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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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151話 また会う日まで



 放課後。今日はいつものジョーさんとの修行の日だ。


 なのだが……



「なんでアリスもいるの?」


「えへへ……見学してもいいですか?」


「いい、けど……」


 いつもの広いトレーニングルーム。そこには僕とジョーさん以外に銀髪の謎の少女─アリスもいた。


 ずっと部屋にいるのも退屈なのか、それなら誰かについて見たことないものを見てみようというわけだろう。つまらないかもしれないけど、見学したいというなら追い出すことはしない。



「ガールフレンドを連れてくるたぁお前も良い男になってきたじゃねえかぁ。けど、修行には集中しろよ」


「はい! わかってます」



 もうこの修行も1回2回というわけではないのだ。僕の意識も自然と切り替わる。



「さてと。前の学内戦はまぁまぁ良かったぜ。『カウンターバースト』……少しくらいは掴めたか?」


「はい。コツ……と言いますか。そういう物は掴めた気がします。依然としてかなり難しいとは感じますけど」


「それでいい。技っつーのは簡単だと思った瞬間から修練されず死んでいく。ちょっとばかし難しいと思ってるくらいがちょうどいいのさ。練習にも身が入るだろ」


「それは……そうですね」



 技は身に付けて終わり、ではない。

 日々研ぎ澄ませていき、その刃を鈍らせず、それでいて鋭さを上げていく。そうすることで初めて「技を手に入れた」ということなのだ。


 一度簡単だと思ってしまえばもう練習しなくなる。「いつでも使える」という感覚が自然と技を鈍らせてしまうのだ。



「さて。今回は魔力についての総仕上げといくか」


「総仕上げですか?」



 今まで練習してきた魔力コントロールの練習。


 最初は「魔力の纏う際のイメージ」から始まってついには「カウンターバースト」という高等技術を手に入れてしまった。



 一体最後には何を身に付けるというのか。



「つってもシンプルだ。コントロールはもうあらかた身に付けたからな。あとは……保有魔力を増やす」


「保有魔力を増やす……ですか。僕も魔力が増えるのはありがたいですけど」



 僕は人間だから魔人に比べて極端に魔力が少ない。だから魔力をちょっと使いすぎただけですぐに魔力欠乏になってしまう。


 魔力を体に取り入れない人間ならこんなことにはならないが、訓練して魔力を取り入れるようになった自分はハンデのようなものを背負っている状態でもある。魔力はすごい便利だけど、量が少なければ危険の方が正直大きい。


 しかし……保有魔力の増やし方を調べたりはしたけど、これといって見つからなかったんだよな。



 本を読んだりしても「保有魔力は生まれた時から決まっているから仕方ない」とか書かれてあったりするのだ。



「安心しろ。練習はいたって簡単だ。また魔力を纏うだけでいい」



 ここに来てまた魔力を纏うことに戻るのか。


 いや、もちろん基本は大事だということはわかる。けれどもそんなことで保有魔力が本当に増えるのだろうか。



「アスト。お前は今魔力を纏っているか?」


「いえ。やろうと思えばすぐにできますけど、別に普段はやる必要ないかなと。意識しなきゃできませんし」



 そうなのだ。魔力を纏うという行為。ずっと練習してきたから今では随分と簡単にできるようになったがさすがに意識してない日常生活では纏っていない。

 魔人なら日常生活でも纏っている。けれど、人間である僕はずっとやってたら疲れるのだ。


「今回の課題はそれだ。お前には常に戦闘時ほどの量の魔力を纏った状態を維持してもらう。飯食ってる時もなぁ」


「ず、ずっとですか……」


 さっきも言った通り意識しなきゃ魔力は纏えない。多く纏うのだってその分疲れるし、長時間纏っていれば魔力欠乏の可能性だってある。



 カナリアやライハだってこれは変わらない。


 戦闘時には魔力を多く纏う。日常生活では必要がないし意識してないしで基本的に薄くしか纏っていない。寝る時はもちろん纏ってすらいない。



「今の奴らはわかってねーなぁ。できねーことはできねーつって次の世代に伝わってすらいねぇ」



 ジョーさんは溜息をつく。魔力の考え方が昔と今ですっかり変わってしまっていることを嘆いているようだ。



「俺達魔人は空気中から魔力を補充する。が、一定時間に取り入れられる量は実のところ人によって大きく違う」


「そうなんですか!?」


「ああ。器の大きさが違うからなぁ」



 ジョーさんの話によると、たしかに魔人は生まれた時から人によって魔力を入れる『器』というものに差異があるらしい。それによって保有魔力の違いや空気中から吸収する魔力にも違いが出てくる。


 そしてその器というのはどうやっても鍛えられない。それが常識だった。



 しかし、どうやら「鍛えられない」というのは気づいていないだけで、その器は知らず知らずの内に育っているというのだ。


 特に「魔力欠乏」になる時、体がこれまでの大きさの器では「足りない」と認識する。



 そうすると無意識下で「器の拡張」を行うらしいのだ。



 ほんの微々たる成長だけれども。


 欠乏する度に、何度も、何度も。


 体が器を打ち直し、より大きく、より多く魔力を溜める器へと。



 だから……



「魔力を常に多く纏い、それを魔力欠乏になるまで続ける。休んで、回復したらまた再開。欠乏と回復を繰り返すんだ」



 なんというシンプルな練習だろうか。それでいておそらく今までのどれよりも過酷になるだろう。


 魔力欠乏になると体を動かすのも困難な状態になる。それを繰り返せと。



 だ、ダメだ……練習を開始していない今の時点でもう疲れてきた……。



「詳しい練習方法はベルベットのとこの使用人が一番知っている。そいつから聞いてみろ」


「え、ジョーさんが教えてくれるんじゃないんですか?」



 てっきりいつも通りジョーさんが練習方法まで授けてくれるのかと思っていた。そうしてくれたことで僕も色んな技術を習得してこれたのだから。




「そうしてやりてぇがな。俺がお前に教えてやるのも今日で最後だ。俺独自の練習方法を教えてやっても経過を観察することができねぇんじゃ意味がねぇ」



「え……ジョーさんとはもう会えないんですか!?」



 練習なんかよりも衝撃的な言葉が降ってきた。そんな話今の今までまったく無かったのに。



「仕事があってな。やることができたのさ。休み期間はここで終了ってわけだ」


「そう、ですか……」



 アストはしょんぼりと肩を落とす。


 それはそうだ。せっかく、初めてできた師匠(ベルベットは全然教えてくれないので名だけの師匠)なのだ。もっと、もっと教えてほしいことだってある。


 魔力の纏い方を教えてくれたことで僕はこの学院で人間でも仲間入りを果たすことができた。


 カウンターバーストを習得できたことで学内戦でも勝利することができた。



 これからもずっと僕の成長を見てくれると思っていたのだ。



「おいおい。男がそんな弱々しい顔してんじゃねぇ。『別れ』はいつだってすぐ傍にある。誰も見ようとしねぇだけで、すぐ傍にな。いつもそれは突然なもんさ。相手が俺みてぇな良い男なら尚更だろ?」


「はい……」


「たとえお前がどんな存在だったとしても、お前は俺の弟子だ。胸を張れ。こんな良い男の弟子やれるなんて人生で最高の瞬間だったはずだぜ」


「……!」



 その言葉で気づいてしまった。



  「たとえお前がどんな存在だったとしても」。



 もしかして、ジョーさんは僕が「人間」だって知っていたんですか?



 知っていても尚、僕のことを……。




「本当に、ありがとうございました……!!」


「おう。元気でやれよ。また会うことがあれば、良い再会を期待しておくぜ。強くなれよ……アスト」


「はい!」




 保有魔力を増やす練習は厳しい道のりになりそうだが、ジョーさんと約束をした今、僕の中に不安はなかった。




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