123話 決め手の魔法道具
僕は生徒会室を出た。非常に有意義で、僕にとって価値のありすぎる、時間だった。来てよかった。
とはいっても。誰かに「あなた重力魔法使えますか?」なんて言うのも褒められたことではない。しかも聞かれたところで本人は答えないだろう。それが「謎の魔人」なら尚更だ。
だから「重力魔法の使い手」という情報で「謎の魔人」を探すのはここまで、ということだろう。この情報で得られた新たな情報は先程の通り、「この学院に『謎の魔人』が在籍している可能性が高い」ということだ。
ここからは別の切り口で探していく必要がある。
う~む、と悩む。そこで、1つだけ思いついたことがあった。
(マジックトリガー……か)
謎の魔人はおそらくカルナに接触してマジックトリガーを使わせた。その時の物を当然回収しているはずだ。現場に落ちてなかったのだから間違いない。それでなくとも別のトリガーだって持っている可能性がある。
そうなれば…………
(『マジックトリガーを探知できる魔法道具』とかあれば、どうだ?)
謎の魔人は今後も僕に縁のある人物を狙うかもしれない。それを逆手に取る。
もしくは……その縁のある人物を見張っておく。
まだマジックトリガーを渡されていない、僕に縁のある人物。この仮定が正しいならこれはかなり有効だ。
しかし、これはなんとも囮にするようなやり方だから気が進まない。リスクがある策というのはいつも一番効果的だったりするものだ。
「今度リーゼに頼んでみようかな。でも、お金払えるわけでもないのにお願いするなんてズルいよね」
マジックトリガーを探知できる魔法道具なんてものが作れるならリーゼしかいない。
けれど、そんな物絶対高いお金がかかる。それをいくらあの時の犯人を見つけるためとはいえ無償で作らせるわけにもいかない。かくなる上は…………
「借金。借金しかない……」
ベルベットに何ヶ月、何年分かのお小遣いを前借り。もしくはリーゼに待ってもらう。それしかあるまい。そうだ。それでいこう。
廊下でブツブツと「借金……借金だ…………借金」と呟いていたせいだろうか。すれ違う人がギョッとしてこちらを変な目で見ていたけど気にしないことにした。明日にはまた変な噂が立てられるのかもしれないけど……それも気にしないことにした。
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「マジックトリガーを探知する魔法道具……ですの?」
「うん。どうかな?」
魔工コースの教室でさっそくリーゼにお願い。決めたら行動するのは早い方がいい。
「多分、作ろうと思えば作れますわ」
「本当に!? す、すごいね……」
「魔法を使用者に与える魔法道具ですわよね? なら、必ず魔法道具に大きな魔力が宿っているはずですわ。しかも属性付きの。それを探知する魔法道具ですから、作ることはできますわ」
おぉ……! いよいよ謎の魔人捜しに大きな進展が。それならあとは……
「お金のことなんですけども……全額ちゃんと払うから待ってくれませんか…………多めに払うことになってもいいから……」
体を小さくしてお願いする。定額で待ってもらうという甘い話もあるまい。こうなれば増えようが待ってくれるなら喜んで受けるつもりだ。
「別にお金なんていいですわよ」
「そういうわけにもいかないよ。魔工に受注してるわけだからお金は払わないと」
「……では、アストさんの血を代金の代わりでいいですわ。私が今を生きるためにはアストさんの血が必要ですもの」
「それくらいタダでいいよ。命がかかってるんだ。別に飲みたいから飲ませろって言ってるんじゃないんだし……」
この話は堂々巡りになっていく。
リーゼは優しいからお金なんて受け取らないというが、魔工へ何か作ってくれとお願いするのはもうそれは「仕事の依頼」だ。
魔法騎士で言うなら「あの魔物を倒してくれ」と言われているようなもの。それを仕事と言わないでどうする。僕だって何も理由がないのに戦うなんてさすがにごめんだ。
あまり友達同士でお金の話はしたくない。けれども、そこを曖昧にしてしまってはこれから僕はとことん甘えてしまう気がした。何かに困ればリーゼにお願いして、また金額を踏み倒して、と。それこそなんでも作れるリーゼだからこそ。
キリールさんにも教えられたことがある。「お金を払うということは一番の対価」だと。
「それならこの話はなしですわ。私はお金に左右されて何かを作る女じゃないですのよ。バカにしすぎですわ。不愉快ですわ」
「えぇ…………」
それは一番困る。ど、どうすれば……。
そこで、僕の胸にあるロザリオが目に入った。あ、そうだ!
「じゃ、じゃあ……何かリーゼに買ってあげるよ。前にベルベット達にもプレゼントをしたことがあったんだ。そういう形なら……」
「まぁ……! それは素敵ですわっ! では、そういうことにしますわ」
決まりだ。よ~し。どこかの休日に出かけてプレゼントを探すことにしようっと。満足のいく形ではなかったが、ひとまずお互い納得のできる形になって良かった。
「あ、あの……リーゼちゃん」
「あら。どうしたんですの。ミっちゃんさん」
「次の授業で必要な器具を忘れちゃって……」
「もうっ。仕方ありませんわね。貸してあげますわ。どうせ私は一瞬で終わりますもの」
おや……? 前に食堂で見かけたおさげの女の子がリーゼと話している。あの時もリーゼと一緒にいたから友達なんだろうけど……。
「アストさん。紹介しますわ。この方、『ミっちゃんさん』こと─『ミリー・フルスト』といいますの」
「あ……! よ、よろしくお願いします! 学内戦拝見しました! とってもかっこよかったです!」
「ど、どうも……」
ミリーという子は紹介されると慌てて頭を下げる。同学年だからそんなに腰が低くなくてもいいのに。
学内戦を見てくれた、と言ってくれたが。カチュアさんの言う通り色んな人が見てくれてたんだな。嬉しいような恥ずかしいような。複雑な心境だ。序盤から終盤までボコボコにされてたからそこも見られていたことにもなる。
そんなことは置いといて。
「リーゼ、なんだかんだ言ってしっかり友達作れたんだね」
「私からではありませんわ! ミっちゃんさんがどうしてもと言うから……」
「ミっちゃんさんねぇ…………」
「なんで笑ってるんですの……!」
もう愛称なんかをつけてる時点で満更でもないのがわかりきっている。学院入る頃は「1人でいい」とか言ってたのにね。
ところでなんで「ちゃん」と「さん」が名前の中にどっちも付いてるんだろうか。ツッコんじゃいけないのかなぁ。
「でも、よかったね。うんうん。よかったよかった」
「だからどうして笑ってるんですの! きー! ムカつきますわー!!」
なんだか保護者のような感覚になって肩をポンポンと叩くとリーゼはプンプン。いやーよかったよかった。




