所属。しかも副隊長。つまりは対ハンターのプロ中のプロである。




「戦うのは面倒だけど、ここはいっちょ活躍しとくのも悪くないかなー。さーて、俺も久々に本気で──」




 ニヤリと笑い、ハンター三人くらいなら何とかなるかとフリードはここぞとばかりにやる気を出すが……




「あ」


「あ」




「……ん?」




 後方。しかも、その二方向から声がする。



 同じく。ハンター三人のグループが二つ。ばったりとここに居合わせてしまった。




「……」



 前方にハンター三人。後方にハンター六人。計九人のハンターがフリードを取り囲む形になってしまった。



「う、嘘でしょ~…………」



 ここまでのツケを払うどころか、アストのことではなく明日の魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)のことを考えていた罰と言わんばかりの最悪の状況だった。




「…………あー」



 フリードは顔をポリポリと掻き、







「これ、見逃してくれるって方向は……………無し?」



「よし殺すぞ」


「おう」


「なんか雑魚そうだし九人もいれば楽勝っしょ」


「殺! 殺! 殺!」




「やっぱそうなるよね……!」



 九人の血に飢えたハンターが舌なめずりしながらフリードに殺到した……!




   ♦





「ここまでのようだな」



 アレンが襲い掛かる魔物を次々と斬り払いながら歩いて十数分。そう呟くと……



「あ、戻った」



 アストとアレンの一日一回限りの人格交代。それが終了した。

 これでもう今日はアレンと代わることはできない。ミーシャを退けるためとはいえ、切り札の一つをいきなり切らされてしまった。




(「……ローゼンくん、大丈夫ですか?」)



 人格が僕に戻るとクイナのオペレートも戻る。


 アレンの人格が浮上している間は何も告げず一方的にオペレートを切っていたわけだがクイナに慌てた様子はない。パートナーの安否さえ把握できればそれ以外のことは根掘り葉掘り聞かないということだろう。


 エラの森に入る前に言っていた彼女のセールスポイント……どうやら本当のようだ。そっちの方が僕にとっては助かる。



「ごめん。もう大丈夫」


(「そうですか。では、ここで朗報です」)


「ん? なに?」


 朗報、だと言うのに。彼女の声音は変わらない。そのことからまたいつかのような緊張をほぐすような冗談かと思えば──




(「前方およそ210m。捕捉しました」)


「え……それって、」




(「間違いありません。魔物ではない魔力が二つ……どちらも魔人──『魔法使い』と『妖怪』です」)




 きた……! やっと、掴んだぞ。



 魔力が二つ。しかも魔法使いと妖怪。どう考えてもアリスを連れた鬼だ!

 ようやく、尻尾が見えたぞ。絶対に捕まえてやる……!



 それに聞きたいこともある。どうしてアリスを攫ったのか。それだけがずっと気にかかっているのだ。


 彼女はこうして狙われるような、それほどの何かを持った存在なのか。そして、その「何か」とは?



 きっとそれを知れば。



 彼女が、ゼオンが、ハゼル──「人間」のところに匿われている事情がわかるはずだから。




 アリス。待ってて。今すぐに助け──




(「ローゼンくん、待ってください! 左方からもう一つ大きな魔力が近づいてきています!」)



 なっ……! 



 僕は足を止めようとするがもう遅い。魔力で強化した足はたちまち敵との距離を0にしてしまう。


 クイナが初めに補足した妖怪の下へと、到達してしまった。




「むっ! (ぬし)は……!」



 アリスを運ぶ……三角の紫色の体をした鬼。そいつを視界に映した。



 そして、それと同時。



 クイナが二つ目に捕捉した通り、左方から……その存在は現れた。




「アスト・ローゼン……また貴様か」



「ゼオン……!」




 白銀の髪に空色の瞳。アリスと同じ特徴を持っている少年で、彼女の兄であり、僕と明確に対立している男──ゼオン・イグナティス。


 妹が囚われている以上、この森に来ていることは当たり前だがいくらなんでもタイミングが最悪だ。


 なぜなら、こいつは絶対に僕とは協力しようとしないから。





 毒鬼(どっき)、アスト、ゼオン。



 目的で区別すれば「アリスを攫う」者と「アリスを助け出す者」。



 しかし、それなのに。



 そこにあったのは、確実に三つ巴の様相と言えるものだった。



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