120話 お前よりも強い!!!!
カウンターバーストの仕組みを教えられたときは無理だと思った。今だって自信がない。
「魔力感知」は簡単な講習をジョーさんに聞いた後、集中すればなんとかできるようになった。といっても他の人たちと比べたら全然だけど。
魔力コントロールに関しては苦戦した。今まで修行してきて上達していたとしてもこの技を実現させるにはまだまだだったからだ。実際、学内戦までに間に合わなかった。
だから、この勝負の中で練習した。どれだけの危険に晒されても、血を流して這いつくばっても、惨めにバカにされようとも。
たった1つの勝利の可能性を掴み取るために!!
もう自分の体力は底が近い。あと一撃受けてしまえば本当に気絶してしまう。だから、ここしかない。
成功できるのか……? また失敗するんじゃないのか?
いや、む、無理だ。まだ僕の実力じゃ……絶対成功できない! 成功するイメージが、浮かばない!
弱い……僕じゃ…………
その時、僕の視界の中に、いた。
ちょうど今の僕と対面の観客席にカナリアが見えた。
カナリアの口が動く。
一言。
「信じてる」
ああ……思い、出した。クレールエンパイアで君は僕を信じるって言ってくれたんだった。
『あたしはあんたを信じてる。たとえあんたが自分のことを信じてなくても、あたしはあんたのことを信じてる!』
周りがどれだけ僕を否定しても、自分だけは僕を信じ続けるって…………。
僕の味方でいてくれるって……。僕が君を信じるように、君も僕を。
「ありがとう……カナリア」
もう、迷いはない!!
グールスの右ストレートが届く瞬間、アストは魔力を再び纏う!
アストは左の手の平でグールスの拳を受け止めた。そして…………
「んなっ!? こ、これは……!?」
グールスの纏っていた魔力が全消失した!! それと同時にアストの纏っている魔力が倍増する!!
「くらえ、カウンター………………………」
アストは血だらけでボロボロになっている負傷した右腕を構わず弓のように弾き絞り、動かすだけで痺れるように痛む手を強く、固く、握りしめる!!!!
「バーストオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
膨大な魔力を纏った拳が、魔力を纏っていないグールスの胸の中心を捉える!
魔法で装備していた岩の鎧をも容易く破壊し、グールスは放たれた矢のごとき速度で吹っ飛ばされ壁に直撃した。
「がっ!! ぶがっ!!!! ああ……か─…………ぁぁぁ」
血を息と共に吐き出し、混乱と苦悶が織り交ぜ合った表情を見せる。
ガラ……ガラガラ……と落ちる瓦礫の中、グールスの脳内もその表情と同じだった。
(な……な、にが、……起こ…………)
グールスの体は一瞬にして戦闘不能状態になった。あれだけピンピンとしていた……どころかノーダメージだったはずなのに。彼の頭も混乱している。
一撃。たった一撃で。そんなことあるわけない。そもそも俺の纏ってた魔力はどこいった??? なんで勝手に消えてんだクソが。つか、これ、おれ、どうなって…………
「降参、してください。勝負はついた。僕の…………勝ちだ」
アストが壊れた壁にもたれかかるようにして倒れているグールスに近づき、そんなことを言ってきた。
それにグールスは笑いを返してやる。
「は? はぁぁぁぁ?????? お前の、勝ち? お、おお、お俺の負け? なわけ、ななななわけねえだろうがぁ!! お前は俺より……弱い。弱い、だろうが……お前より強い、俺が………ま、負けるわけ……………」
負けを認めようとせず、まだそんなことを言うグールス。
「あのロザリオは僕の命よりも大事な物なんです。返してください。あなたはもう、負けたんです」
「命ぃぃぃ? あんなゴミみたいなロザリオ─」
そこまで言った時、言ってしまった時、アストにも限界がきた。
グールスの胸倉を掴み、引っ張り上げる。
「そうやって人をバカにすることでしか自分を強く見せられないのか。この勝負において、大事な物が懸かってる僕の方が、人を貶すことしか考えてない、」
アストはまた、右腕を振りかぶる。
「お前よりも強い!!!!!!!」
思い切り顔面を殴り飛ばし、グールスは気絶した。ここで、勝負が始まって初めて、グールスが床に倒れ伏す。
「き、決まりましたぁー!!!! な、なんとなんとなんとなんとぉぉぉぉ!! 超超超超大番狂わせ!! 学内戦『リミテッド・バトルマッチ』勝者はアスト・ローゼンだあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!! す、すげえええええええぇぇぇ!!!!」
ミランダのシャウトと同時、カナリアたちアスト陣営が声を上げる。
グールスを、応援……とは違うが、アストを貶していた者はまさかの結果に沈黙していたが、カナリアたちにつられて叫びを上げる。
今や皆が自分を褒め称えてくれる中、アストは気絶したグールスを見る。
彼の言葉を思い出す。
『そんな上の連中に汗水垂らして頑張って挑戦して栄光を手にするよりも、下の弱ぇ連中を食い散らかして気持ちいい思いする方が楽でいいだろ』
「……そうやって下ばかり見てるから、いつしか上を向けなくなったんだ」
アストは、フィールドを出た。
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「いやぁ~アルカディア会長。あれはなんだったんですか? なんかアストくん鉄拳一発でグールス静めちゃってましたけど」
実は学内戦の選手には聞こえないところで実況していたミランダは同じく解説をしてくれていたアルカディアに問う。何が起こったのかと。
「あれは魔力のとある性質を利用した技だね。一般的には知られてないものなんだけど、正直僕も驚いてるんだ。ここで答えを言っても皆のためにならないから興味が出た人は調べてみるといいよ」
アルカディアのそんな答えに観客席からは「調べる調べるー!」「きゃー! わかりましたアルカディア様―!」という声が飛び出す。不思議と女子が多かったようだが。
「この勝負は非常に興味深いものだったね。終始攻撃魔法を連発していたグールスくん。攻撃魔法を一切使わず魔力の応用技術だけで戦ったアストくん。『魔法』という要因は強力だけど勝負を必ず決定づけるものではない、と証明されたかのような一戦だった。どうか皆も考えを改めてほしい。『魔法』でさえも、戦闘の一要素でしかないと」
アルカディアは締めくくる。そのアストの戦いに敬意を称して拍手を送った。
皆も感動したように拍手する。その音はここを出たアストには聞こえていないけれど、この称賛の声はきっと彼の心に届いているだろう。
「もう一度宣言しよう。アスト・ローゼンの勝利を以て、今回の学内戦はこれにて終了とする!」
信じられないと思いますがこれでようやく上・中・下で言うと「中」くらいです。アップは済んで体が温まってきたって感じです。まだこのエピソードの本筋となる話がガッツリと残ってるのでまだまだお付き合いください。




