105話 気になるあの子との相性は……?
朝。僕は登校する日のいつもの時間に目を覚ます。
今日は休日だ。別にこのまま眠ったっていい。
けど、
「すー、すー」
横には小さな寝息を立ててすやすやと眠る、美少女なんて言葉が温すぎるほどの美少女。
シミ1つない白磁のように白い肌に、普段来ているドレスと同じように黒い寝間着。いつもは高くとまっている彼女も寝ている時は子供のようにあどけない表情。こんな姿を学院の生徒達が見たらなんて思うだろうか。
そう思うと、自分は本当に特別扱いをされているようで妙な心地になってしまう。誰にも見せない姿を自分にだけ見せてくれている、そんな風に思えてしまって、こそばゆい。
(ここを出ようか)
早く起きたのはこのため。いくらなんでも長々と彼女と寝ているわけにはいかない。誰かに見られれば勘違いだってされてしまう。
男としては……ちょっと名残惜しいっていうのもあるけどね。まさか女の子と同じベッドで寝ることになるとは。
同じベッドで寝る、となるとカルナやミルフィアだってアストの中では該当するはず。
けれども彼女らはまだ年齢も幼いからセーフだろう。セーフ……のはずだ。セーフ……なのかなぁ?
深いことは考えないでおくか、とアストは早速出ようとするのだが……
ここで、最悪の事態が起きる。
「アストー、帰ったわよー」
「今、戻った。ただいま」
(え……!?!?!?)
ガチャリ、という玄関の扉を開く音と2人の少女の声。
鍵を閉めていた扉を開けて入ってくる人物…………例外は何人かいるけども、この場合は同部屋のパートナーでもあるカナリアとライハで間違いはない。そもそも声も聞こえたのだから。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……!!
アストの脳内は緊急警報を鳴らしまくる。もし、リーゼと一緒にベッドに入っているところを見られたら……「終わる」!!
何が、なんてことを聞くのは野暮だ。そんなの何もかもだ!
…………が、まだ、いける。
今、出ればいい。ベッドから。
ベッドから出て、座って、何食わぬ顔で「やぁ、おかえり」とでも言ってしまえばいい。
もちろん自分のベッドで眠っているリーゼに関してはツッコまれるだろう。
しかし、リーゼがここに編入した経緯を話した後に「リーゼはここへの移動で疲れちゃってそのまま僕のベッドで眠っちゃったんだよ。……あ、僕はちゃんと床で寝たからね? だから大丈夫!」と言えばほら………………無実だ。
きっと今の僕ほど悪い顔はしていないだろうなと思いつつ、アストは迅速に行動に移る。なにせ相手はもう中に入ってきているんだ。
さぁ、ベッドの外へ─
「うにゅ……」
「へ─」
僕はそろ~と足を延ばしてリーゼを跨ごうとすると、不運にもリーゼはそこで寝返りを打った。
リーゼの腕は鞭のように僕の足を打つ。その拍子に僕は足をシーツのせいでズルッと滑らせた。
そのまま……ドーン!! 僕は手をついたものの、寝ているリーゼに四つん這いで覆いかぶさるようなまさに変態的な体勢になってしまった。
それとまったく同時。
「アスト。あんたまだ寝て……ん……………の…………」
「カナリア。静かにしてあげ……た……方……が………」
「あ…………あぁ……あああ…………」
カナリアとライハの目から色が消えていく。虚ろな目になっていく。
僕はあまりの恐怖に口をパクパクと開閉しながら目から涙を零す。
どうして、どうしてこの世界は僕にこんな残酷な運命を科すのか。少しくらい回避させてくれたって良いじゃないか。せっかく良い話で終わろうとしてたのに。
「や、やぁ…………おかえり…………」
変わらずリーゼに四つん這いで覆いかぶさったままの僕の最後の足掻きは……より2人の怒りを増長させる決め手となってしまった。
♦
リーゼがまだスヤスヤと眠る横でボコボコになったアストはシクシクと泣きながら弁明した。そのおかげで今はなんとかカナリアもライハも大人しくなっている。
「ふぅ……なんでリーゼがこんなところにいるのかはわかったけど、ほんとにここには人が突然やってくる魔法でもかけられてるのかしら……」
カナリアは溜息にも似た声を出す。ほとんどアスト関連なので「この部屋に」というよりも「アストに」と言うことが適当そうだが。
「り、リーゼ、もう朝だよ」
僕はとりあえずリーゼを起こそうとしたが……
「ん……む…………ん~! ……んんんん…………」
少し目を開け、起き上がろうとすると……窓から差し込んだ光に照らされ、すぐに自分の体や顔を掛けてあった毛布で隠すように覆った。
そうだった。吸血鬼は日光を浴びすぎると死ぬことはないけど体調が少し悪くなるんだったっけ。つまり、あまり日光が得意じゃないんだ。
いつもの気品溢れる声とは違い、彼女のものとは思えない駄々をこねる子供ような可愛い声が出た時は何事かと思った。
このまま寝かせてあげよう。昨夜は色々あったし。
「でも……カナリアとライハが無事で帰ってきてよかったよ」
「それなんだけどね……こっちは大変だったから」
「うん」
カナリア達が受けたクエストはCランクのクエスト。油断は禁物と言えど2人の力なら問題はないはず。特にライハなんかは1人でCランクをクリアしてる。
もしかして連携で大きな失敗をしたのか、と思い至るが……クエストでまで喧嘩はしないだろう。
それに、2人は戦った仲だ。手の内も知ってるし、そういう仲は割と息を合わせるのは簡単だったりする。
「強敵がいたのよ。それについてはまた話すわ」
強敵……そう聞いた時に今更気づいた。ライハは肩に怪我をしていた。何やら包帯を巻いている
「ライハ大丈夫!? その傷……」
「うん。肩を銃弾で撃ち抜かれた。小さかったから大丈夫。腕も動かせる」
ライハは安心させるように状態を伝えてくれるが、銃弾で肩を……?
魔人は魔力を纏っている。人間からすれば鎧を纏っているに等しい。そんな相手を銃弾で傷つけたというのか。なんと恐ろしい相手だ。
「そんなことがあったんだね……」
「それで、あんた補習の方はどうなの?」
「そっちの方は……うん。問題なし」
多分。それは口に出さないでおいた。
が、カナリアが気にしていたのはそんなところではなかった。
「さすがに補習なんかで誰かと出会ったりしてないわよね?」
「うん……?」
「女よ。この女ばっかりいる部屋が良い例じゃない。こっちが見張ってないとあんた動く度にどっかの女口説いてくるでしょうが」
う、うん……?????????????
カナリアは「まさかね」と言いつつ半眼で睨んでくる。ライハも「アストはそんなに節操なくない」とカナリアに反論してくれているが……
あれ……? もう女の子に出会ってるような…………。
2年の先輩。これまた女の魔法騎士のアンジュさん。
振り返ってみると「本当に女性の魔法騎士って少ないの?」って疑問が出てくるくらいには僕って女性魔法騎士とエンカウントしまくっている。
それどころか男の魔法騎士の友人はガイトだけ……。
別に口説いたことなんて一度もないけど、自分って女性としか話してないんだなという現実を目の当たりにするとまた悲しくなってくる。
「ねぇ、どうなのよ。あんたまた女口説いてんじゃないわよね」
「アスト。わたしは信じている。真面目に勉強をしていたと」
カナリアとライハはズズイッと詰め寄ってくる。う、うぅぅ……。
「で、出会って……ない………よ……?」
嘘をついた。目を泳がせまくりながら。
だってアンジュ先輩とは何もない。ちょっと話をしただけだ。それでギルティはさすがに変だ。いやそもそも女性と出会っただけでギルティという話も変だ。
「ふーん。嘘だったらまた野宿になるかもね」
「えええぇぇ!?!?!?!?!?」
「なんでそんなに動揺してんのよ…………」
ここにきて嘘をついたことを激しく後悔した。やはり嘘はつくものではない。
「それよりさっ! 今日はせっかくの休日だしお昼から出かけない?」
無理やり話題を逸らす荒技で僕は生還を試みる。といってもこれは最初から考えていたことだ。
移動で疲れてるだろうから朝の内は休んで、昼は気分転換に遊ぶ。これは大事だ。自分も最近は勉強のことばっかりだったので久しぶりに遊びたい。
思えばウィザーズランドに行ってからはクレールエンパイアの戦いに、クエストに、とカナリア達にとっては大変な日々だったに違いない。それにウィザーズランドでも襲撃にあった。ここは1つ何も気にせず楽しもうじゃないか。
「……それはいいわね」
「うん。お出かけしたい」
よかった。話を逸らすことに……じゃなかった、お出かけすることが決まった。いや~安心安心。…………お出かけできたことにだよ?
「アスト。まだ朝ご飯食べてないなら一緒に食べる?」
「あ、そうだね。えっと……今何も無いから買いに行った方がいいかな」
まさか今日の朝に2人が帰ってくると思わなかったから食べる物を何も用意してなかった。これは失敗したな。
「じゃああんたとライハの2人で買いに行ってくれる? ちょっとあたしはやることあるから」
「わかった。カナリアは休んでて。……ライハ、怪我してるけどいける?」
「うん。むしろ行きたい」
そのままアストとライハは朝ご飯のパンを調達しに行った。彼らが外に出て、扉が閉まるのをカナリアは確認すると、動く。
「リーゼ。起きなさい」
「…………なん、ですの……………たしか……カナリア、さん、でしたかしら?」
アストのベッドで今も寝ているリーゼを起こす。すごく体調が悪そうだがこれ以上同じ部屋に住んでいる相手を無視して眠ることはできないと判断してリーゼも素直に起きた。
「教えてほしいことがあるの。……アストのことについて」
「アストさんのこと?」
ふあぁぁ……と小さく欠伸をして、軽く伸びをした後にベッドから出てくる。
瞼を開けると宝石のように綺麗な金色の瞳。欠伸をした時に少しだけ見えた八重歯とはまた違う尖った犬歯。そしてどことなく可憐だった「あの子」の面影がある。カルナの姉というのは間違いようがなかった。
「実はあんたとアストが戦ってるところ、見てたの。その時に……あんた言ってたわよね。『アストが人間』って……」
「…………」
カナリアはライハにも打ち明けた、ずっとモヤモヤとしていた心を、真実を知っているであろうリーゼにも打ち明けた。
彼の前で普段通りにできていても、このままではどこかで影響してくる。それが戦いの時では問題だ。リーゼの時だって自分は動けなかったのだから。
だが、もしここで「アストは人間だ」と言われてしまったら……どうするのかをカナリアは考えていなかった。
いや、どうすることもできない。そう諦めていたのかもしれない。
ただ、祈るだけだったのかもしれない。どうか、違っていてくれと。勘違いであってくれと。
そんな破滅を呼び込むだけの意味のないもの。さながら死刑宣告を待つ囚人。
アストが人間と確定してしまえば……自分は…………
「アストさんは………………『魔人』ですわよ」
リーゼはそう言ってのけた。
それにカナリアは一瞬ホッと息を吐くが……
「で、でも、アストは『異能』を使った、って……!!」
アストが魔人であってほしいと願うはずなのに、カナリアは逆の方向へと進みだす。
それは妙な安心感を持ってしまったせいだろうか。人は一度安心してしまうと少しでも疑念を解消するために余計に詮索しようとする。もう二度とこの気持ちを生まないために。
「それは私の勘違いでしたの。アストさんの力があまりに異様でしたのでつい異能かと思ったのですわ。私としたことが、うっかりさんですわ~」
ペロッと舌を出しながら自分の間違いを認めたリーゼ。そんな態度には色々と言いたいが……
(な、なんだったのよこれまでのあたしの中の葛藤は……)
自分の疑念が完全な杞憂だったと知って、力が抜けてペタリと床に座り込むカナリア。これではいらぬ苦労だ。
でも、これでスッキリした。アストの体質には疑問が残るが、ベルベットと肩を並べるほどの力を持つリーゼですらアストが人間であることを否定した。この事実はとても大きい。
時に人は専門家の言うことはなんでも信じてしまう。ベルベットとリーゼという圧倒的に自分よりも力も知も持ち合わせている者達の言葉で簡単に信じてしまっていた。
その2人こそが、嘘をついているというのに。
(一応、アストさんのことは黙っておきましたけれど……これで良かったのですわよね? 私ったら隠れて良いことしましたわ~。あのクソ豚に貸し一つ、ですわね)
カナリアが固くした表情を解いている裏で、リーゼはクスクス♪と笑った。
♦
朝ご飯は済ませて、しばらく各々で休んだ後、昼になったのでオルテア街に行くことになった。
ガイトはまだクエストでいないので誘えなかった。リーゼはこれからの学院生活で準備もあるというので仕方なく誘うのを断念。ベルベットはガレオスさんに話があるらしく昼は外せないらしい。僕が出かけることを知ると血の涙を流していた。
「なんだかここに来るのも久しぶりな気がするね」
私服に着替えた僕達。ガイトがいないのは寂しいが、今回は僕達だけで楽しむしかない。
オルテア街と言えばライハとガイトと出かけた思い出と……ちょっと苦いのを思い返せば僕と同じ魔王後継者であるゼオンと出会った場所だ。
自分がマジックトリガーを盗み出して、それをさらに盗られてしまった。僕のせいで手に入れていたマジックトリガーを全て失ってしまったのだ。
カルナをあんな風にした「謎の魔人」は許せない。だからこそ、それに繋がるであろうマジックトリガーは持っておきたかった。
それに、マジックトリガーをもっと研究できていれば、もしかするとカルナも……
って、ちょっと気を抜けばまたネガティブになっている。こんなんじゃダメだ。
「そういえばカナリアと来るの初めてだよね?」
「そうね。どこかの誰かさんが他の部屋に住みこんでたからかしら?」
うっ……。その節は……はい。
「冗談よ。あたしも……来たかったんだから。…………あんたと」
「え?」
ず、ずるいな。不意打ちとは。僕とカナリアは恥ずかしくなって目を合わしづらくなる。
そこに……
「アスト。早く行こう」
僕とカナリアの真ん中に割って入るようにニョキッとライハが下から入ってきた。
そうだな……。せっかく休みだ。こうしちゃいられない!
「行こう! カナリア、ライハ」
「そんな慌てなくてもいいでしょ……」
「れっつごー」
お昼を済まし、僕達は普段の戦いのことなど忘れて、ここでは普通の少年少女へと戻る。
「あ、占いなんてやってるよ。ほらっ!」
僕が指さす方に、何やら怪しげな雰囲気を漂わせる店があった。
そこには黒いローブを羽織った老婆が1人。水晶に手をかざし、これまた雰囲気と同じく怪しい笑み。
「あれやってみようよ」
「当たるのかしらあれ……」
「やってみたい……」
僕とライハは興味津々。カナリアは微妙な反応だけど興味がないわけではないらしい。
女の子は占いとか好きだろうし、当たらなくとも聞いてみたいのだろう。
「ふぇっふぇっふぇ。これまた可愛い子供が来たねぇ……」
変わらず水晶の前で手をかざす怪しいポーズで僕達を迎える老婆。
僕達は置かれていたメニュー表のような物に目を移す。
「『相性占い』、『恋占い』、『手相占い』……色々あるね。あ、『予知』もしてくれたりするんだって!」
占いはたくさんあった。あったのだが……
高っ!! 1回、1万G……! これじゃ今の僕の手持ちからして2回くらいしか出来ないよ。
そうだな……やるとしたら、自分のこれからを教えてくれる『予知』だろう。
自分は「魔王」としてどうなっていくのか。僕は……どんな道を進んでいくのだろうか。
たとえ占いだとしても、それを聞きたい。
「お婆さん。決めました」
「ほう? どの占いに?」
僕は机に1万Gを置いた。
「この『予知』というのを─」
「こいつとあたしの『相性占い』でお願いするわ」
「ふむ。『相性占い』じゃな。承知した」
はい????????????・
「ちょっ! なんで横から入ってくるの!?」
「別にいいでしょ。あたしとあんたはパートナーなんだから相性知っとくのは大事でしょ?」
頬を染めてプイッとそっぽを向くカナリア。ぐぬぬ…………大事だけどぉ!!
それから名前を聞かれ、名乗ると……老婆は水晶を見つめる。
「ほうほう。ふむふむ。なるほどなるほど」
まるで何かが見えているように。頷きを繰り返す老婆。
かくして出された結果は─
「相性60%。まぁまぁじゃ」
とてもまずまずなものだった。
「60? どうしてそんな数値になるのよ」
なにやらカナリアは不機嫌になり老婆に突っかかる。僕もその理由は聞いてみたい。
「女の方は心を堅く守っとるせいで正直な心を打ち明けられんという状態と見える。それに対して男の方はどうも押しが弱いところがあるせいか、あと一歩踏み込んだ良い関係にはなれん。お互いが付かず離れず……曖昧な位置におる感じじゃ」
もうすでに言ってることが難しくて頭に入ってこない僕。それに比べて頭の良いカナリアはふむふむとメモを取ったりなんかしている。あとで見せてもらおうかなぁ……。
「喧嘩も多いのでは? それでいつも男の方から折れるばかりで苦労をさせておる。これからはお前さんから折れてみてはどうかの。そうじゃな、例えばいつもと違う一面を見せるのも良いじゃろう。そうすれば男の方から見るお前さんの印象が大きく変わると水晶は言っておる」
「ふーん。ま、考えてみるわ」
うん? 今、喧嘩って言った? そうそう。僕達喧嘩多いですよ。ほとんどカナリアのブチギレですけど。それで毎回僕から謝ってるんだよね……。
カナリアは時々すごく優しいのに。向こうが素直になってくれたら良いのにな……。
「女のお前さんに1つアドバイスじゃ。お前さんは一度男にハマるとそいつにどっぷり浸かって一日中そいつのことばかり考えるタイプじゃ。それもこっちが恥ずかしくなるくらい頭お花畑でまっピンクの─」
そこまで老婆が口走ったところでボコォッ!!とカナリアが顔面を殴って止めさせた。何してるの!?
「な、なななな、誰が頭まっピンクよ!! そ、そんなに考えてないから!!」
「いてて……。水晶は言っておるぞ。四六時中そいつのことを考えてプレゼントなんかを貰った日には隠れて喜び眺めその日のことを日記に─」
「うっさいうっさい!! もう黙りなさい!! ってかなんでそこまで知ってんのよ!」
涙目になって拳をブンブン振り回すカナリアをなんとか止めるが……よほど核となる心を突かれたらしい。
もう途中からカナリアが書いていたこの占いのメモを見る前提で聞いてなかったけど……この調子だとそのメモも見せてくれなさそうだな……。あ~あ……僕の1万G。
まぁカナリアが楽しめたならお金なんていいけどね。…………楽しめたのかなぁ?
で、『相性占い』も終わったのでさっそく『予知』に入ってもらおうか。
「追加、いいですか?」
「ほう? では何を?」
僕は机に1万Gを置く。
「では、改めて『予知』を─」
「わたしとアストの『相性占い』をやってほしい」
「ふむ。今度はそっちの女とこの男の『相性占い』じゃな」
え!? ちょっとちょっとちょっと!!
「なんでライハまで入ってくるの……!!」
「アストはわたしともパートナー。ならばわたし達の相性も把握しておくべき。めざせ60%以上」
また僕の1万Gが相性占いに消えた。そんなバカな。お婆さんも僕の要望を聞く気ないでしょ!
それにライハが最後に言った60%以上って……なんの数値かと思えば僕とカナリアの相性値だ。地味にカナリアと張り合ってるし。
「ふむふむ。ほうほう。……むむっ! 相性は95%。ベストマッチングじゃ!」
老婆は急にベルを持ち出してリンゴンリンゴン鳴らしだした。恥ずかしっ!
「アスト。わたし達、運命の赤い糸で結ばれているって」
「そんなことまで言ってたっけ!?」
ぴと……と体に身を寄せてくるライハ。若干言われてないことまで聞いていたような気がしたが。
「理由を聞かせてもらおうじゃない」
僕とライハの相性占いのはずなのにまるで自分のことのように入ってくるカナリア。こっちはライハと打って変わって表情険しめだ。
「この男と女は互いに支え合って認め合う良い関係が築けている。男の弱い部分を女が受け入れ、女の弱い部分を男が受け入れる。素晴らしい。また、性格的な面を見ても非常にお互いが心地よいと思えるパートナーとなっている……と水晶は言っている」
なんかまた途中から難しい話になったが、大まかなところはわかった。
ライハはよく僕に賛同してくれるしカナリアと違って否定することが少ない。理由は違えどクレールエンパイアでの戦いに赴く際には僕の意見に最も早く賛同してくれた。
ロストチルドレンの一件が僕とライハの絆を深めてくれたのだろう。この老婆の言っていることは当たってないわけではない。
「けれど、その関係が依存にならんように気を付けるんじゃな。これより進んだ関係になりたいならば押すだけでなく引いてみるのも重要かもしれんの」
「なるほど。理解した」
ライハはカナリアと同じようにメモしていた。女の子って占いの時いっつもこうなの? もはや老婆の助言がメインになってる気がするけど。
「へー、あんたはライハの方がいいのね?」
「あのー、どっちが良いとかいう話じゃないですよ?」
カナリアはもう占いのことなど興味なさそうな顔だ。僕のお金の尊き命は彼女の機嫌を悪くしただけで消えたのか。
結局、僕の『予知』はしてくれなかったな……。
僕達は終わった終わったと占いから去る。そこで、
「そこの男」
「はい?」
「今日は大きく物事が動く日じゃ。今日、これからの出会い全てに意味があると思え。誘いは断らんこと」
「?」
あ、ああ……! 『予知』か! これ『予知』だよね!? やったー! 無料で『予知』してくれた!
僕は諸手を挙げて喜ぶが、よく考えてみれば僕はもう2万Gも使っているのだから喜ぶのはおかしいか。
しかしながらサービスしてくれたのは素直に嬉しい。なんだなんだ、僕の声もちゃんと聴いてくれてたんだな。
よーし、元気出てきたぞ!




