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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
幕間 少女が泥濘の日々に生まれた意味を
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146話 秒針が動き出す



「今日は忙しい中来てくれてありがとう。ようやく計画を進められそうなんだ」



 ここは世界のどこか。物腰柔らかな笑みを浮かべて大きな円卓についた男─アルカディアは集まった皆に席に着くよう促す。

 そこに続々と付いていく面々。誰もが「異常」と言えるほどの力をその身に携えている。



「アルカディア。お前の『候補者』ってまさかあの小僧のことか?」


「ふふっ、それは内緒にしておこうかな」


「内緒とは勿体ぶるじゃないか。あの『アスト』って子じゃないのかい? 随分入れ込んでいるみたいだけど」


「どうだろうね」


 アルカディアは周りにいる同士達から浴びせられる核となる質問を躱していく。

 その横に控えているカチュアは何やら不機嫌そうだ。


「おいアルカディア。お前んとこの女、何イラついてんだ?」


「ん? カチュア、どうしたんだい?」


 同士の1人が微妙な空気を感じ取る。どうも先程からブスっとしているのだ。

 理由を言うつもりもなかったが、自分の主から問われれば答えるしかあるまい。



「アルカディア様がお呼びになっているというのに、空席が多いです。我ら『インカ―』の組織の一員として、世界を救う一助となる自覚があるのか……」



 『インカ―』。それがこの組織の名。アルカディアの世界を救う計画に賛同し協力する者達だ。



 カチュアは円卓の空いた席が気になっていた。


 現在集まっているメンバーは自分を合わせてたった4人のみ。

 アルカディア。カチュア。獣を思わせる大きな体をした男。腰に剣を提げている、服に十字のバッヂを付けた騎士風の男。


 カチュアも知らされていないメンバーもまだまだいるだろうが、自分が知っているだけでもこれ以外に少なくとも3人はいたはずなのだ。

 アルカディアが掲げる「人類を一度葬ることで世界をやり直す」計画。そのメンバーとなっているにも関わらずこれにはカチュアも失望する他なかった。



「仕方ないよ。皆忙しいのさ。そうじゃなくても自由な人だって多いしね。また僕から後で伝えておくよ」


「ですが……!」


「おい、カチュアっつったか。やめとけやめとけ。『あいつ』はマジで忙しいから来れないんだろうが、他のクソ共は気が向かない限り来ねぇだろ。俺だってアルカディアが呼ばなかったら来なかったしな」


 獣の如き男はガハハと笑う。カチュアは汚物を見るような目でそれを眺めていた。そんな理由で、と言いたげに。




「じゃあ、本題を話すよ。さっそく計画を進めて行こう。魔王に至るためのステップ、その1つ目。そうだね、これを名付けるとすれば……『禁魔の夜』としようかな」



「あん? んだそりゃ……?」


「ここで魔王後継者2名を動かす。この2人だ」



 アルカディアは資料を流す。獣の如き男と騎士の男はそれを見た。

 どうして彼が世界に6名しかいないとされている魔王後継者の情報を知っているのかはここでは誰も突っ込まない。



「なんだ、私の『候補者』じゃないな。『ゼオン・イグナティス』って……これ、君のだろヴァルクロア」


「おぉ。こいつだこいつ。ガハハ、お手並み拝見ってやつか。それはいいんだが……まーたこいつか。……『アスト・ローゼン』」



 アルカディアが特別気にしている男。その名前をここでも見るとは。

 アーロイン学院での立ち回りを聞いたが、彼もまさかまたこんなことに巻き込まれるとは思わないだろう。


「今回、およそ大きな確率でアストくんは死んじゃうだろうね。それだけ大きな駒をぶつける」


「人間か? 魔人か?」


「人間だよ」


「エリアは?」


「2番」


「んぁ? エリア2つったらよぉ……あぁ……あのガキか。大丈夫かぁ? 俺から見りゃこのアストって小僧マジでふっつーに死ぬぞ?」


「だろうね。でも…………それで生き残ったら面白いでしょ?」


「ふむ。それだけ魔王に相応(ふさわ)しいってことか。なるほど」


 3人の間でスラスラと交わされる会話。何をするのかわかっているようだ。カチュアには詳しい話を教えられていないため、どう話が進んでいるのかわからない。



 わかることは……また大きな戦いが始まるということだけ。



「じゃあそういうことで。全ては…………」





「「「ヘクセンナハトの魔王のために」」」





   ♦




 夜行の国。それは魔人の種族が一つ「妖怪」の住む国だ。


 人間が住む国の一つである「日の国」の近くに位置しており、そこもまた「マナダルシア」「クレールエンパイア」と同じく例に漏れず国の周囲を認識阻害効果の結界で囲むことで人間の手から逃れて生きている。


 国の中は驚くことに永遠に闇が空を支配している。つまり、一日中「夜」なのだ。

 別に、妖怪たちは吸血鬼たちのように夜の方が活動しやすいなんてことはない。


 ただ、人間が朝日の昇る頃に活動する習慣があるように、彼らには夜に活動する習慣があるというだけのこと。もちろん朝に活動する妖怪だっている。


 それは、人間にある「日の国」とは逆の「夜」を冠することで魔人としての矜持を示したかったのかもしれない。

 ……いずれにせよ、今となっては長き歴史の中で思考を停止させてしまっているようなものだ。


 その国の中、まるでミリアド王国でいうミリアド城のように立派な城が一つ建っていた。


 それは「妖魔城(ようまじょう)」。妖怪という種の長が住まう場所。


 皆が想像するような洋風の城……ではなく、和風。それは「日の国」の人間が建てるような天守が存在する城であった。

 同じ様相をした城を立てているのは決して人間と成れ合うつもりではない。張り合いのようなものだ。



(おもて)を上げよ」


「「「「はっ!!」」」」



 その本丸御殿。1人の老人と4人の異形の存在がそこにはいた。


 老人の声に反応して4人の異形……「鬼」が顔を上げる。



「ミリアドの8の(あるじ)たる(わっぱ)が魔人を抱えておるらしい……」



「人間が……魔人を!?」


「しかもエリアリーダーが……!」


「その話は本当でございますか!?」



 主から与えられた突然の情報に鬼たちは戸惑う。人間が魔人を抱えるということはそれほどありえないことなのだ。


 ハンターは魔人を見るなり殺害するのが「普通」。それ以外には選択肢などない。


 もし、それ以外の選択肢があるのなら……何かがそこにあるということだ。


「何かが臭う。現に、ミリアドで不可解な魔力反応を感知したとの報告も入った」


「不可解な魔力反応……ですか」


「それは……」


 人間が住んでいるはずのミリアド王国で「魔力反応」。これもおかしい。しかも魔人でさえ謎に思うほどの魔力となれば話も別次元に昇華していく。



「そこで……『炎鬼(えんき)』、『雷鬼(らいき)』、『毒鬼(どっき)』、『刃鬼(じんき)』よ。(ぬし)らに任務を与える。その魔人を奪取してこい」


「「「「はっ! ぬらりひょん様の仰せのままに!」」」」



 角が一本生えた赤色肌の鬼『炎鬼』。


 角が二本の黄色肌の鬼『雷鬼』。


 角が三本の紫色肌の鬼『毒鬼』。


 角が四本の白色肌の鬼『刃鬼』。



 彼らは声をピタリと揃えてそれに応じる。


 妖怪の長─「ぬらりひょん」はニヤリと(わら)う。


 人間が何かの兵器を生み出そうとしているのならば、それを奪うまで。

 そして我が「妖怪」こそが人間を、他の魔人をも支配して頂点へと()すのだ。



「して……ぬらりひょん様。そのエリア8のリーダーが抱えておると言われる魔人の名は?」



 鬼の1人が代表して問う。


「安心せい……そこも調べがついておる」


 ぬらりひょんが口を開いた。




「名は…………『アリス』」




   ♦




 ~ミリアドエリア8~


 とある研究所。その中で白衣を着た男達が騒いでいた。


「やばい。やばいぞ。『ヴェロニカ』の実験が失敗した! 『アリス』が消えたぞ!」


「どうすんだよそれ……リーダーにバレたらまずくねぇか? だってあれはプロジェクト:ヴェロニカの…………」


「それ以前にリーダーよりも『あいつ』にバレた方がヤバいだろ。早くどこに行ったか探さねぇと─」



 大切な物がなくなった。そんな風に慌てふためく研究員達。


 その会話を聞いていた1人の男が



「─おい。アリスがどうした?」


「ひぃ!!」



 冷徹な声を出して研究員の1人の胸倉を引っ張り上げた。

 恐怖を与えることによって現在の状況を洗いざらい聞きだす。


「なんだと!? ふざけるな!!」


 壁に叩きつけ、こうしてはいられないと走り出す。



 「ゼオン・イグナティス」は舌打ちをした。



「待っていろアリス。『()()()()()』がすぐに助けに行くからな……!」



 銀色の髪と空色の目を持つ少年は、鬼気迫る表情で妹を探しに出た。



 

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[良い点] 妖怪の主をぬらりひょんにするのはセンス感じました [気になる点] あるとするなら更新ペース [一言] これからも応援してます
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