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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第1章 ヴェロニカ編
106/230

100話 最悪の接敵 「Sランク」との遭遇!



「ライハ、右に2体!!」


「任せて」


 ミリアドから離れた森の中。バーバリアンの群れと果敢(かかん)に戦闘を行う可憐(かれん)な少女達の姿がそこにはあった。

 戦闘時ではない彼女達を見た者がいれば、その者達はこんな姿を想像できやしないだろう。


 バーバリアンの体とは比較にもならないほど華奢(きゃしゃ)な少女。醜悪(しゅうあく)な魔物とは(えん)のなさそうな美しい容姿(ようし)


 そんな少女達が、バーバリアンを次々に(ほふ)っているのだから。





「ふぅ……これでざっと15本ってとこかしらね」


 カナリアは手に取った3本の(つの)をポイっと魔法で作った別空間に放り込む。そこには討伐したバーバリアンの(つの)が収納されている。今の3本を足して合計15本だ。


「これでクエスト終了?」


「そうね。連携も案外上手くいったし、あっさり終わっちゃったわね」


 このバーバリアン戦では連携の練習を目的としていた。おそらく上手くいかずにバーバリアンの討伐は難航(なんこう)するだろうと思っていたのだが……これが、驚くほどスルスルと連携できたのだ。


 レイピアを使うカナリアが前衛(フロント)を務め、拳銃を使うライハが後衛(バック)を務める。


 それだけでもバランスは良いが、さらにはライハが拳銃を使った近接戦闘に切り替えて、カナリアが魔法を使ったサポートに回る交代(スイッチ)披露(ひろう)した。

 カナリアもどちらかというと純粋な近接タイプではなく、魔法を使ったサポートや中距離からの魔法攻撃が得意ということもあって後衛に回るのはなんら苦にはならなかった。そっちの方が()()()()()()()まである。


 今回は大きな収穫(しゅうかく)だ。もしこれでアストも組み込むことができれば……さらに可能性は広がる。

 完全な前衛タイプであるアスト、それをサポートするサブアタッカーのような立ち位置にも回れる自分、単独で戦闘も可能な後衛タイプのライハ。


 パートナーのチーム編成を少し考えただけでもバランスが良いことはわかる。


 あとは仲が良いガイトも組み込んだチーム編成も立てておくべきだろうか…………と、そこまでカナリアが考えた時だった。




「グオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!」




 背後から獰猛(どうもう)雄叫(おたけ)びが。そして先程の魔物達とは一味違う存在感もセットで出現する。



「あれは……」


「バーバリアンキング!!」



 バーバリアンキング─バーバリアンの群れには必ず1体いるバーバリアンの「進化種(エヴォル)」だ。


 「進化種(エヴォル)」とは、長い年月を生きた魔物が空気中に漂う魔力等をその多き年月で過剰(かじょう)摂取(せっしゅ)し続け強化された魔物の姿のこと。


 高位の魔物ほど魔力を上手く扱えたりするのだが…………基本的には「魔人」とは違い、「魔物」は体内の魔力を上手く扱えない種が多い。

 そういった魔物は体内へ魔力を蓄積(ちくせき)し続け、いずれ溜まった魔力を処理できなくなり、「死亡」もしくは「己の強化」という形で体内で爆発させてしまう。その結果、他の同一種とはまったく別固体のような姿と力を手に入れられるのだ。


 ちなみにアストが戦ったことで学院に報告された「変異体のグランダラス」も「グランダラスの進化種(エヴォル)」ではないか? という説が現在魔女界隈で絶賛大好評研究中である。

 というのも、このグランダラスは「魔力摂取」という形以外、つまり「人間の大量捕食」による形での強化なので「進化種(エヴォル)」の定義から外れている分、一口で「もう、こいつも進化種(エヴォル)でいいや!」とは簡単に認められないのだ。こういう世界では研究に研究を重ねて定義を改めた後、ようやく認められるのである。

 そのせいでずっと新たな名前を与えられず、「グランダラス変異体」「変態グランダラス」「変ダラ」「ヘンタイ」と酷い名前で魔女界隈に呼ばれているのはここだけの話だ。




 …………話を戻そう。


 

 バーバリアンよりも発達した筋肉。棍棒(こんぼう)もより大きなハンマーへと変わり、その姿はまさに彼らの王。

 かの『暴食の王』こと「グランダラス」にはまだまだ(およ)ばないものの、その力は()()()()に格付けされている。



 「C」、と聞いて「なんだそれだけか」と舐める者は多い。特にDランクに何も苦戦しない者ほどこの落とし穴にハマる。



 EランクやDランクといったランクはまさに戦闘の基礎が固まっていない魔法使いでさえ魔法の威力や魔法武器でゴリ押しできることがある。だからこそ勘違いするのだ。



 EランクもDランクも変わらない。なら、Cランクもさほど変わらないだろう、ちょっと本気を出せば自分でも倒せるだろう……と。



 どこにそんな証拠があるのか。低ランクに勝ち続けた「調子乗り」こそ()り取られる。




 ()()()()()()()()()()()()()()()に。





「ライハ。あたしが時間を稼ぐから、『6節』お願い!」


「わかった」


 バーバリアンの討伐になんの苦労もしなかったカナリア達はもちろん調子に乗っている……なんてことはなかった。


 戦闘の意思を出したのは、勝てる作戦があるから。

 自分とライハの力を合わせれば勝てる自信があるから。


 後者は決して先に述べた自惚(うぬぼ)れから生まれたものではない。冷静な計算と戦力把握から出された……「結果予測」だ。


 さらには、上手くいかなかった時のための逃亡作戦もある。つまり予想外なことが起こったり、自分達の力が万に一つ通じなかった場合のことも考えているのだ。



 今の自分達に……死角はない!!



 そう思っていたカナリア。



 だが、この残酷な世界は、甘くない。









「おい。どけよエテ公」






 獰猛(どうもう)な魔物が現れたかのような気配。カナリア、ライハ、バーバリアンキングの戦場へと乱入したその存在は直視するだけで恐れを想起(そうき)させた。


 アストと同じくらいの歳の少年。全てを刺すような視線はどんな魔物よりも恐ろしいと感じさせる。魔物が(うな)るようなその声は強者の雰囲気を(ただよ)わせる。

 しかし、明らかに場違いなのは何も武器を持っていないこと。体もさして筋肉がゴツゴツとついているわけでもなく普通。そんな少年がただポケットに手を突っ込んでバーバリアンキングを(にら)んでいる。怖い物知らずにも程がある。



「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!」



 案の定、バーバリアンの王に逆らう者には(ばつ)が下る。王直々(じきじき)にハンマーで粉砕の罰が。

 次の瞬間にはこんな少年など潰れて消える。ハンマーの真っ赤なシミになる。



 その少年が本当に普通ならば……。



「雑魚が、うるせえんだよ……」



 少年はポケットから手を出す。そしてそのまま、何も持っていない手を振り下ろされるハンマーへとかざした。


 すると、不思議なことが起こった。




「グ!? グオオオ!?!?」


「え!?」



 それはバーバリアンキングと、見ていたカナリアの驚愕(きょうがく)。声は出ていなかったがライハも同じ感情を共有している。




 バーバリアンキングのハンマーは……「見えない壁」に阻まれているかのようにして少年かざした手の数m前で止まっていた。



 バーバリアンキングが力を入れる。それでも進まない。さらに踏ん張る。進まない。

 それどころか、



「吹っ飛べ」



 少年が何かを念じると、ハンマーが勢いよく逆方向に弾き飛ばされた! それだけではない。バーバリアンキングの腕も勢いに押されて後ろにへし折れた!


「グオオオ!!! グオオオオオオオオォォォォ!!!!」


 バーバリアンキングは悲鳴を上げる。だが、これで終わりではなかった。

 少年はさらに手をかざす。



「戻ってこい」



 そう告げると……宙に吹き飛んでいるハンマーが、空中で急停止。そして……




 ドンッッッッッッッッ!!!!!!!!




 少年の方へと返ってくるように急発進。その速度は凄まじい。

 そんなハンマーと、少年の直線上にいるバーバリアンキングは……



「グッッッッガッッッ─!」



 頭にハンマーの直撃を受ける。頭部を破裂させ、脳漿(のうしょう)をぶちまける。



「くっはっは! 花火みてぇで笑えるなぁ……!!」



 その地獄のような光景を(わら)う。地獄そのもののような少年が。



「なによ、あれ……」



 カナリアはあまりの光景に膝から崩れ落ちそうになった。今だってこの空間に完全にのまれている。

 ライハも突然現れた暴虐(ぼうぎゃく)にどうすべきか迷っている。


 答えは簡単だ。「早く逃げる」。この答えが一番正しい。誰だってわかることだ。

 なのに、2人はそんな簡単な答えが出てこない。ただ、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。




「お~いゲイル。そんなはよ先進むなや」


「いい加減勝手に先行するのやめろよな」




 その少年の後ろから、さらにもう2人追加でこの場に現れる。

 剽軽(ひょうきん)そうな背の高い男と、キリっとした目の気の強そうな女の子だ。


「うっせぇ。俺がどこ行こうが関係ねえだろ」


「関係あるわボケ。ほっといたらすぐどっか行くやんか」


「また他の()()()の人に怒られるんだからなっ!」


 そんな気の抜けた会話の中に、カナリア達が反応すべきワードが隠れていた。



「エリア」……間違いない、こいつらは魔人ではなく、ミリアドのハンター。『人間』だ!



 この時になってようやくカナリアとライハ動き出すことができた。すぐにこの場から逃げようとする。……が、



「ん? おっ、そこの可愛い嬢ちゃん達、もしかして同業者(ハンター)の人か~?」



 剽軽(ひょうきん)そうな男に声を、かけられた。自分達「魔人」が、「ハンター」に。


 心臓が一気に締め上げられる心地になるが……ここではカナリアはまだ冷静でいられた。



(まだあたし達が「魔人」だってバレてない……?)



 ハンターは相手が魔人だと知れば問答無用に襲い掛かってくる。それなのに話しかけてくることはおかしい。作戦という可能性もあるかもしれないが、その声からは敵意を一切感じない。


「もしかして今のバーバリアンキング。そっちの(ねろ)とるもんやったか? うちの大将が勝手に()ってすまんな~。落とし物(ドロップアイテム)はそっちで回収してええで」


 落とし物(ドロップアイテム)……バーバリアンキングの皮膚や(つの)のことだろう。あれらは武器や防具の素材になるので回収したいものだ。きっと彼は自分達のことを仲間と勘違いしているからそんなことが言えるのだ。


「いや……いいわ。あげる。あたし達が倒したわけじゃないし」


「それやとこっちの気も悪い。おれは『ホーク』。こっちの別嬪(べっぴん)な女の子はおれらの姫さんで『ハンナ』。んで、おれらの大将のこいつは『ゲイル』ちゅー奴や。ここで会ったのもなんかの(えん)やし、よろしくしようや」


 気のいい笑みでこちらに手を振ってくる。周りにいる2人は「その姫っていう言い方やめろよ」「仕切りたがりが……」と色んな顔を見せていた。

 ライハはそんな様子を見ると、話を合わせればこの場を(かわ)せるのではないかと安心していたのだが……



 カナリアだけはここまで一番の「(おび)え」を見せていた。




(今……「ゲイル」って言った? な、なんでそんな奴がこんなところにいるのよ……!!)



 「ホーク」と「ハンナ」という名のハンターは知らない。しかし、「ゲイル」……その名こそがカナリアの(おび)えの原因となっていた。




(「ゲイル」─「ゲイル・ガーレスタ」。もし間違いなければ……()()()()()()()()()()()()()にして、「Sランク」に格付けされてるハンターじゃない……!)




 ゲイル・ガーレスタ。16歳という若さにして魔法使いが魔人、人間、魔物に対して定めているE~A、そしてSの6段階レートで最高ランクの「Sランク」としている超危険なハンター。


 その強さはすでにミリアドエリア2のハンター全員を「エリアリーダー」として束ねる位置にあり、過去のとある戦いでは500人の魔人を一斉に()き者にしたと言われている。

 最大の特徴は「異能の強さ」。なんでも、彼の異能を見た者は皆「ありえない」と口にするらしい。それだけ常識からかけ離れた異能なのか。


 とにかく。こんなのとは1秒たりとも近くにはいたくない。もし、戦闘にでもなってしまえば……


 カナリアはゴクリと(つば)を飲み込む。嫌でも口元が恐怖で震えてしまう。


 ライハに「すぐに逃げる」と合図をして、


「ごめんなさい。急用を思い出したの。それにもうそいつのアイテムを回収できる隙間はなかったわ」


「ほな、しゃーないな。これはありがたく(もら)っとくわー。気ぃつけて帰るんやで可愛い子ちゃん達~」


 それだけ言って、ホークの言葉を聞かずしてすぐに後ろを向く。


 早く。早く逃げるんだ。少しでも遠くに。


 少し不自然だったか? もっと良い言い方があったのでは? それともまだ会話をして怪しさを消しておくべきだったか?

 今になって後悔と反省がいくつも浮かんでくる。自分が恐怖している証拠だ。「良くやれた」ことが信じられないのだ。自分が失敗してしまったと思い込んでしまう。

 唯一安心できる方法は逃げ切ることのみ。それが出来なければ……あのバーバリアンキングと「同じ」になってしまう。


 頭部を破壊されて無様に脳漿(のうしょう)をぶちまけたあの姿を思い出し、カナリアは必死に嘔吐(おうと)感を抑える。


 しかし、だ。いつだって、この世界は「試練」を与えてくる。




「ちょっと待て。お前ら、なんか変だ」




 その声は、女の声。あの「ハンナ」というハンターのものだ。


「なんやハンナ。どないした?」


「感じる。あいつらに、モヤモヤっとした…………嫌な感じが」


 あやふやな感想。意味不明な言葉。「詳しくない」連中はこれを聞いても何も思わないだろう。首を(かし)げて「何を言ってるんだ」と言うはずだ。



 「()()()()に詳しくない」連中は……。




(しまった……! あのハンターは……「感知系」……!?)



 ハンターの異能には様々な系統が存在している。といっても勝手に分類に分けていると言った方が正しいが。

 自分の身体能力を強化したり、身体面になんらかの付与を起こす異能は「強化系」。主に回復面でサポートをする異能のことを「再生系」。色々な種類があるのだが……。


 その中でもかなり特殊な異能。それは通常、人間には感じることのできない「魔力」などを感知することができる「感知系」。魔人の中でも要警戒となる異能である。


 高位の魔人なら感知から自分を守る魔法も使えるたりするらしいのだが……カナリア達がそんな魔法を使えるはずがない。


 ハンナがそう発言した瞬間、カナリアとホークが即座に反応した。そしてこの場にいる者達は変化する。「逃げる者」と「追う者」へと。




「悪いなぁ…………。これも仕事でな。いくら可愛い子ちゃんでも、『魔人』なら……殺さなあかんねん」




 さっきまでの人の良い笑みは消える。引き締まり、「仕事」を行う顔になった。空気も一層張り詰める。


「全速力で逃げるわよ!!」


 考えるよりも走る。まずは彼らの異能が通じないほどの距離まで。(さいわ)いにも彼らは3人だけ。大勢のハンターがいれば囲まれて終わりだが……3人だけならなんとかなるかもしれない。






「おぃ…………お前ら、魔人だったのかぁ…………」






 突如、逃げようとハンター達に背中を見せていたカナリアとライハは、「後ろから見えない力」に強く引っ張られる!

 そのせいで後ろに転んだ。まるで……あちらに「()()()()()()()」かのように。




「じゃあよぉ…………魔人ならよぉ…………ぶっ殺しちまってもいいんだよなぁ!!!!」




 相手は3人。けれど、そのうちの1人は数百人にも相当するほどのハンター。

 その時点で……彼女らに逃亡など不可能だった。


「やるしかない」


 ライハは【イグニス】を抜いて構える。ここで戦うという意味だ。

 その行動(アクション)にカナリアは強く否定しようとしたが…………やめた。


(ここでまた逃げようとしてもそれこそ危険。次、背中を見せたら……殺られる!)


 ライハの考えていることがわかった。もう、ここで戦うしかないのだと。そういうことだろう。



 挑戦。そう、挑戦だ。



「やるしか、ないってことね……! 今、ここで!!」


 自分達が受けたCランククエスト。それは一気にSランク相当のクエストへと化けた。

 ミリアドエリア2リーダー、Sランクハンター。そんな相手への無謀な挑戦。


 助かる道はただ1つ。魔法騎士なら……ハンターよりも強くなるしかない。

 相手がリーダーだというのなら、リーダーより強くなるしかない……!



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