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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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141話 ヒロインズ・パーティ



 と、そんなこんなもあり。夜。


 多くの用意された屋台、会場、催し。

 そう。なんと創立記念パーティを再開したのだった。


 大きな苦しみは、大きな幸せで塗り替えよう。そんな考えの下、軽傷で動ける学生達が一斉に魔法を使って外に開設されていたパーティ会場を直していった。

 もちろん重傷で泣く泣く参加できない人もいる。延期という意見も出たが、「創立記念」パーティだ。この日以外でやるには無理がある。


 僕は参加することにした。アレンは寝ているのか反応がないせいで「革命前夜」を使って治してくれてないのだがアンリーさんから治療を受けた後で無理やり体を動かして。


 どうも……一部の学生からはぜひ参加してくれとのこと。

 多分、アヴァロンと戦った時に同じ場所にいた人達だと思う。絆が深まったと言ってもいいのか。自分が「仲間」として認められたみたいで嬉しかった。



 というわけで、すっかり夜になったので魔法道具の光で照らしているパーティ会場は、あんなことがあった後にも関わらず学生達で賑わっていた。


 本当は豪華な食事を並べて、優雅に……となるはずだったのだが。

 パーティの準備だけでなく校舎も半分壊されていたので急遽屋台を並べて外で食べ歩くような形となっていた。どうやら「日の国」のお祭りがこんな感じらしいとか。

 僕としては堅苦しい感じはあまり好きじゃないのでこっちの方が気構えず楽になれて好きかも。


 ……よし。僕も屋台で何か食べよう。




   ♦




「あ、ライハ」


「アスト」



 とある屋台でボーっと立っていたライハを見つけた。


「あれ」


「『わたあめ』? なんだろあれ。気になるの?」


 ライハはコクリと頷く。

 よく見るとパーティ会場に設置されている屋台は知らない食べ物が多い。アーロイン学院の食堂なんかも色んな種族、色んな場所から来た人のために多文化だが……ああいうのは見たことないな。


「僕が一つ頼むから一緒に食べる?」


「!」


 ライハはブンブンと顔を縦に振った。目も若干キラキラ輝いているように見える。ここまでの付き合いのおかげか喜んでいるライハの顔はわかってきたな。それでもまだまだ無表情に近いけど。


 と、いうことで。お金を払って買ってきた。

 棒を渡されたのだが……その上部にフワフワした何かがくっついている。大きい。けど軽い。不思議だ。何かの魔法でも使ってるのかな?


 食べるのはちょっと怖い。けど、女の子に一番槍を任せるわけにもいくまい。男ならカッコイイとこを見せなくては。


 よし!………………よ、し。


 …………。


「…………これってどう食べるんですか?」


「あん? 普通にかじれ」


 それでもヘタレな僕は屋台の学生に聞いた。うっ、ライハがジトーっとした目で見てきている。カッコ悪いところを見せちゃったかなぁ……。

 ともかくかじって大丈夫と聞けば安心。おりゃ!


「んむ? むむむ…………甘い? 甘い!」


 見た目通りのフワッとした触感。消えるように口内に溶けていく。ほのかな甘みがジンワリと伝わっていき、なんとも不思議な食べ物だ。

 僕の感想を聞くとライハもパクリと噛みついた。ムグムグと口を動かすと、


「? 消えた。………甘い」


 ライハも同じ感想。僕だけが甘いと感じたわけじゃなかったようだ。面白い食べ物だなー。

 それから2人でパクパクと食べた。なんだか周りの学生からの視線があったが気にしない。一つの食べ物を共有するというのは恥ずかしいかもしれないが、この時はそれを忘れるほどに不思議な食べ物に夢中だった。


 わたあめを食べ終わると、


「アスト。カチュアが言ってた。マジックトリガーはロスト12で拉致した人物の体を使って造られた物だって」


「…………知ったんだ、それを。僕もアルカディアから聞いた」


 近くにあったベンチに座って話した。マジックトリガーのことを。この話題は彼女にとって特別なものとなる。


「ライハ。辛いだろうけど、僕達がずっと一緒に─」


 傍に居る……そう言おうとした時、ライハは僕の手をギュッと握って言葉を止めさせる。


「うん。知っている。わたしは1人じゃない」


 頬を染めた顔をこちらに向けた。その顔は……辛そうな顔じゃなかった。泣いてもいなかった。


 とても綺麗な、無表情なんだけど…………笑顔? かな?


「ライハ。もしかして今、笑ってる? 笑ってるでしょ?」


「うん。笑ってる。とても。満面の笑み」


 やっぱり。そんな雰囲気が伝わってきたのだ。本当にまだまだ無表情だけど。しっかりと伝わって来たぞ。ライハの笑顔。


「すごい。カナリアはわからなかった。アストはわかる?」


「ん~。見たらなんとなくわかるよ。嬉しそうだなとか。悲しそうだなとか」


 僕は手を握り返して笑顔を見せる。安心させるように。



「大丈夫。ライハの想ってること、ちゃんと伝わってるよ」



 アストがそう言うと、ライハは目を合わせるのが耐えられなくなったように顔を俯かせる。赤くなってしまっているかもしれない頬をこれ以上見せないために。



「……………………嬉しい。でも、困る」



 ボソリ、とライハは呟いた。


「困る?」


「うん。想ってることが伝わるのは、まだ困る」


 ライハは握っていた手を離してベンチから立ち上がる。



「いつか言葉で伝えたいから」



 それだけ言い残してライハはパタパタと去っていた。

 え、これから屋台回ろうって言おうと思ってたのに……。ま、まぁいいか。


 言葉も少ない彼女だけど。その「いつか」に彼女が一歩成長して進めるような何かがあるのなら。応援してあげたいな。




   ♦




 僕が密かに心の中でライハを応援していると、コツンと頭に何か冷たい物が当てられた。振り向くと、



「やぁやぁ。元気そうだね」


「アンジュさん?」



 アンジュさんは僕の横に座った。手にはコーラの缶。冷たかったのはそれか。

 コーラを開封してグビッと飲みくつろいでいた。座った時に長い髪が僕の顔に触れたくらいには近いから意識してしまう。


「アンジュさんも戦ってくれてたんですよね?」


「ん? そうだけど」


「ありがとうございます。アンジュさんがいたところ、多くの人が助かったと思いますよ」


 感謝を述べる。この人の余裕ぶりから見てニーズヘッグの相手は簡単なものだったんだろうな。だからそれだけ戦いに貢献していたと思われる。そうなれば必然的に多くの人も救っていることになるわけだ。


「変だね。わたしが良い人じゃないのはもう知ってるんじゃなかったっけ? わたしはただ暇つぶしでやってただけだよ」


「それでも。結果的にたくさんの人を助けたんですよ、アンジュさんは。なら、悪い人じゃなくて良い人じゃないですか」


「なんだいその作戦勝ち~みたいな顔は。ムカつくなぁ。このっ」


「冷たいですって! はははっ」


 アンジュさんは僕の頬にコーラの缶を当ててくる。

 って、うわ! 零れて服についた! ちょっとー!

 


「やっぱりアストといると面白いね。……ねぇ。わたし達、皆に内緒で付き合ってみないかい?」


「え!? あ、あの、『付き合う』って、その意味って、そ、そそ、それは……」


「冗談だよ」


 おい。


「ぷっ、ふふ。面白いっていうのは冗談じゃないけどね」


 またからかったのか。僕は「人間」だけど、そういうことを言われたらドキッとくらいする。

 記憶を失ってから過ごしていたベルベットの館では皆、使用人の人だったから誰かと誰かが付き合うみたいな浮いた話なかったしな……。自分にとっては新鮮なものなのだ。

 僕が赤くなった顔をパタパタと片手で仰いでいると、アンジュさんのポケットが何かの振動で震える。


「おっと。お呼びがかかった。会長さんと副会長さんがいなくなったから生徒会は大変だねー」


 アンジュさんはポケットからバイブレーションで震えるマジックフォンを取り出すと、他人事のように言って席を立つ。

 せっかく来てくれたのに、もうお別れか。もっと話したかったな。

 頑張ってください、とでも言おうかと思ったが、


「炭酸嫌いなんだ。これ、あげる」


「へ…………むぐっ!」


 コーラの缶を顔に押し付けられた。しかも、僕の口に飲み口の部分が入る。

 そのおかげで炭酸の液体も喉を通ったせいか、けほっけほっと咳き込んでしまう。


「美少女との間接キスもね」


「……ッ!」


 僕はまた顔を赤くする。アンジュさんはじゃあね、とプラプラ手を振ってどこかへ去っていった。

 炭酸嫌いなら買う必要ないだろうに。これ、どうするんだ……。


 飲み口の部分を見るとさらに顔が赤くなってしまうのが自分でもわかる。

 このまま捨てると勿体ない(変態的な意味ではなく)ので、自分の口と飲み口がつかないように離して飲むようにした。口元や襟が濡れちゃったけど、仕方ない。


 子供だと笑われるかもしれないが、間接キスとか言われるだけで心臓がバクバクと鳴ってしまう。

 なんだか。アンジュさんに一本取られたような気がするな。




   ♦




「やれやれ……」


 空になったコーラの缶を捨てに行っていると、



「あら? アストさんではありませんか」



 リーゼと鉢合わせした。なんと奇遇なことだろうか。


「リーゼ? 参加してたんだ……なんか意外だね。こういうの来ないと思ってたけど」


「朝なら絶対参加してませんわ。夜なら、喜んで」


 リーゼはスカートの裾をちょこんと摘まんで優雅にお辞儀する。わー綺麗。それが様になってる子を初めて見たよ。

 昔にフィアちゃんが「見てください兄様ー!」って言ってそれやってたけど、思い切りパンツ丸見えになってたから何やってるんだろうとしか思わなかった。リーゼは吸血鬼の貴族でもあるから慣れてるんだな。


「なんだかそういう仕草を見るとリーゼってそういえば貴族だったんだって思い出すね」


「失礼ですわね。どこからどう見てもそうではありませんの」


「…………外見はね」


「中・身・も・で・す・わ!」


 僕の立っている付近に真紅の剣がドスドスドスッ!と刺さった。わー…………怖ぁ……。

 そういうところが、とはさすがに言えなかった。コホン、とリーゼは咳払いをして落ち着く。


「リーゼ。このロザリオ…………カルナが、僕を何度も助けてくれたんだ」


「カルナが?」


「うん。声が聴こえたんだ。『あきらめちゃだめ』『がんばって』ってさ。あれは、カルナの声だった」


「そうですの…………」


 吸血鬼の血晶石には、その吸血鬼の血が入っている。

 吸血鬼にとって「血」とは大きな意味を持つ。その血が僕と出会う前の過去に取られて造られた石だとしても、彼女の意思や想いがその血に反映しているなんてことがあるのだろうか?


 「魔力」の世界には未だ魔女の研究では明らかにならない「奇跡」と呼ばれる現象があると聞く。

 これもその一つなのだろうか。どちらにしても、


「カルナはちゃんと見てくれてる。リーゼのこともね。きっと『カッコよかった』って言ってるよ。今日のリーゼを見て」


「もう…………アストさんったら」


 リーゼは少し照れたように笑った。

 本当にカッコよかったんだ。あの土壇場で僕を助けてくれたリーゼは。それに……


「とっても綺麗だったよ」


「!!」


 僕の目の前でニーズヘッグを斬り裂いて二つの美麗な真紅の剣を持った戦女神。あの時は精神的に追い込まれていたのもあったかもだが、神秘的な美しさを感じたんだ。


「今度は僕がリーゼを助けるね」


「も、もう…………心臓に悪いですわ」


 リーゼは二つに結った髪をブンブン振り回すように顔を横に振った。熱くなった顔を夜風で冷まして落ち着くためだ。


「あ、そうだ。血の方は大丈夫? 無理してるようならここで吸血する? さすがに首は恥ずかしいから指とか別のとこなら……」


 吸血鬼は血液を採らないと生きていけない。戦った後というのもあるし、こういうパーティになると飲みたくなったりするのかな、と思って気を利かせる。

 リーゼはこっちから言わないと前みたいに無理して隠しそうだから、というのもあったのだが…………その本人の顔は夜でもわかるくらいに赤くなっていた。


「アストさん……吸血鬼にとって異性相手への吸血行為は恥ずかしいものなんですのっ! それこそキスするよりも! こんなところでなんかできませんわっ!」


「あ……そうなんだ。ごめん。じゃあ、人のいない教室に行くか、そこの茂みにでも隠れて…………」


 僕は人の目のないところに行こうよと誘うが、リーゼはさらに真っ赤になる。


「あ、あああアストさんはド変態ですの!? きょ、教室なら、まだしも……茂みで、なんて……え、エッチですわっ! 私に何をしようと考えてるんですの! それに、別に血は不足してませんわ!」


 あわわ。怒られた。だ、だが、戦った後でも血は不足してないみたいだ。それなら一安心。


 アストは気にしてなかったが、リーゼは「そういう意味」に聞こえたのだ。ただでさえ異性との吸血行為はキス以上というのに、そんな場所に移動すればさらに「それ以上のこと」が起こりかねない。


「! ミっちゃんさんが来ましたわ。……エッチさんのアストさんとはここでおさらばですの! 一緒にいると赤ちゃん産まされそうですわっ!」


 ちょいっ! 大きな声でそんなこと言わないで! ああ……周りからの視線がぁ……

 リーゼは反撃とばかりにべーっと舌を出して悪戯した子供のような顔をして、同じ魔工コースの友人であるミリーのところへ走っていった。



 さらにはどこからか、「アスト、えっち!」という元気な女の子の声まで聴こえた。そんな気がした。ロザリオの血晶石がキラリと光る。


 僕は、思わず苦笑してしまった。




   ♦




「よ、アスト」


「ガイト。怪我はもういけるの?」


「んなもんカスリ傷だ」


 ほれ、とグルグル腕を回して元気な様子を見せてくる。はは、無理しないようにね。


「ったく、今回の勝利の立役者が何ぬけた顔してんだよ」


「ぼ、僕?」


「お前以外に誰がいんだ。皆、噂してるぜ。『1年のアスト・ローゼンが生徒会長をぶっ倒した』ってな。ほら、あそこ見てみろ」


 ガイトが小さく指で示す。そこに目を向けるとこちらを伺いみる複数人の生徒が。僕と視線が合うとササッと視線を外す。

 怖がられてる…………ってわけではなさそうだが。


「申し訳なく思ってんだろ。これまでお前のことを悪く言ってた奴も、今更どんな顔すりゃ良いんだってな」


「とは言っても僕の成績は変わらずここで最底辺だけどね……」


「成績の良い悪いが必ずしも強い弱いに直結しねぇってのがお前見てりゃ嫌でもわかる。今まではそれを否定したかったのが今回で直視させられたんだろ。俺は元々そんな風には思ってなかったけどな」


「知ってる。だってガイト授業出ないもんね」


「最近は出てるっつーの。このやろっ」


「痛い痛い。ふふっ」


 冗談を交えて僕はくすぐったい気持ちを紛らわせる。

 ガイトは最初会った時から僕のことを誤解せずに見てくれていたから信じている。




「俺も、お前みてーに強くなりてぇなぁ………」




 ガイトは夜闇へ息を吐く。自分の抱えたものを吐き出すようにして。


「僕みたいに、って。すでに僕なんかよりも十分強いでしょ」


「それ、本気で言ってんのか。嫌みだぜ」


「嫌みだなんて…………」


 どういう顔をしていいのか困っていたが、ガイトは笑って肘を僕の脇腹に入れる。


「安心しろよ。すぐに追い抜いてやる。いつかなんちゃらの魔王のお前でもぶっ倒せるくれーにな」


「ぶっ倒しちゃダメでしょ……」


「たとえだよ、たとえ」


 そうして顔を見合わせると2人は堰を切ったように笑った。



「もし。もしよ……俺が自分で満足するくらい強くなったら。そん時は俺と勝負してくれるか?」



「僕がガイトと?」


「おう」


 ガイトは真っ直ぐな目で僕を貫く。もちろん答えは決まっている。


「うん。むしろこっちからお願いしたいくらいだよ。いつか、勝負しよう。絶対負けないよ」


「俺も負けるかよ」


 お互いは拳を突き出してコン、と合わせる。


「お互い、頑張ろう」という意味だ。



 その先に、何が待っていても。僕とガイトの道もどこで交差するのかは誰も、この2人でさえもわからないけれど。


 今は、前へ進むだけだ。



 「エリア6のリーダーの息子」と「エリア6のリーダーへ復讐を誓う者」。

 それらが交差した先の結末は、誰にもわからない。



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