表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
183/230

171話 襲来する悪意



 ゼオン・イグナティスが、アリスの…………兄?



 アストは目の前のアリスを凝視してしまう。




 「アリス・イグナティス」ってことか……!

 ここにきてファミリーネームを無理にでも聞いてなかったことが首を絞めてきた。アリスはゼオンの妹だったのか!



 ゼオンはベルベットを殺そうとするハンターのハゼルに協力している。


 ということは、



 アリスは……その味方ってこと…………?



 最悪だ。なんだよこれ。たまたま出会った少女が、自分の敵の妹? 話が上手く出来すぎだ。夢じゃないかと疑ってしまう。




「お兄ちゃんも! アストさんは私を助けてくれた恩人なんだから、酷いことしないで!」


「ぐ…………だ、だが」


「『だが』じゃない!」


「……」



 意外にもゼオンは妹にめっぽう弱いのか、アリスにたじたじとしている。

 さっきまで殺す気満々だったくせに、戦意が完全に削ぎ落とされてプラネタルと融合していた姿を解いた。こんな強気なアリスも初めて見て僕もたじたじだけど……



「アストさん、すみません。ですが、兄と出会えました。もう私は大丈夫です」


「そ、そう……なら、良いんだけど……」



 僕はあまり気持ちよくはなれない。このまま普通に帰してしまって良いのかとさえ思う。



 ゼオンは敵だ。いずれ戦うことになる。そうなれば……もしかするとアリスも?



 複雑な気分だ。いや、アリスが元の場所に帰れるのは嬉しいことだが、なんだかモヤモヤとするな。


 ゼオンはそれを見ると心底嫌そうな顔をする。



「貴様の気にすることではない。不愉快だ。死にたくなければさっさと消えろ。今回だけは見逃してやる」


「もうっ……お兄ちゃん!」



 ゼオンは嫌な言い方をしてくるが……アリスは無事助かったんだ。ここは大人しく帰っておくべきなのかもしれない。


 いつかハゼルと戦うかもしれない時のことを考えると、ゼオンとアリスはその後どこで生きていけばいいのかという問題が頭にチラつくが……気にしすぎ、なのかも。




 僕はアリスに別れの挨拶だけして、(きびす)を返し馬車に乗ろうとする。




 これでこの話は一旦終わり。






 そのはずだった。





(! この魔力は……!?)




 突如。ピン、と魔力が感知できる。その数、2。



 二人の魔人が、こっちに近づいてきている……?





「発見!」


「アリス、発見!」



 ザザザッ!! と森の中から姿を現したのは、



 角が一本生えた赤色の、角が二本生えた黄色の、




   怪物。



 屈強な筋肉に、目はギョロリとデカい。口を開けばその獰猛な牙が見え隠れする。人とは思えない醜悪な外見の存在だった。




「炎の門、開きて 閻魔(えんま)の怒り 地上に燃ゆる烈火の叫び」




 赤色の鬼─「炎鬼(えんき)」がなんの躊躇(ためら)いもなく、3節詠唱を唱える。





「『炎地獄(えんじごく)』!!」



 パンッ!! と平手を打つと、周囲にいくつもの赤色の魔法陣が展開。


 そして、ゴオオオォォ!! と業火をまき散らした! あたりは火の海地獄と化す。



「うわっ!」


「ぐっ!!」


「きゃあああ!」



 僕、ゼオン、アリスを分断する形で炎の波が走る。な、なんだこいつらは!?



「アリスッ!!」



 ゼオンは炎に構わず、アリスの元へ駆けつけようとするが、




「雷の門、開きて 閻魔(えんま)の睨み 地上を裂く轟雷の華」




 今度は黄色の鬼─「雷鬼(らいき)」がゼオンの前に躍り出て3節詠唱を唱えた。





「『雷地獄(らいじごく)』!!」



「ぐ、あああああぁぁ!!!!」




 パンッ! と雷鬼が平手を打つと、空にいくつもの黄色の魔法陣が展開。そこから何発もの落雷がゼオンを襲う。



 ゼオンは地に倒れ伏す。それなら僕がアリスを助けないといけない。


 僕は二体の怪物に向けて【バルムンク】を振るう。アリスを守るために。





 が、





「刃の門、開きて 閻魔(えんま)(ふところ)光り輝く 地上に顕現せし武の象徴」




 え。



 目の前の二体からではなく、森の奥。別の気配から3節の詠唱が唱えられる。




「『刃地獄(じんじごく)』!!」


「な、に!?」



 僕を阻むようにして地面からズドドドドドッ! と刃が生え出てきた。【バルムンク】はそれに防がれる。


 それだけでなく、その刃は僕の下方からも生え出て、体を数カ所斬り裂かれた。




 森の奥からヌゥ……と現れたのは、四本の角が生えた灰色の怪物。こいつら、二体だけじゃなかったのか……!!



 アストがそうしていると、炎鬼と雷鬼はアリスを攫って行く。



「きゃっ! お兄ちゃん! アストさん!!」



 アリスは抵抗するが……すぐに気絶させられ、そのまま怪物達は森の奥へ消えていった。




「待て……貴様ら……!」



 ゼオンは立ち上がるが、モロに雷魔法を受けてしまっていたので体が思うように動いていなかった。あれでは奴らに追いつけもしないだろう。



「クソ。わけがわからないけど……ゼオン、ここは一旦体勢を立て直すべきだ。あいつら、少なくとも三人以上いたぞ……」


「黙れ。俺に指図するな人間」



 全然話を聞いてくれない。


 正直、自分もいきなりのことで混乱している。


 アリスはなぜ攫われたんだ? あいつらは何者なんだ?



 そういえば、ゼオンも僕を見た時に「アリスを攫った」と勘違いしていた。


 そんなことを真っ先に気にするなんて。それに、「人間の研究所」にいることも普通ではない。





 そもそも、アリスは一体何者なんだ……?




「ゼオン。アリスを助けるなら協力する。お互いベルベットとハゼルのこともあるだろうけど、今は一時休戦して……」


「黙れと言ったのが聞こえなかったのか? 俺は人間を信用しない。ハゼルもそうだ。ただアリスと共に生きる場所を得るために利用しているだけ。貴様も、同じだ。さっさと消えろッ!」



 交渉の余地すら……無し、か。



「これ以上俺達の事情に深入りするな。言っておくが、アリスの捜索にはハゼルと、多くのハンターが動くことになるだろう。死にたくなければ引っ込んでいろ」



 そこまで言われては仕方ない。


 僕はゼオンとは別の道でアリスを助けに行くことにする。ここまで意見が合わない奴と協力しても、むしろ効率が悪くなるだけだ。


 それにしても、ゼオンと協力関係にあるハゼルは出てくるかもと思っていたが、他のハンターまで……。捜索対象が魔人なのに、そのことがバレる心配はないのか。




(どちらにせよ放っておけばアリスの身が危ない。それだけ必死ってことでもあるか……)




 この感じ、カルナの時を思い出す……。


 次こそは、絶対に守るって決めたんだ。



 それに、約束したんだ。



 君がピンチの時は、助けに行くって……!



(アリス……待ってて。絶対に助けるから)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ