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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
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106話 『ヘクセンナハトの魔王』


「ちょっと席外すわ」


 占いが終わった後は飲み物でも買って3人でベンチに座り休んでいた。そんな時にカナリアが急に席を立つ。


「どうしたの?」


「別に気にしなくていいわよ。大したことじゃないから」


「いや気にするでしょ……。なにかあったの?」


 僕は追及するがカナリアはそれを聞こうとせずどこかへ行こうとする。


「トイレ? わたしも行く」


 ライハがそう言って立つとカナリアはギクッと体を揺らした。

 あ~…………。


 カナリアはこっちをギロリと睨んでくる。はいはいごめんなさいごめんなさい。

 僕は怖い方は見ないようにして飲み物を飲みながら違う方向を向く。

 危ない。寿命縮むかと思った。




 こう1人になると周囲によく目が行く。僕という「人間」が「魔人」の街で過ごすというこの状況。

 周りの人は誰も気づいてないんだろうな……と思いつつ、自分が人間だとバレてしまえばもうこんな風に街を歩くこともできなくなるのかな……と暗い気持ちにもなってくる。


(僕がバレずにここにいられるってすごいことだよな)


 でも、そんな機会をくれたからこそ自分は頑張らなければならない。人間と魔人の共存のために。


 そう思考を巡らせていると、



「横、いいかな?」


「え? ああ、どうぞ」



 僕の座っているベンチに1人の男の人が座ってきた。カナリアやライハが来たらスペースから見て2人は座れなくなるけど、その時は僕達は移動すればいいし、この人が座っても何も問題はない。

 男は人の優しそうな青年。座るなり手に持っていた本を開いた。


「本、お好きなんですか?」


「! ああ……僕、物語を書いてるんだ。だから本を読むのも好きでね」


 へぇ……僕もベルベットから貰った本を読んだりするので気が合いそうだ。



「僕はアスト・ローゼンっていうんです。あなたは……?」



 アストはなんだかこの人と仲良くなれそうだと感じたので名前を聞いてみた。その青年は本を閉じて……




「名乗るほどの者じゃないけど……僕は『ディバイン』っていうんだ。よろしく、アストくん」


「ディバインさん、ですか……」


「呼び捨てでいいよ。敬語は慣れてなくてさ」




 ディバインは困ったように笑う。人間年齢で見ても自分より年上っぽいけど……それなら遠慮なく。

 僕は彼が持っていた本が気になったので、


「ディバインはどんな物語を読んでるの?」


「あはは……実はこれ、僕が今書いてる物語なんだ。まだまだ完成途中だし読めたものでもないよ。けど、内容的にはとある少年が『魔王』になるお話にするつもりなんだ」


「少年が……魔王に?」


 そ、それは……なんだか自分と遠くない話だ。嫌でも興味が出てしまう。


「そこでね。この少年は『他者の力を奪う能力』を持っている。そんな少年が、世界を平和にしようと頑張る物語なんだ」


「え…………」


 他者の力を奪う。それは…………僕の『支配』と似ている。

 『支配』は(くだ)した相手の全てを強制的に奪い取る能力。『魔王の力』だ。

 まるでそれを言い当てられているかのようでゾクリとする。


 だが、だからこそだ。ディバインに聞いてみたいこともある。




「その主人公は、世界を救えるの? どうやって世界を救おうとするの?」




 自分の知りたい答え。

 自分はどう進んでいけばいいのか。この力はその役に立てるのか。

 類似(るいじ)した物語と言えど、何かのヒントが欲しかった。これからに影響をもたらしてくれると信じて。

 


「そこまではまだ書けてないんだけど……考えてる展開は1つあるよ」


「それは?」


「この少年は地球に存在する自分以外の全生物を支配するんだ」



 ディバインの答えは残酷なものだった。


「争いを起こさせなくする。そのためにこの世界のありとあらゆる全ての生物から力を奪い取る。そうすれば誰も自分には逆らえない。力がないから争うことすらできない。そうやって疑似的に世界を平和にするんだ。世界を……()()()()()()によって」


「だ、ダメだよそんなの!!」


 ディバインの描く物語に僕は大きく反対してしまう。

 そんなやり方、まるで圧政だ。全てを自分より弱い存在に変えることで疑似的に世界を平和にするだなんて。

 そんなことになれば人々はその主人公に(おび)えながら生きるに違いない。なんたって自分達の命を握っているのはその少年なのだから。



「…………な~んてね。考えてるってだけさ。それにこれはあくまで物語の中の話だよ? アストくんの反応……まるで自分のことのようだね」



 ディバインは僕の大きすぎる反応を笑いながら茶化す。う、……そうだけどさ。

 如何(いかん)せんその内容が僕と似すぎているせいで僕の進む道はそれだと示されているみたいで過剰(かじょう)に受け止めてしまうのだ。


 そこで不意にディバインはポケットからマジックフォンを開く。


「おっと、ゆっくりしたかったけど呼ばれたみたいだ。もう行かないと。残念。でも、良かったよ。ほんの少しの間でも君と話せて。物語の内容に関してはまた考え直してみるね」


「あ、うん。なんか、素人の僕が口を出してごめん…………」


「いいよ。それじゃあね」


 アストに手を振ってディバインはベンチから離れる。

 そこで、アストは自分の横に何かがあることに気づいた。



(あ、これディバインが持ってた本だ)



 自分が書いている途中っていう大事な本を忘れちゃっている。そう気づいたアストはすぐにディバインを呼び止める。


「ディバイン、これ!!」


「ん? あ、ごめんごめん! ありがとう!!」


 意外とうっかりしているところがあるんだな……。本の存在に早く気づけて良かった。

 彼に手渡す時、その本の表紙に目が入る。





(『()()()()()()()()()()』…………?)





 その本のタイトルには『ヘクセンナハトの魔王』と書かれていた。別になんのおかしくもないタイトル。それなのに妙に引き込まれる。その名前に。


「ふふ、気になる?」


「う、うん」


「『ヘクセンナハトの魔王』っていうのはね。この世界を本当の意味で救世してくれる王のことさ。光よりも明るき闇であらゆる物を浄化し、世界にとっての邪悪を消去する。人々を今一度原点へと回帰(かいき)させ、僕達に真なる世界を見せてくれる…………『救世の魔王』のこと」


「はぁ…………? な、なるほど」


 よくわからない。難しい言葉が出てきたことで頭の働きが一瞬で止まってしまった。

 とりあえず、すごい良い人……でいいのかな? ……それは適当すぎるか。


「アストくん。君は魔法学院生だよね? これからも頑張ってね。君の活躍、楽しみにしてるよ」


「え、あ……ありがとう。ディバインも頑張って」


「いやいや、僕が頑張ることなんて大してないさ。だって僕はただの…………」


 ディバインは笑う。
















「『()()()』だからね」









 語り部? なんのこと?


「気にしないで。アストくんにはわからない話だから。……ほら。君の友達の女の子、帰ってきたよ」


「! 本当だ……!」


 後ろを振り返るとカナリアとライハがもうこっちに帰ってこようとしていた。



 けど、あれ? なんで僕とカナリア達が友達だって知って……?



 もう一度、ディバインの方へ顔を向けると。そこに彼の姿はなかった。

 不思議な人だったけど……良い人そうだったからまたいつか会えるといいんだけどな。こんなことなら連絡先とか聞いておけばよかった。


 と、思えば僕のマジックフォンに通知が。

 誰かと見てみると……そこには「フリードさん」とあった。


 フリードさん─フリード・ヴァース。魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)にある5つの隊で人間と戦うことを目的とした隊「第一隊」の副隊長さんだ。

 若いながらも副隊長に抜擢(ばってき)されるその力は、過去の僕であるアレンとも渡り合っていた。

 人間対策の部隊であるはずなのにベルベットに言われて人間の僕に協力してくれている優しい人でもある。そんな人が今度は僕に何の用だろうか。


「はい。アストです」


『ああ、アストくん。ちょっと君に話しておきたいことがあるんだけど……今から魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の本部に来れる?』


「話しておきたいこと?」


『えっとね……ちょ~っと通話では話しづらいことなんだ。どう?』


 今はカナリア達と遊んでる最中なんだけど……。

 僕としては行きたい。気になるっていうのもあるけど、魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の本部に行ってみたいという気持ちも。

 皆はどうだろうか。


「友人も一緒に行って大丈夫ですか?」


『友人っていうと、カナリアちゃん達かな? それなら大丈夫だよ』


「わかりました。では今から向かいます」


 僕はマジックフォンの通話を切って、


「カナリア、ライハ。フリードさんが僕に『今から魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)の本部に来れるか』って連絡が来たんだけど……どうする? ちなみに2人も来ていいってさ」


 僕がフリードさんから伝えられたことをそのまま流す。2人の反応はどうだ。


「あたしは問題ないわ。むしろ行ってみたいわね」


「わたしも。楽しみ」



 よし。それじゃ、今から魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)にレッツゴーだ。




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