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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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10話 魔物使い


「クエストか……」


 後日(ごじつ)の朝、教室に着くなりアストはカナリアからクエストの話を聞いた。クエストの存在やその難度についての話。そして今日からそれが始まるということを。



「あたしとあんたのペアで受けることになると思うわ。受けるのはきっとレベルCよ」


「えぇ……レベルCは僕には荷が重いけどなぁ」


「あんたせめて魔力だけは纏えるようになりなさいよ! ほら! さっさと魔力出しなさい!」


「痛い痛い! 頭叩いても出ないって!」



 自分としてはレベルDくらい、最悪レベルEでもいいんじゃないかと思ってしまう。

 ……ん? レベルEのクエストってどんなことするんだろう?


「ねぇカナリア。レベルEのクエストって何するの?」


「おつかいよ。人間が住んでる街に行って指定された物を買って帰ってくるだけ。ごく(まれ)にそれだけでも魔人ってことがバレて殺されるやつがいるみたいだけどね。そんなやつって人前で堂々と魔法使ったとかいうアホくらいだろうけど……」


 なるほど。聞けば聞くほど僕ってレベルEのクエストがピッタリじゃないか。魔法もろくに使えないから絶対バレないし。

 カナリアも僕と一緒にレベルEのクエストを受けてくれないかなーなんて。そんなこと言ったらカナリアに殺されるか……。


「レベルEなんて死んでも受けないわよ」


「まだ何も言ってないよ!?」


「顔にそう書いてあんのよ!」


 ビスッ!と目潰しをしてくる。目がァ!




   ♦




「はい注目。これからクエストの割り振り結果を発表しますので静かに聞いてください!」


 教師が1人現れた。会議で話し合った結果が書かれているであろう1枚の紙を手に持ち3組の生徒達の前でそう宣言する。


 そこからどんどん発表されていく。

 やはり底辺の3組だからと言っていいのか、ほとんどの生徒がレベルDのクエストに割り振られていた。それどころかレベルCのクエストを受ける生徒がまだ出てきていない。



「そして最後に……アスト・ローゼン、カナリア・ロベリールのペア!」


「来たわ…!」


「この流れじゃレベルDかもね……」



 とうとうやってきた自分達の番。

 しかし、これまでレベルCを受ける生徒は出てこなかった。この様子を見ると3組の生徒は全員レベルD受けさせられるのかもしれないとアストは思っていた。……が、




「レベル……B。レベルBのクエストです」




 発表していた教師が少し躊躇(ためら)った後、それが(おおやけ)になった。3組の生徒全員は一瞬キョトンとして……次に悲鳴のような声が上がる。


「B……? 嘘でしょ!?」


「待って、Bって何するの? EとかDと聞き間違えてないよね?」


 カナリアとアストも当然戸惑(とまど)っていた。もしかしたら聞き間違いじゃないかと考えたのはその方がまだあり得ることだからだ。



「心配しなくても大丈夫よ。私も一緒に行くから」


「ベルベット!? いつの間に……」



 気づけばアストとカナリアの後ろにベルベットがいた。やはり早起きが辛かったのか若干の寝癖(ねぐせ)と寝ぼけ(まなこ)と共に。見た感じまったく頼りにならない。


「ベルベット様、これはどういうことですか……?」


「んー? 後で全部話すよ。後で」


 ベルベットはそう言うので今は聞かないでおく。それからクエストに関する諸々(もろもろ)の注意を聞いて……




  ♦




「レベルCを受けさせてくれなかったからレベルBを受けることにした~???」


 教室に出てから問いただした。ベルベットが得意気(とくいげ)に話すから何かと思ったけどなんてことをしてくれたんだ!!


「もっと段階を踏んで強くさせてよ! なんでいきなりそんなことになるのさ!」


「え~? 階段って段とばししない? 私、階段上ってる時、途中で面倒くさくなっていつもとばすんだけど」


「ベルベットが階段上る時の話とクエストの話は関係ないよ!」


 僕がベルベットにギャーギャー文句を言うのとは真逆でカナリアは、



「お父様があたしをレベルDに……? くっ……!」



 レベルBを受けることよりもその過程で出てきた話の方を気にしていた。

 自分の父であるガレオスさんが自分のことをレベルDが妥当と考えたことが精神的にきているのか。


「いいわ……レベルBをこの時期にクリアしたとなればお父様もきっと認めてくれるはず。やってやろうじゃない……!」


 カナリアはむしろやる気になっていた。そ、そんなぁ……


「じゃあ私達がやるクエストの内容を今から言うわよ」


 僕はまだ納得してないんだけど……。はぁ……もうやるしかないか。試験の時と同じだ。ここまで来たら前に進むだけだ。



「私達に科されたのはある標的(ターゲット)の人間を倒すこと」


「標的の人間?」


「そう。『魔物使い』と呼ばれる人間。最近、野良(のら)の魔物を従えては魔人を(おそ)わせてる人間がいるのよ。そいつはこっちでBランクの賞金首になってるの。顔写真はなくて正体もまだ不明なんだけどね」



 へぇ……賞金首なんているんだな。初耳だ。

 そんなことよりも「魔物使い」……ね。ここの入学試験でも魔物を使っていたように魔物を仲間にして戦うやつもいるんだな。どうやって魔物なんかを従わせてるのかは知らないけど。


「目的は人間の街に行って、そいつを見つけて倒すことなんだけど。それ以外にも魔物の解放もしなきゃいけないの」


「魔物の解放?」


「要するにそいつは何体も魔物を飼ってると思うからそれを見つけて全部逃がせってこと」


「つまり僕達がやるクエストは『魔物使いの撃破』と『飼っている魔物の解放』の2つってことだね?」


「そういうこと。さすがに人間相手はまだ無理だと思うから1つ目の方は私がやるわ。アストとカナリアは魔物の解放の方をお願いね」


 そんなに人間との戦闘はレベルが違うものなのか……。

 僕としては魔物の方が恐ろしいように思えるんだけどなぁ。魔法使いと見てくれは何も変わらないみたいだし。



「人間相手はまだ無理……」



 カナリアの方を見ると少しだけ不満そうだった。

 なぜかは聞かなくてもわかる。自分は人間相手にも遅れは取らないという自信があるんだろう。


 魔法騎士の目的は人間や魔物との戦闘。特に人間との戦闘は魔法騎士にとって存在意義に近いものである。功績に関して言っても魔物の討伐よりも大きい。


「ほとんどの人間は戦闘能力なんて無いに等しいけれど、『ハンター』は本当に危険なの。私達魔人を殺すエキスパートを相手にして死んでいった仲間はいくらでも見てきたわ」


「とは言っても僕はまだ出会ったこともないしね。戦った経験もないから警戒しようにもうまく気が入らないというか」


「仕方ないわ。まだ学んでいる身のアスト達には『危ない』っていう言葉でしか聞いたことがないからそうなるのも。こればっかりは実際に戦って知るしかない」


「だったら……!」


 カナリアはそれなら今戦っておくべきではと考える。経験することは早いに越したことはない。



「それでも今はまだ力を蓄えてる時よ。今のあなた達じゃ相手によっては秒殺間違いなしだから」



 ベルベットはそんなことを笑顔で言いだした。秒殺……。

 まだ下級の魔物にすら倒すのに手間がかかる自分には早すぎる相手だよな。そもそも少しばかり強い魔物ですら逃げるだけでまともに戦ったことすらないし。


 けど、試験で最高ランクの魔物であるバハムートをも倒したあの「()()()()」なら……。

 自分の手のひらを見つめてそう考えていたアストをベルベットは面白そうに見ていた。




(アスト……本当に悪いけどまた試練を超えてもらうわ。でも、きっとあなたなら大丈夫。……カナリアって子が助かるかどうかは、アスト次第よ?)




 ベルベットはカナリアに不敵な笑みを向ける。

 ガレオスや他の教員には悪いが自分の弟子のためなら他の生徒なんてどうなってもいいと思うのがベルベットだった。




  ♦




「さて、と。準備はできたわね?」


 僕とカナリアは大きな荷物を抱えてベルベットの前に立つ。

 荷物の中身は何日か宿泊するための物。クエストの内容は人間の街で何泊かする前提になっているのでその準備をしておかないといけなかったのだ。

 僕は着替えと剣や本を持って行く。カナリアもほとんど同じ。あの水色のレイピアも腰にさげている。あと人間の街に行くため服も制服ではない。


 これは魔法武器の良いところでもあるのだが人に見られても不自然に見えないのだ。

 魔女なんかは(つえ)を使っているがそんなものを人に見せては「自分は魔女です」と名乗っているようなもの。だから魔女は自分の使っている杖を魔法で造り出した別空間にストックしていて戦闘時にそこから引き寄せるようにしている。


 じゃあこういった宿泊する場合などでも自分の荷物類全部をその別空間とやらにストックしていればいいじゃないかと思うかもしれない。

 それはそうなんだがベルベットに聞くところによると「あんまりなんでも入れるとゴチャゴチャしすぎて自分の欲しい物をすぐ引き寄せられなくなる」そうだ。

 便利そうでそこまで便利じゃない。そして言わなくてもわかると思うが自分は別空間を造る魔法なんてものは使えない。ああ、使えないとも。悪いか。


 あと壊れてなくなっていた僕の剣はついさっきベルベットの館のメイドさんであるキリールさんが学院までわざわざやってきて僕に届けてくれた。




   ♦




 ~数十分前~



「剣が破損(はそん)したとベルベット様から聞いたので届けに参りました」


 ベルベットに替えの剣が欲しいと言っておいたのでいつ来るかと思っていたらキリールさんに届けさせていたんだな。移動魔法使えるんだから自分で飛んで取ってくればいいのに。



「これからクエストなんですよ。難度はレベルBです。……何かアドバイスとかありませんか?」



 キリールさんは先輩の魔法使いなので聞いておいて損はないはずだ。何かクエストに役立つことが聞ければ良いんだけど。



「アストさんがレベルBクエストですか……残念ながら命ここまでということですね。短い間でしたがありがとうございました」


「まだ死んでないし、そんなに救いようないの僕!?」



 あっさりと殺さないで!! 死なないようにアドバイスをください!


「まともな魔法戦闘もこなせないのにレベルBクエストを受けるとはただのアホ……失礼、バカかと」


「言い直す必要ありました……? それにベルベットが勝手にやったことなんですよこれは」


「ベルベット様が? あの方も相当なアホ……失礼、頭のネジが少々吹っ飛んでらっしゃる可哀想な方ですがなんの考えもなくそんなことをなさることはありません…………きっと、多分、おそらく」


 すみません。聞き間違いじゃなければ自分の(あるじ)のことすごい勢いでディスってませんでした? それに最後自信なくなってるし。

 今ここにいるのは僕だけだからいいけどベルベットが聞いてたら絶対ショックで泣いてたな。


「ベルベット様はアストさんに期待しているということですよ。下手に私のアドバイスを聞くよりも自分なりにやれることをやってみては? まずはそこからです」


「そう……ですよね。ありがとうございます」


「ただそれでも1つだけ助言するとすれば、あなたは今すぐに教師に土下座でもしてレベルEのおつかいクエストに変えるのが身のためです」



 なんでいい感じで終わってたのにそれ言うんですかぁ!




   ♦




 と、そんな感じでキリールさんから剣を受け取るだけでなく色々言われたりしたのだ。

 とにかく頑張れよってことだ。そう受け取っておこう。


「ベルベットは何を持って行こうとしてるの?」


 キリールさんとのことを思い出しているとベルベットが大きいリュックを背負っていたのが目に入った。

 人間の街で宿泊なんて初めてだからそれについての先輩であるベルベットはいったい何を入れているのかと気になった。



「えーっと、これ」



 大きいリュックに手を突っ込んで、そこから出てきたのは………大きいサイズのヌイグルミだった。



「『バーニング・ベアー』っていう魔物のヌイグルミよ。これがないと眠れないのよ~」



 バーニング・ベアーというのは熊が魔力の影響で変異した魔物だ。

 竜のように口から火を噴き、赤い体毛に鋭利な爪と牙を有している。体の大きさも普通の熊である変異前から平均して約2倍ほど大きくなっているらしい。


 そんな魔物が可愛くヌイグルミとなっている物をベルベットは持ち込もうとしていた。

 ベルベットの館で住んでいた頃は彼女の寝室に入ったことは少ないからこんなヌイグルミと一緒に寝ているなんてこと知らなかったがあまりに緊張感がなさすぎる。


「あとは本とペンとノートに着替え。それくらいかなー」


「それだけ!? リュック内のスペース取りすぎでしょバーニング・ベアー!」


 リュックがデカかったのって大きいヌイグルミを入れていただけだったのかよって。リュックの中の半分以上をヌイグルミが占拠(せんきょ)しているぞ。


「これがあるかないかは私にとって大きな問題なの! それこそ(つえ)を全部忘れてきてもこれだけは忘れてはいけないくらいに!」


「そんなアホな」


 杖って魔女にとって自分の命を預ける武器のはずだが……?

 まさかあのヌイグルミまで魔法道具なんて話はあるまい。ベルベットにとっては戦闘より睡眠が大事なのか。



「あとは……最終準備をしなきゃね」



 そう言ってベルベットは虚空から(つえ)を出現させる。何をするつもりなのかと思うとその杖の先を自分の頭に当ててボソボソと何か呪文のようなものを呟いた。何かの魔法を使った……?

 僕とカナリアは急に何をするのかと疑問に思っているとボンッ!と煙が発生し、ベルベットはそれに包まれた。


「ゴホッ! ベルベット!? 何を─」


 ベルベットの身に何が起こったのか心配になり煙をかき分ける。煙が晴れたそこには……



「よし。この姿も久しぶりだなー」



 小さな金髪の幼女が立っていた。声もキンキンと高い幼女特有のもの。え? え?? ベルベットはどこに……?


「何をキョロキョロしてるのアスト? 私がベルベットよ?」


「えぇ!? どうしちゃったの!? 小っちゃくなってるけど……」


「ふっふっふ。変身魔法よ。人間の街に行く時にはいつもこの姿になっているの」


 マジマジとその姿を見る。ベルベットは元から僕よりも身長は低いがさらに低くなり今では頭が僕の鳩尾(みぞおち)くらいしかない。

 手足や顔も幼さが見える。胸もぺったんこ。これが魔法による効果だと言うのなら大成功間違いなしだ。


「にしてもなんでこんなことしなきゃいけないの?」


「今から行く街の人間には私の顔と名前が割れてるから見つかり次第、即殺されるのよ。しかも50億くらいの懸賞金までかけられちゃってる始末なの。本当嫌になるわ」


 と、金髪の可愛らしい幼女はやれやれといった風に嘆息(たんそく)する。

 容姿とは違って言ってる内容は恐ろしい。見つけ次第に即殺されるって何したのベルベット……。しかも50億って。


 お金の話が出たからそこにも触れておくが人間達が使っているお金は世界で統一されていて「(ゴールド)」というものだ。

 どこから手に入れたんだと聞きたくなるがなんと魔法使いもこのお金を使って生活している。なので僕達が人間の街で宿泊するためのお金に心配はまったくないのだ。



「ちなみにこの幼女モードでの名前は『ベル・ローゼン』よ。可愛い名前でしょ?」


「ベルベット・()()()ンファリスじゃなくて?」


()()()ンファリスってなに!?」



 良い名前だと思うけどなぁ……ローリンファリス。それにしても……


「ローゼンって僕につけてくれた名前と同じだね」


「ふふん♪ 設定としてはアストのぉ……妻ってことにしてるから…………きゃっ、言っちゃった!」


「いやそこはどう頑張っても妹でしょ。こんな幼女を妻にしてたら僕が捕まるって。勘弁してよ……」


「勘弁ってなによ! どういうことー!!」


 プンプンと幼女さんは怒っている。そりゃ元の姿のベルベットなら……ってことはあるがこんな幼女と一緒になってたら僕まで懸賞金をかけられる羽目になる。それどころかそんな悪評が学校中に広まれば退学一直線だ。



「と、とりあえずもう移動するわよ……『ラーゲ』」



 ベルベットは若干涙目で『ラーゲ』を唱えた。眩い光に包まれて、次の瞬間には……僕達は森の中にいた。



「あれ……? 森?」


「そうよ。今から私達は『ミリアド王国』っていう国に行くんだけどいきなり街の中に移動しちゃって誰かに見られでもしたら魔法使いだってバレちゃうでしょ? だから街の少し離れた手前に位置する森を『ラーゲ』で飛ぶ場所に設定してるの」


 あーそっか。普通に誰に見られるかわかったものじゃないのに街中に移動するやつなんかいないよな。


「少しだけ歩くわよ。魔物も出るだろうから倒しながらね。魔法は使っちゃダメってわけじゃないけどあまり派手なものは禁止。わかった?」


「わかりました」


「僕はそもそも『ファルス』しか使えないから問題ないね」


 これも人間にバレないようにするためだ。今から人間の街に近づいていくっていうのにその近くの森でド派手に魔法戦闘なんかやっていれば即バレるし。

 僕一人なら街に着く前に魔物相手にやられちゃうだろうけど今回は僕だけじゃなくてカナリアやベルベットという心強い味方がいる。安心して進めそうだ……!




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