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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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110話 『支配』と『禁呪』、2人の魔王



「…………ってことがあったんだ」


 魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)で話を聞いた次の日。僕の部屋にカナリア、ライハ、ガイト、さらにはリーゼも集まっている。

 ガイトは昨日の夜にクエストが終わったとのことで帰ってきていたのだ。リーゼともここで知り合うこととなった。


 集まった理由はもちろん。カルナの事件のことについて。

 魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)で聞いたフリードさんの話を、あの戦いに関係した人達に共有したのだ。



「マジックトリガー……そんな魔法道具があるんですのね」


 魔工であるリーゼはマジックトリガーの存在に複雑な顔をする。魔工としては興味があるけれども、それがカルナを(むしば)んだ原因になっていることの2つの感情がせめぎ合っていた。


「その、『謎の魔人』に関してだが……前にアストに話したことなんだけどな。『重力魔法』を使ってやがった。魔法使いとしてもかなり実力を持ってると見た方がいいぜ」


 ガイトがマジックトリガーを渡された時、実力行使を受けたらしいのだが……その『重力魔法』によって簡単に封殺されたというのだ。


「重力のマジックトリガーていうのがなければ、その属性魔法の使い手を探せばいいだけなんだけどね……」


「探すっていっても簡単じゃないわよ。人の属性魔法だって聞くことはマナー違反みたいなものなんだから」


 アストに対してカナリアはすぐにそれが簡単ではないことを伝える。

 これも考えのうちなのだろう。どうせ属性魔法を明かしても探せない、と。



「こうなりゃ怪しいのに当たっていくしかねーな。『相当な実力を持っている』。これだけは確かな情報なんだ」


「というと?」



 ガイトは何かを思いつく。それは……


「マジックトリガーの事件の有無(うむ)から考えて、その『謎の魔人』が現れたのは俺達が入学してからだろ? なら1年生である可能性も大きいわけだ。そこで、こんな話を聞いたことがあるか?」


 ガイトが話したのは……今年の魔女コースの入学試験のことだった。

 なんでもとてつもない大魔法で1500点相当の大量得点を獲得した生徒がいるとのこと。


「1500……!?」


「そんな怪物が魔女の方に潜んでたってわけ!?」


 他コースの試験結果は気にする人しか見ない。なぜなら1年生の間はそこまで他コースの交流はなく、あまり関係がないからだ。

 そんなこともあって僕の試験結果を他コースの人は……知ってる人は知ってるけど、知らない人は今でも知らない、って感じらしい。

 学内戦に出ればその生徒の学院内での基本的な情報が試合前に閲覧(えつらん)できたりするので、そこで初めてわかったりもするのだが…………僕は学内戦に出たりしないのでそんなこともない。


「つーわけでアスト。お前そいつのとこ行ってこい」


「なんで僕!?」


 自分に白羽の矢が立ったことにビックリする。魔女でも男はいるとはいえきっと女子だろう。それならばカナリアかライハかリーゼが行けばいいのに。



「向こうは1500点以上取る化け物だろ? なら、こっちもバハムートを倒したっていう化け物様に出向いてもらわなきゃな」



 ひどい……そんな理由で。


 けど、興味があるのも事実。魔女コースの子と全然面識がないからっていうのもあるし、そんな規格外な力を持っているということも。

 それに……フリードさんから話されたのは自分なんだ。まずは自分から積極的に動くのが筋なのかもしれない。


「わかった。やるだけやってみる」




   ♦




 ってことで来ました魔女コース専用寮。

 といっても魔法騎士コース専用寮から少し離れただけの場所に建っているから移動も大したことはない。


 皆が僕の部屋で待機している状態で僕1人だけなのだが……心細い。誰か1人くらいついてきてほしかった。

 それも相手の異常性から怖がっている部分があったに違いない。なにせ入学試験でそれだけの結果を出せば、下手すればベルベットクラスの魔法使いの可能性がある。

 僕から見たらベルベットはいっつもニコニコしているイメージだけど、これから会う子もそうとは限らない。めちゃくちゃ怖い子である可能性だってある。会うなり魔法ぶつけてきて「帰れゴラッ!!」とか怒鳴られたりするのかな…………。



「ここまで来たら引き下がれないな」



 ガイト聞いた情報ではその相手は魔女コース寮の「103」号室に住んでいるとのこと。


 僕は入る前にマジックフォンでアーロイン学院のページを開く。

 「コース案内」「来年度試験日日程予定」「教職員紹介」等々、色々な項目の最後にある「学院生ログイン」というページに進む。


 そして実は入学時に与えられていた学籍番号を入力すると……学院生専用のページに入った。

 ここでは自分の成績や過去のクエスト達成情報、学院からのお知らせ、それ以外にも……「寮室利用者」の確認もできる。

 寮室利用者の確認とは簡単に言えば、「どこに誰が住んでいるのか」がここで閲覧できるのだ。

 誰かに用がある時、その肝心の相手がどこにいるのかわからなければ非常に不便である。特に教員の場所は皆も知りたいところ。そこでこのページが役に立つのだ。




「えっと……『ミーティア・メイザス』と……『(ひいらぎ) 氷華(ひょうか)』? これたしか『日の国』の名前だっけ」




 確認してみたところ、ガイトから事前に聞いた名前と一致している。目的の人物は「ミーティア・メイザス」。ここに住んでいるのも同じく。つまりこの部屋で合っているというわけだ。

 そうとなればこれ以上悩んでも仕方ない。さっさと訪問してしまおう。


 インターホンを鳴らして、待つ。するとドタドタドタ!と忙しい音が響いてくる。ベルベットの時もそうだったけど魔女は皆こうなのか……?


 ドアが危ないと思うほど勢いよく開き、そして……





「はいはいどうしまし──うわぁっ!」




 中から出てきた女の子は飛び出す勢いのまま、つんのめってベシャリと地面に転げて顔を打った。



「…………え?」


「い……いひゃい……」



 僕が出会ったのはイメージと違う、随分とおっちょこちょいな化け物さんだった。




   ♦




「これ、お茶」


「ど、どうも」


 あの後、外の様子見に来た雪色の髪を持つ綺麗な和装の女の子が、顔を打った衝撃でダウンしていた子を拾って僕を中に入れてくれた。

 その和装の子─おそらく日の国の服だと思うからこの子が「柊 氷華」─がお茶なんかを出してくれたんだが…………このお茶ちょっと苦い。お茶と聞いたら紅茶だと思ってたからそんなところで変に驚いてしまった。日の国でよく飲まれているお茶なのかな…………。


 でも、この子が「柊 氷華」だとしたら……



「…………」



 さっき見事に転げた、今はなんか黙々と動画? を編集しているこの子がミーティアということになる。かなり予想外だ。

 小動物な感じがして失礼だがあまり強そうには見えない。なんなら柊さんの方が強そう。



「よーし終わったー!」



 一通り作業が終了したのか、やったーと伸びをして喜ぶミーティア。


「その……動画かな? それって何に使うの?」


 ミーティアの反応からその動画がどんなものか興味が出る。覗くと……その動画の中ではミーティアが魔法道具を使って色んな実験をしていた。編集の結果なのか面白おかしく演出などが付けたされている。


「これはマジック☆チュービーにあげるの」


「へー、僕見たことないけどこういうのなんだ」


 マジックフォンでそのページが見られるらしいのだが、僕は通話やメッセージ機能くらいしか使わないのでこんな動画は初めて見た。こうしてみると面白そうだ。


「わたしの動画を楽しみにしている人のため、投稿する動画に力は抜けないからしっかり作るんだよっ!」


 ふふんっ!と得意気に胸を叩くミーティアだが……


「チャンネル登録者54人なのに?」


「もー! それ言わないで!」


 氷華がボソリと呟くとミーティアは赤い顔をして恥ずかしがる。アストは「チャンネル登録?」とわかっていなかったが、彼女のその表情から望んでいる結果ではないということだけはわかった。



「それで……アストくんだっけ……アストくんはわたしにどんな用があるの?」



 ミーティアはさっそく本題を切り出してくる。それに合わせてアストも顔を真剣なものにした。



「えっとね、いきなり変なこと聞くかもしれないけど……この日、何をしていたか覚えている限りで教えてくれる?」



 僕がマジックフォンでカレンダーのある日を指し示す。それはガイトが謎の魔人と接敵した日。僕はこの日の彼女のアリバイを聞こうとしているのだ。

 ミーティアと氷華は2人で示されたカレンダーの日付を覗く。そして少し思案して……



「この日ってたしか『講演会』があった日?」


「うん。そうだよね」



 なんの脈絡もなく突然関係もなさそうな日を提示されてもその日の予定なんか忘れているかな……と思いきや、2人はすぐに答えを出せた。

 ミーティアは自分の机からゴソゴソと1枚の紙を取り出して、僕達がついていたテーブルの上にそれを置く。


「その日は1年生の魔女全員が有名な魔女の講演を聞くってことで学院から離れてたよ。帰ってきたのは……あそこで色々と大変なことがあったから夜の9時くらいになったかなー。欠席もいなかったし」


 ミーティアはまるで苦労話を聞かせるみたいに話す。そこに嘘は感じられない。アストは氷華の方見るが、そちらも同じ。


(嘘じゃ、ないか……。そうなると1年の魔女は全員容疑者から外れることになる。何気にこれは大きな収穫かもしれない)


 そうなると謎の魔人の正体は2年生以上。それもガイトやライハの感想だが……魔法の威力や魔力的に見ても魔女コースの生徒だったと言っていたから……「2年生以上の魔法使い」となる。

 先輩となると……1年の自分からすれば情報は集めにくいが、今後はそっちで動くことになりそうだ。


「何かあった?」


 氷華はアストが思考に沈む様子を見て、只ならない何かを読み取った。そもそもの話、こうやって人の一日の予定を聞いてくるあたり普通でもない。


 まるで……()()()()でもしているみたいだ。


 もちろんアストがそれを隠すつもりもなかったからだが。


「僕の友達がトラブルに巻き込まれちゃってね。ちょっと事情があって『重力魔法』の使い手の人を捜してるんだ」


「重力魔法……」


 僕の真の用件を話すと、ミーティアと氷華はうーんと考える。


「その魔法、かなりレアなやつ。1年に使える人はいないと思うけど」


「氷華ちゃんは『氷魔法』でわたしは『創造魔法』だもんね」


 「なんでバラすの……」と柊さんは呆れた顔をしていたが……なんか捨て置けないワードが飛んできた。


「創造魔法……って聞いたことないけどどんな魔法?」


 水魔法、雷魔法、音魔法様々な属性魔法を見てきたけど、今度は聞いたことも見たこともない属性魔法が登場だ。

 自分が属性魔法を使えないことからか、マナー違反とはわかっていてもついつい聞いちゃう。

 字面からかなり凄そうだけども……。


「自分の頭のイメージを具現化する魔法なの。実感ないけどこれもレア魔法って言われてるんだよね。自分は全然そう思わないけど……」


「え!? でもそれってすごく強くない? なんかこう……無敵な武器とか創り出せちゃったりとかさ」


 聞いただけではとんでもない反則魔法に思える。それこそ言ったもん勝ちのような、戦いにおいては最早規格外どころではない魔法だ。

 「すっごく強い武器」とか「絶対相手が倒れる魔法」とか「相手は死ぬ」とか? もしそうなら入学試験で大量得点を稼ぐのも頷ける。


 しかし、アストの大きな期待からミーティアは苦笑いになる。


「ううん。そういうのはできないの。自分のイメージを具現化するって言っても条件があって…………『自分の中にある最も影響力の大きいもの』しか具現化できないの」


「えっと……?」


「わたしの場合は……これ」


 そう言ってミーティアが今度はドサドサッ! と大量の本をテーブルに置いた。

 それらは全て……「物語」の本だった。僕が読んだことあるやつから、知らない物まで多種多様だった。


「わたし、物語の本が好きなの。それで、自分が読んだ物語に出てきたアイテムとか生物とかしか具現化できないんだ~」


 えへへと困った笑いを浮かべるミーティア。


 なるほど。そんな条件があるってわけか。そうじゃなければレア魔法なんて域を飛び越えてマナダルシアで貴重に管理されるような「大魔法」扱いを受けているだろうから。

 それでも使い方や具現化される物が何かよっては便利かもしれない魔法だ。僕はどんな物が具現化されるのか、確認というわけではないけれど物語の本を手に取って見る。



「うん……? シンデレ……ラ? し、しら……白雪、姫?」



 それは見たことない物語だった。ベルベットの館にある本棚にもこんな本なかったし、単純に自分が読んだことがないだけかなーとも思ったが。



(? あれ、全部「()()()()」になってる。なんだこれ?)



 あとでこの学院にも設置されている図書館にでも行って探して読んでみようかなと考えたが……さきほど確認した物語の本の作者欄が「不明」とされていた。

 それだけではない。置かれている物語の本の中には作者が明記されている本もあるが……やはり作者が明記されていない本が混じっている。



 「桃太郎」「かぐや姫」「ラプンツェル」「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」……他にもあるけどこれら全部が「()()()()」になっている。不思議な本だ。



「これね。全部おじいちゃんがくれたの。なんでも()()()()()()()()()本なんだって。わたしも全然知らなかったから貰った時は気にしてなかったけどね……」


 魔人の中にも人間の国から本を持ってきてコピーして売るというとんでもない人がいたりするせいで人間の国の本が普通に売られたりするのだが…………大昔の本、か。


 でも、ミーティアの話が確かならそんな本の中にある物を具現化できるというのだからそこから繰り出される攻撃は変幻自在にして予測不可能なものになるだろう。

 そうしてみれば強力な魔法といえる。索敵(さくてき)や多種のサポート、目に見えないような音波攻撃や「声の質」という独自の世界から生まれる攻撃を出せるガイトの『音魔法』、一撃でも決まれば戦闘不能になるかもしれないというほどの高出力な『重力魔法』と並ぶ「レア魔法」に分類されてもおかしくないものだった。


「じゃあその魔法で入学試験は勝ち抜いたってことなんだね……」


 と、僕は1人で勝手に納得していると……


「あ、それは……」





「それはミーティア様の『禁呪』があってこそですぞっ!!!!」





 ミーティアでも、氷華のものでもない第三の声がアストに向けて放たれた。


 その主は……



「え? (つえ)!?」



 黒い、先端に大きな眼が付いているキモい杖が、声がした方に鎮座(ちんざ)していた。

 誰も信じてくれないと思うがその(つえ)が自立し、しかも発声までしているのだ。正直、自分が正気なのか疑ってしまう。

 予想通りだというようにミーティアと氷華は顔を覆う。この2人と違いアストはこの杖のことを知らないのでこうなるのも仕方ない面はある。


「えっと……話せば長くなるんだけど…………」


 ミーティアは溜息と共に隠していたことを打ち明ける……。



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