表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
184/230

172話 全てはロスト12から……



「そんなことがあったのか」



 あの後、館にレオンさんが来た時にアリスが攫われたことを相談した。



 アリスを助けたい。けれども僕一人じゃどうにもならない。

 現に相手は三人以上。どうしても誰かの助けは必要だった。



「アリス・イグナティス……『イグナティス』か……」


「どうしました?」


「いや、なんでもない」



 レオンさんは彼女のファミリーネームに少し引っ掛かるが、すぐに気を取り直す。



「それよりも。さっき聞いた相手の特徴からして、まず『妖怪』で間違いないだろう」


「妖怪……ですか」



 授業で習ったことがある。


 魔人の一種族。姿は人に近い者もいれば、魔物に近い化け物のような姿の者もいる、ある意味で多種多様な種族である、と。



 そして……他の魔人種族とは仲が悪い。

 過去の歴史を見ても、人間以外で言えばよく魔人とも争いを起こすような奴らだ。



 魔人の中でも異端……とも言えるかもしれない。



「奴らは(トップ)の命令しか聞かない。アリスを攫ったのもそいつの命令だろうな」


「頭……」



「妖怪総大将『ぬらりひょん』。最強の魔人は誰か? という議論をしたならばベルベットの他に奴の名前が出るほどには強力な魔人だ」



 ぬらりひょん……そいつがアリスを攫うように命令した魔人。



 けれども、どうしてアリスを……?



「まず、そのアリスという魔人の身柄は今のところ無事のはずだ。この時期は妖怪の国に帰るのも一苦労だからな」


「?」


「『夜行(やぎょう)の国』に行くには必ず『エラの森』を抜ける必要がある。幸か不幸か、ちょうど今は魔物が多い時期だ」



 エラの森。『日の国』と『夜行の国』を大きく囲むように位置する、地図にも載るような超広大な森だ。


 そこには数多くの魔物が潜んでおり、生半可な戦力ではそこを抜けることすらもキツイと言われている。


 さらに今の時期はその魔物の活動時期ということもあり数も増加しているわけだ。



「だから、その妖怪達も慎重になっているはずだ。十分に準備をしてからエラの森に入るに違いない」


「な、なるほど……でも、その妖怪達は移動魔法とかを使って直接『夜行の国』にワープしたりしないんですか?」



「どこの国も『移動魔法』を簡単に使えるわけじゃない。特に、妖怪は移動魔法に対する研究が進んでいない。『魔法使い』とも敵対関係にあるから研究結果や術式の提供、魔法道具の輸入も制限されている。そのせいで移動魔法の魔法道具が開発されていないんだ」



「そうだったんですか……」



「だが、安心できるとも言えないがな。奴らもそれがわかっているからこそすでにある程度の準備を済ませている可能性が大きい。今日の夜にはエラの森を抜けるつもりかもしれない」



 そ、そんな。それでは急がないとマズイじゃないか。



「今すぐに捜索チームを作るしかないな。一旦魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に戻る。夜に集合だ」



 そうと決まればとレオンさんは助力を求めるために魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に帰る。



「本当にすみません。僕の勝手なお願いで……」


「気にするな。ベルベットからお前を助けるようにと言われている。それに……俺は魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の第三隊。つまり、魔人対策の隊だ。どちら道、仕事でもある」




   ♦




 レオンさんが魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)から人手を借りるというのなら、この館からも人手を借りたいところだ。



 だが、僕は迷ってしまう。ベルベットに声をかけるか、どうか。



 ベルベットの部屋の前でずっと立ち尽くしていると……




「アストさん、入らないのですか?」


「うわ! キリールさん……」



 いつの間にか背後にキリールさんが立っていた。音もなく。ビックリした……。



「エラの森へ行くことになったようですね。そのための捜索チーム作りにベルベット様を、と」



 一体どこで話を聞いていたのか。すでにキリールさんは僕の事情を知っているようだった。




「そう……思っていたんですけどね。やっぱり、やめようと思います」


「やめる……? なぜ?」



 ベルベットがいれば百人力だ。だけど……




「キリールさんに、どうしてもお願いしたいことがあります」





   ♦




 ~魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)



 レオンはベルベットの館を後にすると、すぐに向かったのは自分の隊の部屋やフリードがいる第一隊ではなく……資料室だった。




(イグナティス……どこかで聞いた名だ。あれはたしか……)




 自らの記憶を探り、勘に従い、とある事件の資料を手に取る。



「やはり……これか」



 取ったのは、「ロスト12」の被害者一覧。



 国内で起こった事件にも対応するのが魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)だ。当然ながら、十二人の魔法使いが拉致され何人もの孤児を生み出したこの大事件の記録が残っていないわけがない。



 そこの、被害者が連なる一覧には、




 「ゼオン・イグナティス」


 「アリス・イグナティス」



 両名の名があった。


 自分の勘は間違っていなかった。


 アストが言っていた人間に(くみ)する魔人。



 その正体は「ロスト12」によって忌み嫌われ迫害された魔人達「ロストチルドレン」。



 しかし、どうしてその「アリス」が他の魔人に狙われているのか。



 ロストチルドレンは忌むべきものとして扱われてしまっているのが現状だ。いくら他国の魔人とはいえ、あの事件を知っている者なら避けることこそすれ、わざわざ捕まえようなどと……




 その時、レオンの捲ったページに全ての答えが載っていた。




 「ロスト12」で拉致された魔法使いの名。つまりロストチルドレンであるアリスの、親の名は─











「『ヴェロニカ・イグナティス』」





 その名を見た時、レオンの頭の中で点と点が結ばれていく。



 アストがアルカディアから聞いた情報によると、『マジックトリガー』という魔法道具はロスト12で拉致された魔法使いの脳や体を使ってできているといった。その魔法使いの所持『属性魔法』がトリガーになって誰でも使用可能になるというわけだ。




 このヴェロニカ・イグナティスの所持属性魔法は─




「そうか。そういうことか……!」




 どうして『マジックトリガー』という道具が構想されたのか。



 どうして人間であるハゼルがアリスを保護し、彼女は妖怪に捕まったのか。




 その全ての真相に辿り着いた。




 この事件は、




 「ロスト12」は、まだ終わっていない……!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ