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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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166話 殺人人形



「本日は呼びかけに応じてくれたハンター達に多大なる感謝を」


 ハゼルは自分の家の前に集まった大勢のハンターを前に礼をする。


 ここまで待ちわびた彼らは「やっとか」と嘆息したくなるのを隠した。いくら向こうが待たせたとはいえエリアリーダーの前だ。こちら側がそんな姿を晒すわけにはいくまい



 それよりも、仕事の話だ。



 それはハゼルもわかっている。だからこそ早々に本題へと入ることにした。



「まず、今回お前達に集まってもらったのは近々大規模な()()()()を立てようと思っているからだ」



 そう宣言するとすぐに手を上げたハンターが1人。



「えーっと。エリア2のホークいう者です。大規模な作戦っちゅーなら、まず『討伐対象』を明らかにしてからハンター集めた方が良かったんやないですか?」



 ホークは思った通りの疑問を素直にぶつけた。


 なぜならハンターは『魔人狩り』の者達とはいえ、その中にだって魔人相手が得意な者、魔物相手が得意な者と分かれていたりするのだ。

 これについては自分の『異能』が効果的な相手かどうかが重要とされる。


 特に貴重とされる「感知系」の異能を持つハンターは基本的には魔物戦には出さないとされることが多い。


 もちろん相手の魔物によって例外もいくつか存在しているが、人間と魔人を識別する機会がないからだ。

 逆に、「魔人」戦では容姿がまったく一緒な『魔法使い』という種族がこちら側に潜伏している可能性だってある。そういった時に「感知系」の異能は必須なのだ。



 ただでさえ本命である魔人戦闘時に残しておきたい彼らは必要度が薄れる魔物戦では温存しておくことが望ましいと考えられている。

 先ほどの例外として「姿を消すような魔物」等の場合は必要にもなるのだが……いずれにせよ討伐対象がはっきりしない以上どんな「異能」を有している者を連れていくべきかもはっきりしない。



 大規模作戦と言うくらいなのだからそこを徹底するべきではないかという質問だった。



 これは「大規模作戦」などというハゼルが直前に思いついた方便だからこそ生じた疑問。最初はただアリスを捜索させるためだけに集めたのだから当たり前だ。


 だが、それに対する回答もちゃんと用意してある。




「今回の討伐対象は前例がない。故に、急遽編成した大隊であるという認識をもってもらいたい」


「その討伐対象とは?」






「魔王後継者だ」





「ま、魔王後継者!?」


「見つかったのか! とうとう魔人側の後継者が!?」



 ハゼルの発言にザワザワッと一気にハンター達は騒々しくなった。


 世界にたった六人しかいないと噂されている「魔王後継者」。

 「魔法」でも「異能」でもない「魔王の力」という名のまったく未知の『超』能力を操る彼らは「感知系」の異能にも引っ掛からないので捕捉することは困難を極める。



 今現在、公に明らかになっている魔王後継者は人間側の「セラフ・クロディアス」ただ1人のみ。


 故に、魔人側に一人判明したのは人間のハンター全員を揺るがすほどの大ニュースといってもいいのだ。



「それならもっと大きな戦力が必要やないですか? こっちのリーダーも参加してますけど、如何(いかん)せん相手が未知。その情報が本当ならあと2人ほどリーダーを追加した方がええんとちゃいます?」


「誤解させて申し訳ないが、前例がないからこそ慎重にいきたい。接敵した結果リーダーが4人死ぬなんて事態は避けたいからな。しかし、これでも戦力を出し渋っているわけではない」



 ハゼルはある方を指し示す。



 そこにいたのは一人の歳若い少女。長い髪をピンクのリボンで束ねていて、それが尻尾のように揺れている。突然自分の方に皆が注目してきたので「なにー?」と首を傾げていた。





「彼女はミーシャ・パレステイナ。()()()()から派遣されたハンターだ」


「うん。ミーシャだよ~」



 彼女が紹介されると、ハンター達はさっきと打って変わって凍ったように静まり返った。



 期待外れ、肩透かし、拍子抜け。それら全ては当てはまらない。




 固まった者らの感情は等しく「恐怖」だった。




「お、おいホーク。なんで皆何も言わないんだ?」


 ハンナは周りの反応に面食らい、コソコソと小さな声でホークに聞いた。彼も周りと同じように固まっていたからこそ理由を知っているのだろうと思ったからだ。



「そら、やばいハンターやからや。悪いことは言わへんからアレとは絶対喧嘩せんといてな。命いくつあっても足りへんで……!」


「そ、そんなに……?」



 どうみても無害そうに見える。

 今も皆が注目しているからニコニコと手を振ったり、前を飛んだ蝶々を追いかけたりしている。あれが本当にやばいハンターなのかそれこそ疑問だ。


 そんなハンナとは違い、ホークは今も冷や汗が止まらなかった。



(ミーシャ……あれが噂の、エリア6の『殺人人形(キラードール)』かいな。こんなんと一緒とか、おっかな~……)



 ミーシャ・パレステイナ。


 歳は14で若く、ただの元気で天真爛漫な少女にしか見えない。



 が、ミリアド王国の中でも魔人殺しのエリートが集う「エリア6」での年間最多魔人駆逐数を誇るハンターで有名だった。




 さらに恐ろしいのはその刃は魔人だけでなく人間にまで及ぶ危険があるとか。


 「足を踏まれたのに謝ってくれなかった」という理由だけで一般人の手足を切断したこともあるらしくエリア6でも彼女を手懐(てなず)けるのは苦労しているらしい。


 それも元々は彼女が唯一言うことを聞いていたパートナー関係にあるハンターが現在何かの理由で失踪していなくなっているから、という噂もあるのだが……本当かどうかはわからない。




 とにかく。そんな事件もあってついた二つ名は「殺人人形(キラードール)」。

 愛らしい人形のように誰もが振り向くような可憐な容姿をしているのだが、一度踊れば死骸が積もる。恐ろしい名だ。




「ミーシャたちなかまだね~。なっかま~♪ なっかま~♪」



 ミーシャは近くにいるハンターの手を取って笑顔を振りまく。


 人間だろうと笑顔で殺すという噂を知っているハンター達は彼女の機嫌を決して損ねまいと無理やり笑顔を作るが、その笑顔は引きつりまくっていた。今にも恐怖で吐きそうになっている。




「おいおい。こんなちっこいのがエリア6かー?」




 と。まぁ……やはり出てきたか。


 誰もがそう心の内に呟きながら、そんなことも知らずにミーシャの前に進んできたのはエリア8の1人のハンター。


 ミーシャと比べれば親子かと思うほどの身長差に、デカい脂肪に包まれた巨大な男であった。



「魔人殺しのエリートって聞きゃあどんなのかと思ったらまだまだガキんちょじゃねーか。おら、ガキは帰ってお母ちゃんのおっぱいで遊んでろ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ~」



 その男はミーシャの頭をボンボンと乱暴に叩きながら追い出そうとする。



 これはもう毎度のことだ。そう、溜息をつきたくなるほどに。


 エリア6はとにかく戦闘能力重視なので他のエリアとは違って強ければ子供だって遠慮なく使う。ミーシャもその一例だ。



 だからこのように大勢の前で出てきて、尚且つそれを初めて見たなら噛みつく奴が1人くらいはいるのである。


 エリートとチヤホヤされている奴がまさか自分よりも一回り二回りと小さく、まだ玩具(おもちゃ)で遊んでそうな子供だとわかれば、必死に魔人や魔物を狩ることでお金を稼いで生きている者からすれば噛みつきたい気持ちもわかるといえばわかるのだが。




 しかし、普通に考えてそのような奴らは自分がどれだけのアホかを認識できていない。




「??? ミーシャこれからお仕事のお話聞かなきゃだから帰れないよー? それにミーシャより『よわっちぃ人』の言うことなんて聞きたくないんですけどー」


 ミーシャはぶー、と口を尖らせて不機嫌になる。


 それだけ見れば可愛い反応だが、たったそれだけで周囲のハンターは顔を強張らせた。



 「やばい」、と。



「あぁ? お仕事ぉ? ぶっはは! 笑わせんな。それにお前みたいな豆女のどこが俺より強─」




 ズパンッ!!!!!!






 強烈な空気を切り裂く音が鳴り響く。



 その次に、ゴロゴロ、と大きなボール状の物が転がる音。



「ひぃっ!!」


「うわぁ!! あ、あああいつ、首切り飛ばしやがったぁ!」



 ミーシャはどこからか取り出した槍斧(ハルバード)を目にも止まらぬ速度で振り抜き、男の首を容赦なく斬り飛ばした。

 当たり前だが男の首は空に飛んでいる時だけ一瞬「うぇ」という声を絞り出した後にもう何も物言わない。即死していた。




「あはっ! よっっっわ! ざっっっっっこ!! ってゆーか、よわっちぃのとはミーシャおしゃべりしたくないって言ったじゃんば~か!」




 ミーシャは地面に落ちた男の首を槍斧(ハルバード)を使って宙に打って遊ぶ。首元から血を噴水のように吹きながら回転するその物体を見て吐き出すハンターも現れた。



 それでも当の本人はシャボン玉でも眺めるみたいにキラキラした目で面白がっている。周りはそれを見て理解できない気持ち悪いものに直面したような顔をしていた。



「ミーシャ・パレステイナ。そこまでにしてくれ」


 ハゼルは自分のエリアのハンターを殺されたことを憤り……ではなく、これ以上死体を積まれてはこの作戦に不参加となる者が続出するだろうと考えてのことである。



「エリア6から君を派遣してくれた方からは『面倒を起こした場合は叩き帰して構わない』と言われている。この作戦に参加したければ今だけはおとなしくしてほしい」


「…………は~い」



 ミーシャは地面に転がった死体を面白くなさそうに蹴り飛ばしながら、また口を尖らせてその場に座り込んだ。




「……あ~、すんません。話、戻してええですか?」



 このままではいけないとホークは本題に戻ろうとする。



「そもそも、その魔王後継者についての詳細を教えてくれません?」


「そうだな。では、これを」



 ハゼルは顔写真が貼られた紙をハンターに配らせる。


 そこにあったのは、少しボヤけて見えづらいが「アスト・ローゼン」の顔写真であった。



 ゼオンとアストが出会ったあの日にこっそりと撮らせて仕込んでいたものである。




「名前は?」




「名はアスト・ローゼン。魔法使いの子が通うと言われている学校に在籍している者だ」




「……なんか見づらい写真ですけど、こいつが魔王後継者って確証はあるんですか?」


「とある情報筋から得たものだが、彼が『魔王の力』らしきものを使っているところを見た、と」


「魔王の力らしきもの?」



 ホークはここにも疑問が残る。


 「魔法」にも「異能」にも属さない第三の力とされる「魔王の力」。その判別は正直に言うと難しい。


 通常では起こり得ない超常現象を引き起こすことは確実だが、どうにも「異能」にもそれに近い効果があったりするのでその線引きが困難だ。



 唯一、線引きできるとすれば……「能力の異常性」しかあるまい。




「彼が使う魔王の力の名は『支配』」


「支配?」


(くだ)した相手の全能力を強制的に奪い取る力。また、魔物に対して使用した場合は自分の支配下にして好きにコントロールできるらしい」


「それはまた、なんとも……」



 たしかに。今、現在そんな効果を発揮する「異能」は聞いたことがない。

 その現場を見たというのなら、魔王の力を判断してもおかしくはないように思える。


 それが本当だとすれば、魔法や異能だって複数所持している可能性がある。

 さらには強力な魔物も呼び出してくるかもしれない。そうなれば人との戦闘に長けた者だけでなく魔物との戦闘が得意な者も必要かもしれない。




(なんかきな臭いけどな……)



 ホークはあまりハゼルのことを信用していない。


 エリア8といえば他エリアに開示できないような研究を日頃から行っている怪しいところだ。


 しかも、この写真だってどうやって手に入れたのか。とある情報筋とは何か。

 それら全てに怪しさがあった。この魔王後継者云々の話も半分程度しか信じていない。



 エリア8のハンターはリーダーの命令となれば動かなければならないのでこの作戦に異論はないようだが……




 ミーシャは、



「あ! これアッくんだ~♡」



 配られた顔写真を見てきゃっきゃと笑いながら、自分の知人の名を呟いた。

 それを聞いた者は、誰もいなかった……




 それからは簡単な概要を聞いて、今はまだ待機状態ということで話は終わった。


 これより各自解散となる。




「なんやゲイル、今日は随分おとなしかったな。こっちはあのミーシャちゃんにちょっかい出すかどうかで冷や冷やしてたで~」


「うるせぇ……」



 ゲイルは忌々しそうに舌打ちする。


 実際、ミーシャには異能の一発でもぶつけてやろうかと思っていた。話に聞くエリア6とはどんなものかと。


 だが、殺気を放った瞬間にこちらに目を向けてきたのだ。

 それだけで並みのハンターではないことは察知できた。


 暴れられずフラストレーションは溜まったが。



「俺だってぶっ壊してぇ時と気分が乗らねぇ時があんだよ」


「迷惑な奴やでほんま……」


「もうこいつに首輪付けとく?」


 ホークとハンナは呆れ果てるが、ひとまずあの場で暴れなくて良かったと胸をなでおろしていた。



 ただでさえエリア2はいつ取り潰されてエリア1に吸収されてもおかしくないのだ。表面上は従順でいてもらいたい。



「んで、ゲイル。ちゃんと参加してくれるんやろな?」


「当たり前だろうが」





 ─魔王後継者だろうが関係ねぇ。



「全部ぶっ壊してやる」



 すごいどうでもいい話ですけどミーシャちゃん……作者の気に入っているキャラの一人です。

リーゼやミルフィアもそうなんですが一見可愛いけど危ない棘があるような子が書いてて面白くて好きです。いやほんとどうでもいいけど。

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