178話 雷刃降震
「今考えても、とんでもないところに来ましたわね」
リーゼは夜の森を歩き、出会う魔物を討伐していきながら今更な感想が口から漏れ出る。
妖怪を追う自分達の周りには大勢のハンター。一番の理想は妖怪から素早くアリスを救出し、ハンターに出会わず森を抜け出ることだが、いくら広大なエラの森と言えど簡単にはいかない。
それと、アストに協力すると名乗り出たリーゼだが、早くここから帰りたいという気持ちもあった。
なぜならここは幼少の頃にトラウマがあるところ。ベルベットとピクニックに赴き、見事に置いて行かれた場所なのだ。
思い返してもよく子供の頃にこんなところに放り出されて帰ってこれたなと思う。吸血鬼の不死性があの時ほど役に立ったことはない。
(もうベルベットと関わることはないと思っていましたけれど……)
アストとの出会いは自分を大きく変える契機だった。
自分やカルナのことを放っておけばいいのに。たとえどれだけ傷ついても立ち上がり理想のために戦った。
結果は望んだとおりではなかったとしても、きっとアストが来なかった時の方が後悔していたに違いない。
今の自分の力は、もう自分のためだけに使うものではない。
他人であった自分を救いに来てくれたアストへの恩返しとして、彼がしたいと思っていることを助けるべきだと思ったのだ。
カルナの時と同じように、アストはアリスを救いたいと思った。それならば、自分が動かない理由はない。
それに、
(あの時のアストさん達も……こんな気持ちだったんですわね)
カルナを救うためにクレールエンパイアに来た。自分の城に向かうまでの森も相当に暗かったはずだ。
仲間達が必死に戦い、想いを繋いで、辿り着いた。
今の自分も、アストから「アリスを救ってほしい」と想いを受け取っている。
だから、
「出て来てくれません? 先程から淑女を覗き見るなんて趣味が悪いですわよ」
リーゼは闇の奥へと声を投げる。
すると、そこから二つの人影が現れた。
「ほう。我らに気づくとは」
「さすがは真紅の女王」
二角の黄鬼─「雷鬼」
四角の白鬼─「刃鬼」
二人の妖怪が闇から抜け出てきた。
「あら。私のことをご存知ですのね」
刃鬼の言葉に笑顔で返すリーゼだが、
「吸血鬼の連中でさえ手が付けられん暴走娘とな」
「死ぬがいいですわ」
次に出た言葉でリーゼは爪で自らの腕を斬り、血液を撒く。
通常の人間や魔人であれば戦闘中にリストカットなど気が狂ったのではないかと思われるが、吸血鬼となるとその意味合いが異なる。
自傷行為……ではなく、武器庫の解放だ。
「『ブラッディ・カントレス』」
リーゼの魔力に反応して地面に撒かれた血液から棘が飛び出る。
それに応じて雷鬼と刃鬼は左右に飛び退くように避けた。
「「手合わせ、願う」」
雷鬼と刃鬼はどうやら自分と戦う目的でここに来たようだ。
その理由は、一つだけ。
(足止め……ですわね)
相手に合わせてアスト、レオン、フリード、リーゼと四つに分かれて捜索を始めたこの作戦。
目と足を増やしてアリスを持っている当たりの鬼を探し当てるための数撃ち作戦という理由もあったが、今の状況こそがまさにこの作戦を決行したもう一つの理由とも言っていい。
自分達四人は個々の力は優れていても、チームを組んで間もないどころかまだ一日とも経っていない。当然連携なんて取れるわけがない。
だが、向こうは推測になるが相当な連携を取れることだろう。アリスが何者かは知らないが、これほどの規模な戦いになるくらいの人物を攫う作戦に抜擢されるのだから。
もし四人で固まって捜索していれば相手も複数で来るはず。そうなれば連携が取れる相手の方が数段有利と言える。
仲間とは連携が取れれば1+1が2ではなく3にも4にもなる。
しかし、連携が取れなければその結果が1にすら満たなくなる。
たとえ個々の力が優れていても、万が一の事態が起こりかねない。
だからこそ危険はあるかもしれないが人数をバラバラにすることで、魔力感知をしてそれを知ったであろう相手にも「各個撃破」を選択させて数を割かせたのだ。
しかし、
(私のところに二人も来るとは予想外ですわぁ……)
どうやら自分はハズレを引いたようだ。
向こうが一体何人で行動しているのか判明はしていないが、少なくともこちらと同じかそれ以上の人数に違いない。
「刃の門、開きて 閻魔の懐光り輝く 地上に顕現せし武の象徴」
刃鬼が3節を唱えた。リーゼは警戒を強める。
「『刃地獄』!」
「!」
魔法発動。
リーゼの「ブラッディ・カントレス」─血の棘のように地面から次々に剣の刃が生え出てくる。
鬼達が使う魔法に関してはアストから情報を受け取っている。灰色の鬼の使う魔法は──『鋼魔法』。
『土魔法』に似た属性魔法だが、土魔法のようにゴーレムを創ったりできる多様性や開発されている魔法の多さが少なくなる代わりに、攻撃や防御に関してはこちらの方が上。
しかし、わかっているのならそれを易々とくらうリーゼではない。
ジャンプして飛び上がり、刃を避ける。
一瞬にしてこの場が針地獄のフィールドに変貌する。森に生えている木々だけでなく腰の高さまで生え出た刃までもが障害物となった。これでは前へ進むだけでも一苦労だ。
リーゼは上手く刃を避けながら相手に接近しようとする。
「雷の門、開きて 閻魔の睨み 地上を裂く轟雷の華」
その時、もう一体の鬼─「雷鬼」が詠唱した。
(黄色の鬼……『雷魔法』ですわね!)
アストからの情報によると、奴は雷魔法を使う。
わかっていれば避けられる。
「『雷地獄』!」
そう思っていたリーゼだが、
「なっ!?」
雷が上空から降り注ぐと同時、バックステップしながら飛び上がり完全に雷の範囲から外れたはずなのに、轟雷が身を裂いた。




