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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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144話 エピローグ【エピソード4 完全理想の支配と救世の竜神】(完)



 ふむ。アスト・ローゼン。この大きな試練を乗り越えるとは。さすがは『支配』の魔王。先代すらも退けるか。


 けれど、終わりじゃないよ。


 ここからさ。始まりなんだ。これは。言うなれば、彼らの戦いの始まりを告げる号砲なのさ。



 【世界の救世主 アルカディア・ガイウス】


 【『支配』の魔王 アスト・ローゼン】


 世界はどちらに微笑むのだろうか。それとも第三者がどちらも破壊するのか。

 はたまた現れるさらに別の存在が全てを飲みこむのか。

 

 いいね。この世界には力を持った『王』がたくさんいる。役者は未知数。多ければ多いほどいいさ。

 僕は『語り部』。それらを傍観する。たまには……役者もいいかもね。



 アストくん。君の今後の活躍が…………………実に楽しみだ。




   ♦




 ~創立記念パーティーの数時間前~



「おいおい……ラーゴイル監獄の最下層にぶち込まれる犯罪者たぁ俺らとんでもねぇの運んでるな。貧乏くじだよなぁ。怖ぇ怖ぇ」


「そう言うな。『手錠』はしてある。魔法は発動できない。そうなれば犯罪者なんてそう変わらんだろ」


 護送車は走る。ラーゴイル監獄を目指して。

 これは大罪人「アルカディア・ガイウス」を乗せた護送車だ。車と聞いて魔法使いの世界にもあるのか、と疑問を抱く者もいると思う。


 魔法使いの国には基本的には車は利用されていない。乗り物は存在するが魔法で空を飛ぶような代物だ。そうでなければ移動魔法の術式が組み込まれている魔法道具。車なんて物が入り込める予知はない。


 だが、こと犯罪者を運ぶにあたっては「車」というのが便利だった。封じ込めながら運ぶ意味もある。

 監獄と移動魔法の術式がある魔法道具で繋いで一瞬でワープすればいいじゃんとなるが、それでは脱走者が逆にそれを利用して逃げてしまう危険性がある。面倒だがこういうところは利便性よりも確実性を重視した方が良いのだ。


 横に座ってボヤいている魔法騎士の同僚を治める運転手。どちらも魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)第四隊の者だ。


「ちっ、監獄までの道が遠いんだよなぁ。ちょっと休んでいいか? 一服させてくれ」


「あいよー。俺もちょっくら犯罪者君の様子でも見るかー」


 運転手役の魔法騎士は外に出てタバコを吸う。自分の大好きな「呼吸」をさせてもらって一休みだ。

 魔力で動かす健康志向の「魔力タバコ」なんてのもあるがあれはダメだ。やっぱりこいつじゃないと。


 そうして休んでいるともう1人は護送車を開けて中に入っていった。


「おーおー。まだお休みしてやがる。よく眠ってまちゅねー。くくく」


 気絶して眠ったまま、顔を俯かせて座らされているアルカディアの頬をペチペチと叩く。幼児語まで使ってバカにしていた。


「俺ぁこういう女にチヤホヤされてそうなイケメンがムカつくんだよなぁ。小便でもぶっかけてやる」


「おい。あんまり好き勝手すんなよ。上に怒られるのは俺もなんだぞ」


「ちょっとくらい良いじゃねえか。へへっ、ちょっと待ってろ」


 始まったよ。この仕事は何回か任されたことがあるのだが、どうも相方は犯罪者で遊ぶ癖がある。

 痛めつけたりするわけじゃない。悪ふざけ程度だ。

 しかし、そのせいで俺までお小言を言われる。運ぶだけができないのかーとかね。


 それから数分が経ち、タバコも吸い終わった。

 そろそろ運転再開するか、と思ったのだが。相方はまだ帰ってきていない。


「おい! いい加減にしろ。いつまで遊んでんだ!」


 護送車の扉を開けた。むせ返るような尿の臭いでもあるかと思うと気が引けたが、これ以上は看過できない。ヒートアップして糞でもぶちまけてやがったら最悪だ。


 開けると……ほら来たよ。臭いが。さっそくぶっかけてやがった。



「……………は?」



 が、尿の臭いではなかった。ツンと鼻を刺す臭いだったのだが、鼻の奥にまで引っ付くような粘り気のある嫌な臭い。

 ピチョン、ピチョンと天井から雫が垂れていた。上まで発射したのかとギャグでも言ってやりたいがそんなわけない。

 天井どころではなく、その液体は中の空間全てに巻き散らかされていた。固体のような物まで鎮座している。あちこちにグチャリと引っ付いている物まで。


 なにより全て()()()()


 液体は「血液」。固体は「肉塊」


 極小サイズの地獄の光景に思わず後ろに倒れてしまった自分は、さらに異常な光景が目の前にあったことを遅れて気づく。


 手錠をしたままでこちらにゆっくりと歩いてくる男。その背中には「()()()()」が生えていた。


 あれは魔法か!? 何なんだあれは!?



「ご親切に起こしてくれてありがとう。……かなり前から起きてたんだけどね」



 アルカディア・ガイウス……!! 


 相方は殺された。あの「翼」のような魔法にやられたのか? しかし、魔法は使えないはずだ。現にアルカディアは魔法使用不可となる手錠をしているのだから。


「動くなっ! その得体の知れない魔法を止めろ! い、いや、魔法……なのか!? なんだそれは!!」


「これ? これのことかい?」


 アルカディアは自分の背中から生える純白の光り輝く翼を眺める。その翼は動き、自分の手錠に触れるとバキンッッ!!!! と粉々に破壊した。


「魔法じゃないよ、これ」


「なんだと……!!」


 反逆の意思、あり。すぐに魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に通信魔法で連絡を入れようとする。


 ……その前に、アルカディアの「翼」によってこちらの両腕が切断されて阻止されたが。



「がああああああああぁぁあああああああぁぁぁぁ!!!!!!」



 激しく出血する。身を焼かれそうな痛みだ。気絶できればどれほど楽か。なまじ鍛えられている分、意識はそう消えてくれない。


「『第一世代』の力を使うのは久しぶりだよ。リハビリ程度にこっちも使っておこうかな」


 「第一世代」─転生をする前の、正真正銘オリジナルのアルカディアが最初に手にしていた力。



「                     」



 アルカディアは詠唱らしきものを行う。しかし、自分は痛みのせいでそれが聴こえない。


 そしてアルカディアは発動した。彼が生まれて最初に手にしていた魔法を。『第一世代』の魔法を。






「『ロストエデン ─ 

 アーキュルストル・フレイニング・ガーディネンス・シンセニア』」





   ♦




「はぁ………ぁ………アルカディ、あ様………」


 ボロボロの姿のカチュア・リールフェイズはひたすら地を歩く。とはいえ目的地はある。ラーゴイル監獄だ。

 アーロイン学院の事態が終息しているという情報はすでに得ていた。そうなるとアルカディアは監獄に収監されるに決まっている。


 まさか彼がアスト・ローゼンに負けるなんてことは考えられない。しかし、とにかく今は自らの主を助けに行かなくてはならない。

 もう魔力もほとんど残っていない自分に何ができるかなんてわからない。行っても捕まるのがオチだ。それでも居ても立っても居られなかったのだ。


 どこまで歩いただろうか。自分の前にとある光景が待っていた。


「ああ……………あぁ……………………」


 焼き尽くされた大地。数々のクレーターが大地を痛々しく抉っており、佇む炎上する護送車。その上に立っていた、彼。


「やぁカチュア。まだ生きてたんだね」


「はい……申し訳ございません。敗北した身ですが恥ずかしながら生きております。そして……『キマイラ』のマジックトリガーを奪われてしまいました」


 カナリア・ロベリールとライハ・フォルナッドには敗北した。

 ライハの超スピードの力や「融合魔法(ユニオン・マジック)」という予想外の一手が多かったが、まだ自分は力を隠している。魔女の必須武器である「杖」だって使っていなかったのだ。


 それはアルカディアも同じ。けれども敗北は苦い。



「まったく問題じゃないよ。今回の目的は全て達成された。僕がここで負けるのも描いたシナリオ通りさ」


「え?」



「今回を機にアスト君には表舞台に立ってもらう必要があった。少し無理やりだったけど上手くいったよ。彼は期待通りに皆の前に出てやってくれた。それに、無事に僕のサタントリガーをプレゼントすることができたしね」



 負けるのが、サタントリガーを渡すことが、「目的」だった?


 負け惜しみなどではない。本当にアルカディアは心の底から満足そうにしていた。まるでこれ以上ないくらい「上手くいった」という顔だ。



「けど…………予定通りじゃないこともあったなぁ……」



 アルカディアは頬を擦る。それは最後にアストから殴られたところ。

 自分の眷属である『アヴァロン』を破壊されたこと。『闇魔法(ロストアーク)』と『光魔法(ロストセレナ)』の二重防壁を破って少しの間とはいえ気絶させられたこと。


 これらだけは自分の描いたシナリオを超えていた。

 本当はキリのいいところで「負け」を演じるつもりだったのだ。演じるどころか、本当に一発もらうとは思わなかった。



「『不完全を受け入れろ』……か。勉強になったよアストくん。やはり君は素晴らしい」



 アルカディアは楽しそうだ。期待通り、……期待以上という心が見えている。

 楽しそうに笑っていた時、アルカディアのポケットにあるマジックフォンが振動した。


「僕だよ。…………うん。うん。ああ、『人工天使』の件、そのまま進めてくれる? え? トリガーを返してほしい? そのことなんだけど……カチュアが『キマイラ』を取られちゃったみたいでさ。うん。でも問題ないよ。アーロイン学院には『あの人』がいるし、回収してくれるでしょ。じゃあそういうことで」


 アルカディアは通話を切る。これで、よしと小さく頷いた。


「カチュア、僕達も次のステップに進もう。『インカー』のメンバーを招集しておいてくれる?」


「メンバーを……? まさか、あの計画をとうとう始動させる時が来たんですか!?」


「うん。ようやくだ。この時のために僕は何度も転生してきたんだ。『魔王』をこの地に()()誕生させるために……」


 カチュアはゴクリと喉を鳴らした。この人を軸に世界が回る。そんな確信があった。



「まずはファーストステージ。プロジェクト:『ヴェロニカ』がどうなるかを見てみよう。ちゃんと僕の期待に応えてくれるかどうか、ね」


「はっ。最後までついてゆきますアルカディア様。この世界を救うために」



 歩くアルカディアの後ろにカチュアが続く。



「そうだ。僕は、世界を救うんだ。そのために進もう。何があろうとも。全ては─」





















「『ヘクセンナハトの魔王』のために」




第一章『ヴェロニカ編』

 エピソード4【完全理想の支配と救世の竜神マキナ】終了。


 次回、エピソード5【時空の天使と星空そら赤天竜ヴォルテリオス】に続く。


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