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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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127話 滅亡の宴 『竜魔争乱』!!!!



 外に出ると急いで走る僕を見つけたのか。カナリアとライハ、さらにはベルベットまで合流してきた。

 ガイトはこんな日でも音楽室にいるのだろう、だからここにはいない。


 むしろ、それでいいと思う。アルカディアをこの学院に残した理由とも被るのだが、謎の魔人─カチュアが学院に何かを仕掛けているかもしれない。そんな時に対応する人物が必要だ。

 ガイトが残っていてくれればそれに対応できる。そのため外に出る途中で事のあらましを伝えるメールも送ってある。

 そのメールはもちろんカナリア達にも。彼女達も生徒会室であったことを知っている。



「まさか謎の魔人の正体が生徒会副会長だったなんてね。これは強敵よ」


「副会長は学内戦には一戦も出ていない。データはないけど、とても優秀な成績だと聞く」



 カナリアとライハの情報を聞いて警戒度が上がる。


 僕が学内戦で戦った2年とはわけが違う。3年の最上級生ともなればクエストだって数多くこなしている。洗練された魔法はプロの魔法使いにも匹敵する。

 それに加え、僕たち魔法騎士コースの3人は魔女との戦闘経験がない。ライハも学内戦は多くこなしていても相手は全て魔法騎士だ。

 で、属性魔法はレア魔法である『重力魔法』。とても出力の大きい魔法と言われている『重力魔法』の力は侮れない。一撃ですら受け止め切れるかどうか。


 となると期待できるのは…………今横にいるベルベットか。


「ベルベットって『重力魔法』の使い手と戦ったことある?」


「んー。あるというか、私も使えるわよ?」


 ま、マジか。まさかベルベットも使い手の1人だったとは。複数の属性魔法が使えるとは聞いてたけどレア魔法ですら習得しているとはもう驚きすぎて言葉が出ない。本当になんでもありだな。彼女ほど規格外という言葉が似合う魔女はいない。

 それならベルベット頼りになりそうか……? それでなくとも僕を含めて4人もいるんだ。それだけいればいくら生徒会副会長と言えど向こうが劣勢のはずだ。


「ここにきてカチュアが僕を狙っている理由がわかったかもしれない」


 僕はベルベットの傍に行き、彼女にだけ聞こえる声で話す。


「ほら。アルカディアから聞いたよ。アルカディアにも僕が『人間』ってことを話してたんだよね? もしかしたらだけどそこから何かしらで情報がカチュアに漏れて、それで人間である僕を恨んでいたのかもって。人間の僕を学院から排除しようと─」


 そこで、不意にベルベットが足を止めた。僕もそれにつられて足が止まる。少し離れたところで何事かとカナリアたちも止まった。






「何言ってるの? わ、私…………アストのことそのアルカディアって奴には喋ってないわよ?」


「え…………………………………………?」






 ベルベットは硬直して答えた。そいつは自分の「協力者」ではないと。「アスト・ローゼンが人間である」という情報を知るわけがないと。


 脳がフリーズする。彼には伝えていない? そんなバカな。だって現にアルカディアは……


 体に寒気が走る。全身にビリビリと電流が走る。頭痛がする。ズキズキとうるさい。周りの人の声まで大きく聞こえる。騒音の中に放り込まれたみたいだ。


 カチュアが僕のことを人間と知っているのは……まだ、わかる。

 「謎の魔人」の目的は今のところ確実と言えるものがない。それこそどこかの情報筋で僕のことを知っているとか。誰かから依頼されているとか。なんだって想像できる。文字通り謎の人物である以上、行動理由だって明確ではない。



 けど、アルカディアは……? どうしてアルカディアは僕が『人間』であることを知っている?



 嫌な汗が流れる。これは走って出た汗ではない。違うものだ。体に纏わりついて束縛する鎖のようなもの。

 ピースが合わさっていく。待て。それは、待て。組みあがるな。頼むから、組みあがらないでくれ。お願いだから。


 思考は止まらない。体が空気を欲しがる。呼吸まで忘れていたようだ。


「アスト、何止まってるのよ。早く追わないと逃げられるわよ!」


「アスト……?」


 カナリアがそう言うのは当たり前だ。早く追わないといけない。こんなところで止まっているのは一番の悪手。リーゼがくれた魔力を探知するレーダーを見てもカチュアが持っているマジックトリガーを示すマーカーは遠くへ逃げていく。すぐに追うのを再開するべきだ。


 そこで、僕の頭にとある最悪の光景が浮かんだ。それは……


「カナリア、ライハ、ベルベット。聞いてほしいことが─」


 カナリア達に自分の中で(うごめ)く嫌な予感を話そうとする。



「ねぇ。そこのお兄ちゃん。あれ、なにー?」



 不意に。ちょうど横を通っていた幼い女の子が僕の袖を引っ張って空を指さした。その方向はアーロイン学院の方向。

 こんな時になんだ? と指された方向を見る。カナリアたちも同じように。



「!! あれは…………」



 校舎からかなり離れているから確定とは言えないが、およそアーロイン学院の真上にあたる位置。そこに…………「脅威」が渦巻いていた。


 上空を踊る黒の点描(てんびょう)。空を侵食するいくつもの咆哮(ほうこう)。地上に舞い降りた天からの災禍(さいか)


 子供の目ではあれが何か判断できないだろう。けれど……僕達には、わかる。



 どうやら、全てが始まったらしい。




   ♦




 混乱している生徒が集まった創立記念日パーティー特設会場。アーロイン学院の外庭には華やかな屋台、テーブル、催し物があるがそんな到底空気ではない。

 その生徒たちの前にあるステージ。そこに1人の少年が登壇(とうだん)した。



「皆、どうか安心してほしい!」



 彼はこの学院の生徒会長─アルカディア・ガイウス。この学院の文武共に生徒の頂点に立ち、全てをまとめ、人望も厚い。そんな人物が前に立つだけで生徒は落ち着きを取り戻す。

 騒がしい生徒も「おい、会長が何か言うみたいだぞ。静かにしろ!」「アルカディア様……ちょっと! そこの男子うるさいのよ! アルカディア様の声が聴こえないでしょーが!」とそれぞれが落ち着かせている動きもあった。これだけでアストの狙い通り、アルカディアに生徒を任せて良かったと言える。


「さっきの爆発はこのパーティー用に受注していた魔法道具が暴走しちゃった結果なんだ。だから何も不安になることはない。パーティーも続行するよ」


「なーんだ。そういうことかー」


「会長が言うなら間違いないな」


「きゃー! アルカディア様―!」


 たった一度アルカディアが説明すればこれだ。これも生徒会長としての信頼あってのものだろう。彼以外の生徒がここに立っても簡単にこうはならない。生徒の中では彼でしか成せなかったことだ。



「それと、皆に……聞いてほしいことがある」



 まだ彼はそこから離れなかった。本来なら説明をした後はステージを進行役の司会者にでも明け渡し、創立記念パーティーを始めるはずだった。

 それなのにまだ彼がそこを退かなかったのは、それほどに伝えたいことがあったとわかる。生徒の皆もそれを察しているからこそ黙って彼の次の言葉を待つ。



「今、1人の少年が戦おうとしている。名はアスト・ローゼン。ほとんどの人は知っているよね? この前も学内戦で戦ってた、彼だ」



 突然、アストの名が出てきたことでさすがのアルカディアの言葉ともなれど生徒は困惑する。


 なんであいつの話になるんだ? そんな疑問が共有された。


 ミリーと一緒にいたリーゼなどのアストを知っている者達も「なぜここでアストの名前が出たんだろう」と不思議がる。



「彼は、彼の正義を成そうとしているんだ。この学院を(おびや)かす悪を討とうとしている。そのために立ち上がるなんて簡単なことじゃない。正義を成すということはとっても難しいことさ。それこそ、だからこそ、ヒーローという存在は眩しく映るんだろうね」



 ここまで話を聞いても、見えてこない。アルカディアが何を言いたいのか。何を伝えたいのか。



「僕もなりたかったんだ。そんな存在に。世界を救う、ヒーローに。だから、僕は今日、大きな一歩を踏み出すことにするよ。…………皆には今日というパーティーを存分に楽しんでほしい」



 言っていることの意味がわからない。誰もが困惑の迷路を抜け出せない。アルカディアだけがそのゴールを知っているかのよう。彼だけが、その文脈の意味を知っている。


 だが、大丈夫。彼は皆にもわかりやすく伝える。何が言いたいかを。




 今から何をするのかを。




「今日はアーロイン学院の創立記念日だ。そして…………()()()()()()()()。君達にとってもね。皆には…………僕の計画の(にえ)になってもらう。世界を救うための、(にえ)にね」




 誰もが、呆然とした。これでも意味は伝わらない。しかし、その遠回しな殺害予告は色濃く「死」を伝えていた。その役割を果たせていた。




「おいで。『眷竜(けんりゅう) ニーズヘッグ』」




 アルカディアがパチンと指を鳴らすと、上空に魔物が現れる。

 大きな黒い翼。赤く光る眼。刺々しい、振るうだけで大木をも薙ぎ倒しそうな尾。大きさはバハムートのミニサイズほどの竜だが、生徒から見れば充分巨大な竜だ。グランダラスと同じく推定Bランクに位置する魔物である。


 生徒達は大きな悲鳴を上げる。パニックの極限へと(いざな)われる。


 だが、おかしい。Bランク。それなら悲鳴を上げることはないはずだ。生徒からすれば侮れない敵かもしれない。3年生にだって気の抜けない相手だ。2年以下なら戦いたくないと思うだろう。

 けれど、ここにはいったいどれほどの魔法使いがいると思っている。優秀な魔法使いはたくさんいる。それどころか生徒の数だって多いのだ。束になれば絶対に勝てる。



 それなのに、生徒が大きな悲鳴を上げる理由。簡単だ。向こうが「束」になっていたからだ。




 上空に存在する竜種の魔物─「眷竜(けんりゅう) ニーズヘッグ」。その数なんと「80」!!!!



 開いた口が塞がらない。数があまりにも異常すぎる。本気でこの学院を滅ぼそうとしている。



「言ったよね? パーティーは続行するって。楽しんでほしいってね」


 アルカディアはフワリと浮いた。これから滅亡させる者達を見下ろす。


「パーティーの名は……そうだね…………」


 さぁ。「終わり」を始めよう。






「『竜魔争乱』」






 アルカディアがそう告げると同時、特設会場にいたガレオスは叫ぶ。



狼狽(うろた)えるな!!」



 生徒の狼狽(ろうばい)を声だけで掻き消す。


「恐れを見せるな。敵に付け入る隙を見せるな。今こそ研いできた刃を手に取れ。戦いが来た。それだけだ!」


 ガレオスの(げき)により生徒達は少しばかりの平静を取り戻す。奮い立つだけの力は、なんとか取り戻せた。極まった困惑の迷路を抜け出すことも、迷路に囚われることを一旦放棄するという(すべ)を得た。



 余計なことは考えるな。敵が姿を見せた。今は戦え、と。



 ガレオスは自らの声を拡声器でも使ったかのように魔法によって学院全体へ広げる。


 

「今よりアーロイン学院生徒、教師を含めた全ての者に緊急クエストを発令する!! クエストランクはA。その手で魔物から学院を守れ! そして生き残れ!!」



 この日、アーロイン学院の存亡をかけた戦いが幕を開けた。



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