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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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179話 真紅の避雷針



(なにが……起こりましたの?)



 もしや自分がドジったのか、と疑ってしまうが……。最近は戦闘の機会も多くはなかったからあり得る。いや、しかし……



 そうグルグルと頭の中で考えいたが、向こうが落ち着くまで待ってくれるわけもない。



「『刃地獄』!」


「『雷地獄』!」



 リーゼは巧みに地面からの刃を避けながら、タイミングを計って上空からの雷をも避ける。



 が、




「ぐっ……!! また、ですの!?」



 バヂジッ!! と突き抜ける痛みが体を走った。



 またも被弾ならぬ被雷。今度は油断なくしっかりと避けたはずなのに、また相手の魔法をくらってしまったようだ。


 こうまでくれば、さすがにリーゼも警戒のスイッチを切り替える。



(油断ではなく、何かありますのね……)



 相手の魔法にカラクリがある。避けようとしても、どこからか当たる何かの仕組みが。



 ひとまず、この状況で相手に好き勝手させてはいけない。

 距離を取るべきだ。


 リーゼはこの針地獄と化したフィールドから離れる。



「絶好の機会よ。追うぞ刃鬼!」


「応! 雷鬼!」



 二人の鬼の役割は足止め。ここで見逃してくれれば楽だったが、自分達の戦闘スタイルに相手が見事にハマってしまっているからだろうか。ここは逃がさず仕留めるべきだと判断したようだ。



 体の傷に関しては吸血鬼の体質のおかげですぐに回復するが、何度も食らい続けて良いものではない。


 傷は治るが……雷なら体が麻痺して動けなくなる可能性もある。刃の魔法は体を串刺しにされて身動きが取れなくなることもある。不死とはいえなんでもかんでも受けまくると思わぬ被害が出る。



(もっと距離を取りたいところですけど、ハンターと出くわすと危険ですわ)



 リーゼはここまでか、と足を止める。

 手に血液で造った真紅の剣を携え、すぐさま振り向きカウンター気味に剣を振るった。



 それは、すぐ後ろまで来ていた刃鬼にヒット!


 しかし、刃鬼はすんでのところで腕を出してガードしていた。そこだけ魔力を集中的に纏い鉄壁のガード。真紅の刃は通らない。



 その隙に、雷鬼は飛び上がり3節を詠唱する。



 また、あれが来る……!



「『雷地獄』!」



 上空から雷撃。



「『ブラッディ・ラルハンド』」



 今回は自力で避けられない……そう判断すると、すぐに血を地面にまき散らす。


 そこから血液で造られた腕が多数出現。

 真紅の腕はリーゼの足をガシリと掴み、ブンッ!! と勢いよく後方へ投げた。その要領で降り注ぐ雷撃を回避する。



 弾丸のような速度で宙を走り、ヒールを木に突き刺しながら真横になる体勢で着地……着木。




 ここで、異変に気付いた。



(今回は雷をくらっていませんわ……)



 そう。今までずっとどうしても避けていたはずなのにダメージをくらっていた雷撃。今回は避けた後も無事である。



 これまでと、今回。何が違う?




(…………まさか)



 リーゼはチラリと自分が履いているヒールを見た。


 そこにはいくつかの()()()がついている。まるでそこに雷が着弾したかのような。

 もちろんこのヒールも自分が造った特注の魔法道具なので魔法を受けても簡単に壊れることはないが……




 上から魔法の雷が来たはずなのに、直撃は下から?




 その時、リーゼの頭の中で一つの解答が現れた。




(なるほど。だから二人組でしたのね……)



 そう結論付け、すぐに次の作戦を立てる。



 時間にして数秒。一つ手っ取り早く相手を倒す策を思いついた。



 リーゼは木からヒールを引き抜きながら真横になって木に立っていた姿勢から、普通に地に足をつけて立つ。



「お前達の魔法の仕掛けはわかりましたわ。次こそは攻略できますわよ」



「ほう。それは」


「面白い」



 挑発。そんなことはわかっている。

 その上で、受けてみよと雷鬼と刃鬼は詠唱した。



「『刃地獄』!」


「『雷地獄』!」



 無数の刃が生え出て行く。リーゼはもう何度目かと同じように軽々とそれを避ける。



 問題は、ここから。



 上空からいくつもの黄色の魔法陣。雷魔法が……来る!!



 その、結果は……





 バヂッヂヂヂヂッ!!!!




「う……!!!!」




 なんと。結果は変わらず。またも被雷した。


 傷は回復するも、吸血鬼の少女は無様に倒れ伏す。



「ふははっ。攻略できてないではないか」



 刃鬼は今のうちにとリーゼに近づく。己の鋼魔法で生み出した刃で彼女を地面にでも縫い付けようと思ったが、





「待てぃ刃鬼ぃ!!」



 少し離れた場所から様子を見ていた雷鬼には気づけた。



 リーゼが倒れた場所の付近に生え出た……刃鬼の鋼魔法の「刃」。




 そこに、血液(けつえき)がべたりと付着していたことに。




「な   ぐ   ぇ」



 警告遅し。リーゼに触れようとした刃鬼の真横にその血液が付着した刃はあった。


 雷鬼が声を出したと同時に血液から真紅の棘が飛び出し、刃鬼の頭、首、胸を鋭く突きさす!



「ようやく一人、ですわね」



 リーゼは刃鬼が自分の仕掛けた罠にかかったと見るや否や何事もなく立ち上がった。



「驚かされましたわ。この鋼魔法……『電撃を引き寄せて蓄積する性質』と『条件付きで目標相手に蓄積した電撃を撃ち出す性質』がありますのね」



「!!」



 刃鬼の鋼魔法で生み出される刃。これに雷が着弾すると、近くの別の刃に雷が連鎖していき、それが次々と繰り返されていく。


 そうして……目標である相手の付近──正確に言うと3m──にある刃まで雷が連鎖した時、刃鬼が念じることで蓄積した電撃を目標に向けて解放……発射することができるのだ。




 まず相手の足場に刃をいくつも生えさせ、それを飛んで回避した相手の上空から雷を撃ち出す。



 そこで雷を受けてしまえば何も問題はないが、もし避けられても下には無数の刃。



 それらに雷が着弾。そこから周囲にある刃に次々と雷が連鎖して移っていき……目標相手の3mの範囲にある刃に雷が蓄積された瞬間にそれを解放。




 こうすることで上からの雷撃を避ければ下からの雷撃という絶対不可避の一撃が可能だった。




「けれど、これで心配ありませんわね」


 この必殺のコンボを実現するための不可欠なピースである鋼魔法を使う刃鬼がいなければもう雷を受けることはない。と、思っていたが、



「案ずるのは早し!」



 雷鬼はまたも飛び上がり詠唱開始。


 そうなのだ。鋼魔法の刃はまだ消えていなかった。つまり、刃鬼の命の火はまだ消えていない。



「刃鬼!! 最後の力を振り絞って我を援護せよ! その命、この一撃が終わるまでもたせぃ!」


「……!」



 空からの雷鬼の声に、真紅の棘によって串刺しになっていた刃鬼は歯を食いしばる。

 自分はやられてしまったが、もう一度奴に電撃をくらわせるために鋼魔法を消えさせるわけにはいかない。つまり、「今」死ぬわけにはいかない。




「『雷地獄』ゥ!!」



 雷鬼は魔法を発動し、黄色の魔法陣を展開。次の瞬間には上空からの雷がリーゼに襲い掛かる。

 



「させませんわ」



 リーゼは近くにあった刃をヒールで蹴り折る。


 その破片を思い切り雷鬼に向けて蹴り飛ばした!!



猪口才(ちょこざい)わっ!」



 そんなお遊びのような攻撃効かぬとばかりに首を曲げ、その破片を最小限の動きで以て軽々と避けてみせた。



 しかし、避けた瞬間、雷鬼には見えてしまった。




 その飛んできた破片に……()()が付着していることが!




「ぐぬががあががががが!!!!」



 避けた破片から血液の棘が射出される。


 顔面を貫き一瞬にして思考回路が焼き切れた。脳を串刺しにされ意識を強制シャットダウン。展開した魔法陣は役目を果たさず消滅した。



 雷鬼が上空で死ぬ様を確認すると、死なぬようと踏ん張っていた刃鬼も真紅の剣でトドメを刺しておく。




「……初めからこうしておけばよかったですわ」



 クスリ♪ と笑ってリーゼはドレスについていた土を払った。



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