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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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147話 Angel Clock:START



 アルカディアの騒動があって数日。アーロイン学院の校舎は壊滅的な被害を受けたことから、魔法で修復完了するまで学校はしばらくお休みということになった。


 じゃあその分の授業どうすんの、という話なのだが。「クエスト」で埋めようということになったのだ。


 先日クエストをこなしたばかりという者にとっては災難だが、またもや学生達はクエストに駆り出されていた。

 教員達がその学生に相応しいランクのクエストを割り振り、それを無事クリアできれば消滅した授業の補填(ほてん)となるわけだ。




 そんなわけで僕、カナリア、ライハの3人はクエスト中。



 「ガイアビートコング5体の討伐」というCクエスト。



 ガイアビートコングは大きなゴリラの魔物。パワー型の魔物なので一発を貰うと危険だ。距離を取って魔法を撃つのがセオリーだが、



「アスト! お願い!」


「うん。任せて!!」



 カナリアの指示と共に、アストは手に「指輪」を付ける。


 指輪には白と黒の2色がちょうど半分に分けられている宝石がはめ込まれている。アストはそれをカチカチッ…………カチリッ!と180°回転させた。白と黒が反転する。



 それはこの「魔法道具」起動の合図。




「解放宣言ッ!!」


『サタントリガー・アクティブモード

 解放─「魔王の心臓」』




 ドクンッ! と心臓が大きく鼓動し、闇が体の中に流れ込む。

 自分の中にある力が目覚める。



「現れろ! 希望を照らし出す魔法陣!

 『漆黒魔竜(ドミネイトドラゴン) バハムート』!!」



 黒の魔法陣を出現させ、そこから、その黒よりも深き漆黒の竜王を呼び出した。



「『無限の造り手(ヴォイド・メーカー)』!」



 さらにバハムートを武器の姿─【竜魔剣 バルムンク】に変換する。武器の形をしていれど、魔物の姿をしていた時よりもさらに大きな力がその武器から発せられている。


 アストはガイアビートコングに接近しながら強化魔法『ファルス』を【バルムンク】を対象に発動した。



 『ファルス』は【バルムンク】となったバハムートの手により『闇魔法』へと変換される。




「『ブラックエンドタナトス』!!!!」




 蒼光の火花を散らす剣は漆黒光の大剣となった。


「ウホォ!!!」


 屈強な筋肉に纏われた拳と衝突。

 パワーを売りとしているガイアビートコングと真っ向から力比べなんて、それが「学院1年生のひよっこ」と知れば誰もが青い顔をするだろう。


 しかし、その勝負は呆気ないものだった。



「う、ほっほぉ……………!?」



 なんの抵抗もなく大剣は拳ごとガイアビートコングの体を真っ二つに切断。全てを破壊切断する闇魔法を付与された剣がこの程度の魔物の拳で止まるわけがなかった。



(……よし。トリガーにも慣れてきたな)



 これでちょうどガイアビートコング5体討伐完了。だが、アストの心にはクエスト達成よりも気にしているものがあった。



「あんたのその力、いつでも使えるようになったのほんと便利ね」


「まったくだよ。剣ぶっ刺したり、殺されかけて使えるようになってたからね」


「あんたは普通に言ってるけどそれ異常よ……?」


「アスト、そんなことしてたの……?」



 そんなこと知ってるしそんなことしてたよ。今でも思い出しただけでゾクリと寒気がする。


 命は1つだけなのにこれまでいったいどれくらい死にかけてきたのだろうか。数えていくとストレスになりすぎて血でも吐きそうなので考えるのはやめておいた。



 その代わり……というわけではなく。今回のクエストのついでにサタントリガーのことを色々と調べていた。


 まず、サタントリガーは発動してから「1時間」で効果を失う。



 カナリア達にお願いしてガイアビートコングを1体倒した後に戦闘を一旦終了してもらって効果の持続時間を調べてみた。

 アルカディアとの戦闘が終わるといつの間にか「魔王の力」が使えなくなっていたことからサタントリガーには効果持続時間があると踏んだのだ。


 そこで戦闘が終わっても【バルムンク】を出しっぱなしにしてみた。ムウからは「用が終わったなら早くしまえよ」と怒られたがそれも振り切って強行した。



 するとおよそ1時間で【バルムンク】が消失。支配した魔物を召喚する黒の魔法陣も出せなくなっていた。



 アレンとの人格交代といい、サタントリガーといい、時間制限ばかりに縛られているのは困りものだ。


 もしかしてだけど、自分がどれだけ「魔王」に近づいているかを数値で示す『魔王深度』を高めていけば、これの持続時間も増えるのかもしれない。

 そうだとするなら、『魔王深度』が100に到達して「魔王」になればずっと発動したままの状態になるとか? 想像するだけで恐ろしい。



 魔王深度は上げれば上げるほど「魔王の力」が強くなっていく。ムウに聞いてみたところ現在、僕の魔王深度は「37」。アレンは「31」。


 僕の成長がアレンにも影響しているのか、アレンの魔王深度も若干上昇していたらしい。

 ここら辺の仕組みは僕にはよくわからないから「アレンも上がっててラッキー」程度にしか思っていない。



 話を戻すが、サタントリガーについて……「2回目以降の使用には体に大きな負担がかかる」。



 「魔王の力」が消えた後にもう一度サタントリガーを使用してみたのだが、その際に強く心臓を締め付けられ、体中を引き裂かれるような激痛と、割れるほどの頭痛が走った。


 それは時間が経つと収まっていったのだが、頭痛だけはまた「魔王の力」が消失するまで続いていた。 我慢すれば戦えないわけではないけども、2回目でこれなら3回目以降はどうなるのか、この先はさすがに試さなかった。


 つまりは出来る限り2回以降の使用は控えたい、ということ。過度に使用しすぎると本当に死ぬことになるかもしれない。



 今はそんなところだ。あとは「壊れるのかどうか」も調べたかったけど、本当に壊れてしまえばマズイので試しはしなかった。


 これでサタントリガーはゼオンの噴射型注射器(インジェクター)タイプ、ミーティアの(キー)タイプ、僕やアルカディアが使う指輪(リング)タイプが判明した。



 「魔王の力」の種類によって形が違うらしいが……どれにも言えることは「普通の道具」と「サタントリガー」が判別つかないことだろう。



 「サタントリガーはこんな形をしているよ」というのがわかれば、それを持っている人物が「魔王後継者」とわかる。

 しかし、これだけ種類があってどれも日常に溶け込むような物となれば、それがサタントリガーだと一目で判別することは困難を極める。


 僕だってアルカディアが実際に使うまではこの指輪が「サタントリガー」だとわからなかったのだから。今になってどうしてこんな形をしているのかが納得いった。


 この調子でもっともっと魔王の力について知らなくてはいけない。

 アルカディアのように強い奴がいつ来るかなんてわからない。その時に自分がどうなっているかは自分次第なのだから。



 それに、アルカディアのことだって……




   ♦




 ~数日前~


「アルカディアが……脱走した!?」


「ああ。そう報告があった」


 魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に呼ばれた僕は、そこでレオンさんとフリードさんから信じられないことを聞かされた。



 なんでもアルカディアは護送車に運ばれていたところ、連行していたプロの魔法騎士2名を殺害したとのこと。

 1名は無残にもバラバラな肉塊と化しており、1名の死体に関してはなぜか髪の一本も見つからず「裏切り」もしくは「おそらく死亡している」という扱いだった。



 魔法発動不可の手錠型魔法道具を付けられていたにも関わらず脱走できた。これは初の出来事であるらしく魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)も混乱していた。


 相手は未知の力を使う魔法使い。それならば今までと同じような方法で連行するのはマズかったのではないか、隊長1人が見張りに追加されるべきだったのでは、と今でも新たな対策のための議論がなされているんだとか。



「いやぁ~、アストくんもよくそんな奴を倒せたね。なんかヤバイくらいでっかい竜も出たって聞いたけど」


「アルカディアはまだまだ力を隠していました。あれでも半分すら力を出していないと思います。どことなく手加減されているのがわかりましたから」


「手加減って……もうちょっとでアーロイン学院なくなってたんだけど……」



 アルカディアが脱走。ということはまた奴はどこかで接触してくる可能性が大きい。

 なにせ人類を滅ぼそうとしているんだ。それこそ次は世界を巻き込んだ大事件を起こしても不思議ではない。



 人間と魔人を全て滅亡させる。そんなこと、絶対にさせやしない。今度も、止めてみせる。




   ♦




 そんなことを聞いたのもあって、力をつけることが急務となっていた。

 次に戦う時も勝てるように。僕自身も鍛え、「魔王の力」も使いこなせるようにならなくてはいけないのだ。



「じゃあ学院に帰るわよ」


 クエストも終了したからカナリアの言う通り、あとは学院に帰るだけだ。ただ、ここで気持ちを緩めてはいけない。


 結界を張っていない「魔人の国の外」にいる以上はハンターだっているんだ。しっかりと周りに気を配りながら移動することが必須だ。


 特にカナリアとライハはエリアリーダーと出くわしたことが記憶に新しい。嫌でも辺りを気にしてしまう。

 なんでもない木々の揺れや風が吹く音に敏感になる。魔物が落ちている枝を踏み砕いた時には心臓が止まりかけた。……これでは逆に慎重になりすぎだ。



「あっ……」


「な、なによ!? 急に変な声出さないでくれる!?」


「びっくりした」



 そんな状態になってしまっていたせいか。アストがポツリと落とした声にカナリアとライハは身構えてしまう。


 思ったより過剰な反応が返ってきたので驚くアストだが……そんなことは置いておく必要があるほど気になることがあったのだ。



「あそこに誰か倒れてる」



 指さす方、それは一本の木。そこに寄りかかるようにして倒れている人影があった。


 アストはそこに引きつけられるようにして歩いていく。



「ちょっとっ! 人間かもしれないでしょーが!」


「それでもここに放置するのは危ないよ」



 カナリアの静止を振り切って進む。近づく度に……人影の輪郭は確かになっていく。とうとう距離が手で触れられるところまでになった時、



「─!」



 まるで、造り物かと思った。


 失礼のないように補足しておくと、それくらいに綺麗な女の子だったのだ。


 1本1本が絹糸のように美しい銀髪。肌は泥や土で汚れていたが、そんな汚れが遅れて目に入るほどに肌は白く透き通るようだった。薄いピンクの唇は白い肌の中で余計に目に入る。


 カナリアやライハと同じような華奢で今にも壊れて消えてしまいそうな体なのに、その身がたしかにこの地にあるという強い存在感を示す。


 早く安否を確かめなくてはいけないのに。触ってしまっていいのかなんて思ってしまう。

 何度かの逡巡の後、その体を抱き起こした。



「だ……大丈夫?」


 声をかけると、少女はゆっくりと目を開けた。黒の睫毛の奥から水晶のような(ひとみ)が現れる。



 ……この広大な空と同じ色。()()()()が。



「名前、言える?」


 なんだかこれは自分にも既視感があるので僕と同じく記憶喪失なんてオチじゃないことを確認するべく、名前を聞く。


 少女は恐る恐る口を開く。



「あ…………」




 思い出せばこの時だった。始まったのは。




 大きな悲劇の渦へと飲み込まれ消えようとする君と、それに手を伸ばそうとする僕。




 世界の命運を左右するあの大きな戦いが、始まったのは。





「アリス」










 It’s a Regression world


─ Artificial angel Project:Veronica START ─



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