157話 それぞれの帰省
『魔力防性結界配置・強化のため、数日間学院寮からの一時退去をお願いします』
それが今日、朝一番に学生寮宛に通知された文の内容だった。
要は「学院全域に防御用の結界張るから少しの間全員実家に帰れ」とのことだった。
その文面の通知を受け取ったアストは困惑した顔をする。
「結界張るのってそんなに大変なの?」
「小規模の物なら別にそこまでってわけじゃないけど、学院全部覆うくらいの物なら大変よ。何が言いたいかっていうと『ちょっと集中したいから出てけ』ってことよ」
カナリアの話によると、過去に結界を張ってる時にその中で魔法の練習をしてた奴がいて、その流れ弾が完成間近の結界に当たったせいでまた一から作り直しになったことがあったらしい。
へー。そんなことがあったのか。そりゃもう少しで完成するぞー! ってやつをぶち壊されたらキレるよね……。
「2週間くらいで終わるんじゃないかしら。それまではお別れってことね」
「それはそうなんだけど……」
チラリとアリスの方を見る。アリスは「どうしよう……」という顔をしていた。
まだお兄さんと合流できていない以上、ここを移動するのは得策じゃない気もする。
一応、魔法騎士団に届け出を出す、というのも考えた。
でも、それには当たり前だが身元確認が必要となる。
何かの事情でファミリーネームを明かしたくないという彼女にとっては使いたくない手段なのだ。
アーロイン学院を出なければならない以上、アリスはまたどこかで兄を待たなければならないわけだが…………。外でずっと待ち続けるわけにもいくまい。
「カナリアはどうするの?」
「あたしはもちろん家に帰るわよ。お父様もいるだろうし」
「ライハは?」
「わたしもお世話になるところがある。魔法騎士団にいて、パパの昔の知り合いの人」
そうか。ライハは両親がいないからちょっと心配だったけども、そんな人がいたのか。そうなればライハのところに行かせてその人の負担を増大させてはいけないかな……。
カナリアもガレオスさんと色々あるだろう。魔法騎士として色んな壁に当たった今、父と2人だけで話し合いたいこともあるはずだ。
それならガイトのところへ……と言いたいところだが、アリスはいつもこの部屋で生活していたこともあって音楽室に入り浸っているガイトとの面識は薄い。気を遣って過ごしづらいかもだ。
じゃあ……残る選択肢は一つ。そして、一番安心できそうな場所でもある。
「アリス……僕と来る?」
「アストさんとですか? 私は贅沢なんて言えない身ですから入れてくださるだけでも嬉しいですが。でも……いいんですか?」
「うん。僕の家ってより……ベルベットの家、だけどね」
そう。僕が帰る実家といえばベルベットの館だ。
あそこなら広いし、色んな使用人の方がいるから生活面の心配はない。これは自分が言うことではないが、お兄さんとの合流に協力してくれる人もいるかもしれない。
あ、ちなみにベルベットのことだが、ここまで全然姿を見ないことに不思議に思った人がいるかもしれない。
実は創立記念日の夜のパーティで魔法騎士団に捕まってからまだ出てきていないのだ。
なので僕は1人で館に帰るところだった。これもこんな時に言うことではないが、アリスが来てくれて嬉しいよ。あとでキリールさんに連絡を入れておこう。
「それじゃ、しばらくお別れになるね」
「あんた、ちゃんとあっちでも鍛えて力つけときなさいよ」
「アスト。元気で」
「じゃあなアスト」
荷物を纏めて、よくつるむカナリア、ライハ、ガイトの僕達4人は別れを告げる。
カナリアとガイトは実家へ。ライハは魔法騎士団へ。僕とアリスはベルベットの館へ。
これから少しの間、ベルベットの館での生活だな。
何も危ないことが起こらなければいいんだけど……




