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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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111話 眷属と歩む未来


 それからミーティアの話を聞いた。入学試験での出来事を。この喋る杖「アルヴァス」のこと。そして……



「『禁呪』の魔王? 魔王の魔術書(グリモア)? え…………ミーティアって、『魔王後継者』……なの?」


 信じられない情報が出てきた。僕以外の魔王後継者。

 別に魔王後継者に初めて会うわけじゃない。ゼオン・イグナティスだって魔王後継者だった。なんの魔王なのかはわからないからどんな能力を有しているのかまでは判断できないけれど。



 『禁呪』の魔王……ありとあらゆる物を消滅させ、完全なる千篇(せんぺん)の破壊の術を操る魔王。



 ミーティアは自分のことを教えてくれたんだ。それなら、自分も開示しなければならない。自分のことを。

 なにより、数少ない「仲間」として。



「実は…………僕も同じ魔王後継者なんだ。僕の能力は『支配』。魔王の心臓ってやつの力なんだけど……」


「え!? アストくんも!?」


 僕が「アルヴァス」─杖が喋る様を見て仰天していたように、今度は2人が同じ顔をした。


 それもそのはず。噂では人間と魔人で6人しかいないとされている「魔王後継者」が2人も集結しているのだから。

 しかも、人間側と魔人側で均等に分けられているらしいのでどちらにも3人ずつのはず。僕から見ればミーティアとゼオンで魔人側2人、自分と……ミリアドにいる天使教会トップのセラフ・クロディアスで人間側も2人判明している。合わせて4人だ。


 誰にも謎であった存在のはずなのにこうまでして判明していくのだから、魔王後継者はどこか引き合うのかもしれない。

 僕がゼオンに「またどこかで会う気がする」と予感したように。


『ふむ……「魔王の心臓」、ですか。運命さえも支配し、自らの思い描くがままに世界を塗り替える魔王。して……貴方様の眷属は?』


「眷属?」


『魔王後継者というのならば、魔王様が後継者に1体与えられる特別な魔物─「眷属」と後継者の証である「サタントリガー」を持っているはずですぞ』


 へ? へ??????? どっちにも心当たりがないんですけど。そもそもサタントリガーって魔王後継者なら貰える物なの!? 僕貰ってないんですけど!?!?!?


 ミーティアは自分のサタントリガーを見せてくる。真っ黒で禍々しい「鍵」の形をした物だ。

 ゼオンが使っていたのは注射器の形をした物だった。僕の知っている物と違う。

 眷属……は、詳しくは知らないけど、おそらくゼオンが呼び出していた『プラネタル』という魔物で間違いないだろう。あんな魔物、見たことなかったのだから。


 でも、僕には眷属という特別な魔物なんて…………




『眷属って言ったらあたしだろーが!』


「ん?」



 突然、頭の中で甲高い声が響く。その次の瞬間、僕の付近で黒の魔法陣が現れた! これは……僕が支配した魔物を召喚する時に出現するやつだ! なんで今!?


 そこから首に(くさり)の紋様が刻まれた黒髪の幼女がポンッ!と出てきた。こ、この子は……



「バハムート!?」


「おうっ。久しぶりだなアスト」



 僕が最初に支配した魔物─バハムート。その、「人の姿」である。大きくて怖い竜がこんな女の子だった時は戸惑いこそしたものだ。

 虚空から現れたバハムートはどこから出したのか学院の制服のミニマム版を着用していた。


 眷属かどうかは知らないけれど、僕の魔王の力─『無限の造り手(ヴォイド・メーカー)』でバハムートから創り出される【バルムンク】は幾度も僕と共に戦ってくれた。相棒と言えばそうなのかも。


 しかし……



『バハムート~??? こんなただの魔物風情を魔王様の創り出された魔物と同じにされては困りますぞっ! ぷぷぷっ』


「なんだと~! 棒切れがうるせぇんだよ! 笑ってんじゃねーおらー!」



 そんなことを言うものだからバハムートは杖であるアルヴァスを掴んで壁にゴンゴンと叩きつけてる。喋ってるけど一応それミーティアの杖だからね……。

 なんとか激昂(げきこう)するバハムートを(なだ)めることで話が進む。


『そもそも魔王様が創り出される魔物は通常の魔物とは違うのですっ! 他の魔物とは一線を画すその力、後継者の「魔王深度」と連動して成長する能力も有しております。こ~んなたかだかちょこっとこの世界で伝説扱いされてるくらいでいい気になってるチビッ子と同じにされては……』


「まだ言うかこの棒切れー!!」


「暴れちゃダメだってば!」


「アルヴァスもそこまでにして!」


 僕とミーティアは互いの使役している魔物の口論を止めに入る。まーた話が止まったよ。



「で、サタントリガーってやつも僕は持ってないんだ。それって魔王後継者全員が必ず貰える物なの?」


『そうですぞ。そうでなければ「魔王の力」を使用するにもかなりリスクの高い条件をクリアせねばなりませんからな』



 うっ……それはすでに知っていることだ。アルヴァスもまさかそんな方法で魔王の力を使ってないよね的な口調なので少々恥ずかしい。

 僕はミーティアが出していた鍵の形をしたサタントリガーを再度目に映すと、


「ちょっとそれ借りていい?」


「? いいけど……はい」


 僕はミーティアからサタントリガーを受け取る。えっと。ここからたしか……




「解放~宣言!!」




 カチッとスイッチを押し、トリガーを起動させてお決まりの言葉を口にする。それだけでなく、なんか気分よくポーズも決めちゃって。


 …………だが、



「あ、あれ? なんともならない」



 僕の「魔王の心臓」はまったく反応しなかった。それどころかサタントリガーも反応しない。

 おかしいな。サタントリガーの形こそ違えどゼオンはこう宣言してトリガーを起動させていた。

 う~ん。鍵の形だけど自分の肌に刺したりしないとダメなのかなー。



『何も知らないのですな。そのトリガーはキータイプのサタントリガー。言わば「禁呪」の魔王専用のサタントリガーですぞ。「支配」の魔王の貴方様には貴方様専用のトリガーがあるはずです』



 なるほど。サタントリガーには互換性が存在しない。つまり、誰かの魔王のトリガーを使って力を解放させることは不可能ってことか。

 鍵の形をしたキータイプのサタントリガーは『禁呪』の魔王、ミーティア専用。注射器の形をした……インジェクタータイプのサタントリガーはゼオン専用ってところか。



(「ねぇアレン。今起きてる?」)


(「なんだ?」)



 あ、起きてた。ちょうどいい。今の話も聞いてただろうからここで聞いておこう。


(「僕の……ええっと、『支配』の魔王専用のサタントリガーって持ってたりする?」)


(「ああ、持ってるぞ」)


 ええ!? 持ってるの!?!?!?


(「なんでそれを早く言ってくれないの!?」)


(「聞かれなかったからな。それに……今は手元にない。エリア6にある俺の家の中だ。妹が保管してくれている」)


 あ……そうなんだ。浅はかな考えと言われそうだがこれから魔王の力を簡単に解放できるかなーなんて思ったのも無駄だった。



(「じゃあ『眷属』っていうのは?」)


(「それもいる。だが、今のお前では呼び出せない」)



 呼び出せない? なんで?


 アレンは僕が首を傾げる様子を感じて……



(「多分だが、俺とお前が一つの体に同居しているせいだろうな。お互いが記憶を共有していないせいで、過去に俺が支配した魔物を全てこの体で呼び出せなくなっている。前に試してみたが無理だったからな」)



 げ…………マジか。その「眷属」とやらだけではなく、アレンのハンター時代に支配した魔物すら使えなくなっていたのか。主に僕のせいで。

 二重人格。便利そうで不便なことが多々あるな。特に「魔王の力」に関しては二重人格者が使うことなど一切考慮されていないのか、不便の極みだ。


(「お前が俺の支配した魔物の記憶を何かのきっかけで共有できれば可能かもだが…………無理か。諦めろ」)


 はいはい。無い物をねだっても仕方ないから諦めますよー。…………はぁ。



「ごめん。これ返すよ。僕じゃ使えないみたい」


 ミーティアにサタントリガーを返す。

 魔王の力……まだまだ謎なところが多いけど、ひとまずいくつかの収穫はあった。自分には魔王後継者として色々足りないということばかりだが。


 そうでなくともここに来た理由はミーティアを調べるためだ。「謎の魔人」かどうかを。

 自分に関係あることが判明したから少々脱線してしまったが、本来の目的を達成できたなら満足と言えるだろう。


「突然お邪魔してごめんね。僕はこれで帰るよ」


 まだアルヴァスに向かってベーッ!と舌を出しているバハムートの手を引っ張って部屋を出る。


 部屋を出たところで……




「あのっ! あ、アストくん!」


「ん? あれ? 僕、忘れ物してた?」



 なんとミーティアが追いかけてきた。てっきり何か忘れて置いてきたのかなとも思ったが、


「これ…………見覚えない?」


 ミーティアは僕にとある物を見せてきた。

 それは…………一枚のメダルのようなもの。そこには二振りの剣が交差した紋様が刻まれていた。


「これがどうかした?」


「こ、これ……昔、大切な人に貰ったの。あ……アストくんがその人にすごいそっくりだったから……もしかしたら……って、そ、それで…………」


 ミーティアは急いで走ったからか、はたまたそれ以外の理由からか、赤くした顔をアストに向けていた。彼の顔をチラチラと覗きながら。


(うん……??? 僕は見たことないけど……)


 念のため、「彼」にも聞いておこう。なんだか彼に関係しそうなことだったから。


(「アレン? まだ起きてる?」)


(「……今度はなんだ?」)


(「このメダルみたいなの見覚えない?」)


 僕はミーティアから受け取ったメダルを見る。視覚情報は共有されているのでアレンからはこのメダルが見えているはずだ。


 その結果は、


(「ああ。知っている。というより、これは俺の家の家紋だ」)


(「この子が持ってたらしいんだけど。で、くれた人が僕達に似てたんだってさ」)


(「…………そうか。覚えていないがどこかで渡したんだろう。魔人相手にそれを渡すような奴は俺くらいしかいないからな」)


 随分適当だなー。彼女はけっこう本気で聞いてきてるというのに。僕はなんと答えればいいのか。



「あ~…………僕の知り合いにその家紋の人がいた気がするな~。きっとその人が君に渡したのかな~…………なんて」



 目を泳がせまくっての言葉だが、こう答えるしかあるまい。「知らない」なんて答えるわけにもいくまい。かといって「あー! それ僕が渡したやつだ!」なんて答えるわけにもいかない。だって僕知らないもん。



「…………そ、っか。うん。それなら…………うん」



 ミーティアはポカンとした顔をするが、すぐに笑顔を作って何かに納得する。

 それはまるで……「そういうことにしておいてあげよう」と、2人だけの秘密でも共有するかのように。どこか悪戯っぽくもある笑顔だった。


「じゃあねアストくんっ! また会えたら!」


「あ……うん。じゃあね」


 また会えたら。僕とミーティアは魔王後継者だ。きっとどこかで……また会う。どこかで、また。




   ♦




 それから僕は再びバハムートの手を引いて帰路につく。


「そういえばあれから全然会わなかったよね。繰り返しになるけどまさかバハムートがこんな可愛い女の子なんて思わなかったよ」


「性別なんて(おす)(めす)かなんだから別に不思議じゃねーだろ。ま、可愛いってところは大正解だけどなっ!」


 バハムートは可愛いと言われたのが嬉しかったのか、ぷくっと鼻を大きくして喜ぶ。

 やっぱり竜の姿よりもこっちの方が親しみやすくて助かる。あーグランダラスもこんな風に人になってくれないかなー。


「それにしても、バハムートも魔王の力に関して詳しいよね。魔王深度のこととか知ってたし」


 ミーティアのところにいたアルヴァスという魔物はわかる。自身が魔王に創られた存在らしいし、魔王の力に関してある程度の知識を持っていてもおかしくはない。

 けれどもバハムートは別に魔王から創られたわけではない。言ってしまえば伝説級の魔物だとしても、この世界にいる普通の魔物なのだ。魔王の力なんて触れる機会はないと思うが。


「昔、パパが今のあたしたちみたいに魔王後継者の仲間になってたからな。その時のことを教えてくれたんだ」


「え、お父さんいたんだ」


「当たり前だろっ!」


 そ、そうか。そうだよな。そりゃお父さんとお母さんがいるはずだ。魔物だって人間や魔人と同じだろう。


「パパはめっちゃ強いんだぞっ! こんな国なんかすぐ吹っ飛ばせるんだからなっ!」


 うわぁ~……そんなのには絶対会いたくないなぁ…………。

 でも、今は幼いこの子も成長すればいつかはそれくらい強くなるんだよね。その時、僕って危険人物として捕まったりするのかな……。


「あっ、『バハムート』って名前は正しくないのかな。ほら、お父さんとお母さんいるってことは君にも名前があるんだよね? 『バハムート』じゃなくて」


「別に。魔物は名前なんてのに執着しないからな。好きに呼んでいい」


 んー。そっか。それなら…………




「じゃあ『ムウ』っていうのは? バハムートの『ムー』でムウ」


「ムウ…………なんだそのネーミングセンス。ふん、じゃあそれでいい」




 なんだよ素っ気ないな。気に入らなかったのかな、とこの子の反応から思っていたが……




「ムウ……ムウ………………ふふっ」




 顔を隠してるけどすごいニヤケてる。嬉しかったのだろうか。魔物は名前に執着しないんじゃなかったのか。



「あ、あたしたちの世界じゃ人に名前を呼ぶのを許すっていうのはけっこうすごいことなんだぞっ! 本当は『バハムート』だってあたしたちからしたらお前たちに勝手につけられた名前なんだからなっ! あたしレベルの魔物が人とこんなに親しくすることも珍しいことなんだぞっ!」


「そう、なんだ……」







「だから……だから…………あたしのこと、ずっと大切にしてくれよな」





 頬を染めて、深い青の双眸(そうぼう)で僕を見つめる。握ってくれている手も心なしか震えているように思える。

 僕はそれをギュッと握り返して。



「うん。ムウのこと、ずっと、ずーっと、大切にするよ」


「! そっ、そそそ、そうか。…………そう、か…………えへへ」


 

 思わぬ結果を掴んだミーティアへの訪問。魔王後継者としての色んな情報を知れた。それに、もっと自分のことを知っていくべきだと感じた。

 この子と一緒に。なんたって、僕と最初に歩んでくれた子だから。



 その後、そのまま自分の部屋に帰ったんだが、ムウというバハムートが人の姿になっている今の状態を皆に紹介していなかったせいで「アストがまた幼女を連れてきた!」と見事に魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に通報された。   

 はぁ………………。



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