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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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131話 世界を転じて生きる者


「ちょっと!! まだ生きてるー?」


 ドゴーンと扉をぶち破って中に入る。

 ベルベットは竜からの邪魔を受けながらもようやく学院長室に到達した。



「ベルベット・ローゼンファリスか…………」



 多く(たくわ)えた(ひげ)。老体なれど魔力(みなぎ)る体。数々の戦いを支えてきた、ボロボロになっている木製の(つえ)。こんな事態でもゆったりと椅子に腰かけているのは余裕の表れか。それとも別の理由からなのか。


 この者こそアーロイン学院現学院長「レイヴン・ガイウス」である。


「爺さんこんなところにいるとパクっと食われちゃうわよ。そんなヨボヨボの体食わされる竜が可哀想だから早く安全なところに避難しときなさいよ」


「この部屋にニーズヘッグは攻めてこない」


「は? とうとうボケた? この学院が破壊されちゃったらこれを機に養老施設に改築した方が良いんじゃない? 今の内に終活でも始めときなさい」


 ベルベットの皮肉にもレイヴンは動じない。冗談でもなさそうだ。


「ねぇ。頭ボケてないなら参戦してくれない? 自分の孫くらい拳骨(げんこつ)落として黙らせるくらいしてほしいんだけど」


「無理だ。この私では奴を止められんからな。……アルカディアには誰も勝てんよ」


 レイヴンは高齢であれどその魔力は高い。実力もまだまだここの教員より遥かに強い。魔法術式だって知識量は数倍も多い。避難させるよりもぜひ前に出て戦ってほしいというのが偽らざる心だった。もちろんこの学院の(トップ)を失うわけにはいかないのでそんなことはさせられないのだが。


 そんな事情があるからこそ前線に出ていないだけなのだ。そのレイヴンをもってしてアルカディアを「止められない」と言わしめる。一体どれほどの力を持っているというのか。


「ベルベットよ。お前でも奴は倒せん。『あれ』は私達の手でどうにかできるものではない」


「? あんたの孫でしょ? なに、自慢? え、今、自慢されてるの私?」


 勝手に色々と言われているのはムカつくが、それにしても自分の孫だというのに変な言い方だ。



 まるで、自分の常識が通じない化け物に対しての言葉みたいだ。



「私の孫だ。だが、厳密には違う、と言えるのだろうな」


「?」




「奴は、アルカディアは……………………『()()()』だ」




 レイヴンは突拍子もないことを言い出した。だってそれは、


「転生者~? 転生なんて、そんな魔法の術式が存在するわけないでしょ。第一、その(たぐい)の術式の開発は禁忌とされていて着手すら禁止されてるし。私だってそんな術式知らないわよ」


「だが事実だ。本人の口から聞いた。奴は遥か昔の時代から2回の転生を経てこの時代に来た存在であるとな。この時代には400年前から転生してきたらしい」


「…………その遥か昔の時代? から、400年前くらいに転生して、さらにそこから今の時代に転生してきたってわけ? っていうかその『遥か昔の時代』ってなによ。第一次種族戦争の頃くらい? それともそれより前? そうなったら戦争とか大きな出来事もないしわざわざ転生なんか考えつかないと思うけど」


 そうでないと転生する理由が思い浮かばない。第一次種族戦争前なんて魔人の間に大した争い事はない。人間とも尚更だ。なにせ、まだ人間と魔人が邂逅(かいこう)する前なのだから。そのためか歴史を見ても人間と出会う前の部分はほとんどが白紙となっている。


 しかし、レイヴンは首を横に振って推理を否定する。


「おそらくそれよりも、さらに遥か、遥か昔だ。正しく言うとすれば魔人が持つ歴史の資料の中にすら載っていない誰もが知らぬ遥か昔の時代。奴はそう言っていた」


「歴史の資料に載ってない……ってちょっと~、言っている意味がどんどんわかんなくなってきたんですけど~」


「私もわからん。誰もわからん。だからこそ未知だ。アルカディアは私達の知らない『何か』を知ってこの時代に来ている。目的まではわからんがな」


 あー、話が進んでいるようで進まない。さっきから抽象的すぎるのだ。話の内容がさっぱり掴めない。本当にボケ始めてるんじゃなかろうか。ちょっとずつイライラしてきたベルベットは答えを急かす。


「じゃああなたのことは放っておいていいってわけね?」


「構わん。どちら道、孫がこんなことを起こしたのだ。私はこの事態が収束した後に責任を取って学院長を()することにする。生かす価値もない老人だ」


 あっそ、とベルベットは学院長室を出る。ここが襲われないというのなら来るだけ時間の無駄だった。

 こうしている間にも戦況はどんどん劣勢になっていくのだ。早く外に出て戦った方がよっぽど有益だ。


 ベルベットが出て行きレイヴンは部屋に1人となる。窓からアストとアルカディアが戦っている天空のフィールドを見上げる。



「アスト・ローゼン。孫を…………頼む」




   ♦




 空に位置する一つのフィールド。そこでアストはアルカディアの口から「彼の正体」なるものを聞いた。


「転生……?」


「うん。未来の時代に生まれ変われる魔法…………正確に言うと未来の誰かの体を乗っ取ることができる魔法なんだけどね。って、言ってもそんな便利なものじゃないよ。なんたって転生できる未来の時代を選べない完全にランダムだし、自分の顔と体の情報が90%以上一致した肉体じゃないと体を乗っ取れない。だから顔も見慣れたものばかりさ。この顔も昔からずっと一緒」


 まず転生ってなんだというところだったが、アルカディアはちゃんと説明をしてくれる。

 けど、難しくて正直よくわからない。それでもわかっていないことを指摘されるのは恥ずかしいので「わかっている。お前の言うことはしっかりと理解しているぞ。そういうことなんだな……!」というような顔をしておこう。


「…………僕が言ってることわかってないよね?」


「…………」


 バレた。


「ふふ。で、君が知りたいのはどうして僕が『魔王の心臓』を持っているのか。だよね?」


 それだ。転生がどうとかはまぁいい。けど、どうして自分とまったく同じ「魔王の力」を持っているのかというのが謎なんだ。

 アルカディア(いわ)く、どの時代でも「魔王の力」が重複したことはないと言っているのだから早速のこの反例をどう片づけるのか。


「『転生魔法』はね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。僕は2回の転生をしてこの時代に来ている。だから今の僕はこの時代に来る前の『400年前の僕』……まぁそれを『第二世代の僕』と呼んでいるんだけど、その時の魔法だって使えるし、そもそも転生をする前の最初の自分……『第一世代の僕』の魔法だって使える。どれもこの時代の自分……『第三世代の僕』とは違う魔法属性さ」


「そうか。そういう、ことか…………!」


 ヤバイ。全然理解できてない。

 2回の転生? えっと1回目がどの時代からどの時代に来て、2回目がどの時代からこの時代に来たんだ? なんか世代世代言っててよくわからなかった。

 も、もう1回話してくれたら嬉しいけど……すごいシリアスな話してる空気だしそんなこと聞けるわけもない。ど、どうしよう……とりあえず何か驚いてる風な顔はしておいたけれども……


「…………属性魔法が3つほど使える、って覚えておきなよ。君が理解できないことくらいわかってるから」


 もしかしてバカにされているのか? そりゃ、わからなかったけど……わからなかったけどさぁ!


「そして『第二世代の僕』は偶然にも()()()()()だった。『魔王の心臓』のね。だからさらに転生してこの時代に来た『第三世代』の僕は『魔王の心臓』の能力も引き継いでいる。…………ああ、わかりやすく言うよ。君が今代の『支配』の魔王。そして僕が…………」


 アルカディアは【グラム】の刃先を向けてくる。



「先代の『支配』の魔王ってことさ」



 それはわかりやすくて助かる。

 簡単に言えば昔の人がその時の力を持ったまま未来にやってきたよってことでいいんだよな? それでその昔が「魔王後継者」だったからその時の「魔王の力」も持ってきているぞってわけだ。あ、合ってる? この理解で大丈夫? 大丈夫なのかなぁ……。


「サタントリガーは『転生魔法』を使う前に埋めて隠しておいた。こればっかりは『魔王後継者』である僕が一時的に死ぬことになるから消えるとも思ったけど、無事だったから驚いたよ」


 アルカディアはゼオンのインジェクター(注射器)タイプや、ミーティアのキー()タイプとも形状が異なるリング(指輪)タイプのサタントリガーを指から外す。そのままポケットにしまい込んだ。


 ぐ……、僕も「魔王の力」を使いたいところだが持ってないものは仕方がない。かくなる上は自分の心臓に剣を突き刺して……なんて方法を採用するべきなんだろうが、アレンが今は眠ってしまっている以上その傷を『革命前夜(アレンの異能)』で回復できない。普通に死んでしまう。


 さっきの『メルディオーティス』とかいう攻撃を食らった時に『魔王の心臓』のトリガーでもある「死を感じる」というのをクリアしてくれればどれだけよかったか。まだ使えないところを見るにどうやらまだ足りなかったらしい。本当にサタントリガーを使わなければ厄介すぎる発動条件だ。


(どうするよアスト。ワンチャン生きてることを願って心臓に剣ぶっ刺してみるか?)


「心臓に刺してるんだからそれワンチャンとかじゃなくて絶対死ぬって……」


 ムウからの提案もギャンブルにすらなっていないただの自殺だった。

 逆に心臓以外に刺そうとしても「死ぬつもりがない」と自分が思ってしまっている時点で発動しないだろう。自傷して発動する方法は諦めた方がいい。第一、もうやりたくない。


「こうなったら、やることは一つだ……!」


 剣を構える。常識破りの『闇魔法(ロストアーク)』だろうが、『支配』だろうが、やってやるさ!



ほんのわずかだけ余裕ができたので本格復帰の8月くらいまで不定期でちょっとだけ投稿しときます。まだまだ忙しいのでエピソード4完結はもう少しお待ちを。


あと、わかりづらかったかもしれませんがアルカディアの転生はこんな感じです。※PCで作業してるので上手く表示できてなければ確認次第後で修正します。


「現在から???年前」『第一世代』のアルカディア(属性魔法:?)


 ↓転生(1回目)


「現在から400年前」『第二世代』のアルカディア(属性魔法:?)


 ↓転生(2回目)


「現在(アスト達がいる時代)」『第三世代』のアルカディア(属性魔法:闇)




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