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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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112話 わたくしの学院生活始まりますわっ!


 今日は月曜日。学校のある日だ。とはいえ僕からすればただの休み明けというだけであって変わった日ではない。僕にとっては。



「ふぁ~。朝に活動するなんて魔法使いの皆さんは大変ですわね~」



 横で小さく欠伸(あくび)をしているのは「魔法使い」ではなく「吸血鬼」であるリーゼ。今は魔工の教室まで見送りに来ているのだ。


 いつもの夜色のドレスとは違い、僕たちと同じ青を基調としたブレザーの制服とスカートを着ている。リボンの色は赤だから1年生だ。今日が学院生としての初登校である。

 やはり美しい白磁(はくじ)の肌に整った顔立ち。それに今はガーターベルト付きの黒のストッキングを着用していてとても大人っぽい魅力がある。こんな子が今や自分と同じ制服を着て同じ学校に通ってると考えると妙な心の高揚を感じてしまう。


 周りの生徒もやはりと言ってか、ざわざわと騒ぎ立てている。

「なんだあの可愛い子!?」「うわぁ美人……」「どこのコースの子だろう……」「綺麗……」と、リーゼを見た者は皆立ち止まって(ほう)けている。

 それは仕方のないことだ。それこそリーゼは物語の中から出てきたかと言うほど綺麗な子。一度目にすれば、これは現実か、夢ではないのか、と疑って自分の頬をつねる方が自然なのだ。


 だが、不服なことがある。なぜなら先程の声の中に……



「おいなんか横にロリコンいねえか」


「ちっ、あいつが邪魔で写真撮れねえじゃねえか」


「腹立つから魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に通報しといてやろうぜ」



 すごい言われようだ。僕もムカっときたから隠れて写真を撮ろうとしている輩をとことん邪魔してやる。盗撮ダメ、絶対だ。

 あと通報もやめて!! そんな気軽に通報しないで!



「アストさん何やってるんですの…………」


 僕がリーゼを周りからのマジックフォンによる盗撮から守ろうと、手を広げて動き回っていると彼女がドン引きした目でこっちを見ていた。ここに味方はいないのか。


「それより今日からリーゼも同じ学院生なんだよね。どう? クラスに溶け込めそうかな? ほら、魔工って作業とか実験とか多そうだし人と仲良くするのが大事そうじゃない?」


 僕が在籍している魔法騎士コースだって魔法戦闘の時間があるから面識は広い方がいい。それに授業の中にも生徒同士で活動するものもあるからクラスという単位がそれなりに必要な時もあるのだ。


「心配なしですわ」


「本当に?」


(わたくし)なら作業も実験も1人でこなせますもの」


「あ、そっちの心配……」


 僕が言ったのは友達がちゃんとできるのかな、という方の心配だったのだが。


 もしリーゼが独りぼっちになっても学食とかの時間に合流して一緒にご飯を食べたりはできるけども、望むならば彼女には色んな友達ができてほしい。せっかくここに来たのだから楽しい学院生活を送ってほしいのだ。


「ここでお別れですわね。それではまた」


「うん。頑張ってね」


 ひらひらと手を振って別れる。さて、僕も魔法騎士コースの教室に行くか。




   ♦




「ひま、ですわ~」


 2限目。魔工の今の時間は魔法道具の中にある基礎的なパーツを組む練習をする授業なのだが。

 すでに3年生がやるような魔法道具、武器、の制作を一流のプロレベルでこなすことのできるリーゼにとっては非常につまらないものであった。

 昔、ベルベットとつるんでた頃にリーゼはマナダルシアに住んでいた。その時にあらかたこの国の技術というのは吸収しきっていたので今となって目新しい物もなかったのだ。


 休み時間になれば男の学生からはマジックフォンの連絡先を聞かれるは、彼氏いるのか、と聞かれる。女の学生からは美容品何使ってるのか、と聞かれる。話していて疲れるというのが正直な感想だった。

 ただでさえ眠たく怠い時間帯なのだ。そこに面倒くさいという感情が加われば苦にもなってくる。


 自分にはここで生活しなければならない理由がある。だからこそ少しは楽しくなるように努力したいが…………この様子を見ると無理か。


 そうリーゼが諦めた時だった。



「あっ」



 バシャンっ!とリーゼに冷たい水がぶっかけられる。



「な、なんですの!?」



 眠ろうと思っていたところに突然の水。一気に目は覚め、飛び起きる。

 さっそくのイジメか何かなら良い度胸だと思ったが……自分の横には水筒(すいとう)をひっくり返したまま床に倒れているおさげの女子生徒がいた。


「いたた…………あ、メガネメガネ……」


 その女子生徒は慌てて立ち上がるが、かけているメガネがなくなったのだろうか、その場でオロオロと彷徨(さまよ)う。

 目が見えづらいのに動くせいか、バキンッと自分のメガネのつるを踏み砕いてしまっていた。それどころか水筒に足を取られてズッコケている始末である。



(なんなんですのこいつ…………)



 リーゼはあまりの見事な光景を前にして呆気に取られていたが、すぐに我に返る。


「メガネ、ここにありますわよ」


 片方つるの折れたメガネを渡すと、それをなんとかつけて再び立ち上がる。

 目がようやく見えたのか、目の前にポタポタと水滴を垂らすリーゼを見ておっかなびっくり仰天する。…………が、すぐにそれが自分のやってしまったことと認識すると、


「ごめんなさい!! そ、その、わたし、とっても不器用で、あの」


「あーもういいですわ。あまりに不器用さが見事すぎて怒る気にもなれませんわ」


 こいつと関わるとマズイ。すぐにそう判断したリーゼは早くどっか行けと手を振る。

 このままではまた新たに不器用という理由で何かを起こされかねない。この女子生徒にはそれほどの危険性があった。


「でも服が……」


「ああ、これですの。こんなの……」


 リーゼはパチンと指を鳴らすと、制服とスカートが新しい物に変わった。何着か購入して別空間にストックしていた制服を魔法で瞬時に切り替えたのだ。

 パンツは端の方だけがほんの少し濡れているだけなので我慢できる範囲。あとはストッキングやらも替えておいた。


「すごい……」


「わかったら早く自分のところに戻るといいですわ」


 なんとかその女子生徒を追い払う。あれはまず確実に厄介事を振り撒くタイプだ。触れずが吉である。


 リーゼは安心して眠ろうとすると…………



「きゃっ!!」



 ボムンッ!!と小さな爆発が起きる。その音にリーゼはまた起こされることになった。


 音の方を見やると……



(また、あいつですの……)



 さっきの女子生徒だ。今度はパーツを組む作業でミスをしてしまったみたいだ。

 やっている作業はかなり基礎的なことなのにミスをするなんて、と思うが……それが爆発なんて起こすレベルともなれば奇跡的なミスである。いったい何をしたというのか。


 自分の予想通り、あれはヤバイ。リーゼはそう片づける。

 今の作業のやり方がわからないのか、他の生徒に助けを求めようとチラチラ、オロオロ、としている彼女を周りの生徒と同じく無視して再び眠りに入ろうとするが……


「………………」


 リーゼは席を立った。つかつか、歩く。



「どこがわからないんですの」



 ふぅ、と一つ息を吐いて彼女に告げる。若干半泣きになっていた女子生徒はリーゼを見て「え」と声を漏らした。

 リーゼは聞くより見た方が手っ取り早いかとすぐにパーツの方に目を向ける。


「こことここ。部品の位置が逆ですわ。これじゃ内包する魔力の循環がちぐはぐになって外に飛び出してしまいますわよ」


「あ……!」


 自分のミスに気づき、すぐにカチャカチャと組みなおす。そして作業を進めていくと……



「できた……! よかったぁ……」



 女子生徒はホッと一息。一件落着とリーゼは帰ろうとするが、



「あ、り、リーゼちゃんっ!」


「リーゼちゃん!?」



 呼ばれたことのない、いきなりのちゃん付けに思わず無視できず振り返ってしまう。


「わたし、ミリー・フルストっていうんだけど……よかったら、わたしと、お友達に……」


 女子生徒は助けてくれたことに感激したのか、はたまたこんな美しい彼女と話すことなんて今しかチャンスがないと思ったのか。勇気を出して友達になろうと宣言してきた。

 しかし、リーゼは変わらずこいつはヤバイと頭の中で警鐘(けいしょう)を鳴らし続けているので無視しようとする。


「ふぁっ!! いたぁ……」


 立ち去ろうとする、が。ミリーはまたベシャリとこけた。自分の足を自分で踏んづけて。その時にせっかく接着して直していたメガネのつるを顔で踏み砕いてしまっていた。




(こいつ、どんくさすぎですわ……!!)




 放っておきたいけど、放っておけない。リーゼは仕方なくミリーに手を差し伸べて大きく息を吐いた。大きな大きな、溜息を。




   ♦




 ~昼休み~



「リーゼ大丈夫かな……」


 彼女は新しい場所でもちゃんとやれていたのかと保護者みたいに心配してしまう。イジメられてないかな~とか。あ、日頃イジメられてる僕が心配しても意味ないか、ははは。

 自分で言ってて若干悲しくなってきたところで食堂にてリーゼの姿を探す。


「あ、リー……………」


 リーゼを見つけた。見つけたのだが。



「リーゼちゃん。はいこれお水…………あぁ!」


「どんくさすぎですわっ! 何回水をぶちまければ気が済むんですのー!」



 なにやらリーゼ以外にもメガネ(なぜかつるの部分が折れてボロボロ)をかけたおとなしそうなおさげの女の子がいた。


 おやおや……? なんだなんだ。すっかり友達できてるじゃん!

 僕の心配はどこへやら。どうやら杞憂(きゆう)で済んだらしい。それならいいんだ。

 どうしたって魔法騎士コースの僕ではずっと気に掛けることができない。だから魔工で友達を作ってくれればそういったことも解決だった。

 これでリーゼは大丈夫そうだな……。



 と、現在誰とも昼食を一緒になれずぼっち飯を食堂で食べてる僕がそんなことを思っていましたとさ。



 いやいや、違う。1人ではなかった。隣人がいるのだ。僕の横で一緒にご飯を食べている存在が。


 ただし、学院生というわけではなく…………



「うまー! はふはふ。なんだこの肉。めっちゃうまいぞ!」



 先日、僕が呼び出さなくても勝手に自分から出てこれることが判明したバハムートちゃんこと「ムウ」。

 これまた勝手に出てきて一緒にご飯を食べようと言い出したと思いきや学食で一番高いゴージャスステーキ定食(1万G)を頼んでしまった。ひえぇ……

 一日の昼食にまさかの一万オーバーの出費をしてしまった自分はサラダだけをムシャムシャと食べて空腹を必死に誤魔化している。しかも横で豪華な肉なんか食ってる子がいるせいで余計お腹減るし。あー辛い。


「アストは小食なんだなっ。はふはふ」


「うん…………………………」


 ぐぎゅるるるるるる。



 うん………………。


 もうなんだか……言葉が出てこなかった。



ずっと書きたかったリーゼ視点の話でした。やっぱり優秀なお嬢様タイプの友達はドジっ子が王道ですよね(?)

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