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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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152話 外の世界を願う鳥



 その後、アリスは学院を見て回りたいというので一緒に回ることにした。



「アストさんって熱心ですね。放課後もあんなに頑張って」


「僕よりも頑張ってる人はいっぱいいるよ。カナリアとかライハだってそうだし」


「でも、なんだかアストさんは必死になりすぎている気もします。休むことも大事だと思いますよ。……あ、その、私なんかがこんなこと言ってしまうのも……」


「いや、意見の1つとしてちゃんと聞くよ。休まないと、頑張らなきゃいけない肝心な時に頑張れないからね」


「ふふ……そうですね」



 アリスの言うことは正しい。


 頑張れば頑張るほど結果が出る…………それは普通に考えれば正しいと思えるが、実際そうではない。



 悲しいかな、冷ややかな言い方だが「効率」というのはたしかに存在している。



 頑張れば体力を消費し、休めば基本的に体力は回復する。人が様々な作業をこなすのにその「体力」というのは非常に重要な要素なのだ。


 たまには息抜きするのも大事なことだ。僕も遊びに行ったりはしているけれど、それとは別に休んだりするのも必要なのかも。



「それに、今こうしてアリスと一緒に学校を回ることで休憩してるしね」


「え!? むしろ迷惑をかけているんじゃないかと思っていました……」


「全然。楽しいよ、こっちは」



 それはいいんだけど。周りからの視線だけは辛い。


 この銀髪の少女はカナリア達にも負けないくらいに可愛い少女だ。そのせいでまた周りからは厳しい目を向けられている。


 本当はカナリアかライハに頼みたかったけど、2人共用事があって無理とのこと。



 もう僕レベルになるとね、わかるんだ。また魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に通報されてるねあれは。多分2回。賭けてもいいよ。



「私、学院に通ってみたかったです。ここはすごく楽しそうなところですね。勉強はお母さんやお父さんに教えてもらってたんですけど、お友達はできないですから」



 アリスは少しだけしゅんと肩を落とす。


「それは……たしかに」


「でも、研究所ではお兄ちゃんも働いているので寂しくはないんです。お兄ちゃん、合間を探して一緒に遊んでくれますから」


「お兄さん早く迎えに来てくれたら嬉しいね」


「ですけど私、こんな状況ですけど少しだけワクワクしてるんです。外の世界に触れる機会は少なかったので。今のうちに色んなところを見て回りたいです」


「じゃあ休みの日に出かけたりしてみる?」


「いいんですか?」


「うん。アリスが良いなら」


 アリスはやったー! と手を上げて喜んでいた。


 彼女のことを探しているお兄さんには申し訳ないが、ずっと外に出られなかったという彼女を少しの間でも明るい世界を楽しませてあげることを許してほしい。


 彼女がミリアド王国のどんなところに住んでいたのか、気にはなるがあまり楽しいところではなさそうだ。


 それなら、今くらいは楽しく。もしお兄さんと会って勝手に連れまわしたことを指摘されたら素直に怒られよう。



「あ、ここ図書室なんですね」


 僕とアリスは色んな部屋を回っていたのだが、随分と広い部屋─図書室に入った。


 ここには物語や一般的な読書本は当たり前だが、魔法についての研究書が揃えられてある。数々の魔女の研究結果が載せられた論文も置かれてあるのだ。



 僕は色々手に取ってみる。



『魔力による境界維持についての3大要素発見』


『魔力使用において不可逆効果変換の変質調査』


『魔法暴発瞬間での最大値計測から見るエネルギー転換方法及び実験』



 ダメだ。わからん。こんなの見てると頭痛がする。


 ……おや。しかし、これはなんだかわかりやすそうだぞ。『睡眠状態からの魔力浮遊移動の研究』。面白そうだなこれ。



 げっ! 著者がベルベット・ローゼンファリスって書いてある! こんなことばっかり考えてるのかベルベットは。下心が丸見えだ。



「あ、アストさん! なんだか他の本とは違う本がありました!」


 笑顔で本を持ってきたアリス。テーブルに置いたそれは、



『セクシー女教師 ~教え子と交わる特別魔法授業~ 魔法で感度3000倍』



「ちょちょちょ、そ、それはやめておこうか! ね!」


 僕はその本をすぐに本棚に戻してきた。アリスは「?」と首を傾げている。



 なんだあの本は。あれって完全にエッチな感じの本だよね!? 表紙が完全に学校にあるような物じゃなかったと思うけど! な、なんでここに置いてるの!?



「アストさん……? あの本って……?」


「なんでもないよ!? いやー、あんな本もあるんだねー。僕達にはまだ早そうだ」


 まだ心臓がバクバク言っている。とんでもない本と出会ってしまったものだ。




 ……。………………………………置いてある場所、一応覚えておこうかな。




「アストさん? なんでさっきの本棚を見てるんですか?」


「いやいや!! 何も!! ないよ!!」


 僕はねじ切れそうになる速度で首を戻す。(よこしま)な気持ちを一気に霧散させた。


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