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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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14話 潜入、ヴォーント家!



「どうだった?」


 エリア4に集まり、宿を取って結果を話し合った。あとなぜかここの宿も1部屋しか空いてなかった。なぜだ。


「こっちのエリア3は違う。エリア3のリーダーの家系はとても病弱な人が多いらしくて魔物を捕まえたり使役すること自体が難しいって言ってたわ。その証拠に一番力を持ってる長女は長く家から出てないらしいし」


「エリア2の方も違うわ~。それよりも私の顔見て『お前の金髪見てたらなんだかベルベットに見えてきたぞ。許さん!』とか言って石投げられたの! 覚えとけよエリア2~~! なんで金髪だったら全部私になるのよ! 他にも金髪いたもん! っていうか石投げてきたやつの中に金髪いたしっ!!」


 皆ハズレで終わったのか。ベルベットの方はなんか散々なことがあったみたいだ。エリア2の皆さん鋭いな……。


「じゃあ明日はどうする?」


「んーとね。アストがエリア5、カナリアが6、私が7に行こっか。それで5時にエリア7に集合ってことで」


 それで結果報告は終了となった。後は各自エリアの感想を言い合う。


「ねぇ。来た時思ったんだけど。このエリアなんか変じゃない? 暑苦しいというかなんというか……」


「それは僕も思った。なんでも()のエリアだってさ」


「なにそれ……」


 カナリアは苦笑いを浮かべているがベルベットはプッ!と吹き出していた。まぁ普通は笑うよね。


「けど、ここのリーダーはすっごい強いから気を付けてね。確かアルモスって家の人よね?」


「ベルベットは戦ったことあるの?」


「ん? ボコボコにしたことある♡」


 ……なんて反応すればいいんだこんな時。




   ♦




 次の日の朝。僕はエリア5に入った。

 また僕が一番遠いエリアに行くのかなと思ったら気を利かせて4から一番近いエリアにしてくれた。集合するのは7だから結局移動しなきゃなんだけどね。



「ここは……また変なエリアだな~」



 一言で言おう。図書館と本屋だらけっ! いたるところに本、本、本! 本の虫御用達(ごようたし)のエリアだ。

 よく見るとベンチに座って本を読んでいる老婆(ろうば)。イチャつきながら本を読みあっているカップル。絵本を読んでいる子供。


 皆、本を読んでいる。なんですかこのエリア。



「そこの君、本を読んで有意義な時間を過ごしませんか? 漫画でも構いませんよ?」



 そしてやはり店から声をかけられる。この国は来た人に絶対声をかけなきゃいけないルールでもあるのか。

 まぁいいや。この書店の店番をしているメガネをかけたお兄さんに話を聞こう。


「いや……本はいいです。それよりここのエリアリーダーの話を聞きたいんですけど」


「エリアリーダー……ですか? というと『ノワール家』ですね」


「は、はい。その……おかしい質問かもしれませんがリーダーの家の近くから変な声が聞こえたりとかしませんか? 地響きだったりとか……」


 これは魔物がいるかという質問である。狂暴な魔物を飼っていればたとえ地下に入れていても音が()れたり何か異変が起きたりするのではないかという考えで。



「ふふっ。……もしかしてミリアド王国は初めてですか?」


「え?そうですけど……なぜそんなことを?」


「先ほどの質問、魔物がいるのかと聞いているようなものですよ。ですが安心してください。この国では魔物を飼うことは禁止されていますし『ノワール家』はテイマータイプのハンターでもありません」


「そうなんですか……」



「エリア6の『アルヴァタール家』がテイマーなわけありませんしね。前に(うわさ)されてたのはエリア7の『ヴォーント家』ですね。あそこは後継ぎもいないのにそれに焦らず何やら怪しげなことを行っているみたいですし」



 エリア7……! ベルベットが調査してるとこだ。一番強いベルベットのところで良かったよ。何か問題が起きても心配ないし。

 そんなことよりも気になったことが1つだけある。



「なんでエリア6の『アルヴァタール家』ってところはテイマーじゃないって決まってるんですか?」


「あそこは全ハンターのトップに位置する人達でとても有名なところだからです。一挙手一投足が耳に届いてきますし、そんなトップの者が魔物を飼ってるなんてなれば……ねぇ? それに魔物よりも自分の腕の方を信用していますよ、あそこは」


「へぇ……」



 アルヴァタール……なんだか気になる名前だ。なんでだろう……なんで……。



「おや? どうしました?」


「え?」


「涙を流されていますが」



 僕は頬を触れると(しずく)が手につく。店番をしているお兄さんはハンカチを貸してくれた。どうして涙なんか…………。


「すみません。ありがとうございました。僕はもうこれで」


「はい。お気をつけて」


 僕はその店から離れた後もずっと頭の中のモヤモヤが晴れなかった。なんでエリア6のことが気になるんだ。なんで……




  ♦




 そしてエリア7で結果報告。


「エリア5は違う。リーダーはテイマーじゃないってさ。確定情報ってわけじゃないと思うけど実際にそこにいる人が自信を持って話してた」


「エリア6はハズレ。誰かに聞いたとかそんなことよりも身の危険を感じたわ……。最強のハンターの『アルヴァタール家』がいるエリアとか完全に貧乏くじよ。しかも今はそこの長男が失踪中らしくてエリア中ピリピリしてるし」


「……」


 うん……? ベルベットが黙っている。どうしたのだろうか。


「ベルベット?」


「ん? どしたの?」


「ほら……結果報告」


「あ、そっか」


 ボーッとしてたのか? よくあることだからそれ以上気にしないけど。


「エリア7だけど………当たりね。『ヴォーント家』、あそこで間違いないわ。地下の方に(かす)かな魔力も感知できた。飼われてる魔物の魔力ね」


「!!」


 噂通りか……! エリア5の本屋のお兄さんも中々情報通だったな。当たっちゃったよ。本当にここ、エリア7のリーダーが「魔物使い」だった!


「明日の昼にヴォーント家に入る。そして夜になったら作戦を決行するわ」


「入るって簡単に言うけど……どうやって?」


「それは任せて。ちゃーんと入れるから」


「?」


 嫌な予感しかしないけどベルベットに任せるか。現状僕とカナリアじゃリーダーの家の中に入る作戦なんて思いつきもしないし。

 そう言うとカナリアから「一緒にしないで」とキレられそうなので絶対に声には出しません。思うだけです。はい。思うことは、自由です。




  ♦




 次の日の昼がやってきた。そして昨日の楽観的(らっかんてき)な僕とベルベットを殴ってやりたい。ベルベットに任せるなとも言ってやりたい!


「今日から()()()()()()()()()アスト君。()()()()()()()()()()カナリアさんにベルさんか。いやぁ~助かるね。ここの家は使用人を雇ってなかったもんでね。私は主のコールド・ヴォーントだ。これからよろしく」


 なんとリーダーの家に使用人として入らされた!!

 こんな強引に入り込む手法だとは思いもしなかったぞ。もう少しバレずにする努力はなかったのか。


 でも…………文句ばかり言っても仕方ないか。もう時間は巻き戻せない。一応侵入に成功はしてるわけだし。


 カナリアとベルベットはエプロンドレス─メイド服に着替えている。

 カナリアはスタイルも良いし色んな服が似合いそうだ。現にメイド服がすっごい可愛い。

 ベルベットは今の体型が幼女っぽいからかコスプレしている女の子みたいだ。マナダルシアでもイベントで魔物の姿に仮装してる女の子いたよ。それに似てる。


 にしても……




(この人が……魔物使い?)




 とうとう魔物使いと思われるハンターとの対峙(たいじ)。だがまったくそんな気がしない。普通に優しそうな男の人だ。年齢は人間年齢で40歳後半くらいの男の人。

 後継ぎがいないって言ってたけど……本当に家に他の人間が1人もいない。それどころか貴族なのに使用人すら1人もいないなんてありえるのか?


 怪しくなさそうでいてメチャクチャ怪しそうな人でもあったコールドさんは優しそうに微笑(ほほえ)みながら花に水をやっていた。僕は執事ということなのでその仕事を変わる。

 ベルベットとカナリアはこの家の掃除をすることになった。掃除道具を持ってどこかへ消えていく。おそらくこの家の中の調査目的だな。助かる。



「君」


「は、はい! なんでしょうか?」


「名前…………アスト・ローゼンと言ったかね?」


「はい! そうです!」



 僕はコールドさんの問いかけに対して元気よく返す。暗い印象を与えてしまうと何かを企んでいるんじゃないかと思われるかもしれないからだ。それじゃなくても明るい顔を見せて悪いことはない。


「ふむ……。いや、まさかな……」


「なんですか?」


 コールドさんはエリア1で会った老人と同じく僕の顔をジロジロと見てくる。

 別に嫌というわけじゃないが魔人が人間の家の中に侵入しているんだ。どうしても緊張してしまう。


「…………なんでもない。そういえば一緒に使用人になってくれたベルさんは君の奥さんだと聞いたが……」


「その話は違いますから! 本当は妹です!」


 ベルベットめ……またその設定を引っ張ってきたな。勝手にここの使用人になってる時点でそんなことも吹き込まれてるなとはもう察していたけど。


「ははは。良かった良かった。そういう趣味かと思ってね」


「ははは。勘弁してくださいマジで」


 もう二度とベルベットとはこの国に行きたくない。



「少し席を外すよ。花の水やりを続けてもらえるかな?」


「あ、わかりました」


 コールドさんはどこかへ消えていった。外に出たわけではないから家の中のどこかに用事があるのか。

 ここにいる間は使用人でもあるので警戒されないようにちゃんと言われた通りにしておく。


 どうやら花が好きみたいで家の中のあちこちに花を置いてあるとか。その全部に水をやっていくのは疲れそうだ。今までよく1人でやっていたな。




 どんどん花に水をやっていく途中、とある花に意識を奪われた。



 (この花……マリーゴールドだ)



 それで思い出したのはカナリアがこの花が嫌いだと言っていたこと。理由は教えてくれなかったんだよな……。

 僕の予想だがこれもお母さん繋がりかも? ここ数日でカナリアが感情を大きく動かしていたのはお父さんやお母さんのことばかりだった。

 んー、お母さんかガレオスさんがこの花のこと嫌いだったとか?



「いやーありがとうね」


「あ、コールドさん」



 マリーゴールドにも花をやっていると用事が終わったであろうコールドさんと鉢合わせする。ニコニコして花を見ていた。


「ここにある全ての花はね。ここで使用人をしてくれた人達が好きだった花を(かざ)ってあるんだ」


「昔は使用人の方がいたんですか?」


「ああ。皆去っていったがね。こんな男1人の家にいてもやりがいがなかったのかな? はっはっは」


 物凄い自虐(じぎゃく)ネタを放り込まれてなんて返せばいいのかわからないよ……。



「でも、良いですねそれ。辞めていった人だとしてもその人達を忘れないためですか?」


「そうだねぇ。僕のために時間とその身を()いてくれた人でもあるしね」


 ……とんでもなく良い人じゃないか。全然魔物使いになんか思えないし本当にこんな人が戦うのかどうかっていうのも怪しくなってきた。リーダーなんだから強いハンターに違いはないと思うけどなぁ……。




   ♦




 家中の掃除をやっているとすぐに夜になってしまった。家は貴族というだけあってかなり広いのに掃除をする人数は僕達だけ。

 しかも今までコールドさんが1人で適当にやっていたのだろうかすごく汚い場所もあった。大量の時間を消費してしまうのは予想できたことだ。


 そしてやってくる夕食の時間。ここは使用人である僕達が料理を作らなくてはならない。



「私がディナーをお作りしましょうか?」



 ベルベットが手を上げて前へ出た。



 ………。


 今、ベルベットは料理が得意なのかと思ったやつがいるかもしれないがそれは間違いである。下手だ。超下手。


 過去にベルベットが「ハンバーグ」という料理を作ろうとしてたことがあったのだが……なぜか夕食の時間には肉のミンチでできた「ゴーレム」が館の中を徘徊(はいかい)していた。


 ゴーレムとは魔法使いが土を使って造る自分の代わりに戦わせるような人形のこと。魔力を注入すれば戦闘力もそれなりにある。

 属性魔法の「土魔法」を使う魔法使いは特にこれを作るのが得意で戦闘力も普通の魔法使いが造った物とは全然違ったりする。


 ただの料理失敗とかで()げたとかならわかるけどなんで土人形の肉verが生み出されてるんだよって話だ。しかもけっこう強くて捕まえようとした僕はぶん殴られて気絶させられたし。なんのギャグだよ。


 しかし、それでわかったと思う。この場で率先(そっせん)して出るべき奴ではないということが。

 さすがにベルベットは自分に危害を加えてこない限りは無暗(むやみ)に人を殺したりしないので毒殺なんかしないと思うけど……もしここでまたゴーレムなんかがこの家の中を歩いてたら魔法使いって1発でバレる。


「それではお願いしようかな。自分も料理はできるがたまには他人の料理も味わってみたい」


「はい! がんばりまーす!」


 ベルベットはキッチンの部屋に入った。頼むよ……簡単な料理でいいからね?




   ♦




「サーモンのマリネにミリアド国産の高級肉とフォアグラのローストでございます」


 やってしまった。今テーブルに並べられているのは料理とはとても言えない物体。黒い……なんだろう……黒い何かだ。困ったな、黒しか言うことがないぞ。とにかくダークマターのような何かだ。


「お、おぉ……? これはこれは……」


「さぁ、どうぞ」


「どうぞって……えぇ……」


 ベルベットは目の前に出したブラックマターを食べろと脅迫(きょうはく)……じゃなかった(すす)める。

 コールドさんはナイフとフォークを手にしながらもこの魔物みたいな料理への対応に困っている。本当にこれはナイフとフォークを使うものなのか?という疑問すら浮かべてそうだ。


「で、では……」


 コールドさんは恐る恐るナイフで「サーモンノマリネ」という名の魔物を切ろうとする……が。


「あれ……? き、切れん……」


 なんとサーモンノマリネは斬撃に強いみたいだ。さっきからガリガリという音を立てるばかりでまったく切断される気がない。

 この様子を見て僕の横にいるカナリアは焦り、小声で僕に話しかけてくる。



「ちょ、ちょっと! ベルベット様って料理下手なの……?」


「見ての通りと言いますか……」


「食べたら死ぬんじゃないのあれ……?」


「………」


「なんで黙るのよ……!」



 なんとかマリネを切断することに成功したコールドさんはフォークでそれを突き刺す……ことももちろんできないのでなんとか(すく)い上げて口に運んだ。


「ぐぶっ! マ、マズー!!!!」


 マリネを(のど)に通したコールドさんはゴホッ!と吐血(とけつ)する勢いで咳き込んだ。皆も食べ物以外は口に入れないようにね。


 その後はカナリアがちゃんとした食事を作ってくれた。カナリアは勉強もできれば料理も得意ですごく美味しかった。

 ベルベットはしょんぼりしながら料理を口に運んでいた。もうこれに()りたら食材を使って魔物に近い何かを生成しないでほしい。




   ♦




「使用人用の部屋があるからそこで今日は休んでくれ」


 僕達はコールドさんの指示で使用人専用の部屋に移動した。そこで自分達の荷物を整理する。



「さて……始めるわよ」



 ベルベットの声を合図に僕とカナリアは服を着替えて剣を装備する。今からは使用人ではなく魔法騎士としての時間だ。


「カナリアと見て回った時に気づいたんだけどキッチンに隠し通路があった。そこで決まりね」


「すごい……しっかりと見つけられたんだね」


「これでも場数は踏んできてるから」


 久しぶりに頼りになる言葉を聞いた気がする。ベルベットはこういったことになればさすがと言ったところだ。


「じゃあここからあたしとアストはキッチンから潜入。ベルベット様は?」


「私はもしもの時、あのリーダーさんの目を引き付けるわ」


 そこから入念に準備をして打ち合わせをしているともうコールドさんも寝静まった頃だ。今になっても彼が魔物使いとは思えないが……先へ進めばわかることか。


「よし……行くか」




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