133話 『理破壊』VS『竜破壊』!!
カナリア達、アスト、そして3つ目の戦場。学院でも熾烈な戦いが繰り広げられている。
ガレオスは竜を一度に数体を相手取り、まったくの苦戦を見せずに圧倒している。
ベルベットも複数体をおびき寄せて上級の魔法で一気に殲滅していく。
アーロイン学院の教員達もチームを組んで激闘。生徒達も束となってなんとか一匹を相手していた。
それでも学院は徐々に欠落していく。もうこの学院に安心できる場所など時期に存在しなくなるかもしれない。
その様子を見下ろすアルカディア。早く助けに行かねばと心配そうに見つめるアスト。
アストは目の前にいる相手に向けて剣を構えているが、アルカディアは自らの「魔王の力」によって生み出した【グラム】を構えていない。戦う意思を示してこない。
「見てごらんよアストくん。争いとは惨いものだね。いつだって人は……『強い者』に喰われていくんだ」
「自分から引き起こしておいて随分な言葉だな」
「君もロストチルドレンには会ったよね? あれだって同じさ。差別によって人の心が喰われていく姿。僕はね……ロストチルドレンを生み出すことで世界に示したかったんだ。自分達が不完全だから、その醜い心が、争いを生んでいるんだと」
「何を、言っているんだ……?」
「そして生まれたマジックトリガーは人を完全へと導く象徴さ。人間が『異能』を、魔人が『魔法』を隠しているから相手が怖いんだ。僕はまずその壁を壊そうと思っている。人間にマジックトリガーを与え、魔人に『異能』が使えるようになるトリガーを与えることで」
またアルカディアは自分の世界に入っている。まるでその世界を僕と共有しようとしているように話す。
「だから、さっきから何を言ってるんだ。『異能』が使えるようになるトリガー? そんな物作れるのか?」
「作れるよ。人間を実験体にすればね」
「なに……!?」
「知らなかったの? マジックトリガーはロスト12の被害者の体で作られてるんだ」
マジックトリガーがロスト12の……!? そんな、それじゃ……ライハのお父さんも?
でも、待て。それが本当だとして。
「どうしてお前がそんなことを知ってるんだ」
「僕が『ロスト12』を引き起こして人間側に魔人の体を渡したからさ。マジックトリガーの制作や設計図を渡したのも僕だからね」
アルカディアが…………ロスト12の犯人!?
「……………嘘だな。あれは8年前の事件。今のお前の年齢から引いて10歳の頃の話じゃないか。そんなお前が高位の魔法使いを相手にできるわけがない。お前だけじゃないんだろ? 本当の犯人が……」
「いいや。僕1人で全てを行った」
「マナダルシアには魔法感知のセンサーだってあるんだ! 3節以上の魔法を使えばすぐに魔法騎士団が来る!」
「逆に、僕が2節以下の魔法だけで倒したとは思わないのかい?」
「!」
そうか。アルカディアの『闇魔法』と「魔王の力」なら……可能性はあるか。
じゃあ……本当にアルカディアが犯人だっていうのか?
「どうして……そんな、取返しのつかないことをしてしまうんだ……!」
「『ロスト12』も、この『竜魔争乱』も、全ては実験なのさ。僕が掲げる『パーフェクトワールド』ではたとえ『ロストチルドレン』という試験環境があったとしても差別なんて絶対に起こらない。人を虐げる、人と争うという感情がそもそも存在しなくなるように人を導いていくからね」
「何が…………言いたい」
「…………君も僕と共に来てくれると思ったんだけどね。この世界で唯一、僕と考えを同じくする者として」
「僕はお前と同じなんかじゃないっ!!」
さっきからベラベラと喋ってるのは僕を仲間に引き入れようとしていたわけか。僕がお前と共に行くわけがないだろ。もう僕とお前は「違う」んだ。
アルカディアは…………なぜか、悲しげな顔をして、
「アストくん。君と僕は同じだよ。…………それでも違うと言うのなら、力を示してみなよ。この僕にね」
言われなくても、やってやる!!
僕は剣を持ってアルカディアに突撃する。アルカディアは【グラム】を構える。
アルカディアと僕の「魔王の力」が同一の物なら、あれも間違いなく『特殊魔法武器』だ。突撃するという大胆な行動でも、最大級の警戒を以て進む。
2人の剣士の交錯。ロングソードと【グラム】が激突する。
「消し飛べ」
「!」
ロングソードは、粉々に破壊された。
刃が折れただけじゃない。柄の部分まで一つ残らず跡形もなく崩れ去る。
武器を失った僕へアルカディアは空いていた拳を打ちこんできた。腹にクリーンヒットするが瞬間的にそこに纏っていた魔力を集中させて防御する。
どうやらアルカディアの、身体強化の闇魔法『ディセンブルアクトルヘー』は効果が切れていたようだ。よって、ノーダメージ。助かった。
僕は「これ以上は危険だ」と判断してすぐに後ろに下がる。
しかし、どういうことだ。最悪、剣の刃が折られるところまでは覚悟していた。けれども剣と剣がぶつかって一方が消し飛ぶなんてこと起こるわけがない。
考えられるのは……
「【グラム】には触れた武器類を破壊する能力があるんだ」
「もうなんでもアリだな……」
驚かない。ここまで驚き疲れたくらいだ。どうせそんなことだろうと思ったよ。
だから、今度はこちらの番だ!
僕は手に指輪を付ける。白と黒の2色に配色された宝石がはめられた指輪を。
(あれは……僕のサタントリガーか。あの一瞬の交錯で盗ったとはね)
なにもアストは相手が未知の武器を有しているのに通常武器で突っ込むという無謀を策無しで挑んだわけではない。全てはこのためだった。
アルカディアに立ち向かうにはどうしても「魔王の力」が必要になる。
では、一度瀕死になるか? アレンがいない以上はそんなハイリスクは冒せない。
それなら唯一の希望は奴の「サタントリガー」だった。
サタントリガーにはルールがある。「サタントリガーはそれに対応する魔王にしか使えない」というルールが。
インジェクタータイプはゼオンの魔王。
キータイプはミーティアの魔王、『禁呪』。
アルカディアは『支配』の魔王。それに対応するサタントリガーはリングタイプ。ならば、
同じ『支配』の魔王である僕が使えないわけがない!!
「いくぞ……アルカディア。ここからが本番だ」
「やってみなよ」
これも、アルカディアの思惑通りだった。
アストが先の攻防で自分のサタントリガーを盗んでくることもわかっていたし、そのためにサタントリガーを使った後に魔法で生み出した別空間に保管せず、わかりやすくポケットに入れたのだ。
全て、アルカディアの考えるシナリオ通りに進んでいる。
(マジックトリガーに支配された僕。あの時は、ただ力が欲しかった。欲望に負けた。でも…………今は、違う)
アストは指輪の宝石をカチカチ、カチリ、と180°回転させる。白と黒の色が反転する。それを合図にサタントリガーが起動した。
「皆を守るために、僕はこの力を使う!!」
(よっしゃ! 行くぞアスト!!)
「魔王の力」を使うと知ってムウも鼓舞する。僕と一緒に戦おう。奴を倒すために!
「解放宣言ッ!!」
『認証 サタントリガー・アクティブモード 解放─「魔王の心臓」』
ドクンッ!!と心臓が大きく打った。闇が溢れる。脳の奥まで浸透していく。僕の体が書き換わる。
すごい。サタントリガーは初めて使ったけど、本当に発動条件を踏み倒して発動するんだな。ゼオンやアルカディアが使うのを見ても正直まだ半信半疑だったけど自分で使ってみてようやく信じられた。
どうしてこんな物が用意されているのだろうか。「魔王の力」には発動の条件があるのに、その魔王自身が条件を踏み倒す道具をなぜ……
おっと、今はそんなことどうでもいい。戦いに集中だ。
「現れろ! 希望を照らし出す魔法陣!!」
虚空に手をかざすと、アストの頭上に「黒の魔法陣」が出現する。彼の右眼に魔王の烙印が刻まれた。
お前が魔物を召喚するというのなら、こちらも召喚させてもらうぞ!
「『漆黒魔竜 バハムート』!!」
「グギャガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ムウの本来の姿。漆黒の体に王者の眼を携えた天空の竜王だ。
欲を言えばこのままバハムートの姿のまま戦ってほしい。だが、それはできないのだ。
ムウが言うには魔物の姿を維持するには僕の魔力を激しく消費するとのこと。だからバハムートのままで戦わせると僕はたった数分で魔力欠乏に陥ってしまうらしい。
だから、こうするんだ!
「『無限の造り手』!」
バハムートの巨躯は光の粒子となり、僕の前に集まる。それは剣の形となる。手に取り、振るう!!
「【竜魔剣 バルムンク】」
黒の柄に蒼く発光する刃。蒼の光は振るうと火花のように散り、さらに光を強くする。
「蒼黒の剣に、僕は紅黒の剣。さらにバハムートは『天空の竜王』、ファフニールは『地上の竜王』とも呼ばれる竜なんだ。これも奇異な運命だね」
「そんなことどうだっていい。さぁ、第二ラウンドだ!!」
僕は【バルムンク】を構えて走る。アルカディアは引き続き【グラム】を構える。
蒼と紅が、ぶつかった。
ゴォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオッ!!!!!
それはもはや剣と剣がぶつかりあう音だけではなかった。激しき魔力と魔力が真っ向からぶつかり合う衝撃。
この世界の「異分子」と「異分子」が衝突する。
(【バルムンク】と同等の力!?)
(【グラム】の能力で破壊できない……?)
【バルムンク】ほどの力でも打ち負けない魔法武器。【グラム】の特殊能力でも破壊できない魔法武器。
まさに、役者として相応しい両雄だ。
だったら……!!
「『ファルス』!」
「絶対無比なる闇の刃 聖なる黒の破壊 世界救世の暗黒の法!」
アストは【バルムンク】へ『ファルス』を装填。アルカディアは3節を唱える。
「『ブラックエンドタナトス』!!」
「『ロストアーク ─ エンドワールドイクシード』!!」
漆黒に光る大剣と化した【バルムンク】。同じく漆黒に光る大剣と化す【グラム】。
どちらも全ての万物を斬り裂く魔法だ!
再びの衝突。破壊と破壊。矛と矛。
空間を揺るがす波がこの世界を打つ。空がビリビリと振動する。
「く、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「…………ッ!!」
「黒」が割れる。互いが弾かれる。
アストの魔法とアルカディアの魔法が相殺し合った。どちらも同威力だったというわけだ。
「『ブラックアロー・ヴァイディング』!」
アストは怯まず追撃。『ファルス』を二連発動して次なる『闇魔法』を発動する。破壊のエネルギーを矢として撃ち放つ中距離に対応した『闇魔法』だ。
「『ロストアーク ─ ヘルストムバイルハザード』」
アルカディアは相手の魔力攻撃を無効化する絶対の防壁。それを展開する。
今度は矢と防壁の衝突。アストの『ヴァイディング』は…………無効化された!!
だが、
バリイイィィィンン!!!!
「僕の『ロストアーク』を、破壊した……?」
アルカディアの『闇魔法』をも打ち消した! またも相殺。
(向こうにも優秀な『闇魔法』使いがいるというわけか……)
アルカディアは驚嘆する。ムウの存在までは想定外だった。
そこから斬り結ぶ。刃と刃が交錯し合い蒼の光が、紅の光が、散っていく。
「なかなかやるね、アストくん」
「喋る余裕がまだあるんだな!」
僕は空いている手を固く握る。このまま拳をくれてやる!
アルカディアはそれを腕で防いだ。不意を突かない限りはそんな攻撃、受けることはない。しかも……
「僕に『カウンターバースト』は不可能だよ」
「バレてたのか……!」
アストは拳を繰り出す瞬間に魔力を消していた。これは一撃必殺の『カウンターバースト』を狙う動きだ。ここまでアルカディアの纏っている魔力のパターンを観察し続けた結果から一か八かでなんとかなるかも、という行動だった。
けれどもアルカディアはバカではない。
『カウンターバースト』を警戒してアストの拳が着弾する瞬間に自分の纏っている魔力パターンを瞬時に変化させた。これでは自分の「纏っている魔力」を相手のものと一致させるという条件が必要な『カウンターバースト』は成立しない。
初見なら食らっていたかもしれないが、学内戦ですでに見ている。これで食らうのはありえない。
「それならっ!!」
アストはガードしたアルカディアの腕を掴む。これは予想外だったのか、アルカディアも動きが遅れる。
グイっとこちらに引っ張りこみ…………
「く………………らえっ!!!!!」
魔力を集中させての「頭突き」。アストの頭とアルカディアの頭がぶつかる。
拳や蹴りが警戒されているのなら頭だ。こんな攻撃は警戒してなかったんじゃないか? 固い頭蓋を利用する相手の脳への打撃。これだって立派な「攻撃」だ!
「…………!」
あのアルカディアが、少しフラつく。この隙を見逃さない!!
「『ブラックエンドタナトス』!!」
漆黒の大剣を振り上げる。アルカディアの魔法は間に合わない。
漆黒の大剣と紅の剣の激突。同レベルの特殊魔法武器同士なら、魔法を付与している方が強いに決まってる!
【グラム】をアルカディアごと斬り上げた。空中に投げ出され、ここで初めて奴は体を地に倒す。
その時、いくつもの声がどこからか聴こえた。
「よし! いけるぞー!!」
「押せ押せ! こっちが優勢だ!」
「俺達魔法騎士が上手く引き付ける! 今の内に魔女、魔法頼む!」
「私達でもやればできるのよー!」
「いっけー!」
下の、学院VSニーズヘッグの戦況を見ると……おぉ、こちらが優勢なようだ。士気も上がってきている。
ベルベットの参加が大きかったのだ。ガレオスと並ぶ英雄の登場。2人の英雄が共に戦っているとなれば自分達も、と力が出てくる。それこそ不甲斐ない姿は彼らの前で見せられない。
魔法騎士が竜と直接戦い、後方から魔女が強力な魔法を撃つ。
さらにそのサポートに3年生の魔工が付いている。魔工は医療関係の魔法使いもいるので3年生ともなれば戦場での立ち回りもある程度理解しているのだ。足手まといではない。
しかも、魔工のサポートは何も道具や回復だけではない。今の自分は特殊な場所で戦っているので付いていないが、実は『通信魔法』を使ってのオペレーターなんかもいる。
こんな大規模な戦闘になれば学生達に付いているはずだ。細かい指示や戦況報告も行われているに違いない。戦いの時間が長引いてきた今、学生でも戦いを有利に進められるようになったのはオペレーターの存在が大きい。
それに彼らも緊張や困惑といったものが取れてきている。本調子が出せてきたのだ。これなら心配ないかもしれないぞ。
よし。あとは、僕がアルカディアを倒すだけだ!




