126話 強襲 謎の魔人!!
次の日の朝。起きるとマジックフォンに「彼女」から連絡が来ていた。だからカナリアとライハが部屋を出た後も僕は自室でその「彼女」の訪問を待つ。
するとすぐに、来た。
「ふぁ……アストさん、完成しましたわよ」
リーゼが可愛い欠伸混じりに届けに来てくれた。例の魔法道具を。
タブレット型の魔法道具。起動させると画面が光る。ここを中心点とした、周囲の何かを探るレーダーのような画面だ。
「これを起動させれば半径数百mにある魔力反応を探し当てますの。今はかなり大きな魔力も探知するようにしてありますわ…………こんな風に」
リーゼが指し示すようにレーダーには数多くのマーカーが表示されている。僕の横にいるリーゼもそれに引っ掛かってしまっている。
「そこからどんどん探知する対象の魔力量にしぼっていくのですわ。もっと小さな魔力反応を探し当てる……そうですわね。アストさんの聞いたマジックトリガーの効果からして、このくらい」
魔力というエネルギーの数値は魔人の保有する魔力、魔法道具に保有されている魔力で異なる。
実際に数値で出すと魔人が無意識に出している魔力には平均しておおよそ「380~500」くらいの魔力数値が出る。通常の魔法道具は「20~50」。だから数値で判別すると一目でわかる。
さらにベルベットが以前にマジックトリガーを回収していたことから、マジックトリガーに保有されている魔力数値もわかっている。あれの魔力数値は「200」だ。魔法道具にしては異様なほどに大きい。
ピッ、ピピッとタブレットを操作していく。レーダーで探す魔力数値を「190~210」に設定する。ピンポイントでマジックトリガーに近い魔力数値の反応を探すことで他の余計な物を消す作戦だ。
すると……レーダーに表示されたマーカーが一気に減った。さっきまでは数百と引っ掛かっていたものが今ではたった十数程度。
「さすがに完全に抽出することは難しいですわね。マジックトリガーに似た魔力数値の物もここにあるでしょうから。レーダーに引っ掛かった物全てがマジックトリガーというわけではないはずですわ。ですから、ここからは一つずつ当たっていく地道な作業に─」
「いや、きっとすぐ見つかるよ」
アルカディアが調べてくれている「重力魔法の使い手」に関する情報。それが出そろえば終わりだ。
ゾロゾロと生徒たちが動く。校舎の中ではなく、アーロイン学院創立記念日である今日のセレモニーのために開設された外のステージの前へ。あのステージでアルカディアは立つんだな。こんな大勢の前で……すごいな
周りを見渡すと……皆には笑顔が溢れ、日常を楽しんでいる。絶対にこれを守らないといけない。二度と大切な物を踏みにじられないためにも。
アルカディアは創立記念日パーティーの準備のために今も生徒会室にいる。それと同時に、僕に「重力魔法の使い手が誰か?」という情報を伝えるために待っている。今から僕はそこに行くんだ。
だが、気づいた。あることに。それが目に入った時、ゴクリの喉が鳴る。
「生徒会室に、1つ反応してるポイントがある」
そう。生徒会室に魔法道具の反応が1つだけあった。これはいったい─
ドンッッッッッ!!!!!!
突如、校舎の一角が爆発する!
生徒たちは何事かとその方向を見る。騒めき、悲鳴を上げ、顔を曇らせる。
あそこは……生徒会室だ!!
嫌な予感が駆け巡る。あれだけ狙われるかもしれないと気を付けていたのに。
僕はすぐに自室の中にいる、ゴロゴロと寝転んでいたムウに声をかける。
「ムウ! 戦いになるかもしれない。『魔王の力』を使うことになった時のために来てくれる?」
「んぁ? …………おうっ! りょーかいっと」
前にムウに聞いたところによると、自分の魔力を使ってこっちの世界に出てきている間は竜の姿になれず、「魔王の力」を解放した時に召喚することもできないらしい。なので戦う前には僕のところに帰ってきてもらう必要がある。
ムウは光の粒子となって自分の体に中に入ってきた。よし。準備万端だ。
「リーゼはもしもの時のために生徒の皆のところにいて! 僕があそこへ行く!」
「アストさん、危険ですわよ!! ああもうっ!」
リーゼの静止の声を振り切って僕は走る。友の無事を願って。
♦
「アルカディア!!」
生徒会室の扉を勢いよく開ける。全速力で走ってきたから玉のような汗が浮かぶが気にしない。気にしていられない。
彼の安否は……
「あ、アストくん…………」
無事、だった。だったのだが……床に座り込み小さな怪我もしている。しかし、何より目を引くのは生徒会室の壁だ。
入った途端に「強く風が吹きつけた」。それはおかしい。室内なのだから。窓を開けていた? いいや、そんな比じゃないくらいの風だった。
生徒会室の壁に大きな穴が出来ていた。まるで……そこから誰かが逃げたかのように。
「これは……?」
「ごめん。逃げられたよ。白のローブを羽織っていた魔人─君が言う、『謎の魔人』に」
奴と接触したのか!? たしかに特徴はまったく同じだ。くそ、やっぱりアルカディアを狙ったのか。この日になんて大胆なことをする奴なんだ。
だが、今気にするところはそこではない。一刻も早く彼から聞かなきゃいけないことがある。
アルカディアはアストと目が合うとわかっている、という風に瞬きした。
「謎の魔人の正体は…………カチュア、だったよ……」
アルカディアは下を俯きながら答える。その存在の正体を。
カチュアさん……? 彼女が「謎の魔人」の正体?
「実は、僕が『重力魔法』の使い手の正体を知ってても言えなかったのはそういうことなんだ……。君から謎の魔人が使う属性魔法を聞いた時は何かの間違いだと思った。いくらレア魔法といってもカチュアじゃない……って。だから、今日の朝にカチュアをここに呼び出しておいたんだ。もし彼女がそうだというなら説得しようと思ってね。でも…………その時に現れた彼女は、」
悟られたか。アルカディアが自分の正体に気づいたのではないかと。だから謎の魔人─カチュアはアルカディアを消そうとした?
けど、アルカディアは強い。生徒会長であるその実力は底が知れない。おそらく初撃で殺すことができなかった。だからこそ逃走を図った……ってところか。
リーゼから受け取ったレーダーを見てみると、激しい速度で移動している1つのマーカーがある。これがカチュアさんだ。
「僕は彼女を追うよ!」
「なら一緒に行く。いや、僕が行かなきゃダメなんだ……!!」
アルカディアは付いて来ようとする。しかし。
「アルカディアはここにいてほしい。君がいないと生徒たちが混乱する。だから創立記念日のパーティーの方に出て、生徒たちの不安を払ってほしいんだ」
突然校舎の一カ所が爆発したんだ。まだ生徒たちは混乱している。その上、生徒会長までどこかに行ったとなれば混乱は更なるものに。それこそ事件が起きたとなって創立記念パーティは中止だ。
これ以上……奴に日常を壊されてたまるか。
「そうか…………よし、わかった。生徒の方は僕に任せて。さっきの爆発は魔法道具の暴走ってことにするよ」
「任せた!」
僕は外に出ようとすると、
「カチュアには……きっと何か理由があったんだと思う。彼女は本当に良い子なんだ。だから……彼女のことをどうか…………頼む」
「わかった!」
同じ生徒会所属。それ以上に、カチュアさんはいつもアルカディアの横にいたから信頼は厚いはず。
カチュアさんが『重力魔法』の使い手であることを、アルカディアが僕に黙っていた気持ちはわかる。信じたくない気持ちも。
彼のためにも、カチュアさんの真意を確かめなければいけない。どうしてマジックトリガーなんかをバラまいていたのか。どうしてカルナにあんなことをしたのか。
カチュアさん……いや、待っていろカチュア!!




